元AV女優として50本以上の作品に出演し、引退後は現役のソープランド嬢として今も働く長谷川瞳さんが新刊『ヒアリングセックス』を上梓しました。
長谷川さんはこの本を書いた最大の理由を「贖罪を果たすため」と言います。今回、カドブンでは『ヒアリングセックス』から本文を引用する形で記事化し、シリーズにて長谷川さんの思いをお届けいたします。
写真/渡辺愛理
贖罪を果たすために書いた本
「長谷川瞳」というのは、わたしの本名ではありません。とはいっても、いわゆる芸能人やタレントというわけではなく、わたしは元AV女優にして、現役のソープ嬢。「長谷川瞳」はAV女優としての芸名、ソープ嬢としての源氏名というわけです。
わたしがアダルトビデオ――AVの世界に飛び込んだのは01年のこと。自分で言うのはおこがましいのですが、AV女優としてのわたしの経歴はなかなかのものなんですよ。デビュー作のタイトルは『処女宮 メモリアル』。『処女宮』は、これまでに何人もの人気AV女優を生んできた、h.m.pというAVメーカーの名門シリーズ。つまり、鳴り物入りでデビューを果たしたということになります。
そして、ありがたいことに、デビュー直後から多くのAVユーザーに受け入れていただいたおかげで、デビュー作から6作品続けて大手レンタルビデオ業者のレンタルランキングで1位を獲得しました。当時は、男性のみなさんにはおなじみのテレビ番組『トゥナイト2』(テレビ朝日)などで「レンタル女王」として取り上げられたこともあったほどです。
その後も、人気AV女優のひとりとして活動させていただき、03年にはケイ・エム・プロデュースというAVメーカーがプロデュースしたAVアイドルユニット『ミリオンガールズ』の一員にも選ばれました。
『ミリオンガールズ』には、AV女優からタレント・女優に転身してテレビでもおなじみの顔になった及川奈央ちゃんもメンバーのひとりとして所属していたので、ご存じという人も多いのではないでしょうか。
AV女優・長谷川瞳は約50本の作品に出演し、04年に引退しました。その後のわたしはソープ嬢として男性のお客さまにサービスをしています。所属しているのは、入浴料2万円、総額6万円ほどのいわゆる高級店ですので、なかなか気軽に来店できないかもしれませんが、興味を持たれたらぜひいらしてください。最高のおもてなしでお迎え致しますよ。
AVで描かれるセックスは偏った認識を与えている
そんなわたしのAV女優としての活動歴は4年間、ソープ嬢歴も13年を過ぎました。おそらく、一般の女性のなかでわたしより多くの男性たちと交わってきたという人はなかなかいないでしょう。言ってみれば、わたしは「セックスのプロ」というわけです。
その立場から、ソープランドのお客さまや周囲の知人のセックスそのもの、また、セックスに対する認識を見聞きしていると、首をかしげるようなこともあるのです。「本当にいいセックスをほとんどしてきていないのかな?」「そもそも本当にいいセックスがどんなものかも知らないんじゃないかな?」って。そして、その理由を考えたときに行き着いたのが、多くの男性がセックスの教科書のように位置づけているAVだったのです。
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もちろん、AVにも多くの肯定すべき点はありますよね。パートナーがいないためにセックスをする機会に恵まれない人にとっては、性欲発散の大きな手助けとなってくれるでしょう。それでも、その〝内側〟にいた人間のひとりとして、AVで描かれるセックスが多くの方に思い込みや偏った認識を与えてしまっている――言葉は厳しくなりますが、本当にいいセックスをできなくさせている〝元凶〟だと思っているのです。
いま、あらためてAVを観てみると、愛情表現であり愛を重ねる営みとしてのセックスというよりただの交尾のように感じてしまうこともあるほどです。AVが過激化した結果、実際のセックスでは物足りなく感じてしまうのか、オナニーでないとイケない男性も増えているとも聞きます。ただ、男性ばかりを責めてばかりはいられません。この現象には、女性の責任もあるように感じるからです。
潮吹きなどに対する幻想と同じように、ほとんどの男性たちが持っているのが「セックスは、〝男性が女性を気持ち良くさせてあげる〟もの」という固定観念でしょう。一方、女性はどうですか? ただただ男性に体を預け、気持ち良くしてもらおうという男性任せのセックスをしていないでしょうか? それって、わたしから見るとセックスでもなんでもありません。
