文/雪代すみれ
笑いながらエンパワーされる作風の「ひょうきんフェミニスト」で、作家のアルテイシアさんと東京新聞記者の望月衣塑子さんの対談の続きです。中編では、ジェンダーに苦しんでいるのは実は男性もいっしょでは、というテーマで話しました。
▼望月衣塑子×アルテイシア対談「ジェンダーを学ぶと生きやすくなるよ」【前編】
https://kadobun.jp/feature/talks/entry-47866.html
▼望月衣塑子×アルテイシア対談「ジェンダーを学ぶと生きやすくなるよ」【後編】
https://kadobun.jp/feature/talks/entry-47872.html
望月衣塑子×アルテイシア対談
【中編】男性も「男らしさ」の呪いに苦しんでいる
男らしさの呪いで自死した父
望月:この本では男性が「男らしさ」を社会から押しつけられる苦しみについても書いていて、そこも印象に残りました。「夫は外でバリバリ働いて、妻は家事育児をすべき。それが正しい姿」という古~い家父長制に基づいたジェンダー規範はまだまだ社会に残っているし、それだと男性も女性も、どちらも生きづらくなるよね。
アル:本にも書いたけど、うちの父親が自殺したのも、母親が拒食症で亡くなったのも、ジェンダーの呪いのせいだと思う。私はジェンダーを学んでいたおかげで、親の死を理解できて救われたんだよね。
だから「男と女、どっちがつらい?」みたいな不毛な争いはやめて、みんなでジェンダーの呪いを滅ぼそう! ブオオー! と法螺貝を吹いてます。
望月:法螺貝(笑)。
アル:だから授業や講演でも「フェミニズムはみんなを幸せにするもの。みんな違って当たり前、が当たり前の社会。誰も排除されない、みんなが共生できる社会を目指すもの」と話してる。そうやって連帯しないと、フェミニズムが前に進まないから。
望月:たしかに。男性も巻き込んでいかないと、社会は変わらないよね。
アル:授業の後、中学生の男の子から「自分の趣味を女っぽいって言われて傷ついたけど、その傷つきが和らぎました」って感想をもらったりするけど、ジェンダーの呪いによって男の子も傷つくんだよね。
望月:アルちゃんの本を読むと、男だから女だからこうあるべき、というくびきから解かれて、「自分は自分でいいんだ」って肯定できるよね。なんとなく「おかしいな」ってモヤモヤしてることがわかりやすく書かれてるから、すんなり入ってくるし、読み終えてすっきりする。
いまの若い人は、自分の苦しみを人のせいではなく、自分のせいなんだと自分を責めてしまう人が多いと聞くけど、この本を読むと、そうではなくて、社会や政治の仕組みや「正しい」と自分が思い込んできたジェンダー観こそが、間違っているんだということに気づけると思う。
アル:ありがとう~! ジェンダーのモヤモヤを話し合える場を作りたいと思って、「神戸市東灘区ジェンダーしゃべり場」という活動をしてるんですよ。
(https://sites.google.com/view/gkobehigashinada/)
普段は女性限定なんだけど、駅前で出張しゃべり場をやった時に、20代の男性が来てくれて。彼は父親が男尊女卑マンで、父親を反面教師にしてジェンダーやフェミニズムの本を読むようになったらしい。
あと彼は子どもの頃からピアノを習っていて、ピアノの先生が「あなたはあなたのままでいいんだよ」と言ってくれて、初めて自己肯定感が芽生えたんだって。
望月:いい話だね~! アルちゃんみたいに毒親育ちの人もいて、親が子どもの力になれるとは限らないから。男らしさ、女らしさにとらわれずに自分を認めてくれる大人が学校や地域にいることは、本当に大切だと思う。
こんなふうに話している私も、うっかり「男の子だから○○」みたいな言い方をしてしまうことがあって。子どもたちから「お母さん、それはジェンダー差別だよ」と言われることもある。ジェンダー差別への敏感さは、子どもの方がしっかりしているかも。
アル:お子さんからそんなツッコミが入るなんて胸熱だわ~。
望月:朝日小学生新聞を読んだりして、ジェンダーを学んでるみたい。
アル:おお~やっぱり新聞って大事やな。
東大に女性が2割しかいない理由とは?
