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特集

「孤狼の血」シリーズ完結編『暴虎の牙』文庫化記念 柚月裕子×白石和彌(映画「孤狼の血」監督)対談

構成/吉田大助  写真/冨永智子

自分では制御できない何かを背負いつつ、それでも這うように前に進んでいく者たちの物語を

警察小説とヤクザ小説を融合させ、第69回日本推理作家協会賞を受賞するなど柚月裕子の代表作として知られる「孤狼の血」シリーズ。このたび文庫化された三部作完結編『暴虎の牙』で巻末解説を執筆したのは、映画監督の白石和彌だ。「孤狼の血」(2018年)、続編「孤狼の血 LEVEL2」(2021年)と、柚月が実写映画化のメガホンを託した盟友だ。久しぶりに再会した二人が、『暴虎の牙』を軸に同シリーズについて語り合った。



「孤狼の血 LEVEL2」の上林は『暴虎の牙』の沖と似ている

白石:解説の大役、おおせつかりました。解説というより、ファンレターみたいなものになっているかもしれません。僕の思いのたけを書くつもりです。

柚月:光栄です!

白石:孤狼の血』、『凶犬の眼』と来て、『暴虎の牙』。始まりは昭和五七年ですから、『孤狼の血』よりも前の話です。呉原に「呉寅会」という愚連隊のリーダーである沖虎彦が出てきて、暴力団相手に大暴れしたところへ大上が絡んでくる。そして中盤で……こう来たか、と驚かされました。

柚月:
1作目の『孤狼の血』は暴対法(暴力団対策法)が施行されるギリギリの時代で、そこから後の時代となるとなかなか暴力団にはちゃめちゃなことはさせられません。少し時間を巻き戻して、なおかつどの組にも属さない愚連隊であれば自由が利くかなと思いました。それに、私自身、大上をまた書きたかったんです。

白石:
大上と再会できて、僕も嬉しかったです(笑)。『暴虎の牙』、三部作の最後にふさわしいタイトルですね。

柚月:
沖虎彦という新しい登場人物が出てくることは決まっていたので、虎がキーになる言葉を探していったらここへ辿り着きました。「暴」という字も入っているだけに、荒っぽいシーンは三部作の中では一番多いと思います。「孤狼の血 LEVEL2」で鈴木亮平さんが演じられた上林という人物と、沖はちょっと似ているところがあるかもしれない。

白石:
映画の続編は小説とは違うオリジナルの話でいくことになり、プロットを作っていた頃に『暴虎の牙』を拝読したんですが、僕も沖と上林はちょっと似ているなと思いました。自分の未来の悲しい結末みたいなものをどこかで悟っているんだけれども、行かざるを得ない。

柚月:
守りに入らないというか、入れない。右の道に行けば絶対ラクだし安全なのに、でも自分の信念というか生き方として、左の道に行くしかないんです。他の人から見ると「いや、明らかに逆でしょ」と思うことが自分にはできないもどかしさというか、悲しみってあると思うんです。

白石:
悲しいですよね。でも、それがなんとも言えない色気になっている。沖と上林はアウトサイダーで、暴力も含め社会的にしてはいけないことをいっぱいするんですが、マル暴刑事の大上や日岡にも通ずる部分を感じます。柚月先生、刹那的なキャラクターがお好きですよね?

柚月:
大好きです。監督も、刹那系のキャラクターがお好きじゃないですか?

白石:
大好きです(笑)。己を曲げずに、己の道を行くのがヒーローだと思っているんですよ。その姿は、周りから見たらダークヒーローに見えるかもしれないんだけれども、常識というか倫理をはみ出る瞬間をヒーローに求めていますね。

柚月:
自分では制御できない何かを背負いつつ、それでも這うように前に進んでいくヒーローたちの姿が、私はすごくかっこいいなって思うんです。僭越ながら、「面白い」とか「表現したい」と思うものが、監督とどこか似通ってる部分があるのかなと感じました。


柚月裕子さん

これにてシリーズ三部作は完結。しかし……新三部作計画発動!?

白石:一作目の『孤狼の血』を読んだ時のことはよく覚えていて、とにかく圧倒的に面白かった。驚いたのは、ミステリーの部分が色濃かったことでした。映画の「仁義なき戦い」に影響を受けてらっしゃると思うんですが、あのシリーズにミステリーの要素はあまりないんです。

柚月:そっか、なるほど。

白石:広島を舞台に、昭和のやくざを題材にしなければ描けないドラマがある。そのうえ、優れたミステリーでもある。発明的だなと思いました。

柚月:映像化のお話をいただいた時は、「最後に明らかになるあの仕掛けを、どうやって映像化するんだろう?」と思ったんです。文章だからこそ成り立っている仕掛けなんですよね。ところが、映像ならではのアレンジによってクリアしていた。お見事でした。でも、一番やられたと思ったのは、やっぱり真珠ですね。

白石:本当ですか。怒られると思ったんですが(笑)。

柚月:原作だと刃物で頬を切るんですが、「この手があったか!」と思いました。真珠について詳しく説明するのははばかられますので、映画「孤狼の血」をご覧ください(笑)。こういったダイレクトな表現は、やはり映画には敵わないなと思いました。

白石:でも、柚月先生も「顔が弾丸で打ち抜かれてた」とか普通に書いてますよね。

柚月:その場面でそういった描写が必要だと感じたのであれば、躊躇せずに書こうとは決めていました。読む人は怖がるんじゃないかな、イヤがるんじゃないかなとこちらで過剰に検閲してしまったら、表現できるものもできなくなってしまうと思うんです。

