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特集

【特別寄稿】「本を売るバカ」にならないために。『物を売るバカ2』の著者が〝エモ本7〟実践例を紹介!

翻訳含め12万部のベストセラーになった『物を売るバカ』の著者・川上徹也さんが、
続編『物を売るバカ2』の発売に合わせ、カドブンを読んでくれている全国の書店員さん向けに特別寄稿。
本書で紹介したアイデアを「書店で本を売る」というシチュエーションに当てはめ、実践的に紹介します。

 この記事を読んでくれている書店員のあなた。いつも本を売っていただき、そして本を買わせていただいて本当にありがとうございます。
 ただ、著者として、本好きとして、マーケティングにかかわるものとして、いつも不安になっていることがあります。
 それは多くの書店が「本を売るバカ」になっていないか、ということです(この「バカ」は一種の愛情表現で、「一生懸命やっているのに少し方向が間違っていてもったいない」という意味を込めたバカです)。

 世の中のお店は大きく2種類に分けることができます。それは「商品だけを売っている会社」と「商品以外を売っている会社」です。
 本という商品は基本的にはどこで買っても同じです。そうであれば、商品だけを売っていてはリアル書店で買う価値を感じられないという人も増えていく可能性があります。

 であればこそ、本そのものを売ろうとするよりも、本にまつわる「体験」や、その店でしか味わえない「気持ちのたかぶり」を売ってはどうかというのが本稿の提案です。そしてそこにこそ、リアル書店の価値があるのではないかと思うのです。

『物を売るバカ2 感情を揺さぶる7つの売り方』(以下『物バカ2』)では、感情を揺さぶることで、どうしてもその店で買いたくなる売り方を、英語のEMOTION(エモーション)の頭文字を使って分類し、以下のように「エモ売り7(セブン)」として紹介しました。

➀「体験(Experience)」を売る
➁「心動く(Moved)」を売る
③「世界観(Outlook on the world)」を売る 
④「共創・協創(Together)」を売る
⑤「インスタ映え(Instagenic)」を売る 
⑥「ここにしかない(Only one)」を売る
⑦「懐かしい( Nostalgia)」を売る

『物バカ2』では、全国のさまざまな業種の事例を紹介しています。本稿では、日頃本を売っていただいている書店員の皆さんに感謝をこめて、「エモ売り7」を書店向けにアレンジした特別篇の「感情を揺さぶる本の売り方」のアイデアを一挙公開します。できるだけお金をかけずに、店レベルでできることを集めました。
 題して「エモ本7(セブン)」。では、さっそく紹介していきましょう。

エモ本セブン=感情を揺さぶる7つの本の売り方 

➀「体験(Experience)」を売る

 
 まず、書店はもっとお客さんにその店でしか得られない「体験」を提供すべきではないでしょうか? 「体験」を入り口に、自分の店のファンになってもらいましょう。

 書店にからめて「体験を売る」方法はさまざま考えられますが、ここでは「読書体験」と「書店員体験」の二つに絞ってアイデアを出していきましょう。

「読書体験」というすぐ思いつくものなのにあまり実施されていないのが書店主催の「読書会」です。一口に読書会と言ってもいろいろなやり方があります。たとえば以下の3つの方向性が考えられます。

1、課題図書型:書店が課題図書を決め、それを事前に買って読んでくることが参加条件。それそれ感想や思ったことなどを語り合う。

2、各自オススメ型:参加者各自が1冊の本をオススメしていくというスタイル。ジャンルを自由にしてもいいし、「ビジネス」「恋愛小説」「マンガ」などしばりをかけてもいいですね。

3、アウトプット発展型:本の感想を言い合うだけでなく、それをどう仕事や生活に生かしていくかについて語りあうことに主眼を置く。たとえばビジネス書からそれをどう仕事に生かすか、心理学の本を夫婦関係にどう生かすかを語り合うようなイメージです。課題図書があったほうがまとまりやすいものになります。

