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特集

【自著解説】わけのわからない異国の文化は、私たちをより自由に、活発に、豊かにしてくれる『世界の性習俗』

 神殿で巫女が体を売る、自分の妻を旅人に貸し出す、服がなく丸裸で生きる民族、女が多数の男と結婚する、幽霊や植物との結婚、不倫が合法でむしろ奨励される、男でも女でもない第三の性が存在する――

 世界には、日本では想像もつかない、不可解な性の風習が存在します。

 この本は、そういった奇妙な性習俗を追い求め、なぜそのようなものが存在するのかを考えたものです。

 たとえば、《神殿売春》。神聖で清らかであるはずの巫女たちが、神殿で男に体を売る風習が、いにしえからインドには存在します。現在、神殿娼婦の数は五万人ともいわれています。

 彼女たちは貧しい指定カーストの生まれで、処女のまま寺院に召し上げられ、春を売ります。彼女たちは一生、人間と結婚することが許されません。この神聖なのか俗悪なのかよくわからない制度は、なぜ今も続いているのか。

 あるいは、一人の女が多数の男と結婚する《一妻多夫制度》。一夫多妻制は世界中に見られますが、その逆の一妻多夫制度を行っているのは、わずか三民族ほどしかありません。なぜ一人の女が複数の男と結婚するのか。男同士が嫉妬しあうことはないのだろうか。

 また、シルクロードの小国キルギスには、今も《誘拐婚》の風習があり、女性の実に三十パーセントが男に誘拐され、無理やり結婚させられています。男は町でめぼしい女を見つけると車で誘拐し、自分の家に連れ込み、「結婚しろ」と親族総出で説得します。それだけでも驚くべきことですが、さらに不可解なのは、誘拐された女性の八割が説得に屈し、結婚を受け入れてしまうのです。なぜこのようなことが起こるのか。

 そもそも、《結婚》とはとても柔軟な制度です。その気になれば、何とでも結婚できるのです。

 フランスには幽霊と結婚する人々が存在し、これは法律的にも合法なのです。また、インドには「木」「植物」「犬」などと結婚する人々がいます。これらは別に伊達や酔狂ではなく、それなりにしっかりとした社会的理由があります。

 あるいは、ブラジルには服をまったく着ずに丸裸で生きている民族がいます。彼らの羞恥心はどうなっているのか。そもそも人間はなぜ服を着るのか。

 ニューギニアのある部族は、奇妙な通過儀礼を行います。村の少年を拉致してきて、フェラチオをさせたり、精液を飲ませたり、アナルセックスをしたりするのです。これをしないと、少年は大人の男になることができないとされています。その背後には、どのような世界観があるのか。

 私は昔から旅行が好きで、いろいろな国を巡ってきました。そして旅の最大の悦びは、「固定観念を覆されること」だと思っています。

 できる限り、日本とはかけ離れた文化の国のほうがいい。そのほうが、より旅の衝撃を直接的に肌で感じることができます。

 異国の奇妙で不可解な文化を眺めていると、私たちがいかに狭い常識に縛られて生きているかがわかってきます。そして、今の常識やしがらみを点検できるようになる。

 わけのわからない異国の文化は、私たちをより自由に、活発に、豊かにしてくれるでしょう。 



杉岡幸徳『世界の性習俗』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321906000882/

杉岡 幸徳
作家。兵庫県生まれ。東京外国語大学ドイツ語学科在学中から世界を放浪し、その後執筆活動に入る。世界の不思議で奇妙なものを深く愛す。著作に『奇妙な祭り』(KADOKAWA)、『世界奇食大全』(文藝春秋)、『ゲオルク・トラークル、詩人の誕生』(鳥影社)など多数。ウェブサイトhttp://sugikoto.com/


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