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特集

『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』発売記念! 佐藤辰男氏×橘玲氏 スペシャル対談

ドロップアウトしたってやり直せる!人生はトライ&エラーの繰り返しだ

KADOKAWAの前身、角川グループホールディングスの元社長である佐藤辰男氏が、自己啓発エンタメ小説『怠惰な俺が謎のJCと出会って副業を株式上場させちゃった話』を上梓しました。伸び悩む小説投稿サイトを運営する青山が、謎の女子中学生・五虎退(ごこたい)ちゃんからアドバイスを受け、やがて仲間の力を借りて会社を株式上場(IPO)させる青春&サクセスストーリーです。出版を記念して、かつてメディアワークスで編集者として働いた経験を持つ人気作家の橘玲さんとのスペシャル対談が実現! 今作の感想や創作秘話をはじめ、出版界を駆け抜けてきたおふたりによる「時代の読み方」と若い世代へのメッセージをお聞きしてきました。



構成・文=高倉優子

ロシア語研究会の文芸誌で
小説も発表していた


――おふたりは親しい間柄とお聞きしています。

橘:佐藤さんとは不思議な縁があって、早稲田大学の「ロシア語研究会」の先輩で、在学しているときも名前だけは知っていたんです。学部はどこでしたっけ? 

佐藤:第一文学部。あなたも一緒だよね? 僕はロシア語クラスでした。

橘:まったく同じです。高校生のときにドストエフスキーにはまって、これを原語で読みたいと思ってロシア語を専攻したものの、難しくてドロップアウトしたという典型的なパターンです。けっきょく学校にも行かなくなったら、クラスメイトから「君みたいなのは自力で卒業できないよ。ロシア語研究会に入れば、単位の取り方を教えてもらえるぞ」と言われて入会したんです(笑)。

佐藤:僕も高校時代にロシア文学にハマってしまって、迷わずロシア語研究会に入ったんだ。でもかなり特殊なサークルだったよね。社会科学系の勉強をする人が多くて、ロシア語を学ぶ環境ではなかったし。


――では、どんな活動をしていたんですか?

橘:入学したのが1977年。その頃はポストモダンブームのはしりで、みんながミシェル・フーコーとか、ジャック・デリタとかのフランス現代思想の話をしていてびっくりしました。

佐藤:ちょうど入れ替わり、ニアミスだね。僕は71年に入学して、5年かけて76年に卒業したから。僕のときはマルクスの講読会なんかをしていたよ。

橘:文芸誌を作ったりもしていましたよね。『トロピズム』というサークルの同人誌で、佐藤さんの書かれた小説を読んだ記憶があります。

佐藤:ええ、忘れてた! 内容も覚えてないや(笑)。でも友だちがすごく褒めてくれて、彼が「これは絶対、吉行淳之介に読んでもらうべきだ」と言い出して。酔った勢いで下宿先から電話をかけたら、母親の吉行あぐりさんが出てね、ご本人に取り次いでくれました。で、「あなた急に電話してきたらダメでしょう。新人賞にでも送りなさい」ってたしなめられて……。

橘:本当にかけちゃったんですね(笑)。なぜ吉行淳之介の電話番号がわかったんですか?

佐藤:当時は文芸誌に作家の電話番号が載っていたような気がします。あるいは電話帳で調べたか。大らかな時代だったよね。

ドロップアウト人生から
それぞれ好きな仕事に就いた


――おふたりの大学卒業後の進路は?

