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特集

小説と漫画で描かれた「恐怖」の物語。それぞれの秘話を二大話題作の作者たちが語り合う! 冲方丁『骨灰』×二宮正明『ガンニバル』対談

構成・文=吉田大助
写真=橋本龍二

初の長編ホラーが話題に! 小説と漫画、異ジャンルの鬼才たちが「ホラー」に込めたものとは?

渋谷の再開発に関わったがために、デベロッパー企業の男が怪異の連鎖に巻き込まれ──。ホラー長編『骨灰』が話題沸騰中の小説家・冲方丁は、食人習慣があるという噂の山村・供花村を舞台にした二宮正明のホラーマンガ『ガンニバル』(日本文芸社)の大ファンだった。実は「長編ホラー」は初挑戦だった両雄が、この日初対面。自作の秘密を明かしエールを交換した。

大事にしなければと常に意識していたのは「実感」

冲方:『ガンニバル』はコミックスの1巻が出たばかりの時、表紙の絵を見て「これは……!」となってすぐ読みました。あの表紙、三度見しましたよ。主人公の警官が死ぬってことを描いちゃっているんじゃないの、と。


二宮:死ななかったんですけどね(笑)。

冲方:主人公の大悟は妻子と一緒に供花村へお巡りさんとして赴任して、村の慣習や村人たちの言動に振り回される。なにせテーマが「人食い」です。どこまでもおぞましくできるんだけれども、大悟が肉体的にも精神的にも非常に強い。だから、安心して読めるんだと思います。

二宮:それはあったのかもしれないです。『ガンニバル』はディズニープラスでドラマにしてもらったんですが、ああいう主人公だからホラーは苦手だけど最後まで観られた、楽しかったという意見が結構多かったです。

冲方:この話はどこから思いついたんですか?

二宮:最初は警察官とその家族って設定はなくて、東京から田舎に夢を持って移住してきた男の話だったんです。そいつが周りの住人から嫌がらせを受けて……みたいなわりと普通の話を考えていたんですけど、編集者から「1話目の“引き”はどんな感じですか?」と言われまして。「飼ってた犬とか猫が殺されるとか、そんな感じですかね」と言ったら、「それじゃあ、ちょっと弱いですね」と。じゃあ人食いかなぁと考えて、その展開を面白くするために今の設定を作っていきました。

冲方:今、ちょっとびっくりしました。『骨灰』と発想の仕方が全く一緒です(笑)。

二宮:そうなんですね! 『骨灰』は、主人公が渋谷駅前で建設中のビルの地下に入っていくシーンから始まりますけど……。

冲方:ええ。渋谷の地下のでかい穴に降りていくシーンから始めよう、というイメージが最初にあったんです。穴の奥に、何があったら怖いか。幽霊とか訳のわからない生き物とか、いろいろ考えたんですが、生きている人間がいたら一番怖いだろうと思ったんですよね。


二宮:地下の階段を降りていく冒頭のシーンは、この先に何があるんだろうという緊張感を主人公と一緒に体験できて面白かったですね。そこに生きた人間がいて、しかも鎖で足を拘束されているってわかった時は「えっ!?」と。

冲方:鎖の男を解放して、主人公の松永はいいことをしたつもりなんだけど、やらかしちゃったわけです。

二宮:あいつ、別に悪くないですよね! ホラーって興味本位で“そこ”へ行って、やらかしたのは自分達なんだから自業自得でしょ、って話になることが多いと思うんですけど、主人公は地下に仕事で行っただけじゃないですか。ちょっとかわいそうでした(苦笑)。

冲方:日本の祟りって不条理ですよね。ハリウッドの人たちは、そういう作り方をされると腹が立つらしいです。主人公は別に悪くないじゃないか、因果関係がはっきりしてないのになんで怖がらせられなきゃいけないんだ、と。キリスト教から来る「罪と罰」形式が強固にある。

二宮:そう言われてみれば日本のホラーは、自分は悪くなかったのにとか、たまたま引っ越してきただけなのに、という話が多いです


冲方:事故物件にうっかり住んじゃったとか、主人公は何も悪くないじゃないですか。ただただ不条理に巻き込まれてしまう、そういった日本独特の感覚があるホラーを、自分でも一度やってみたいなと思ったんです。

東京の土には人間の骨の灰が混じっている
そう聞いてゾクッときましたし、色気も感じました

冲方:『ガンニバル』は、供花村というコミュニティの描き方がものすごくしっかりしている。だから、どんなにやばい登場人物たちが出てきても、物語の土台が壊れないんですよね。この描き方はどうやって培われたのでしょう。

