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特集

「泣ける小説」は目指してなかった!? 『盤上に君はもういない』オンライン交流会レポート≪後編≫

文・構成:内田剛(ブックジャーナリスト)

“全員号泣”小説、しかし著者は「泣ける」と言われてビックリ

発売前からKADOKAWA社内でも書店関係者の間でも“全員号泣”の将棋小説と話題になった、綾崎隼さんの新刊『盤上に君はもういない』。
コロナ禍で直接書店訪問ができない今だからこそ、全国の書店員がリモートで集まり綾崎さんを囲む、異例の“オンライン交流会”が開催された。
新作にまつわる裏話が語られた「前編」に続き、「後編」では綾崎さんと書店員たちの貴重な生の対話の中で、ただ「泣ける」だけではない作品の深い魅力がたくさん語られた。
>>【前編】本の帯を巡ってケンカ!? 綾崎隼が新作の舞台裏を語る!

憧れの作家は辻村深月さん

内田剛(以下、内田(剛)) 前半では、作品についてメインにお伺いしました。タイトルを決めるお話など非常に面白かったです。岡崎律子さんをBGMに執筆されていたとか創作の裏話も聞けましたし。さて、ここからは参加されている書店員の方々からご感想やご質問など伺いましょう。

有隣堂藤沢店 佐伯敦子さん(以下、佐伯) 綾崎さんは将棋を指されるのですか? またこの小説に出てくるような素晴らしい出会いは今までありましたか?

綾崎隼(以下、綾崎) 将棋は遊びで指すくらいです。でも弱いですね。ひたすら棒銀で攻めていって、倒せないとそのままやられるような(笑)。出会いは……何だろう。サッカーやフットサルくらいでしか人と会わないんですが、そこで知り合った友達の子どもが、ずっと僕のことをナメていたんです。でも、誰かに小説家であることを聞いたらしくて、作品を読んで「はじめて尊敬した」と言われたことでしょうか(笑)。その子とは、将棋も何回か指しましたね。お互い、守ることが出来ない性格なので、ノーガードの打ち合いになります。

佐伯 朝倉師匠夫妻のお人柄が最高でした。夕妃がフランスに行く時も、大切なものを見失わなかったと送り出すところが一番好きです。

綾崎 妻の頼子さんと共に、素敵な二人を書けたと思っています。デビュー時からの目標で、いつか親子の話を書けるようになりたいと思っていたんです。夕妃と朝倉の場合は師弟という関係ですが、今回、それがやっと書けたかなと思っています。

明屋書店厚狭店 小椋さつきさん 夕妃が竹森くんを倒す時に笑顔を見せるところが好きです。

綾崎 竹森は強いですからね。でも可哀想ですよね。奥さんにまで負けろと言われるなんて(笑)。それも竹森が圧倒的な強さを持っているからですが。

佐伯 綾崎さんは、憧れている人はいらっしゃいますか?

綾崎 辻村深月先生ですね。初めてお会いしたとき、足が震えました。年齢は一つしか違わないのですが、デビュー前からずっと読んでいたので。しかも同じ空間で綾辻行人先生にも初めてお会いしたのでダブルで感激しました。小説家をしていると、時々、憧れの先生たちに会えることがありますが、そういう時はいつも、本当に幸せな気持ちになります。

内田(剛) 八重洲ブックセンターの内田さんはどう感じましたか? お好きなキャラクターなどは?

八重洲ブックセンター 内田俊明さん(以下、内田(俊)) こんなに好きな登場人物が選びにくい小説もないなと。みんなタイプが違ってそれぞれ魅力的で、ちょっとこれまで読んだことがないような作品ですよね。全然性格が違いますしね。みんな将棋に命を燃やしているところもありつつ普段の顔も見せる。それがちゃんと描かれている。人間的な深みがあるんですよね。その描き分けが凄いなと思いました。

「泣ける」と言われてビックリ

内田(剛) プルーフにみんな泣いたと書いてありますが、内田さんは泣きました?

