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特集

本の帯を巡ってケンカ!? 綾崎隼が新作の舞台裏を語る! 『盤上に君はもういない』オンライン交流会レポート≪前編≫

文・構成:内田剛(ブックジャーナリスト)

業界初!? 作家と書店員のオンライン交流が実現

頼むからみんな、読んで泣いてくれ。
彼女たちの生き様に、将棋に懸ける想いの強さに、心ふるわせてくれ。
闘う彼女たちの熱量に、見守り応援し支え続ける人達の心に目頭があつくなる。
本を持つ手がふるえるような愛に浸りましょう。
(宮脇書店本店 藤村結香さん)
1ページ目を読んだ瞬間から「どうしよう…!!」と思いました。なぜなら面白すぎて中断が絶対できないと確信したからです!! 最後のページを閉じた後、胸に熱い何かがこみあげてしばらく涙が止まりませんでした…!! 
どんな事があっても絶対にあきらめないという希望と温かい愛を感じる素晴らしい作品!!! 私にとって、何年経っても何度も読み返したい、心にぎゅっと勇気をいただける道しるべとなりました!!!
(紀伊國屋書店福岡本店 宗岡敦子さん)

発売前からKADOKAWA社内でも書店関係者の間でも“全員号泣”の将棋小説と話題になった、綾崎隼さんの新刊『盤上に君はもういない』。
コロナ禍で直接書店訪問ができない今だからこそ、全国の書店員がリモートで集まり綾崎さんを囲む、異例の“オンライン交流会”が開催された。その熱気に満ちた現場の模様を、前後編に分けてご報告する。
まずは、タイトル決めの過程や帯の没案など、他では絶対に知ることができない貴重な舞台裏がインタビュー形式でたくさん語られた「前編」をお届け!

タイトル決めの会議が4時間!?

内田剛(以下、内田) 本日はよろしくお願いいたします。僕は約30年近く書店の現場にいましたが、これほど発売前から感涙本として盛り上がっている本は記憶にないですね。出来上がった本の帯の「全員号泣!」のキャッチコピーが効いています。まず執筆のきっかけですが、なぜ女性棋士を題材に書きはじめられたのでしょうか?

綾崎隼(以下、綾崎) こちらこそよろしくお願いします。きっかけは、とにかく女性が闘う話を書いてみたかったんです。藤井聡太さんの話題が出始めた3年くらい前、文芸書でも柚月裕子さんの『盤上の向日葵』が話題となっていて、将棋をテーマにしたいという気持ちが膨らんでいって。そんな中、なぜ女性棋士が一人もいないのかという長年抱いていた疑問をきっかけに、男社会である将棋界でチャレンジする女性の戦いを書きたいと真剣に考え始めました。それで、担当の編集者さんに「将棋の世界には女性の棋士がいないんですけど、ご存じですか?」と訊いてみたら、実は知ってるどころか将棋の職団戦に出ているような人で。こういう作品を書きたいですと伝えたら「僕は将棋を愛しているので、その分厳しいことを言うかもしれませんよ」って(笑)。そこからプロットを1年くらいかけて作っていきました。藤井聡太さんの活躍はその後も目を見張るようなものがありましたし、女性棋士の誕生も現実味を帯びてきて、非常にタイムリーな時期での刊行となりました。

内田 抜群のタイミングとリアリティですね。将棋を知らなくても読みやすいですし、対局の場面はどれも鳥肌ものです。盤上で身を削るような勝負をしながら誰かを想う。絶妙なタイトルですが、これは一発で決まったのでしょうか?

綾崎 いやいや、これは本当に決めるのが大変でした。最初は『純潔同盟』ってタイトルでプロットを出したんですが「まず同盟の話ではないですよね」と言われて(笑)。そのときは素直に諦めたんですが、書き始めてからは「純潔」を残してずっと『棋士の純潔』で原稿を進めていました。でも、それも「この物語の純潔って何ですか?」「確かに」となって。それで、連載が始まるからもうタイトル決めないといけないってときに本社ビルに呼ばれて、担当編集者さんたちと4時間ですよ。ホワイトボードにタイトル案を書いていきながら、あーでもないこーでもないと話し合いました。

内田 えー、そんな長時間のタイトル戦とは! 他にどんな候補があったんですか?

綾崎 あまりに印象的な打ち合わせでしたので、ホワイトボードの証拠画像を撮ってあります。ご覧ください。



綾崎 語感の良さだけで『37℃のアイスクリーム』という案もあったんですよ。これは単に僕がそんなタイトルの本を書きたいというだけだったので、秒で没になりましたが、最終的には『盤上に君はもういない』と『ただ君を知るための遊戯』が最終候補になったんです。そして、誰でも将棋の話とわかるタイトルの方がいいということで、『盤上に君はもういない』に決着しました。読みながら「君」が誰なのか変化する楽しみもあります。もう一つの『ただ君を知るための遊戯』は、第五部のタイトルになりました。ちなみに連載の直前まで第五部は「棋士の純潔」でした(笑)。その他にも台詞の中に入れたり、作中に出てくるある本のタイトルを『棋士の純潔』にしたりとあの手この手を使ったのですが、誰からも擁護されず結局は跡形もなく消えてしまいました(笑)。

内田 これ(ホワイトボードの赤いTの字)は多数決の跡ですか?

綾崎 そうですね。2票と1票で割れてますが(笑)。

内田 タイトルつけるのってものすごく苦労されるんですね。略して『盤君(ばんきみ)』。最高のタイトルです。

帯を巡って編集長と統括編集長がケンカ!?

