4月17日 リーガロイヤル東京
文 小林千香
2011年3月11日の東日本大震災で起こった原発事故を描いた映画『Fukushima 50』は、門田隆将さんの『死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発』(角川文庫)を原作とし、日本各地に甚大な被害をもたらした深刻な事故と、それに立ち向かった人々を描く作品。この度クランクアップを迎え、主演の佐藤浩市さん、共演の渡辺謙さん、KADOKAWA映画企画部・部長の水上繁雄プロデューサー、椿宜和プロデューサーが会見を行いました。本イベントは、同時通訳で海外配信され、海外公開も視野にいれた作品であることも発表されました。
◆メッセンジャーとしての役割
冒頭に水上プロデューサーは「作業している方々は、〝Fukushima 50〟と呼ばれ、そのほとんどが地元の方でした。人々の思いをドラマの中心に据えながら、報道だけではわからない事故の内部もしっかりと描いていこうと思い、スタートしました」と製作意図を話した。
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破壊された建屋のオープンセット
福島第一原子力発電所1・2号機当直長であり、第一線で指揮を取っていた伊崎利夫を演じた佐藤は「人間は、〝忘れなければ生きていけないこと〟と〝忘れてはいけないこと〟の二つが、生きていく上で大事なことだと思っています。当然この映画は後者です。我々はメッセンジャーとして、事実をどう刻むのか。この映画を見てくださった方々が劇場を出たときに、どういう思いを抱くのか。それを大事にしながら進めていきました」と強い思いで挑んだ様子を語った。
また福島第一原子力発電所所長の吉田昌郎を演じた渡辺は、「このお話をもらったときに、非常にハードルの高い作品になることは間違いないなと思いました。ただ、これをやると決めたのは『沈まぬ太陽』でもご一緒した角川歴彦さんがいらっしゃったこと。全てのハードルを超える強い気持ちで企画されたんだと理解し、参加させていただこうと思いました。もう一つ、『許されざる者』という作品で、(佐藤)浩市くんと共演したときに〝(佐藤の)100本目の作品にはどんな作品でも出るからね〟と約束したのですが、100本ぴったりの時は叶えられなかった。今回の作品はふさわしい作品だと感じ、参加しました」と当時の心境を振り返った。
◆現場に身を置き、役を作っていく
実際にあったことを基に描いていく上で、それぞれの役作りについて問われた佐藤は「普段、放射能とか原子力に縁のないところにいる自分が、放射能というものの意味や怖さを十二分に理解しながらそこにいる方々を演じるわけですから。にわか勉強ではありますが、現場を見に行ったり、資料を読んだりして自分なりに知識を詰め込んでから臨みました。あとはやりながら現場で紡いでいくしかなかったです」と吐露。続けて、「非常にプレッシャーのかかる役だった」と語る渡辺は「僕の演じた吉田さんは、当時テレビ会議の様子がメディアで扱われることも多く、一般によく知られた人物。なおかつ、この映画では吉田さんだけが本名で登場するんですね。しかも、場面としては緊急対策室の中から、外とやりとりをするだけなので、〈いま外では実際なにが起きているのか〉を意識するのがとても難しかった」と語った。しかし、この難局を救ったのは、当時、吉田さんの近くで仕事をしていた人たち。撮影現場にも応援に来て、渡辺の支えになってくれたようだ。「このときは、吉田さんはどういうふうに対応したのか。報道やテレビ会議で映し出されていない吉田さんがどうだったのかを根掘り葉掘り、その時の状況とともにうかがいました。実際はテレビ会議を切ったあとに、〝バカヤロー〟と何回言った、とか、それを正の字を書いて数えていたとか。それくらいエモーショナルな数日だったと聞き、吉田という役を作っていきました」と話した。
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緊急対策室
◆撮影を終えたいま、福島への思い
先日クランクアップを迎えたばかりの本作。撮影を終えたいま、福島への思いを尋ねると「まだなにも終わっていないどころか、まだなにも始まっていないのかもしれない。それは来年皆さんと振り返りつつ、前を向くためになにをするべきか、なにを考えていくのか、自分も含めて考えていきたいと思います」と佐藤。
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またこの作品で新しく得たものを聞かれた渡辺は「新しいというよりも、原点に戻ったような気がしました。若いころはある種の欲で必死にあがいていたようなところもあるですが、ここ数年は作品を通してどうやって社会に関わっていくのかを考えています。そのことに向き合いながら、自分の体を通してこの大事な出来事をどうやって伝えていこうかという、シンプルな体験ができたような気がします。とはいえ、この作品でいちばん大切にしたのは、この出来事を人間ドラマとしてどう描けるかということ。我々、役者の仕事はやはりエンターテイメントですから。浩市くん演じる伊崎という男を中心に原発事故と闘った人たちのドラマを描き、そこに吉田さんという大事な要素が関わる、そういう作品ならば、と踏み出せなかった一歩が踏み出せました。もちろんそこに佐藤浩市という素晴らしい俳優が立っていてくれることで、この映画がエンターテイメントなると確信しましたし、それを頼りに僕が演じる吉田さんという男を作っていきました」と言葉に力を込めた。
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中央制御室
◆未来へ残すメッセージ
海外の映画にも多く出演する渡辺は『硫黄島からの手紙』の頃から感じていたことをこう話した。「誤解を恐れずに言うと、自分も含めて日本人は論理的に検証して後世に残していくことがあまり上手じゃない民族なんだなと感じていました。だからこそ、この映画は反原発を謳う映画ではなく、こんなことがあったと検証する材料にしてほしい。いまだに福島では復興どころかゼロにもなっていないという現実があるということを忘れないでほしい」。
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続けて佐藤は「〝まだ8年〟なのか、〝もう8年〟なのか、それぞれの思いは違うと思います。是か非ではなく、この映画を見る中で、なにかを感じ取ってもらいたいし、未来を生きる自分たちにとって、なにが必要なのかを各々感じてもらいたい」と語り、「これだけ笑いの少ない会見は初めて。この妙な緊張感はこの映画が持っている力だと思います」と締めくくった。
我々報道陣も、いつも以上に見なければいけない映画だという気持ちにされられた会見だった。オリンピックイヤーである来年の公開を待ちたい。
『Fukushima 50(フクシマフィフティ)』 2020年、全国公開
(C)2020『Fukushima 50』製作委員会