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特集

ミステリ界のフロントランナー・芦沢央が著作で語る!『僕の神さま』刊行記念トークイベントレポート

構成・文:タカザワケンジ

いま最も注目のミステリ作家・芦沢央さん。新刊『僕の神さま』の刊行を記念し、初のオンライントークイベントを開催しました。聞き手は、デビュー時から芦沢さんに取材を重ねてこられたライターの瀧井朝世さん。当日はたくさんの作家仲間の方がご参加くださったほか、読者の方がチャットを通してリアルタイムで熱烈な反応を届けてくださり、非常に大盛況のイベントとなりました。本日はそんなイベントの内容を一部抜粋してお届けいたします!
※今回のイベントは読了者を対象としてネタバレ解禁で行いましたが、本記事ではネタバレにかかわる内容は割愛しております。


芦沢央『僕の神さま』(KADOKAWA)


小学生ホームズ“水谷くん”

瀧井朝世(以下、瀧井) 『僕の神さま』は小学校五年生の男の子の1年間を描いた作品です。「僕」と同じクラスにみんなが神様とあがめるすごく頭のいい男の子、水谷くんがいます。水谷くんが探偵役となり、いろんな事件を解いていくのですが、途中から意外な展開になり、読み終えてみると意外とほろ苦さが残る作品です。執筆のきっかけはどこにあったんでしょうか?

芦沢 央(以下、芦沢) もともと「小説推理」から2,000字の掌編小説を書いてほしいという依頼があって、「水谷くんに解けない謎」という話を書いたんです。それがきっかけで水谷くんという探偵役のキャラクターが生まれました。そこで水谷くんを気に入ってしまい、もっと水谷くんの話を書きたいぞ、と二話目を書き、三話目に続き、という流れでした。

瀧井 「僕」は最初からいたんですか?

芦沢 いたんですが、微妙に設定が違います。だから『僕の神さま』には収録していないんです。

瀧井 水谷くんは同じキャラクターなんですね。

芦沢 水谷くんがあがめられる存在だというニュアンスは最初はあまりなくて、普通に小学生探偵もので考えていました。ですが、第二話のラストで思いも寄らぬ展開になった。それでしばらく書けなかったんですけど、行き詰まっていたところに「怪と幽」という雑誌の「こわ~い本 ぼくらはお化けと育った」という特集で短篇を依頼され、子供がテーマだったので水谷くんで書けるなと。それが第四話になったんですが、そのアイディアを思いついた時に、全体のテーマが見えました。書いた順番としては、春、夏。次に冬、エピローグを書いてから、最後に秋を書いたんです。


瀧井 四季の話にするというのは最初から?

芦沢 夏(第二話)を書いた時点で、これは春夏秋冬ってしたいな、と。小学生が登場人物で小学校が舞台。学年で区切って終わらせたいというのもありましたし。

瀧井 ミステリを書く時に、重要なのはトリック、動機、舞台設定……いろいろだと思うんですが、『僕の神さま』はどうだったんですか。

芦沢 この本はとくにいろいろかもしれないですね。第一話の「春の作り方」は桜についてのあるアイディアがもともとあってそこから。第二話の「夏の『自由』研究」は動機ありき。依存症から抜け出すには、というところから考えて、最初は大人の話で書こうと思っていたんです。でも、子供の視点で書いたほうが面白いんじゃないかと思って。

 第四話の「冬に真実は伝えない」は呪いの本がカギですね。学校の図書室でランダムに選んだ本に呪いらしき言葉が書かれてる。どうすればありえるかな、というところから。オーソドックスな謎解きもので、不可解な出来事なんだけど、一つずつロジックを積み上げていけば犯人が絞り込める。ただ、掲載誌のジャンルがホラーなので、ちょっとおかしいことが起こる。だから第四話だけを読むとホラーなんです。でも、『僕の神さま』の中では別の意味になるように、と考えました。

瀧井 最後にお書きになった第三話は「作戦会議は秋の秘密」。運動会の騎馬戦の話ですね。

芦沢 騎馬戦の必勝法を調べたりしました。秋は一番最後なので、ほかの話とは違う、動きのあるものにしたいというところから考えました。それで秋のイベント、運動会にしよう。合間合間に、夏の後に何があったかを書いていこうと。本作は本当にいろいろでしたね。

好きな芦沢央作品ランキング!