二宮:自分の経験もあると思いますね。子供の頃、転校が多かったからどうしてもコミュニティを俯瞰で見ちゃうというか。転校初日に感じる、そのコミュニティならではの謎のノリとか、ものすごい冷めた目で見ていましたね。

冲方:僕も小学校だけで六回転校したので、よくわかります。学校によって、謎の風習がありますよね。男は全員丸刈りで、毎朝行進する学校もありました。

二宮:それは最悪ですね(笑)。あと、大人になってからプラプラといろいろな土地でバイトをしていた時に、なぜか地元の集まりに呼ばれちゃうことがあったんですよ。その時に感じた居心地の悪さも、漫画に影響しているかもしれません。

冲方:供花村の同調圧力の描き方が異様になまなましいなと思っていたんですが、そういう体験から来ていたんですね。実は、供花村の同調圧力みたいなものを都会で表現できたら面白いと思ったことが、『骨灰』を書いたきっかけの一つだったんです。


二宮:供花村みたいなことは普通に都市でも起きていますよね。読者さんに勘違いしてほしくないなとずっと思っているのは、『ガンニバル』は田舎をバカにしてるわけじゃないんですよ。できあがったコミュニティに外部の人間が入ると居心地悪いよ、という話なんです。

冲方:この記事を通して、そこをアピールしましょう(笑)。

二宮:『骨灰』の舞台は、東京オリンピックが開催される前の渋谷、という設定が絶妙でした。駅前再開発の建設ラッシュって、街がどんどん壊されていくってことでもあるじゃないですか。こういうことが起こりそうだな……と。

冲方:渋谷は地形的に谷底にあるので気のようなものも溜まりますし、そもそも東京オリンピックを機に世の中全体が賑やかになりそうな雰囲気で、冷や水を浴びせたかったんです(笑)。本当はもっとひどい話にするつもりだったんですけど、コロナ禍が始まりオリンピックも延期になってしまって、少し軌道修正したんです。

二宮:小説の中に出てきますけど、東京は江戸時代に火事が連続して起こって、その後も震災があり空襲があった。東京の土には人間の骨の灰が混じっている、という話はゾクッときました。

冲方:品川の刑場なんて、罪人を斬ったり焼いたりした後は野晒しで獣に食わせていたらしい。関東ローム層が酸性土なので、骨も放っておくと溶けちゃうそうです。

二宮:骨だとちょっと遠いけど、土って言われると急に身近になるというか、実感が湧きますね。骨の上で成り立っているというか、その上にビルが建っていたり人間たちが生活していたりするんだなと思うと、残酷さって美しさでもあるんだなぁと。でも、逆に色気も出ますよね。

冲方:色気って、いい表現ですね!

二宮:池袋サンシャインシティは拘置所の跡地に建ってるって聞くと、テンションが上がりますよね。スカイツリーよりも、東京タワーの方がいいじゃないですか。見上げた人間の数が多い方が、歴史を感じるしロマンがあります。

冲方:その土地を開墾するために、どれだけの人が血と汗と涙を流してきたか。建物も同じですよね。二宮さんがおっしゃる通り、骨の上、命の上に成り立っている。そう考えると「怖い」って人もいるでしょうけど、僕自身は「尊い」という感情になりますね。

二宮:僕もそっちです。

謎の組織とかフリーメイソンとかは
知り合いがいないし会ったことがないからわからない

二宮:『ガンニバル』をドラマにしてくれたディズニープラスの人が言っていたんですが、この漫画にはもちろんショッキングな描写はいっぱい出てくるんだけど、家族愛が根底にある、と。それが良かったというか、上層部にもプレゼンしやすかったみたいです。日本だけでなく外国の人にも観てもらううえで、家族愛という世界共通の感覚は確かに必要だったんだろうなぁと思ったりしました。

冲方:コロナ禍があって家族の意味を問い直す風潮は、世界的に出てきていますよね。物語にとってもマストの要素になってきつつある。ホラー的な文脈で言えば、何も持ってない奴があわてふためいたりしても意味がないんですよ。この人が死んだところで周りの誰も困らないっていう状態だと、読者に恐怖を感じてはもらえない。


二宮:『骨灰』の主人公も、『ガンニバル』の大悟と同じで、奥さんと娘がいるお父さんでしたね。小さい子供って、無垢な存在じゃないですか。なおかつ恐怖にさらされるのが自分の娘だったりしたら、緊迫感が生まれる。