内田(俊) これは損してるなと思ったのが、僕連載で読んでいたんですよ。本になる前に読めるのはいいのですが、通して読む感動がちょっと薄れてしまって。通して読めばポロッと泣けちゃったかと思いますが。

綾崎 泣ける小説を書こうとしたわけではないんですよね。女性が闘う話を書きたかったわけで。読んだ方から泣けると言われてビックリしたくらいです。狙ってなかったのが逆に良かったのかもしれませんね。

宮脇書店ゆめモール下関店 吉井めぐみさん(以下、吉井) 私もまず登場人物が魅力的だと思いました。特に夕妃に関しては、闘志を込めて将棋に向かっている姿がすごく印象的で、応援したくなる気持ちを抑えられませんでした。泣くか泣かないかに関しては、私自身がひねくれ者なので泣かないぞと思って読んだのですが、最後の最後で涙腺が緩んで。でも「私まだ涙を流してない」と踏ん張りましたが、あとがきにやられました。ずるいです!

綾崎 「あとがき」には個人的なことを書いてしまいました。載せるかどうか迷ったんですけど、忘れたくない気持ちだったので、残しておきたいなと。

吉井 私もこのあとがきと同じ家族の状況でしたので、それも思い出して余計に泣いてしまいました。あと作品を書いている時のBGMが『フルーツバスケット』の曲と聞いて嬉しかったです。曲を聴きながらもう一度読み返します。

綾崎 『フルーツバスケット』は本当に泣けてくるほど大好きで。話が尽きないのでこの辺で(笑)。

ジュンク堂書店藤沢店 仁科舞緒さん 私はラストシーンに心が温かくなりました。コロナ禍で人と触れ合えないので、なおのことこの触れ合いが印象的でした。

綾崎 ラストシーンはプロットの段階から決めていました。でも「ここで終わりでいいですかね。もっと派手な方がいいかも?」と編集さんと相談した記憶もあります。いま思えば、ここが終わりで正解だったと言い切れます。

紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん この作品を書かれる上で一番大切にされていた部分を教えてください。

綾崎 棋士を魅力的に描くということでしょうか。対局ですから、どちらかが負けなければならないのですが。第三部の夕妃と飛鳥の対局は、共に譲れぬ意地のぶつかり合いになったので、書きながら「どちらを勝たせるべきか」という葛藤が生まれて。いつも細かくプロットを組んでから執筆するので、そこからストーリーをいじることはないんですけど、久しぶりに勝敗を変えようかなと迷いました。作者自身が迷っていたので、読まれた方も、どちらが勝つか予想がつかないと思います。

内田(剛) まさかの続編はないですよね?

綾崎 今は考えてはいません。でも、プロットは五部構成ですが、初期の段階では第六部があったんです。読者が「夕妃、負けろ」と思いながら読む話を書きたくて。三段リーグで26歳超えてプロになれなかったんだけど、その後社会人になってから勝利を重ねて、編入試験からプロ入りを目指す苦労人の話で、最後に夕妃が立ちはだかるという。本筋に関わる話ではないですし、五部で相当の分量でしたから書きませんでしたが。



ダブル主人公は“雪”と“炎”

内田(剛) 導入が観戦記者の佐竹亜弓というのもいいですね。

綾崎 将棋に詳しくない方でも入っていけるようにという、技術的な采配でもあります。将棋について何も知らない亜弓を視点人物にすることで、説明の不自然さを無くしながら物語を進行するという、『スレイヤーズ』のガウリイの手法です。

WAY書店TSUTAYA富田林店 村松薫さん(以下、村松) その亜弓の、仕事よりも愛猫を選び「そこに愛が載せられている限り、天秤は絶対に反対には傾かない」というフレーズに痺れました。

綾崎 そう、絶対に傾かないと思うんですよね。絶対傾かないんだけど、夕妃や飛鳥の場合、将棋が一番大切だったりするから、彼女たちだったらどうなのかな、という気もしてきますね。飛鳥が生涯最後の対局を迎えるとして、目の前の大切な対局と夫、どちらを選ぶか見ものですね。