望月:私たち大人も常にアップデートや見直しが必要だよね。
アル:子どもは周りの大人をお手本にして育つから、まずは大人がジェンダーを学ぶことが大事。子どもは生まれる環境を選べないから、本来は義務教育で教えるべきだよね。北欧みたいに、保育園からジェンダー教育や人権教育や包括的性教育をするべきだと思う。
望月:そうじゃないと、日本は世界から取り残される一方だよね。
アル:女友だちが有名大学の教員をしてるんだけど、男子学生に「東大になぜ女子学生が2割しかいないかわかる?」と聞いたら「女子がバカだからでしょ」と返ってきたって。その彼も「女は男よりも劣っている」というミソジニーを刷り込まれてるんだよね。
東大に女子が少ないのは、そもそも受験する女子が少ないから。つまり東大に受かるぐらい優秀な女子が東大を受けていない。
そこには、親の教育投資が影響してるんだよね。きょうだいのいる家庭では、女子の教育投資の優先順位が低くなる傾向がある。「娘には地元の大学に進んでほしい」「娘には浪人させたくない」という親が多いんだよね。東京で一人暮らしするのも、浪人して予備校に通うのもお金がかかるから。
望月:「女に学はいらない」というのは、昔の話じゃないんだよね。その彼みたいにミソジニーを刷り込まれる前に、ジェンダー教育が必要だと思う。
アル有名男子校の中学生に「アルテイシアさんの話を聞いて、女性の性被害、性差別の経験を知り衝撃を受けた。『男はこうあるべき』という思い込みにも気づき、世界が変わった」という感想をもらって、尊い……と合掌しましたよ。
(後編へ続く)
▼後編はこちら
https://kadobun.jp/feature/talks/entry-47872.html
プロフィール
アルテイシア
作家。神戸生まれ。オタク格闘家との出会いから結婚までを綴った『59番目のプロポーズ』でデビュー。現在はウェブ媒体などを中心に、女性が心地よく生きることをテーマに執筆している。ユーモアあふれるその文章には性別を問わずファンが多い。最新刊は『田嶋先生に人生救われた私がフェミニズムを語っていいですか!?』。ほか著書多数。
望月衣塑子(もちづき いそこ)
1975年、東京都生まれ。東京・中日新聞社会部記者。慶応義塾大学法学部卒業後、東京新聞に入社。各県警担当の後、司法担当として東京地検特捜部などで事件を中心に取材する。現在は社会部遊軍記者。経済部などを経て社会部遊軍記者。2017年6月から菅官房長官の会見に出席。質問を重ねる姿が注目される。そのときのことを記した著書『新聞記者』(角川新書)は映画の原案となり、日本アカデミー賞の主要3部門を受賞した。著書多数。
作品紹介
自分も傷つきたくないけど、他人も傷つけたくないあなたへ
著者 アルテイシア
定価: 1,430円(本体1,300円+税)
発売日:2022年12月27日
ジェンダーを知ると生きやすくなるよ――自由に自分らしく生きるヒント
(目次)
第一章 「繊細すぎる」という言葉に傷つくあなたへ
1 ジェンダーを学んで生きやすくなろう
2 ジェンダー感覚をアップデートさせる秘訣
3 心と体を傷つけられないための護身術
4 好きなおでんの具はなんですか--ハラスメントをなくすために
第二章 うっかり誰かを傷つけたくないあなたに
1 「○か月だったらもうしゃべるの?」--相手のつらさに寄り添うために
2 「そんなの普通だよ、大丈夫だよ」--苦しみを無視しないために
3 「〇〇なんて関係ないよ」--自分の特権に気づくために
4 「老後は沖縄に住みたいな」--無邪気に消費しないために
第三章 パートナーのジェンダー問題に悩むあなたへ
1 アサーティブな対話で夫婦円満ライフハック
2 「拙者のトリセツ」を作って夫婦円満ライフハック
3 ジェンダーの話になるとケンカになる問題
4 夫と子育てするのが無理ゲーすぎる問題
5 夫婦の家事問題を解決するライフハック
6 男性育休取得のためのライフハック
第四章 ヘルジャパンで傷ついた女子のお悩み相談室
1 恋愛経験ゼロだけど幸せな結婚がしたい
2 喪女歴が長すぎて婚活がうまくいかない
3 痴漢されてから婚活意欲が激減してしまいました
4 ジェンダーイコール男子はどこにいる?
5 発見! ジェンダーイコール男子はここにいた
特別対談 小島慶子さん×アルテイシア 「ジェンダーを知ればやさしくなれる!」
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322202001252/
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