佐藤:やっとのことで大学を卒業して、おもちゃの業界新聞「週刊玩具通信」に拾ってもらいました。約7年働いて、その間に結婚して子どもも生まれて。でもずっと「出版の仕事がしたい」という夢を持っていたから焦っていて。そんなとき、知人から「角川書店が創刊するパソコン雑誌の編集者を探している。君はどうだ?」と、角川歴彦さんを紹介されたんです。それでパソコン雑誌「コンプティーク」を立ち上げることになった。
でも角川書店に入社できたわけじゃなく、社長と秘書ふたりだけの「コンプティーク」という会社の社員なわけ(笑)。雑誌を作るには人出が足りないから後輩3人に入社してもらって、本当に何もないところから手探りでのスタートでした。

橘:正規のルートを歩いていないというのも似てますよね(笑)。私も、そもそも就活というのがまったくわからず、卒業間際に新聞の三行広告で見つけた小さな出版社に入ったんです。このあたりのことは『80’s』(幻冬舎文庫)で書きましたが、ほんとうに出版界の最底辺の業界誌で、みんないい人だったんですが、なんの希望もないと思って2年で辞めて、友人と編集プロダクションをつくりました。そんなとき、「コンプティーク」に参加していたサークルの先輩から、「君、フリーの編集者なんだって? うちにこない?」と誘ってもらって。ちょうど別冊宝島の仕事をすることになっていたからお断りしたんですが、それがなければ佐藤さんと「コンプティーク」を作っていたんですよね。学生時代同様、このときもニアミスでした。


――実際に対面したのは?

橘:「宝島30」という雑誌をやっていたんですが、1995年のオウム真理教事件のあと、やりつくしたかなというのがあって。これからどうしようかと考えていたら、同僚の穂原俊二さん(現在はイーストプレス執行役員)が以前「コンプティーク」で働いていて、佐藤さんに会いにいってみようかという話になったんです。それまで佐藤さんがメディワークスの社長だとはまったく知らなかったから、びっくりしました。
そのときが初対面でしたが、今思えば当時のメディアワークスという会社はドロップアウトした面白い人たちの集まりで、とても居心地がよくて、結局5年ほどお世話になりました。


――メディアワークスでは具体的にどんな仕事をしていたんですか?

橘:『ゴミ投資家のためのビッグバン入門』をはじめとした、海外投資や海外の金融機関のノウハウ本のシリーズを作っていました。「お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方」(幻冬舎)は「ゴミ投資家」シリーズを元に書いた作品です。

佐藤:僕もあなたも本当に流される体質だね(笑)。川の流れにあらがわずに生きてきた感じがする。でもお互い、それがよかったのかもしれないね。


――それでは本作について。読んだ感想と、書くことになったきっかけをお聞かせください。

橘:読み終えた直後の感想は「ちゃんとエンタメになっている!」でした(笑)。きちんと起承転結があって、有り得ない設定なんだけど、最後に謎が解き明かされ、主人公とヒロインがいい感じになって……と。最初は「なぜラノベ?」と思ったんですけど、あとがきまで読んで納得しました。これ、どのくらいかけて書いたんですか?

佐藤:1年くらいかな。書くきっかけになったのは、『IPO物語――とあるベンチャー企業の上場までの745日航海記』(商事法務)という書籍の構成を手伝ったこと。そのとき「このテーマなら小説にできるかもしれない」と思ったんです。IPOには段取りがあって、そのプロセスを描いていけばいい。男の子と女の子がいて、仲間たちがいて……と、ラノベのようなイメージで登場人物を配置し、時間軸に沿って彼らを動かしていけば書けそうだ、と。書いている途中、かつて部下だった経営者で編集者の三木一馬くんに見せたら、「ああしろこうしろ」と具体的なアドバイスをくれて。「ああ、編集者ってこういう仕事なんだな」と改めて思った。自分も編集者だったのにね(笑)。

橘:主人公の青山くんにモデルは佐藤さんご自身ですか? 会社が大きくなっていく過程がとてもリアルだったので「コンプティーク」での経験が生きているのかなと思いました。

佐藤:子ども時代にプラモデルを最後まで作り上げられなかった中途半端なところは、怠惰な青山くんと似ているかもしれない(笑)。会社を経営してきた経験をそのまま書いたわけではないけれど、無意識に投影させているところもあったんでしょうね。書きながら、「当時の自分はこんなことを考えていたんだな」と再発見するような感覚がありました。