 書店が主催するなら、まずは1から始めるのがオススメです。会には書店員がひとりつき、参加者がリラックスして喋れる環境づくりをします。場所は店内にあればそれに越したことはないですが、もちろん店外でもしまいません。参加費をどれくらいにするかは、どれだけの「体験」を提供できるかによって変わってくるでしょう。

 参考になるのは「猫町倶楽部」という読書会です。名古屋、東京、関西などで開催されいくつもの分科会があります。かなり難しい本が課題図書になっている場合もありますが、それを読んでこないと参加できないにもかかわらず多くの人が参加します。
 以前、参加してみたことがあります。近くの参加者のみなさんに「なぜ、参加しているのですか?」とうかがうと、「本の感想を語り合える人が職場にも友達にもいない」という答えが多く帰ってきました。主宰者の山本多津也さんは、名古屋のリフォーム会社の経営者です。本来このような「本を読んだ人同士が感想を語り合う体験の場を作ること」は、書店が率先して提供すべきことではないでしょうか?

 次に「書店員体験」を売る方法です。一般的には労働だと考えられているものが、一方ではお金を出しても「体験」したい商品になる可能性があります。『物バカ2』の中では「仕事旅行社」という企業の事例を紹介させていただきました。普段は関係者しか立ち入ることができない職場の裏側に潜入できる「一日職業体験」などのコンテンツが人気を博しています。
 あなたが日々しているような仕事、たとえば取次から送られてきた本をダンボールから出したり、本棚に並べたりする仕事は、毎日やっている方々からすれば「労働」にしかすぎません。けれどもそれを一度体験してみたいという本好きの人も結構いるはずです(私自身もぜひしてみたいです)。 
 そんな「書店員体験」を商品にするのはどうでしょう? 単独で売りにくければ、実際の商品とセットで売り出すという方法もあります。

「書店員半日体験+あなたのための選書セット(5000円分)を1万円で売り出すというイメージです。

 複数階にまたがるような巨大書店であれば、バックヤードがどうなっているかも興味津々な人が多数いるはずです。そのようなバックヤードや日々の仕事を紹介して、一部体験してもらえるバックステージツアーをベースにした商品を開発するのもいいでしょう。

 書店をただ本を売る場所ではなく、「読書体験」「書店員体験」を売る場所である、と再定義すると、他にもいろいろとアイデアが浮かんでくるはずです。

➁「心動く(Moved)」を売る

 
 お客さんは「心が動く」とその店で本を買いたくなります。たとえば、以下のようなヒットしたフェア企画は、言葉やアイデアで、お客さんの感情を揺さぶることに成功した例です。

「なぜだ⁉ 売れない文庫フェア」くすみ書房
「ほんのまくら」 紀伊國屋書店新宿本店
「文庫X」「帯1グランプリ」さわや書店フェザン店 
「。文庫」ヤマト屋書店 仙台三越店

 このようなアイデアを思いつけないとしたら、もっと簡単な方法として、店のさまざまな場所に、本から引用した「名言」「フレーズ」「セリフ」などを貼り付けてみるのはどうでしょうか? それだけでもお客さんは感情が揺さぶられます。小さな書店であれば、入り口のショーウィンドウなどに、日替わりで「名言」を貼ってあれば、それを楽しみに毎日見る来るお客さんも出てくるでしょう。
 
 書店は商品の中に大量のいい言葉が眠っているのに、それをもっと活用できるはずです。そういう意味では、他の小売業に比べて、書店は圧倒的に有利なのです。もちろん書店員の言葉でもオッケーです。お客さんは書店員が本気で発した言葉には必ず反応してくれます。

 次に「売り手が直接話しかけることでお客さんの感情を揺さぶる方法」について考えていきましょう。

 書店の中に実演販売所的なブースを設け、書店員が毎日日替わりで、自分の今週のオススメ本を(ベスト3でもベスト10でも)紹介するのはいかがでしょうか? どこがおもしろいのか、なぜ今読まなければならないかのかといったことを、熱をこめて語るのです。聞きたがっている人は決して少なくありません。さらにそれを動画にとって、SNSなどと連動させることもできると思います。

