「AV女優だったことを、後悔していない」——2000年代に活躍し、そして引退したAV女優たちへのインタビュー集『AV女優、のち』。その発売を記念して、阿佐ヶ谷ロフトAで開催されたイベントの内容を前後編でお届け。長谷川瞳さん、みひろさん、澁谷果歩さんが登壇し、引退を決意した瞬間について語りました。
(構成・平松梨沙、写真・渡辺愛理)
女優たちの「素直な気持ち」がつづられた一冊
安田理央(以下、安田):角川新書『AV女優、のち』刊行記念イベントにお集まりいただき、ありがとうございます。今日は、すでに引退している元AV女優の3名に登壇いただいています。デビュー順に自己紹介いただいていいでしょうか?
長谷川瞳(以下、長谷川):2001年デビュー、2004年引退の長谷川瞳と申します。現在アラフォーです。よろしくおねがいします。
みひろ:2005年デビュー、2010年引退のみひろです。実はずっと「イベントやりたい!」ってツイートしていたんです。呼んでいただけて、とってもうれしいです。
澁谷果歩(以下、澁谷):2014年11月にデビューしまして、今年の5月に引退作を撮った澁谷果歩です。「かほパイ」って呼んでください。
安田:澁谷さんは、もう引退しているんでしたっけ。
澁谷:引退作発売は9月ですね。すでに引退発表はしています。
安田:長谷川さんとみひろさんは新書でも取材させていただいているのでお呼びしたんですが、今回のイベントを開催するにあたっては、さらに最近の女優さんにも登壇いただきたかったんですよね。今回澁谷さんにもお越しいただけてよかったです。
『AV女優、のち』はその名の通り、引退した元AV女優のみなさんに現役時代のこと、現在のことを聞いていくというインタビュー集でして、このイベントでも新書の内容をさらに楽しめるような話をしていければと思います。元女優の3名のほか、AVメーカーで広報経験もあるライターのアケミンさんにお越しいただきました。
アケミン:よろしくおねがいします! 私も今日はいろいろ聞きたいことがあるので、楽しみです。そもそも今回インタビュー集を出そうと思ったのはなぜなのですか?
安田:担当編集から提案されたんですが、「AV女優、のち」というタイトルがその時点で決まっていて。AV雑誌での女優さんインタビューはいろいろやってきたものの、新書となると書き方も難しいし迷ったんです。でも、「引退」というテーマとタイトルにヒキがあったので、これはぜひやりたいと思いました。
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左から安田理央氏、澁谷果歩氏、みひろ氏
みひろ:取材してもらった側としても、とても嬉しい本でした。私が忘れてる事柄や私が知らない事柄も、すべて調べて書いてくださっていて。
完成した本を読んだ際には、マネージャーに「この本を書いてくださった方に『ありがとうございます』と伝えてください」とメールしてしまいました。
アケミン:いい話!
会場:(拍手)
アケミン:取材する女優さんは、どうやって決めたんですか?
