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特集

突然「AV出てますよね」と聞かれたら?——『AV女優、のち』イベントレポート後編

「AV女優だったことを、後悔していない」——2000年代に活躍し、そして引退したAV女優たちへのインタビュー集『AV女優、のち』。その発売を記念して、阿佐ヶ谷ロフトAで開催されたイベントの内容を前後編でお届け。後編では、引退の「その後」を中心としたトークが展開します。長谷川瞳さん、みひろさん、澁谷果歩さんが考える「身バレ」へのスタンスとは。
>>《前編》AV女優が引退を決意する瞬間とは?

(構成・平松梨沙、写真・渡辺愛理)

引退してるのに「マスカッツ」入り!?

安田:さて、ここからはAV女優の「引退後」にフォーカスしていきたいと思います。みひろさんは女優を続けるかたわら、現役AV女優が多数所属している「恵比寿マスカッツ1.5」の一員としても活動していますね。

みひろ:はい。テレビに出たりライブしたりしてますね。自分と一回りくらい歳の違う女の子たちと……。

安田:みひろさんは現役時代にもマスカッツメンバーだったけれど、2017年に「恵比寿マスカッツ1.5」への加入が発表されたのは、さすがにびっくりしたよね。

みひろ:番組の総合演出をしているマッコイ斉藤さんに「入ってくれないか」と頼まれて。「みひろは引退してから本当に目つきがかわった、現役時代のみひろは反抗期の娘みたいでこわかった」と語られましたね(笑)。「絶対いちばんになってやる」という意気込みでやっていたので、闘争オーラが出ていたみたいで……。

安田:触るものみな傷つけてたのか(笑)。

みひろ:現役時代は精神的に追い込まれることもあったし、それがうまくプライベートで発散できてなくて、周囲に伝わりやすかったのかなあと思います。

アケミン:「おねがい!マスカット」時代、みひろさんが加入したての収録現場に見学に行ったことがあるんですが、みんなピリピリしてましたね。

みひろ:それは楽屋が?

アケミン:そうそう。全然あたたまってない感じで、大変そうだなと、外野ながら思いました。

みひろ:あの当時は、まだ女の子どうしでやる仕事って少なくて、お互い他の女優さんと関係を持つことがなかったんですよね。しかも蒼井そらさんとか麻美ゆまさんとか、ずばぬけたトップがいて。今はみんなと海外旅行なんかも行って「あのときはああだったよね〜」なんて話したりもします。

アケミン:錚々たるメンバーでしたよね。

安田:売れている女優さんに対するライバル心も強かった?

左から安田理央氏、澁谷果歩氏、みひろ氏

みひろ:吉沢明歩ちゃんは同じTV番組で共演することも多くて、距離が近いぶん意識してましたね。周りも「あっきーはどうだ」「みひろはどうだ」って比べてくるし。あっきーよりうまくしゃべりたい気持ちは、いつもありました。

AV女優同士の友情とライバル心

アケミン:長谷川さんが選出されていた「ミリオンガールズ」はどうだった?

長谷川:不思議と仲良かったですね。なんか、ミリオンガールズはちょっとずつ変な人しかいなかったから……。

一同:(笑)

長谷川:及川奈央ちゃん、神谷沙織ちゃん、早坂ひとみちゃん、紋舞らんちゃんと一緒だったんですけど、みんな役割が違っていて、仲良くできてました。あと、私はとにかくかわいい女の子が好きなので……(笑)。

安田:ライバル視していた女優さんとかいなかった?

長谷川:ぜんぜん! 「自分がいちばんになりたい」という思いはありましたよ。でも、グラビア雑誌で早坂ひとみちゃんを見て、「この子がいるんじゃ無理」と思ったんですよ。ミリオンガールズでいっしょになると聞いて、最初断ったくらい。それなのに、会ったらすごく仲良くなって、今でもよく会います。不思議な関係ですね。

長谷川瞳氏

アケミン:澁谷さんは、ライバルとかいるんですか?