編集 選ばれるのは夕妃ですよ。きっと。

綾崎 そうですね。夕妃ですね(笑)。

村松 もうひとつすごく好きなシーンがあって、アンリと夕妃が竜皇戦を観に行き、朝倉師匠が「こういうものはね、子どもが一番良い場所で見なきゃいけない」と笑ってくれた箇所。それからその次に泣いたシーンが、飛鳥がおじいちゃんに百メートル走の話をされたところです。一人が十秒切ったからって二人目が出てくるわけではないという、あのシーンです。凄く泣きました。大好きです。

綾崎 これは本当にその通りだと思っていて。誰かが成し遂げてしまうと、それってそんなに難しいことではないんじゃないかと思われがちですけど、絶対そんなことはないですよね。本当に一人一人大変なはずなんです。その部分を強調したかったんです。

村松 名前についても聞きたいです。夕妃という名前に「妃(きさき)」という字を使っているのが熱いイメージが伝わって素敵と思ったのですが。

綾崎 亜弓が夕妃と飛鳥のことを「雪と炎だ」と言っていますが、はっきりそのイメージがありました。飛鳥が炎で夕妃が雪だと。漢字は比較的キラキラさせるのが好きというか(笑)。美しい漢字を当てるのが好きなんです。今回の場合で言うと、雪のイメージから「ゆき」という音が先に決まって、そこに漢字を当てました。飛鳥の名前の由来は、作中で語られている通りです。キャラクターは自分の子供のようなものなので、出来るだけ他の人とは違う名前をつけてあげたいと思っています。今はキラキラの名前も普通になりましたしね。

紀伊國屋書店mozoワンダーシティ店 小杉康平さん 作中で特に力を入れたところはありますか?

綾崎 将棋が題材なので、将棋小説ならではの読みどころをと考えました。具体的に言うと、第一部の場合、『ヒカルの碁』で一番面白いと感じたのが院生編だったんですが、それを読んだ時の気持ちを思い出しながら書きました。全体を通しての話だと、各章に夕妃にとっての象徴的な対局を入れています。それぞれの棋風に関しても、プロット段階から入念に担当さんたちと打ち合わせをしています。恋模様については意識しなくても自然と書けるのですが、将棋、対局については、慎重に、編み上げました。

内田(剛) お話は尽きませんがそろそろお時間となりました。綾崎さん、本日はありがとうございました。最後に読者と書店員へのメッセージをお願いいたします。

綾崎 こちらこそ。小説の話をするのは楽しくて楽しくて仕方ないです。この作品は文庫となったばかりの前作『君を描けば嘘になる』と同じチームで作りました。登場人物のリンクもあって、作品同士の親和性が高いです。ぜひ一緒に並べていただければ嬉しいです。『盤上に君はもういない』はこれを書けたので、作家人生に悔いなしと言えるような作品です。若い方にも年配の方にも、男女問わず、幅広い読者層に楽しんでいただきたいです。新しい読者と出会いたいといつも思っていますので。ここから先は自分に出来ることは何もないので、何とぞ応援のほど、よろしくお願い致します。本日は本当にありがとうございました!

初の試みとなった著者と現場書店員とのオンライン交流であったが、全国各地と直接つながり、熱量を増幅させるリモートだからこそのひとときを味わえた。作品の素晴らしさはもちろんのこと、綾崎隼さんのお人柄の良さは参加した書店員の心を鷲掴みにしたことは間違いない。『盤上に君はもういない』にはたくさんの応援団がいる。著者の頂点であり入口としても最適なこの作品を、大いに読者に伝えたい!

西上心太さん『盤上に君はもういない』レビューはこちら
https://kadobun.jp/reviews/aimatr9m5y8g.html

綾崎隼『盤上に君はもういない』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000999/

著者プロフィール

綾崎 隼
1981年新潟県生まれ。第16回電撃小説大賞〈選考委員奨励賞〉受賞作の『蒼空時雨』でメディアワークス文庫よりデビュー。受賞作を含む「花鳥風月」シリーズ、「ノーブルチルドレン」シリーズ、「レッドスワン」シリーズなど、メディアワークス文庫にて人気シリーズを多数刊行するほか、講談社タイガでも「君と時計」シリーズ(全4巻)を刊行。恋愛青春小説の書き手として10代20代女性読者から多くの支持を集めている。


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