ソープランドに来てくれるわたしのお客さまのなかにも、「なかなかイケないんだよねぇ」という人も実際にいらっしゃいます。それでも、わたしはその大半の人をちゃんとイカせることができます。もちろん、わたしの性的なテクニックを自慢しようというわけではありません。ここでお伝えしたいのは、世の男性たちと同じように、多くの女性にも「セックスは男性が女性を気持ち良くさせてあげるもの」、女性視点で言い換えれば「男性に気持ち良くしてもらうもの」という思い込みがあるということです。これも、恥ずかしがる女性を男性だけが一方的に愛撫するセックスばかり描いてきた、AVがもたらした〝罪〟のひとつかもしれません。
そうではなくて、「セックスはお互いが気持ち良くなるためにするもの」。そう考えをあらためるだけで、特別なテクニックなど覚えることもなく、自然とセックスの中身や充実度はまったくの別物になるはずです。そして、「女性がイクこと」をあたりまえのように描くのもAVの大きな問題点のひとつです。男性と比較すると、女性のオーガズムの仕組みはとても複雑。そのため、一度もイッたことがないという女性は男性が想像する以上に多いのです。
たとえオーガズム経験がある女性でも、イクためには集中力を要します。ここで、AVの撮影現場を想像してみてください。AV女優たちがイクことを求められるのは、カメラマン、音声さん、照明さんなどの何人ものスタッフに囲まれた明るい撮影現場。しかも、監督の「ここでイッて!」の指示に従って即座にイカなければなりません。経験豊富な百戦錬磨のAV女優であっても、とても集中できるような環境ではないですよね。つまり、AVで描かれている女性のオーガズムも、その多くは演技(もちろん本当のオーガズムもあるけれど)だということです。
でも、それをユーザーたちは真実だと信じてしまいました。セックスは男性が女性を気持ち良くさせてあげるものであり、潮吹きなどの派手なプレイに女性はよろこび、女性は誰でも簡単にイク。それらはすべて、残念ながらAVが作り上げてしまった「ファンタジー」と言っていいかもしれません。
「一端を担った」という贖罪を果たすために
じつはわたしもまた、そのファンタジーを信じていたひとりでした。
「AV女優になって、プロの男優に身を任せればイケるんじゃないか」。わたしが業界入りしたのは、そういった思いもあってのことだったからです。かつてのわたしも、オーガズムの経験がなかったひとりでした。
いわゆる〝電マ〟を使わずに、セックスではじめてイクことができたのは20代後半になってからのこと。当時のファンの人たちには本当に申し訳ないのですが、AVのなかでのわたしのオーガズムは演技が大半を占めていたということなのです。
AVの現役時代は、本当にイッてみたいという欲が強いあまり、意図的に「もっともっと」とよりハードな愛撫を求めたり、激しく自分の性感を相手に示したりもしていました。すると、「長谷川瞳は感度がいい」「淫乱だ」というふうに、ファンの方だけでなく製作スタッフや男優さんたちにも評判になりました。
つまり、プロとしてアダルト業界で働く男性たちにも、女性が本当に感じているのか、イッているのか、あるいは演技しているのかは見抜けないということ。そして、AV女優に限らず、大半の一般女性たちにもイッたふりをしたというような演技をした経験があるものです。だからといって、男性たちには「演技で男をだますなんて女はひどい」などとは思ってほしくないんですよね。
というのも、女性たちは、女性がイクことはあたりまえだと思っている男性によろこんでほしくて演技しているのですから。きっと、AVから学んだのでしょう、愛撫をはじめてものの数分で「イッていいよ」なんて言う男性もいます。それがどれだけ女性にプレッシャーを与える言葉なのか。そのことを真剣に考えてみてもいいと思うのです。
ここまで述べてきたことは、AVをはじめとしたアダルトメディアが、男性を中心としたユーザーたちに現実とは大きく隔たりのあるセックスの常識を植え付けてしまったことによって生まれた〝悲劇〟です。そして、わたしもAV女優としてその一端を担ってしまいました。
わたしは、AV女優として、ソープ嬢としてさまざまなセックスを経験してきた立場から、男女がともに本当に気持ちいいセックスをするための秘訣をお伝えすることで、その贖罪を果たしたいと思っています。それがこの『ヒアリングセックス』を書こうと思ったきっかけだったのです。
>>#2 セックスの最中に「演技」を続けた女性の末路