瀧井 ここで、参加者のみなさんにアンケートに答えていただいた「参加者が選ぶ芦沢央さんの好きな作品ランキング」を発表したいと思います。

 1位は『許されようとは思いません』(新潮社)。2位は『カインは言わなかった』(文藝春秋)。3位が『火のないところに煙は』(新潮社)。


芦沢 『僕の神さま』をのぞくと一番新しい『カインは言わなかった』が2位に入っている! 3位もですけど、まだ文庫化されていないのに支持していただいているのは嬉しいですね。

瀧井 『許されようとは思いません』は短篇集。独立した、一話一話独立した切れ味鋭い短篇集でしたね。納得です。

芦沢 独立短篇集、好きなんですよね。読むのも書くのも。でも、短篇でも連作にして1冊にしましょう、という依頼が多いので、『許されようとは思いません』を出すと決まった時には超はりきって、私が書けるミステリのいろんな球を投げて、やれることをぜんぶやってやろう、と。それがいろんな人に受け止めてもらえて、おかげさまで独立短篇集の『汚れた手をそこで拭かない』(文藝春秋)が出ます(9月26日発売)。一足先に読んだ方たちから、怖い怖いと言われています。ホラーじゃないですけどね。『僕の神さま』と一緒に、こちらもよろしくお願いします(笑)。

「秀逸なタイトル。どうつけますか?」

【第二部】芦沢さんをもっと知るための質問コーナー

瀧井 ここからは「芦沢さんをもっと知るための質問コーナー」です。芦沢さんに様々な質問に答えていただきます。

「原稿はいつも、どこで、何時くらいに、どれくらいの時間、書かれますか?」

芦沢 場所はだいたい自宅のリビングですね。ちゃんとしたイスも使わず書いているので、腰痛予防にたまにスクワットとかしながら書いています。一番はかどるのが夜中。私、いつも夜9時に寝て、夜中の3時に起きるので、家族が起きてくる6時までがゴールデンタイムです。

「著作は秀逸なタイトルばかりですが、どうやってつけていますか」

芦沢 秀逸なタイトル! やった(笑)! 実際、タイトルにはこだわっています。タイトルは本の最初の1行であり、本を閉じた後にもう一度目に入ってくるもの。読み始める前と読み終えた後で、タイトルの印象が変わった、と思ってもらえるように考えてます。

瀧井 『僕の神さま』の場合はどうやって?

芦沢 冬の話(第四話「冬に真実は伝えない」)を思いついた時に、これはワトソン(僕)のホームズ(水谷くん)に対する信仰の話だと気づいて、神さまという言葉が出てきました。でも、漢字の「神様」ではなく、「神さま」。タイトルが決まった瞬間、すべてが決まりました。

「執筆で行き詰まった時、何をしますか」

芦沢 ほとんど行き詰まってますけど(笑)。小説とか漫画とか映画とか、自分の作品以外の創作物に触れることが多いですね。小説を書くための資料に当たることもあるんですが、むしろまったく違うジャンルの創作物に触れたほうが、悩みすぎて狭まっている視界を広げてくれます。

「書店やネットで本を買う時、どのように選ばれていますか」

芦沢 著者買いが多いですね。この人の本は絶対買うって決めている人が何人もいて。スケジュール帳に、原稿の締切と同じように「○○さんの『××』発売」と書いています。あとは書店に行って、タイトルとか装幀とかPOPを見て「おっ」と思ったものは買いますね。自分がタイトルにこだわるので、「上手いタイトルつけるなあ」と思ったら買って読みます。あと、最近はTwitterで話題になっている本を買うことも多いですね。「面白そう。私も読む読む」と。

「コロナの自粛期間中に家で読んだ本の中で一番面白かったものを教えてください」

芦沢 今年の4月から6月ってほとんど本を読めていなくて。子供がずっと家にいたので育児をやっていたってこともあるんですけど、さっき(前出)のゴールデンタイムにひたすら書きまくっていたんです。上半期だけで13本書きました。

瀧井 13本!

