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特集

【イベントレポート】池上彰氏が2011年3月の“原発事故”にせまる。あのとき、何が起き、何を思い、どう闘ったのか―― 映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)試写会

 2020年2月19日(水)、東京都千代田区富士見・神楽座にて行われた映画『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)の試写会。その後、ジャーナリストの池上彰氏を迎えたトークイベントが行われました。



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『Fukushima 50』(フクシマフィフティ)
© 2020『Fukushima 50』製作委員会
2020年3月6日(金) 全国公開
配給:松竹 KADOKAWA
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 すべての日本人の中で、何かが変わったあの「3.11」。2011年3月11日、マグニチュード9.0、最大震度7という巨大地震が東日本を襲いました。福島では地震が起こした想定外の大津波が福島第一原子力発電所を呑み込みました。何が起こっているのかわからない中、テレビが伝えたのはあの水素爆発の映像……。

 考えうる最悪の事態の中で、現場はどう動き、何を感じ、どう闘ったのか――

「真実を知りたい」。ジャーナリストの門田隆将氏は、原発事故の関係者90人以上への取材をもとに『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)を書き上げました。それが、この映画の原作です。

 映画を見る前にまず頭に浮かんだのは、タイトルの「50(フィフティ)」が何を意味するか、ということ。トークイベントですぐにそれが明らかになりました。あのとき、死を覚悟して原発内に残り続けた名もなき作業員たちを、海外メディアは、「Fukushima 50」と呼んだのです。でも実際は50人ではなかった? そんなところから、池上氏の解説がスタートしました。

あのとき、断片的に見ていた情報がひとつにつながった


――津波によって原発事故が起きた。これに対処するために50人の作業員たちが現場で闘った事実を映画化したということですけれど、ご覧になっていかがでしたか。

池上彰氏(以下、池上)あのとき、海外メディアは「Fukushima 50(フクシマフィフティ)」と呼んだのですが、実際に最後まで現場にいたのは69人だったんですね。さらにはその方たちだけでなく、数百人の人がずっと周辺にいたんですよ。大変だっただろうなと思います。断片的な情報でも、現場で闘っている人たちがいることはわかりました。でも具体的に何があったのか、あらためて今回、事実の確認ができたという感じですね。

 あの水素爆発、テレビの映像ではただ白い煙が上がっているだけに見えたのですが、すさまじい爆音と振動。映画を見て、ああ現場はこうだったんだなと。

 ちなみに、事故があった福島第一原発は、通称「フクイチ」とも「1F(イチエフ)」とも呼ばれ、1号機から6号機までの原子炉があります。そして1号機と2号機、3号機と4号機、5号機と6号機という具合に、2つずつの原子炉を操作・制御するため、中央制御室が3つ存在します。映画のメイン舞台となったのは、このうちの1号機と2号機を制御する中央制御室です。


――池上さんは実際に現場へ取材に行かれたんですよね。

池上:行きました。フクイチのほうへは1年経ってからですけど、フクイチの近くにフクニ(福島第二原子力発電所)がありまして。そちらへは、原子炉がどんな仕組みになっているかをテレビ番組で紹介するために行きました。操業は停止しているんですけど、当然近くへ行けば放射線を浴びるわけです。もちろん「Fukushima 50」ほどの深刻さはないですが、「ここは若い人や女性を残して、年配の男たちだけで行こう」と。私は「もう70歳も近いからいいや」って行きまして、けっこう放射線を浴びました。どれくらいの放射線を浴びたか、放射線量を計測する計器を胸につけて原子炉の真下まで行くんですが、「ピピッ、ピピッ」って音が鳴るんですよ。

 原発に入る前には、白いつなぎの防護服を着るんですね。あれで放射線を防げると思っている人がいると思いますが、実はあれでは放射線を遮断できない。本当の防護服というのは、中に鉛が入った何十キログラムもあるもので、あの白いつなぎは空気中に浮かんでいる放射性物質が体に付着しないというだけなんです。だから脱ぐときにコツがいるんですが、捨てるとき、これは放射性廃棄物になるんです。


――え~、初めて知りました。意外な事実です。じゃあ池上さんもある意味、ちょっと危険な状態を体験することになって。

池上:でも事故当時、原子炉建屋に突入した作業員の人たちなんて、私よりはるかに多くの放射線を浴びたわけでしょう。それに福島の原発でつくられている電気は東京をはじめとする首都圏に行くわけですよ。福島の人にしてみれば、東京の人が使う電気を供給するために被害を受けたことになりますよね。



「Fukushima 50」が日本を救ったんだ


――いまさらなんですが、そもそも原子力発電というのは、どういう仕組みなんでしょうか。

池上:本当に基礎の基礎から申し上げますと、電気というのはタービン(回転式の原動機)を回すことによって発生します。簡単に言うと、仕組みは“自転車のライト”と同じです。自転車はぐるぐると車輪を人力で回してライトを点けますが、発電所はタービンを何の力で回すか。水力発電所の場合はダムからの水の力でタービンを回しますね。火力発電所は重油や石炭を燃やして水を蒸発させ、蒸気の力で回す。原子力発電所は水の入った原子炉の中で、ウランが核分裂するときに発生する熱で水を沸騰させて蒸気で回します。だから原理としては、原子力発電は火力発電とまったく同じなんです。なんですけど、ウランなどの核燃料というのは、石炭などとは違って核反応を起こしますから、核分裂するとき、さまざまな放射性物質が出て、これが熱を持つんです。しかも、なかなかその熱が収まらない。この熱を冷ますために、どうしても大量の水が必要になるんです。


――考えてみると、日本の原子力発電所ってすべて海沿いにありますよね。

池上:そうですね。冷やすための水(海水)が必要だからです。


――なるほど。ここに日本地図があります。もし彼らが踏みとどまって原子炉をコントロールしていなければ、福島第一原発の原子炉は6つともひどい状態になって、東日本が壊滅していた可能性がある?