――カバーイラストは「涼宮ハルヒ」シリーズなどでおなじみの、いとうのいぢさんによるものですね。あと、この長いタイトルは……(笑)。

佐藤:そう、小説を書こうと思い立ったとき、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら」(岩崎夏海著、ダイヤモンド社)が浮かんで、タイトルなど参考にさせてもらいました。カバーイラストも、いとうのいぢさんにお願いしたら話題になって売れるんじゃないか……という思惑もあって(笑)。

橘:佐藤さんとの共通点は、編集者としての視点なのかなと思います。私も肩書は「作家」ですが、「橘玲という架空のキャラクターを編集している」という感覚ですから。近著の『バカと無知』(新潮新書)もそうですが、今の時代に求められているテーマをどんなパッケージにすればいいのか、―たとえばフィクションなのか、新書なのか―ということを考えているので、普通の作家さんとはちょっとちがうかなと思います。

「失敗してもやり直しがきくんだよ」
そんなメッセージを込めて書いた


――おふたりが創作活動をする上で心がけていることはなんでしょうか。

橘:知り合いの政治家がツイッターで「あなたのために政治に何ができますか?」と聞いたら、20代30代から「安楽死の法整備をしてください」という要望が大量に届いたという話を聞きました。なぜそんなことになるのか、希望はどこにあるのか、と考えているところはあります。佐藤さんの小説は、若者たちが夢を見ることすらできない閉塞感のある社会の中で、仲間と会社を作って上場させるプロセスを見せて、ちゃんと希望を描いている。

佐藤:それはあるかもしれませんね。この本で描いた青山くんや江川くんの同僚みたいに、与えられた仕事をこなすだけで、将来の資産形成もできず、結婚したいという気持ちにもなれない。そんな希望がない若者が多くいるというのは危機的状況だと思うので。

橘:『無理ゲー社会』(小学館新書)という本で書きましたが、今の若者たちは社会という攻略不可能なゲーム(無理ゲー)に放り込まれたように感じているのでないか。人生がロールプレイングゲームだとするなら、まずはルールを知っておくべきですよね。それがわからなかったら、右往左往するしかない。そのうえで、失敗を繰り返しながらサバイバルの方法を身につけていくしかないのかな、と思うようになりました。

佐藤:僕も同感です。この本にも「失敗してもやり直しがきくんだよ」ということをメッセージとして入れたつもりです。

橘:大学を出たばかりで、いきなり完璧な人生設計を持っているなんてことがあるわけない。トライ&エラーを繰り返すうちに、なんとか格好がついてくる。若いときの失敗は、「そんなもんだよね」とみんなあまり気にしないから、その場に踏みとどまって、ダメなら謝ればいい。それを心に留めておいてほしいです。

今後書いてみたいのは
ドロドロの企業もの!?


――最後に、おふたりの今後の展望についてお聞かせください。

橘:「仕事を辞めて悠々自適で生きていきなさい」と言われたら、明日からどうしていいかわからなくなります。結局、本をつくることが好きなんですよね。仕事を通じて社会と関わっていたいし、少しでも読者の人生のヒントになればいいと。ただ、私の場合は、マイクロ法人(自営業者の法人成り)のような個人としてサバイブする方法に傾きますが、佐藤さんは経営者の体験があるから、「会社を作って仲間たちと頑張る」という王道ストーリーになるんでしょうね。

佐藤:僕も第一線にいたときは経営者でなくなることや、もっというと退職して仕事がなくなってしまうということに恐怖感がありました。生涯働き続けるにはどうしたらいいだろうと思っているとき、KADOKAWAの社史を書く仕事を与えられ、4年かけて書き上げた。そしたら楽しくなって「もっと書きたい!」と思うようになったんです。小説を書いてみて感じたのは、どうにもならない会社運営と比べて、自分で好きな世界を作れるってなんて楽しいんだろうと(笑)。