安田:2000年代以降の女優さんに取材したいとは、最初から言ってましたね。やはり「恵比寿マスカッツ」の誕生という大きな出来事がありましたし、女優さんの意識も変わってきている。そのうえで、引退してからある程度時間が経っている人のほうがおもしろいだろうと思いました。
長谷川:安田さんの文章を通じて、自分のデビュー作のことや引退時のことを読むことで「自分」が巻き戻されていくような感覚にとらわれました。「そうだ、こういうふうにやっていたよね」って、自分にとっても新しい気付きがあったんです。自分のページで、泣いちゃいましたね。
他の女優さんについても、「その後」が興味深くて。楽しく読みました。
アケミン:現役のときもインタビュー受けていましたよね? やはり違いがありますか。
みひろ:現役のときは、サービス精神を働かせて性の話をぶっちゃけることが多かったですよね。この本に関しては「女の子の素直な気持ち」や「女の子の中身」を重視してくれていると思ったので、そういうことを話しやすかったですね。現役のころは言えなかった本音とか、きつかったこととか。
安田:みひろさんは『nude』という本を出されているので、そちらも参考にさせていただきました。
澁谷:私、安田さんの『痴女の誕生』や『巨乳の誕生』も読んでいたんですが、今回の本も安田さんならではの距離感でインタビューが展開されていて、おもしろかったです。挿入シーンなどの疑似・本番問題とかも書いているし。
安田:2000年代というのが、ちょうど疑似が基本のレンタルから、本番が主体のセルへと市場シェアが変わっていく時期なんです。それで疑似か本番かの葛藤が大きくなっていくんですよ。
澁谷:女優さんの葛藤の書き方とか、すごいな……と思いながら読みました。
安田:読んだ人から「愛を感じる」という感想を多くいただいたんですけど、寄りそいながらも距離を置いて書いているつもりです。「AV女優さんは神」みたいなニュアンスは出したくなくて。
長谷川:笠木忍ちゃん愛はかなり伝わってきましたよ!
安田:笠木さんはもう、個人的に作品を集めるくらいにはファンなので……(笑)。
長谷川:読み応えがあっておもしろかったです(笑)。
疑似か、本番か? それが問題だ
安田:『AV女優、のち』でも書いてますけど、みひろさんはAV女優になることをステップだと考えていた人ですよね。初めての撮影のときはどんな気持ちでしたか?
みひろ:初めての作品はアリスJAPANさんで出したんですけど、サイパンに撮影に行くって決まってたんですね。マネージャーから、「朝早いから成田空港の近くにホテルとっておくよ。そのほうが楽でしょ」と言われて、なんてやさしいんだろうって感動してたんです。
でも、あとあと聞いたら、直前で逃げちゃったら困るから成田空港に呼び寄せておこうという意図だったらしくて……。
一同:(笑)
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みひろ氏
みひろ:私、そのときの彼氏に、AVに出ることを言わずに撮影を迎えてしまったんです。それでマネージャーとしては、前日に喧嘩でもされたら困ると思ったみたいで。おかげで何の心配もなくロケに臨めたのですが、現場のみなさん、私を本当にデリケートにケアしてくださるので、ものすごくリラックスしていたのを覚えてます。
安田:最初の撮影は疑似本番ですよね?
みひろ:そうですね。その前からVシネマには出ていたので、お芝居の延長としてやれるかなと思いました。事務所からも、ドラマものの作品を多くしてもらえると言われたので。
安田:ちなみに、男側からするとわからないんですけど、疑似か本番かで、やっぱり気持ちが違ってくるんでしょうか。
澁谷:ありますよ〜! 私は、初めて男性器を見てから処女喪失までに5年かかりましたよ……。女優としては、デビューの時点で本番当たり前の時代でしたけど。
安田:長谷川さんはどうですか?
長谷川:私はバリバリ本番です。むしろ疑似NGっていうか。
安田:それはどうして……? 長谷川さんの時代って、疑似多かったでしょ?
長谷川:事務所にも疑似でいいって言われてましたが、私のほうに「偽物を見せたくない」という気持ちがありましたね。自分が気持ちよくなりたいのもありましたし。
ぶっちゃけ、私が出演していたのはレンタル作品で、モザイクが大きかったので、本番をする意味は全然なかったんです(笑)。それでも本番でやってるというのを言っていたら、周囲から驚かれるくらいで。そのうちに週刊プレイボーイさんが「噂の本番娘」というグラビアを組んでくれたのは、嬉しかったですね。
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長谷川瞳氏
安田:今とは全然違いますよね。今は、ちゃんと挿入しないとギャラがゼロに近くなっちゃうんですよ。みひろさんは、疑似から本番にうつりましたよね。きっかけはなんだったんですか?