店の内や外で、オススメの本を昔の駅弁売りのように売るのもオススメです。書店員がやるのもいいですが、著者にこのスタイルで売ってもらうのもいいですね。もし有名作家を集めて実現できればかなり話題になるはず。このスタイルの売り方は、書店員でもあり著者でもある三省堂書店の新井見枝香さんが既に実施されています。https://hon.booklog.jp/report/arai-20171220

③「世界観(Outlook on the world)」を売る

 
 ここでいう「世界観」とは、 商品やサービスを売る際、その商品・店・会社・施設・従業員などが持っている統一感のある雰囲気・個性・デザイン・売り方などのことを指します。
 心揺さぶられる世界観があれば、同じ本であっても買いたくなるものです。しかし、数多くの書店がある中で、その店ならではの世界観を感じる店は残念ながら少ないのが実情です。

 たとえば特定の作家や作品の「世界観」を体現したようなコーナーづくりはどうでしょう?

 村上春樹にフォーカスするとすれば、著作だけでなく作品に出てくる曲、料理、地名などから連想されるような商品をどんどん置いていくのです。CD、食材、ガイドブックなどなんでもかまいません。愛用している文房具などがわかるのであればそれもいいですね。その作家のファンであったら、どんなに遠くであっても来たくなるような世界観のあるスペースをつくるのです。
 
 また何か映画やドラマでヒットしている時は原作だけでなく、その作品に登場するような雑貨・小物・キャストの写真集など関連本なども合わせて展示し販売するというイメージです。
 
 他にも「哲学」「心理学」「歴史」「生物学」「数学」などのジャンルに特化して、その世界観を表すようなコーナーを作ってみる、ということもできそうです。
 さらに特定の書店員の本に関する個人ヒストリーのコーナーをつくるのもおもしろいのではないでしょうか。

 店全体にひとつのテーマ方法を導入することで、世界観をつくるという手法もあります。
 たとえば「読書道場」というコンセプトはどうでしょう? 師範(書店員)が選んだ課題図書を買って読み終えると「級」や「段」がもらえるという仕組みです。初段以上は黒帯(特製ブックカバー)がもらえるとかがあればいいですね。柔道や空手の道場にあるような木の名札があり、来店するとひっくり返すので誰が来ているか一目でわかるなんてところまで世界観を作り込めたら、必ず話題になります。

④「共創・協創(Together)」を売る

 
「共創」も「協創」も似た意味で使われますが、ここでは、売り手が買い手と「共感しあって」「協力しあって」一緒になって何かを創り上げていくことを言います。創りあげるものはなんでもかまいません。

 たとえば、読書会をさらに発展させて「部活動」を行うのはどうでしょう?  
 いろいろなダイエット法を試してみて、お互いが頑張りそれぞれ成果を報告しあう「ダイエット部」。ひたすら哲学的な命題を語り合う「哲学部」。毎回ひとりの偉人をテーマに各自の意見を交換する「偉人研究会」。
 植物を育ててその写真を披露し合う「園芸部」。なんでもかまいません。 

 毎回、必ず課題図書を設定してきちんと本を買ってもらう仕組みをつくることが重要です。部費もきちんととりましょう。部の顧問は書店員がなって、自分がもっとも興味のあるテーマの部活をはじめるのがいいでしょう。このような部活動への参加を通じて、書店とお客さんのつながりは密になっていきます。

 また書店同士が「協創して「競争」することで話題をつくるというような事も考えられます。たとえば、駅を挟んであるようなライバル書店同士で、同じ本をどちらがたくさん売るかで競争して、それをネットを使って盛り上げていけば、遠くからでもその店に買いにくるお客さんがいるかもしれません。