白石:暴力もそうだしヤクザに関しても、今の日本ではなかなか表現しづらくなっています。『孤狼の血』を映画化した時は、日本映画界がどこか骨抜きになっているような状況の中で、「できるか?」と挑戦状を叩きつけられたようなものなんです。「仁義なき戦い」を作った東映さんも、ヤクザ映画をもう何年も作っていなかったんですよ。社内でも「今、ヤクザ映画つくって大丈夫なの?」って声はあったらしいんですが、「この作品を東映が作らずどこが作るんだ」となっていった。僕らはいろいろな意味で、柚月先生の原作から勇気をもらったんです。


白石和彌さん

柚月:嬉しいです。ただ、私も東映さんの「仁義なき戦い」や「県警対組織暴力」といった実録映画を観て自分でも書きたくなったので、巡り巡ると東映さんのお力で書かせてもらったんだなと思っています。それから、もっと読みたい、登場人物たちのことをもっと知りたいと声を上げてくださった読者さんたちの存在も大きかった。映画チームのみなさんの存在も含めて、シリーズを続けるには周りの人の力が必要なんだと感じた作品です。

白石:映画って尺の関係で、小説で書かれていることの全部は網羅できません。ストーリーはもちろんキャラクターに関しても、どうしても削ぎ落とさなければいけないんです。でも、多少削ったところで目減りがしないっていうか、大上、日岡は魅力的なキャラクターであり続けてくれたんですよ。キャラクターの圧倒的な強さは、柚月さんの小説の特筆すべきところだと思います。

柚月:自分が生み出したキャラクターを愛していただけるのは、作家冥利につきます。

白石:三部作を書き終わった時、エネルギーを出し切る感じでしたか?

柚月:出し切りました(笑)。

白石:僕もあと一作映画を作って、三部作にしたいと思っています。今日は柚月先生からいろいろなお話が聞けて、「LEVE3」をどういう方向に持っていくかのヒントがもらえたような気がします。やっぱり、日岡の決着ですよね。日岡を演じてくれた松坂桃李君も、「LEVEL2」の取材の時に「このままじゃ終われない」と言っていましたから。

柚月:『暴虎の牙』である程度お見せしてはいるんですが、実は小説の方でも「日岡の運命に決着をつけてほしい」という読者さんからの声があるんです。「仁義なき戦い」の五部作が完結した後で、「新仁義なき戦い」の三部作が始まったように、『孤狼の血』も何かしらの形で続けるというかたちもあるのかなと思い始めています。

白石:じゃあ、ここから新しい三部作が始まる?

柚月:三部作かは分かりませんが(笑)。白石監督が解説を書いてくださる『暴虎の牙』の文庫化をきっかけに、新しい読者さんとお会いできる。みなさんの声を聞いたうえで、続編なのかスピンオフなのか、いずれにせよ可能性を探ってみたいなと思っています。

白石:めちゃくちゃ読みたいです。解説、頑張ります!(笑)


▼「孤狼の血」シリーズ特設サイト
https://kadobun.jp/special/korou/

『暴虎の牙』作品紹介



暴虎の牙 上
著者 柚月裕子
定価: 748円(本体680円+税)
発売日:2023年01月24日

「孤狼の血」シリーズ完結編!
「極道がなんぼのもんじゃ!」博徒たちの間に戦後の闇が残る昭和57年の広島呉原――。愚連隊「呉寅会」を束ねる沖虎彦は、ヤクザも恐れぬ圧倒的な暴力とカリスマ性で勢力を拡大していた。広島北署二課暴力団係の刑事・大上章吾は、その情報網から、呉寅会と呉原最大の暴力団・五十子会との抗争の臭いを嗅ぎ取る。賭場荒らし、シャブ強奪……酷薄な父からの幼少期のトラウマに苦しみ暴走を続ける沖を、大上は止められるのか?
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001836/
amazonページはこちら


暴虎の牙 下
著者 柚月裕子
定価: 792円(本体720円+税)
発売日:2023年01月24日

令和最強の警察小説!
広島呉原最大の暴力団・五十子会と、愚連隊「呉寅会」を束ねる沖虎彦との一触即発の危機に、マル暴刑事・大上章吾は間一髪で食い止めることに成功、沖は収監されることに。時は移り平成の世、逮捕直前に裏切った人物に報復を誓い沖はシャバに戻るが、かつて大上の薫陶を受けた呉原東署の刑事・日岡秀一が沖の暴走を止めるべく動き出す。果たして沖の運命は? 最強の警察小説「孤狼の血」シリーズ完結編!解説・白石和彌(映画『孤狼の血』監督)
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001838/
amazonページはこちら


柚月裕子(ゆづき・ゆうこ)

1968年、岩手県生まれ。2008年、『臨床真理』で『このミステリーがすごい!』大賞を受賞し、デビュー。13年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞を受賞。16年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞を受賞。丁寧な筆致で人間の機微を描きだす、今もっとも注目されるミステリ作家の一人。他の著書に『最後の証人』『検事の本懐』『検事の死命』『検事の信義』『蟻の菜園‐アントガーデン‐』『パレートの誤算』『朽ちないサクラ』『ウツボカズラの甘い息』『あしたの君へ』『慈雨』『盤上の向日葵』『ミカエルの鼓動』『教誨』などがある。

白石和彌(しらいし・かずや)

映画監督。2010年、「ロストパラダイス・イン・トーキョー」で長編監督デビュー。第2作「凶悪」(13)で新藤兼人賞金賞などを受賞し、注目を集める。「日本で一番悪い奴ら」(16)、「彼女がその名を知らない鳥たち」(17)、「凪待ち」「ひとよ」(ともに19)「死刑にいたる病」(22)と、人間心理を巧みに描きだす手腕で評価を高める。「孤狼の血」(18)で日本アカデミー優秀監督賞、優秀作品賞などを受賞。続編「孤狼の血 LEVEL2」(21)でも再び同賞を受賞している。

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