池上:はい。被害範囲は、東京を含む半径250キロメートルと想定されました。最悪の場合、この地域に人が住めなくなっていたかもしれないんです。あのとき、政府は最悪のことまで想定せざるを得なかった。現場の人たちが本当に最後まで頑張ってくれたおかげで、私たちはいま、こうして日常生活を送ることができているわけです。


――あのとき、止められなかったら恐ろしいことになっていたんですね。

池上:首都圏から東北南部が壊滅、壊滅というか……人が住めなくなった。首都圏だけで約3000万人が住んでいますから、周辺まで入れれば、ざっと4000万人以上が国内避難民になっていたということですよね。



――とりあえず危機を乗り越えました。現在の福島第一原発はどうなっているのでしょう。

池上:いま何が問題かというと、汚染水が出続けていることです。原子力発電所の西側に、阿武隈高地があって、豊富な地下水があるんですよ。山側から海側に、大量の地下水が流れ込んでいる。で、福島第一原発の原子炉建屋が放射性物質で汚染されているでしょう。地下水がここを通ることによって汚染されてしまうんです。原発内で日々、新たな汚染水がつくり出されている。そこで、汚染水対策としてつくられたのが「凍土壁」です。原発内に地下水が入ってこないように、建屋の周辺の地中に管を埋め込んで、大量の電気を使って内部の冷却材を循環させ、氷の壁をつくっているんです。


――すごいですね。

池上:これである程度、地下水が流れ込むのを防ぐことができるのですが、それでもやはり出てきてしまう。これをそのまま海に流すわけにはいかないですよね。そこでALPS(多核種除去設備)と呼ばれる設備で、放射性物質を取り除く作業をしています。汚染された水を、ALPSを通してきれいにする。ところが「トリチウム」という放射性物質だけは除去することができないんです。トリチウムって普通の水と性質がそっくりなので、水と科学的に分離することが極めて難しい。だからトリチウムだけが残った処理水の処理方法がないんです。そこでフクイチの周りの森は東京電力の敷地ですから、森の木をどんどん伐り倒して空き地にして、ここに処理水を貯蔵するタンクをつくり続けているというわけですね。


――でも、いずれ限界がきますよね。

池上:そうなんです。どうするかについてはいま2つの案があって、ひとつは処理水をそのまま海に流す。でもそうすると当然、風評被害で福島の漁師の人たちに大きな影響が出ますよね。じゃあ蒸発させればいいんじゃないか。処理水を蒸発させることで大気中に出したらどうかという案もあります。いずれにしても、どこかの段階で政府が判断をしなければいけない。そして私たちは、それを認めるかどうかの決断が迫られます。


――危機は免れたけれど、まだ問題は残っているということですね。

池上:まさに私たちは、福島第一原発を守った人たちの努力に報いるためにも、これからのことをしっかり考えていかなければならないということです。

 * * * * *

 さて、今回は、「事前に映画を見てから原作を読んだ」という池上氏。「読んでから見るか、見てから読むか」という、往年の角川映画のキャッチコピーでイベントを締めくくりました。

 映像でダイナミズムを楽しみ、原作で映画には描かれなかった細部に触れる。ぜひ門田隆将氏による渾身のノンフィクションも、あわせてお読みください。もちろん原作を読まれた方は、本書がどのように映像化されているのか、スクリーンでぜひご覧ください。

原作


『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』

『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』


角川文庫『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』
著者:門田隆将
定価:本体840円+税
発売日:2016年10月25日
ISBN:978-4-04-103621-1
頁数:516ページ
発行:株式会社KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/321507000111/


映画のオフィシャルフォトブック


『Fukushima 50 オフィシャルフォトブック CD付き』

『Fukushima 50 オフィシャルフォトブック CD付き』


『Fukushima 50 オフィシャルフォトブック CD付き』
製作: Fukushima 50 製作委員会
監督:若松節郎
原作:門田隆将
定価:本体2400円+税
発売日:2020年3月6日
ISBN:978-4-04-109319-1
頁数:96ページ
発行:株式会社KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/321912000366/


池上彰氏の新刊新書


『知らないと恥をかく東アジアの大問題』

『知らないと恥をかく東アジアの大問題』


角川新書『知らないと恥をかく東アジアの大問題』
著者:池上彰、山里亮太、MBS報道局
定価:本体900円+税
発売日:2020年3月7日
ISBN:978-4-04-082356-0
頁数:224ページ
発行:株式会社KADOKAWA
https://www.kadokawa.co.jp/product/321910000122/


※Amazon,楽天へのリンクはページ下部にあります。

映画ノベライズも発売中!


周木 律・著『小説 Fukushima 50』※詳細は画像をタップ


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