橘:個人的には、ドロドロした経営の話を読んでみたいです。そういう体験を書ける人って少ないですから。編集者から作家になる人はいるけど、出版社の社長でエンタメを書く人っていないですよね(笑)。

佐藤:ドロドロの経営話ですか、わかりました(笑)。企業ものは僕も書いてみたいジャンルなので、今後挑戦してみようかな。

プロフィール

佐藤辰男(さとう たつお)
1952年生まれ。ゲーム雑誌『コンプティーク』を創刊するなど多くの雑誌の編集者・編集長を務め、角川メディア・オフィス取締役に就任。以後、メディアワークス社長・会長、角川グループホールディングス社長、メディアリーヴス社長・会長、KADOKAWA・DWANGO(現KADOKAWA)初代社長・2代目会長、角川ドワンゴ学園初代理事長他を歴任。現在はコーエーテクモホールディングス社外取締役。

橘玲(たちばな あきら)
1959年生まれ。作家。2002年、金融小説『マネーロンダリング』でデビュー。『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』が30万部超のベストセラーに。『永遠の旅行者』は第19回山本周五郎賞候補となり、『言ってはいけない 残酷すぎる真実』で2017新書大賞を受賞。近著に『バカと無知―人間、この不都合な生きもの―』(新潮新書)など。

作品紹介



著:佐藤辰男
イラスト:いとうのいぢ
編集:三木一馬(ストレートエッジ代表)他
定価:1,650円(本体1,500円+税)
発売日:2022年12月21日
判型:四六判
ページ数:256
ISBN:9784041129722
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322205000690/
amazonページはこちら

あらすじ
IT会社に就職して1年が経つ青山隆文(23歳)は、学生時代に所属したSF研の部室の一部を借り、副業として小説の投稿・閲覧サイトのノベルビレッジを雑に運営している。
大学2年のときに大学の仲間と半ば趣味で始めた零細サイトだったが、人気作家は他社に奪われ、投稿作品には盗作が発覚、さらに人気1位の『オーガスト戦記』の投稿が止まってしまって嫌気がさし、そろそろ店じまいを考えていたところに――ある日、赤い髪を振り乱した見知らぬ女子中学生が乗り込んでくる。
「あなたたち、想像通りのダメ人間ね」
「やめたら承知しないわよ」
とにらみつける、その少女「五虎退(ごこたい)」ちゃんとの出会いをきっかけに、おれたちの運命が動き出した……

本書の内容を、名だたるエンタメ企業経営者も激賞!
【襟川恵子氏(コーエーテクモホールディングス会長)・陽一氏(同社長)】
創業する際、それは人を幸せにする仕事か、心底楽しい仕事か、新しい分野の仕事か、この3つがOKならレッツゴー、てのは分かり易いですね。
41年前に初めて歴史シミュレーションゲーム「川中島の合戦」を作った時も、確かにこんな感じでした。きっとこの小説は新しい人生を切り開くチャレンジャーたちへの指針となるでしょう。それにしても、ごこたいちゃん、素晴らしい根性です。かわいいです。けなげです。立派です。その深謀遠慮に諸葛孔明もビックリでしょう!

【鳥嶋和彦氏(元 白泉社顧問・元 集英社専務)】
やられた。本を読んで一番嬉しいのは、期待を越えて面白かった時だ。あれれ、これは。え、なんだ……。うわー、そうくるか。えー、もう終わり。あっという間の読了。近くにこんな作家が眠っていたとは。ボツを胸に読んでいたら、驚きの返り討ちに遭いました。

【宮崎英高氏(フロム・ソフトウェア社長)】
若き日、コンプティークの愛読者だった私にとって、佐藤辰男さんは伝説の編集者でした。この小説は、そんな佐藤さんによる『本格エンタメ』であると同時に、(あくまでも私の勝手な解釈によれば)出版激動の時代の記録であり、彼自身の戦記でもある筈です。そんな、人と組織の成長と、思いと、継承の物語。楽しませて頂きました。リンクテキスト


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