芦沢 「褒めて!」みたいな(笑)。アウトプット期でしたね。最近、アウトプット期を抜けたので本を読めるようになたんですが、どれも良くて。豊作。読者として幸せだなと思っています。
 思いつくままに挙げると、斜線堂有紀さんの『楽園とは探偵の不在なり』(早川書房)。辻堂ゆめさん『あの日の交換日記』(中央公論新社)。阿津川辰海さんの『透明人間は密室に潜む』(光文社)。櫻田智也さんの『蝉かえる』(東京創元社)。逸木裕さんの『銀色の国』(東京創元社)……いろんな本を読んで、私ももっと書きたい!って思いました。

「作家になっていなかったら何になっていましたか」

芦沢 作家になっていなかったら、作家志望者になっていただけなんですよ(笑)。高校生の頃からずっと作家をめざして投稿してきて、夢の諦め方がぜんぜんわからなくて。小説って続けられちゃうじゃないですか、年齢制限もないので。作家になっていなかったらいまだに投稿していると思います。

「作中には小学生の不思議な謎が登場しますが、芦沢さんは小学生の頃、このような不思議な謎に直面したことはありましたか」

芦沢 私、小学校1年生の頃に、ラジオ体操の帰りにクルマにはねられたことがあったんです。兄が先に行っていて「お兄ちゃん、待って!」。ドン! いま親の立場になって考えるとすごく怖いんですけど。

 謎というのは、私は白い乗用車に轢かれたと思っていたんですけど、実は黄色いタクシーだったらしい。それでも私は「白いクルマだった」と言い張って、勘違いだと諭され続けたんですよね。勘違いだったんでしょうけど、2台いたかもしれないなとか(笑)。

瀧井 違う真実があるかもしれない(笑)。

芦沢 水谷くんなら推理してくれるかな(笑)。


「読むのは幸せ。しかも仕事」

【第三部】読者の方からの質問コーナー

瀧井 トークをご覧になっているみなさんから寄せられた質問に答えていただきます。

「文体がいままでよりも読みやすく、作中人物の小学生でも読めると思いますが、そのへんも意識されましたか」(まか)

芦沢 読みやすかったならよかったです。どういう読まれ方をするかというよりも、小学校五年生の男の子が視点人物ってことで、彼らがこういうことを考えられるか、この視点はあるか、ここまで身体感覚に自覚的かとか、そういうことを検討して削っていきました。今回、視点人物が「僕」であることに大きな意味がありました。水谷くんのバックグラウンドについては書いてないんですが、それは僕の視点だから。書かなかったことに意味があったりします。

「本を読む時間って取れますか(作家さんはずっと執筆してるイメージです)」(つじー)

芦沢 作家はずっと執筆してないんですよ(笑)。いや、執筆している人もいると思います。私がだめなだけなんで語弊があるかもしれないけど。実際、締切が詰まっている時、たとえば今年の前半に13本書いた時なんかは、なかなか時間が取りづらいですけど、本を読まないで書いてばかりいると、自分自身がスカスカになってくる感じがあるんです。読むのは楽しいし、幸せだし、これも仕事なんで、と言い訳もできる。本が読み放題なのはありがたいなと思っていますね。

瀧井 たくさんのインプットが、旺盛なアウトプットにつながっているんですね。
 そろそろお時間のようです。あっという間でしたが、『僕の神さま』はもちろんのこと、芦沢さんの作品を読むきっかけになっていただけたのではないかと思います。
 芦沢さん、ご質問くださったみなさん、ありがとうございました!

芦沢央『僕の神さま』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322004000165/


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