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特集

生きづらさを抱えるすべての人へ。絶対読んでほしい奥田亜希子の5作品(瀧井朝世・選)

現代社会に生きる人々に寄り添う作家、奥田亜希子の小説5作品を瀧井朝世が厳選

現代社会に生きる人々が抱く悩みや違和感を丁寧にすくい上げ、そこから新しいものの見方・考え方を提示してくれ、前向きな気持ちにさせてくれる。奥田亜希子はそんな小説を書く作家だ。彼女の美質がよく分かる5冊を選んでみた。

奥田亜希子の文芸作品5選

1.『求めよ、さらば』(KADOKAWA)



長篇小説。34歳の志織はフリーランスの翻訳家。結婚して7年になる夫の誠太は理解力のある誠実な人物で、友人からもうらやましがられるほど。志織の目下の悩みは、不妊治療に励んでいるのに子どもができないこと。そんな折、突然誠太が置き手紙をして姿を消す――ここまでが第1章。第2章はがらっと変わって誠太の視点に移り、2人の出会いからが語られていく。友達が少ない誠太と、社交的で華やかな志織がどのように出会い、親密になっていったのか。誠太視点で語られるため、自分に自信のない彼が、志織からの好意にまったく気づいていない様子がもどかしい。なんとも愛らしい“片想い小説”となっている。ではその後、想いを寄せていた志織と結婚して仲良く暮らしていた誠太は、なぜ姿を消したのか?
人と人はお互いどんなに好きであっても、すれ違うこともあれば、傷つけ合うこともある。その時、相手と、そして自分とどう向き合うか。現代におけるコミュニケーションのありかたについて、多くの人が直面しそうな悩みに真摯に考える作品だ。

詳細はこちら ⇒ https://www.kadokawa.co.jp/product/322008000195/

2.『リバース&リバース』(新潮文庫)



長篇小説。人は変化するものであるし、人と人の関係性は固定されるものではない、ということを楽しく読ませる1冊。主人公は2人。1人は、ティーン向けの雑誌の編集者で、読者からの悩み相談コーナーを担当する青年、禄。「ろく兄」のペンネームで悩みに回答する彼は、時に親身になりすぎるあまり、相談者の少女に振り回されることもある。もう1人の主人公はその雑誌の愛読者で、地方に暮らす中学生の郁美。友人と楽しく毎日を過ごす彼女だが、東京から越してきた少年と交流を深めていくうちに、その日常が変わっていく。
主人公2人の人生がどのように交錯し、その立場や関係がどのようにひっくり返っていくのか。実は本作、練った構成となっていて、後半にはっとさせられる。読後には“リバース”には、「reverse(反転)」と同時に、「rebirth(再生)」という意味も含まれているのだ、と納得するはずだ。

3.『ファミリー・レス』(角川文庫)



“後天的家族”をテーマにした連作集。生まれた時から一緒に過ごす家族とはまた異なり、後から築いた家族のなかでの人間模様を描く。
人の悪口が言えない女性がシェアハウスで毒舌家の同居人と親しくなる「プレパラートの瞬き」。売れない画家の夫が、妻の祖父母の家に宿泊した際、13年前に失明したという祖父と思いがけない交流を持つ「指と筆が結ぶもの」。再婚した元妻と暮らす娘とはたまに会うものの、いつも無神経な発言で傷つけてしまう父親を描く「ウーパールーパーは笑わない」。少年が、短期間だけの曾祖母との同居や、学校内の変化、淡い恋を体験していく「さよなら、エバーグリーン」。事故死した双子の姉夫婦の娘を引き取り、大切に育ててきた妹夫婦が登場する「いちでもなく、さんでもなくて」。最後の「アオシは世界を選べない」は実にユニークな一作で、語り手は飼い犬だ。父を亡くしたばかりの娘と、その父に線香をあげたいと訪ねてきた青年との二転三転するやりとりを飼い犬のアオシが見守るという内容だ。
近しい人だからこそ遠くに感じることもあれば、遠い他人だからこそ心許せることだってある。近くもあり遠くもある“後天的家族”だからこそ生まれる奇跡のような触れ合いを、さまざまな形で描き出す。著者の第三作にしてその短篇の巧さを知らしめた一冊。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321806000285/

4.『彼方のアイドル』(双葉文庫)



単行本刊行時の『魔法がとけたあとも』を文庫化の際に改題した短篇集。どの話も、身体の変調や変化、あるいはコンプレックスを抱える人たちが主人公で、みんな、自分にとっては深刻だが他人には理解されにくい悩みを持っている。
つわりに苦しむものの、〈妊婦はつわりを前向きに感じなければならないと、誰もが思っている気がしてならない〉と思いつめる妊婦が主人公の「理想のいれもの」。身体に関してある心配を抱える女性が温泉旅館を訪れ、ひょんなことから大女将と交流を持つ「花入りのアンバー」。顔にある大きなホクロがコンプレックスで、内向的な性格となった青年と、整形手術をした幼馴染みとの関係にキュンとくる「君の線、僕の点」。反抗期を迎えた息子に苛立つ母親が、長年応援してきたアイドルの光り輝く姿と、シミと白髪が増えた自分を比べてしまう「彼方のアイドル」。不妊治療の受診を拒絶したことから妻とぎくしゃくしている男性と、妻からのDVが理由で離婚して地元に戻ってきた中学生時代の友人の交流を描く「キャッチボール・アット・リバーサイド」。
どれもひねりのある展開のなかで、劣等感やネガティブな固定観念に縛られた人々が、その呪縛から解放されていく。主人公だけでなく、読者もみな、自分の中のさまざまな偏見や思い込みに気づかされ、そして励まされるのでは。

5.『夏鳥たちのとまり木』(双葉社)



中学校教師の葉奈子は2年生を担当している。その夏、生徒の1人、星来せいらが3日間無断外泊したという連絡が。SNSを通じて知り合った女性の家にいたという星来の話を聞いて、葉奈子は自分の体験を思い出す。というのも彼女自身も、親のネグレクトに耐え兼ねて中学2年生の夏に、ネットの掲示板で出会った男、〈ナオ〉のアパートに転がり込んだことがあったのだ。そのアパートでの日々は平穏で、決して忌わしい思い出ではない。だが星来の事件をきっかけに葉奈子は動揺する。なぜ動揺するのか、彼女は自分の過去を見つめ直していく。
人生は時に、羽を休めるための“とまり木”が必要かもしれない。しかし、“とまり木”になりそうなものなら何でもよい、というわけではない。辛い過去を持つ副担任の50代の教師との対話、こっそり拾った弱ったドバトの雛の飼育、学校周辺で勧誘活動をする宗教団体、金を無心してくる母親とのやりとりなど、葉奈子のさまざまな体験を通して、「それは本当に“とまり木”なのかどうか」という問いが重ねられていく。なにが本当に人にとっての“助け”になるのか、考えたくなる一冊だ。

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