みひろ:直接的には、これ以上はレンタルの契約を更新しないと言われたからですね。30本で終わりだと。
アケミン:30本ってすごく多いですよ!(笑)
みひろ:でも、もっと自分の名前を知ってほしいと思ったんですよね。諦めたくなくて、どうしようと考えたときに、「セル解禁」という手があるよと言われて。レンタルしか見ない人も、セルしか見ない人もいるし、両方やったほうが、私のこと知ってる人が増えるのは間違いないから、まだアクセル踏み込みたい、って思ったんですよね。
安田:みひろさんが活動されていた時期は、レンタルやってからのセルデビューの作品が一番売れるようなトレンドでしたしね。
アケミン:「本番解禁」って書いて売るんだよね。「書いちゃうんだ!」みたいな(笑)。
安田:今までのはなんだったんだ……っていう(笑)。とはいえ、ユーザーレビューで「本番見れてうれしい」と書く人はいるわけで。ユーザーは本番をすごく重視してるし、女の子のほうでもいろいろありますよね。
長谷川:私は、みひろちゃんだったら、本番じゃなくても見たいのにな。
みひろ:ほんとですか? 私、「みひろじゃ全然役立たず」って有名だったのに〜。
長谷川:それはかわいすぎるからだよ! 私は、かわいい子の彼氏目線になってしまうので、「他の男にやられないでほしい」って気持ちになる。
アケミン:長谷川さん、独特ですね(笑)。
50人の男優と抱き合うために、AV業界へ
安田:澁谷さんは、デビューから本番が当たり前の時代でしたけど、本番しないときもありましたか?
澁谷:予算的な理由がない限りは、間違いなく本番がありますね。最初は、疑似というものの存在すら知らなかった。それはVシネとAVの違いだと考えていました。まあ、AVでも、ドラマ部分をじっくり撮りたい監督だと、本番がない場合もあるんですけど。
アケミン:澁谷さんはそれこそ、AVでしかできない経験がしたくて、女優デビューしたんですもんね。メーカーとの専属契約を途中でやめて、キカタン(「企画単体」のAV女優)として、いろいろなメーカーの作品に出演してますし。
澁谷:そうそう。専属だと、経験人数が1年で16人しか増えなかったんですよ。同じ監督だと、同じ男優さんを使うことが多いから。
安田:それはあの……ノートに数えてるんですか?
澁谷:数えてます! デビューするまでの経験人数が48人だったのですが、キリ良く、51〜100人目を男優さんにしたかったんですね。「ともだち100人できるかな」のノリで、100人に達するまでは、プライベートではセックスしない誓いをたてました。素人とはやらない。
長谷川:やっぱりプロの方が良かったですか?
澁谷:「こんなプレイあったんだ」というのをたくさん知ったのは、デビューしてからですね。
長谷川:なにかの作品で、電マをつけた自転車に乗っていて、すごいな……と思いました。
澁谷:そもそも私、自転車に乗れないので、大変でした……。
アケミン:そこがハードルだったの(笑)。
澁谷:キカタンになって、パフォーマーとしての澁谷果歩をやり通す責任が出てからは、自分が感じることよりもカメラの動きのほうが気になってしまって、だんだん純粋に楽しめなくなっていきましたね。
そこで私の意識を変えてくれたのは、素人ものの撮影でした。実は2016年に素人さんたちとキャンプ場に行って撮影をするという企画がありまして。類似作が摘発されてお蔵入りになったのですが、本当にガチ素人さんを集めたファン参加型で。
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澁谷果歩氏
安田:でも澁谷さんは、男優さんとセックスしたくて業界に入ったんだよね?
澁谷:そう! だから素人モノに呼ばれる段階になって「これはもう引退かな」と思っていたのですが……参加してくれたみなさんがすごく楽しんでくださるのを目の当たりにして、感動したんですよ。
男優さんに潮かけてもすぐにタオルで拭かれちゃうけど、素人さんは本当に喜んでくれているし、撮影終わったあとにも、お礼の列ができるんですよ。
一同:(笑)
澁谷:プロのAV女優というのは人に感動してもらうためにやってるんだ、私はそれまでアマチュアだったんだ……と自覚しました。これ、野村克也元名誉監督がプロ野球について言っていたことなんですけど(笑)。
アケミン:そうやって新たなプロ意識を持った澁谷さんが、このタイミングで引退を決めたのはどうしてだったんですか?