澁谷:爆乳系女優さんを見て、私よりおっぱい大きいとか乳輪大きいとか、そういうところで対抗意識燃やすことはありますね。でもそれくらいかなあ……。あんまりかぶる人いないんです。

アケミン:そりゃTOEICで990点とるAV女優は、澁谷さん以外にいないですよ(笑)。

澁谷:私がデビューしたあたりだともうマスカッツが人気だから、事務所側も「AV女優になるとアイドルになれるよ」という口説き文句を使うし、いろいろグループをつくってるんですよね。やりたい人が歌を歌ったり踊ったりするのはいいと思うんですが、私まで「やらせてあげるよ」って感じで一緒にされるのは嫌でした。AV女優がみんな歌って踊りたいと思うなよ!

一同:(笑)

アケミン:とはいえ、一時期活動してましたよね。セクシーなんちゃらとして……。

澁谷:一瞬ね。苦痛でした。

一同:(笑)

澁谷:私が歌うと、ちゃんとしたトレーニングを受けてないから、単なるカラオケになっちゃうんですよ。だから、アニソンを英語で歌うとか、自分にしかできないパフォーマンスになるよう工夫はしてましたね。

アケミン:すごい!

澁谷:というのも、爆乳がウケるのはやはり欧米なんですよ。私、Instagramのフォロワーが63万人いるんですよ。海外を見据えてます。

ファンに「お世話になってます」と言われたら……

安田:話を戻しますと、「引退後」とかかわるトピックとして「身バレ」があるかなと思います。長谷川さんは、現在風俗店で勤務されてますけど、一般人ではありますよね。いかがですか?

長谷川:あんまりバレてないですね。農家の人が農作業をやる時みたいな格好で出歩いているので、バレない……。

アケミン:もんぺ、みたいな!?

長谷川:だいたいそんな感じですよ。女子力低いんです。オタクだし引きこもりだし、活動範囲がめっちゃ狭いし……。あんまり身バレしたことないですね。

安田:長谷川さんは、お仕事としては風俗に行かれたたわけじゃないですか。お店にはもともとのファンの方もいらっしゃるでしょう? 気持ちとしてはいかがですか?

長谷川:すっごくうれしいです。本当に。

安田:そうなんだ!

長谷川:わざわざ会いに来てお金使っていただくのって、お客さまにとって労力じゃないですか。来ていただけるだけでありがたいんですが、そのぶんがっかりさせたくないというプレッシャーはありますね。

安田:みひろさんは、AVから離れてずいぶん経つけれど、同じ名前で活動していますよね。当時のファンの人に声をかけられるとどういう心境ですか?

みひろ:私もうれしいですよ!「お世話になってます」と言われると、「お、そうか〜」って思います(笑)。

安田:失礼かな?って気持ちも少しあるんですよ。先日、『AV
女優、のち』について、吉田豪さんが書評を書いてくださったんですけど、そのときに「テクノポップやってた安田さん」ってあって。

アケミン:テクノポップやってたんですか?

安田:たしかに20年ほど前にテクノポップバンドやってたんです。でも「まだ言われるの!?」って思って(笑)。

アケミン:みんなの中ではいまだに子役の安達祐実、みたいな……。

長谷川:でも、女優やってなかったら今の自分はいないですからね。この本に出てきた人たちも、そういう方ばっかりだったように思います。「なかったことにしたい」という人の気持ちもわかるけれど、私の場合や、やらなかったら人生どん底の黒歴史だったなあと思う。黒魔術とかにハマってたかもしれない?

一同:(笑)

アケミン:長谷川さん、本当に変な人ですね(笑)。

安田:突飛なことを言いますよね(笑)。

澁谷果歩、兄バレする

安田:澁谷さんは、これから元女優になるわけですよね。身バレ、どう思いますか。

澁谷:現役だろうが引退後だろうが、本名で生活しているときに言われるのはいやですね。堂々と「澁谷果歩さんですか?」と聞いてくれるんならまだいいんですけど、「どっかで見たような……」と濁されるのが、一番困る。

長谷川:だったら言っちゃってほしいですよね。

澁谷:とはいえ、そこまでは気づかれないです。AV女優やっている期間にも、英語の試験の試験官のバイトとかやってましたけど、気づかれたことない。

安田:気づかれないの!?(笑)

左から安田理央氏、澁谷果歩氏、みひろ氏

澁谷:学生さんが多いし、「あれ?」と思ったとしても一瞬ですから。メイクも普段より落としてメガネもかけてますし。ただ、これから大学に戻って勉強したいと思っているので、そこで気づかれると困るでしょうねえ……。

アケミン:みひろさんはご結婚されましたよね。相手のご家族の反応はどうでしたか?