冲方:『骨灰』と『ガンニバル』には主人公が娘を助けに行く場面が出てきますが、自分の命を賭してでも問答無用で子供を助けにいくって、動物的な本能な気がします。

二宮:問答無用ですね。感情移入とかでもなく、絶対的に応援できるところがあります。

冲方:恐怖心とか怒りとか、小さい存在を助けるっていう本能的な部分を実感させる、解放してあげることはエンタメにとって重要なポイントだと思います。特にホラーにとっては、実感って大事です。例えば、『骨灰』で喉が渇くシーンを書いたんですけど、喉が渇くとなんかイライラするじゃないですか。精神的な怖さを体感するような描写がほしいと思って出したんですが、恐怖の演出に一役買ってくれたかなと思っています。カラカラのホラーって、日本には意外に少ないんです。

二宮:確かに、水っぽいものが多い印象がありますね。僕も、実感がないものは描けないかもしれないです。謎の組織とかフリーメイソンとかは、知り合いがいないし会ったことがないからわからないんですよ。


冲方:供花村を牛耳る「後藤家」は、実感に基づいている?

二宮:めちゃくちゃ基づいています。地方にも都会にも、ああいう連中はゴロゴロいます(笑)。

冲方:きっと実感に基づいたものが核にあるから、その上にどんどんいろいろなものを載せても崩れないんですね。今日はたくさんお話しできて嬉しかったです。ちなみに……次回作は決まっていますか?

二宮:『ガンニバル』では刺激の一要素として、ホラー的な描写を出したんです。怖がらせようとしたつもりはなくて、面白いものを描こうとした結果がこうなった。でも、次は幽霊がきっちり出てくるような、まっすぐなホラーを描きたいと思っています。

冲方:楽しみです。ホラーって、ワクチンみたいなもんじゃないでしょうか。怖がれば怖がるほど、不安になれば不安になるほど、怖いものや不安なものに対する免疫ができる。日常生活でそういったものから目を逸らしてなかったことにしている方が、将来的にまずい状態を引き起こすと思うんです。これからも折に触れて、自分に対しても読者さんに対しても荒療治するつもりでホラーに挑戦していきたいですね。いつかスティーブン・キングの『IT』とか『シャイニング』みたいな、どエラいものが書けるように精進します。


プロフィール

冲方丁(うぶかた・とう)1977年、岐阜県生まれ。96年『黒い季節』でスニーカー大賞金賞を受賞してデビュー。2003年『マルドゥック・スクランブル』で日本SF大賞受賞。09年刊行の『天地明察』で吉川英治文学新人賞、本屋大賞などを受賞。12年『光圀伝』で山田風太郎賞を受賞。他の作品に『戦の国』『破蕾』『麒麟児』『アクティベイター』など。

二宮正明(にのみや・まさあき)
1988年香川県出身。2016年、講談社「モーニング」にて『鳥葬のバベル』(二宮志郎名義)を連載。2018年、「週刊漫画ゴラク」にて『ガンニバル』を連載。 同作連載開始時に、名義を二宮正明へと変更。2022年に『ガンニバル』がディズニープラスにて連続ドラマ化。

作品紹介



骨灰
著者 冲方 丁
定価: 1,980円(本体1,800円+税)
発売日:2022年12月09日

渋谷駅の再開発事業を請け負う大手デベロッパーで、投資家向けの広報を担当している松永光弘。事件発生の連絡を受け、地下深くの工事現場に足を踏み入れた彼は、そこで信じがたい光景を目の当たりにする。巨大な穴、祭祀場、鎖に繋がれた男。以来、光弘の生活は一変してしまい……。都会の地下に潜む恐怖を描く、著者初のホラー長編!

詳細はこちら⇒ https://www.kadokawa.co.jp/product/322107000441/
amazonページはこちら



ガンニバル1
著者 二宮 正明
定価: 682円(税込)
発売日:2019年2月18日

山間の村「供花村」に赴任してきた駐在・阿川大悟。 村の人々は大悟一家を暖かく受け入れるが、 一人の老婆が遺体で見つかり、大悟は村の異常性に 徐々に気付き、ある疑念に囚われる・・・。 「この村の人間は人を喰ってる」──。 次々と起きる事件、村に充満する排除の空気、 一息も尽かせぬ緊迫感で放つ、 驚愕・戦慄の“村八分”サスペンス堂々開幕!!

詳細はこちら⇒ https://www.nihonbungeisha.co.jp/book/b436928.html

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