澁谷:ほぼ毎日現場に入るうちに、それまで刺激に思えていたことが、だんだんルーティーンになってしまって。別の刺激を得たいなと思い、引退を決意しました。
安田:いろいろな女優さんにお話を聞いても「続けるうちにワンパターンになってしまう」って声を聞きますね。
澁谷:ロリはいつもロリ、人妻はいつも人妻で。
安田:ドラマパートのセリフもほぼいっしょですからね。最後の撮影はどうでしたか?
澁谷:めちゃくちゃ泣いちゃいましたね。台本どおりではあったんですけど、泣きすぎちゃって、お客さんからするとつらそうに見えるから、「笑って」と監督に指示されました(笑)。
「解禁」で消耗していくAV業界
安田:みひろさんは、引退はいつ決めたんですか?
みひろ:私は現役のときに『nude』という本を出しまして。そこに結構いろいろ書いたので、本が出るタイミングが引き際かなと思い、引退を決めました。
安田:レンタルからセルにうつるときは「まだ名前を売りたい」と思ったということでしたが、もうそこでは満足していたんですね。
みひろ:そうですね。そこから契約持続となると「NGだったことを解禁してくれませんか」となるわけなんですけど、私がやれることはすべてやりきったなと思っていて。
安田:「これを解禁しないと……」って言われる話はよく聞きますね。本番に限らず、なにかを「解禁」していく商法になっている点は否めない。販売さんも大変なんだとは思いますが。長谷川さんはどうでした?
長谷川:私も「やりつくしたな」と思ったのがきっかけでしたね。引退直前は体調もよくなくて、髪の毛もちょっと抜けちゃったりしてたから、撮影中はかつらをかぶっていたんですよ。ユーザーさんにベストを見せられてない……と思って苦渋の決断をしました。あのときやめてよかったなと、今は思ってますけど。
アケミン:本当はもっとやりたかった?
長谷川:ベストな状態だったらやりたかったですよね。でも撮影中に「長谷川のかつらの直し待ち」があるような状況で……。引退するときも、「引退します」と言ってから引退作を撮ったわけじゃなくて、「あ、これはもうやめよう」と思って引退を決めて、結果として最後の作品が引退作になったんです。
でも、メンバーだった「ミリオンガールズ」のイベントのときに、みんなが気を使って引退式をやってくれたんです。花道をつくってくれて、共演した男優さん女優さんも来てくださって。あれはうれしかったですね。
アケミン:昔の女優さんは「とんだ」(編集部注:急にいなくなること)人が多くて、引退作なんてものを撮ること自体がレアでしたが、確実に変わってきてますよね。
安田:現場自体は最後まで楽しかった?
長谷川:楽しかったですよ。専属でやっているとずっと同じチームですし。ひとつの作品をつくりあげるうえで連帯感が生まれますよね。
みひろ:引退したら会えなくなってさみしいかな?と思ったけど、AV業界じゃなくても、何かしら続けていると会えますよね。現役時代によく私のメイクをしてくださってた方に、先日10年ぶりくらいに再会して。うれしかったですね。
安田:取材の過程で「後悔してるから出たくない」と言う女の子もいたんですけど、そういう方たちも、現場自体を後悔しているわけではないんですよね。現場は楽しかったけど、その後の世間の目に悩まされている、という人が多い。今や10年選手もゴロゴロしてるし。
長谷川:吉沢明歩ちゃんは15年だし。風間ゆみさんは20年だし。
澁谷:会社員だったら何かしらの賞がもらえますよ!(笑)