みひろ:私の旦那は、結婚前から、私がどういう人間なのかをご両親にちゃんと伝えておいてくれたんです。だから初めて会った時には嫌な顔も全然されなくて、本当に歓迎していただけました。

アケミン:うれしいですね。

みひろ:偏見を抱かれていなくて、とてもありがたいです。

安田:『AV女優、のち』のなかでも紹介してますけど、みひろさんが結婚発表したとき、ものすごい誹謗中傷をする人もいましたからね。ああいう反応を見ると、かなしくなっちゃいますよね。

澁谷:私、最近兄バレしたんですよ。

安田:え、そうなんですか。

澁谷:兄から直接言われたわけじゃなくて、母を通して言われたんですけど。

アケミン:ご両親は早くから知ってましたよね?

澁谷:そうですね。週刊誌で「元スポーツ新聞記者!」と書かれたのがあって、バレました。ただ、兄は気づいてなかったらしいんですよ。ちょうど結婚したてだったのもあって、AV鑑賞からも離れていて。
 母から「お兄ちゃんが気づいたみたい」と言われて以来、本人と連絡していないのですが、母によると、私の仕事内容がどうこうというより、いっしょに歩きたくないようなんですね。

安田:というと?

澁谷:周囲に「女優の個人情報を知りたがるタイプのAVオタク」がいるらしく、一緒に歩いているときに写真でも撮られたら、家族が困ると。さみしくはあるんですが、兄には子供がいて「いい叔母さんにならなきゃ」と無理していた部分があったので、解放された部分があるのかもしれません。家族だからって、お互い無理しなくてもいいかなと。

チャラいけど、懐の深いAV業界

安田:お母さんに言えても、お父さんには言えない人もいるしね。男性の反応のほうがネガティブなことはある。

長谷川:アケミンさんの『うちの娘はAV女優です』も、そういう話が多かったですよね。うちも、最初母にバレたときは「そんな娘はうちにはいませんでした」「人前でパンツを脱ぐ娘なんていません」と言われたんだけど、3ヶ月くらい経ったら大丈夫になって。意外に理解してもらえました。まあ、父も喜んでたんですけど……。

一同:えー!

長谷川:うちの娘が「FRIDAY」に出てるんだって、酔っ払って雑誌を見せびらかしていたらしい。

アケミン:陽気ですね(笑)。

長谷川:陽気すぎてちょっとおかしいんです。

安田:そういえばみなさん、AV業界に入る時、こわいとは思ってなかった?

みひろ:うーん、周りの人が思ってましたね。「ヤクザに売り飛ばされるんじゃないの?」とか言われたりした。

長谷川:私は一応、この後の人生「男はなくてもいいや」くらいの決断をして入りました。でも、そこまで思わなくてもよかったです(笑)。

安田:思ってるよりはクリーンだよね。むしろ、やさしい。

みひろ:でも醸し出す雰囲気は、芸能界とAV業界で全然違う気がします。なんか……マネージャーがチャラい。

一同:(笑)

アケミン:ヤカラっぽい人は多いよね。

澁谷:私のことが両親にバレたときに、当時のマネージャーが「挨拶に行くよ」と言ってくれたんだけど、チャラい格好だし赤いスポーツカーだし絶対両親に気に入られなそうだから「来ないでください」って断っちゃいましたね(笑)。

長谷川:オタクっぽいマネージャーもいますけどね。

安田:アイドルオタクのマネージャーもいるし……。

長谷川:現場の最中に風俗へ行くマネージャーもいましたよ。それで怒られて、坊主になって戻ってきたり。そうそう、失敗してもまだ戻ってこれる懐の深さはありますよね。

安田:よく人がいなくなるけど、そのぶん戻ってもくるよね。

澁谷:女優も戻ってくるし。

アケミン:男優も戻ってくるし。

安田:人生いろいろあっていいんじゃね、いいか悪いかはその人次第、ということがわかる業界ですよね。『AV女優、のち』もそういう本ですので、ぜひお手にとってもらいたいです。今日はみなさん、ありがとうございました!

(終わり)

>>安田 理央『AV女優、のち』


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