内田 タイトルの他に、書かれる上で苦労されたことはありますか?

綾崎 書いている間はずっと楽しかったですね。とりわけ改稿の多い本になりましたが、僕はアドバイスをもらって修正している時間が、小説を書いていて一番好きなので。苦労したと言えるのは、第五部を2回書き直したことでしょうか。第五部は千桜夕妃の章なので、最初はほぼ夕妃の視点で書いていたのですが、「佐竹亜弓視点で夕妃を辿るかたちで書いてみませんか?」というアドバイスをいただいて書き直しました。ストーリー自体は何も変わらないのですが、視点が違うので読んだ時の印象はかなり違うはずです。ちょうどそのころ、メニエール病で倒れて一時入院したこともあり、そのときは大変でした。でも、結果的に読んでいただいた皆さんの反響もとても良くて満足です。

内田 プルーフ(発売前の原稿を簡易製本したもの)にも雑誌校正担当、単行本校正担当、ブックデザイナーといった裏方の方々の感涙コメントが並んでいます。これは異例のことですね。


綾崎 僕自身の経験上でもはじめてのことです。とても嬉しいですね。元々、本作は闘う女性、みたいな方向性で押し出すと聞いていたのですが、校正者さんやデザイナーさんから感想が来て「あれ? みんな泣いてるぞ」ってなって。

編集 こんなにみんなから「泣きました」って言われることはないので、結局帯もそれを活かして「全員号泣!」としました。ちなみに、実は帯はもう一案ありました。綾崎さんにも完成版しかお見せしていないのですが、今回は特別に公開します。


帯・完成版


帯・ボツ案


内田 全然違うね。

編集 綾崎さんはご存じないと思いますが、実は編集部内で激論が交わされたんです。編集長と統括編集長の見解が真っ向からぶつかりまして、しかも担当編集の私がいない間に(笑)。でもそれくらい、みんなこの作品に思い入れがあるということなのですが。

内田 登場人物それぞれが背中に十字架を背負っていて、光と影があるからこそ魅力的に感じました。特に女性からは飛鳥の人気がすごいですね。

綾崎 諏訪飛鳥には将棋の名門出身というプレッシャー、千桜夕妃にも家柄と病気というハンデがあって、女性であっても命がけで這いあがらなければならない強い動機があると思います。ちなみに飛鳥に関しては、ゲラを読んだ飛鳥好きの統括編集長から「もっと飛鳥のシーンを!」みたいな要望をいただいて、本編では描かれない夕妃とのある対決に関する描写を少し加筆しました。

フランス取材はGoogle マップで

内田 取材などはけっこうされたのですか?

綾崎 コロナ禍ですので、さすがに現地には行けませんでしたが、編集さんから資料がドサッと送られてきました(笑)。特に参考文献にある『将棋ワンダーランド』は、対局の時間割やトーナメントの仕組みなどが詳細に記されていて参考になりました。自分は将棋好きですがあくまで素人ですので、わからない目線で書けたのが読みやすさにつながっているのかもしれません。観戦記者の亜弓のエピソードを導入部分にしたのも、将棋に対するハードルを下げる意図がありました。

内田 読んでいてとても充足感がありました。作品の舞台として新潟とフランスのニースが登場しますが、場所にこめた意味はありますか。

綾崎 新潟は僕の出身地でもあり、千桜夕妃・智嗣姉弟の実家「千桜家」の本拠地でもあります。これまでの作品を読んでくださった方なら「あっ」と繋がるはず。フランスにしたのは漫画や柔道など、日本文化をリスペクトしている風土があって、将棋への理解も深いからです。ニースは風光明媚で絵になりますし、気候もいいので療養にも適した場所ですから。取材には行けず、Googleマップを見ながらでしたが。男性か女性かわからないアンリという名前もフランスだからこそあり得ました。

内田 名前で作品が繋がるのはファンにとって嬉しいですね。新潟は綾崎さんゆかりの場所で腑に落ちましたが、まさかニースとは意外でした。幕間に海外があることによってグッと視界が広がった気がしますね。こういう状況でなくなったらぜひ聖地巡りもしたいです。実は音楽を聴きながら書かれていると伺ったのですが、これを書いているときBGMとしていたのは何ですか?

綾崎 2001年版のアニメ『フルーツバスケット』(原作・高屋奈月)の主題歌などで有名な岡崎律子さんが大好きで。クライマックスというか、感情を乗せる場面では岡崎さんを聴きながら書いていました。

初めての試みとなったオンライン交流会は、終始笑いが絶えず前半が終了。その後は、書店員たちから綾崎さんへの質疑応答タイムへ移った。「泣ける小説を書こうとしたつもりは全くなかった」など、意外な発言も飛び出した後半戦は10/15(木)公開予定!
>>【後編】「泣ける小説」は目指してなかった!?

西上心太さん『盤上に君はもういない』レビューはこちら
https://kadobun.jp/reviews/aimatr9m5y8g.html

綾崎隼『盤上に君はもういない』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000999/

著者プロフィール

綾崎 隼
1981年新潟県生まれ。第16回電撃小説大賞〈選考委員奨励賞〉受賞作の『蒼空時雨』でメディアワークス文庫よりデビュー。受賞作を含む「花鳥風月」シリーズ、「ノーブルチルドレン」シリーズ、「レッドスワン」シリーズなど、メディアワークス文庫にて人気シリーズを多数刊行するほか、講談社タイガでも「君と時計」シリーズ(全4巻)を刊行。恋愛青春小説の書き手として10代20代女性読者から多くの支持を集めている。


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