⑤「インスタ映え(Instagenic)」を売る

 
 現在、日本の書店の店内ではトラブルを防止するためにほとんどが撮影禁止になっています。けれども、そもそも店内自体を写真で撮りたくなるような書店が少ないのが現状です。

 店を本格的に改装するのはお金がかかりますが、③のような方法で「世界観」を作ることができたら撮りたくなるはずです。そんな場合はじゃんじゃん写真を撮ってもらって、拡散してもらいましょう。

 書店員がインスタで発信していくという方法もあります。昨年、フランス・ボルドーにある書店「モラ」(La librairie Mollat)のインスタグラムが話題になりました。本の表紙と書店員を組み合わせて一体化した不思議な写真です(https://www.instagram.com/librairie_mollat/)。

 そんな風に、何か本を使ったインスタ映えするような写真を発信していきましょう。ピンクの表紙だけの本を集める、本のタイトルでしりとりする、装幀家で集める、いろんなテーマが考えられます。

 インスタ映えをキーワードにぜひ新たなアイデアを考えてみてください。

⑥「ここにしかない(Only one)」を売る

 
 その店でしか買えないものは、やはり心揺さぶられます。

 その書店ならではのオリジナルグッズを売ってみてはどうでしょう? 美術館の出口にあるようなミュージアムショップみたいなイメージのスペースをつくるのです。そして本をテーマにした、Tシャツ、小物、雑貨、時計などを売ってみる。昔、新潮文庫がキャンペーンで、夏目漱石や太宰治などのオリジナル時計をつくっていましたが、そのようなイメージです。版権が切れている作家であれば使えるはずですし、お金もそこまではかからないでしょう。

 本をテーマにしたオリジナルのドリップコーヒーやマグカップなどをつくるのもいいですね。モチーフは作家でもいいし、思想家や哲学者などでもいい。私も欲しいです。
 
 もちろん、その書店の名前などをモチーフにしたおしゃれなグッズをつくることもできます。 本と関係ない雑貨を売っているよりは、よっぽど心を揺さぶられます。

 グッズ以外にも「ここにしかない」を作ることはできます。本はどこで買っても同じと思われがちですが、たとえばちょっとしたオマケをつけることで違う商品にすることも可能です。たとえば、その店の書店員のオリジナル解説文つきみたいにすればどうでしょう。本と一緒にシュリンクして買わないと中身が見られないという仕組みです。
 
 他にも「同じ本を他店と違う商品にする」という視点でぜひアイデアを考えてみてください。

⑦「懐かしい( Nostalgia)」を売る

 
「懐かしい」という感情も、人の心を揺さぶります。

 これを生かした棚づくりを考えてみましょう。たとえば10年前のベストセラーランキングに基づいた棚をつくるのはどうでしょう? テレビでよくやる19××年のヒット曲みたいなイメージです。

 また 今の40~60代が青春時代にハマったような作家(たとえば星新一、筒井康隆、山田詠美、村上龍など)に、思いっきりスポットをあててコーナーをつくることなどもいいかもしれません。

 80年、90年、00年代といった時代でわけてヒットした作品を紹介し、それぞれの時代の懐かしいグッズやお菓子なども併売することもできそうです。


 以上。「エモ本7」でした。
 今回は店舗レベルで実行でき、できるだけお金を使わない方法に限定してアイデアを出しました。アイデアは基本自由に使っていただいてかまいませんが、もし川上まで報告してくれたり、一緒に何かやれればさらにうれしいです。
 
 さらに経営者レベルでお金も多少出していただけるなら、それに合わせた、もっと面白いアイデアもたくさんあります。一緒に出版・書店業界を盛り上げたい方、ぜひ川上までご連絡ください。

 あ、そして忘れちゃいけない。『物を売るバカ2』をぜひいっぱい売ってください!


****著者紹介*******

川上 徹也
コピーライター。『物を売るバカ』(角川新書)など著書多数。日本全国モテる書店化プロジェクト発起人。


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