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特集

独占! 初公開! 『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』の幻の3ページとは?

宇宙際タイヒミュラー(IUT)理論の、世界で唯一の解説書として話題の『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』には、第1章の最後に幻の3ページが存在しました。著者の加藤文元さんが、校了直前に削除した内容とは? 刊行から1年を経て、今回、初めて公開します!
同時公開のインタビューと合わせてお読みください。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

 もっと根本的な問題として、たとえ彼が外国旅行に対して消極的であるとしても、そもそも、そんなことが深刻な問題にならなければならない理由なんて、本当は存在しないはずです。これに関して、私が感じている違和感を、最後に述べておきたいと思います。

 ある欧米の数学者が、IUT理論の論文に関する問題について論じた、ある人のブログへの返信で、次のように述べています。「何百ページにもおよぶ解説を書くよりも、望月はABC予想の証明にいたる新しいアイデアについて(ボンやパリやボストンなどで)一回か二回レクチャーする必要がある」

 私はこの本の中で、いままでも、そしてこれからも、数学界のだれかに一方的にくみするわけでもなく、それなりの客観性と中立性を保って議論していきたいと思っています。ですから、この言明についても、できるだけ中立的な立場から意見を述べようとしていることを、最初にお断りしておきます。

 また、この言葉を投稿した人も、おそらくまったく悪気はなかったでしょうし、以下に説明するような、私が感じた強い違和感のことなど、思いもよらなかったに違いないと私は思っています。その上で、私はこの言明に、非常に強い違和感を感じたことを、ここで述べておかなければなりません。

 望月教授が自分のアイデアについてレクチャーするべきだという意見について、私は完全に同意しますし、彼自身も実際そうしてきたことは、すでにいままで述べてきた通りです。しかし、なぜその場所がボンやパリやボストンでなければならないのでしょうか?
 単に、例としてこれらの都市をあげただけならば、なぜ論文の著者自身がいる京都が真っ先に出てこないのか不思議でなりません。

 彼は自分の理論を発表以前からいろいろな人に話していた(国際研究集会で講演すらしていた)のですから、当然の成り行きとして、彼の身の回りにいた人たちから理論の理解者サークルが育成されてくるのは当たり前のことです。そして望月教授は日本の数学者なのですから、その「メッカ」のようなところは、少なくとも最初は日本に見出されるだろうことは、当たり前に予想がつきます。それはたとえ、いままで述べて来たような事実関係や事情を知らなかったとしても、IUT理論は日本人が日本の研究機関で活動している間にできた理論なのですから、容易に想像できるはずです。ですから、レクチャーすべき場所として、少なくともその一つの候補として日本の都市名を考えるのは自然なことでしょう。

 しかし、そうではなくボンやパリやボストンなのだとしたら、その理由はなんなのでしょうか? そこが(ABC予想に関連する)数学の中心地だからなのでしょうか? これらの都市は、もちろん、多くの意味で数学の中心地であることには疑問の余地はありません。しかし、東京や京都も同様に、世界中の多くのところと同様に、数学の中心地です。というより、IUT理論は京都で生まれたのですから、この理論に関して言えば、京都が「中心」であると考えるのが、むしろ自然なことでしょう。

「いや、問題はそういうことではない。日本ではもう、ある程度理解者の層が形成されているのであれば、むしろ外に出て理解者を増やすべきなのではないか?」という反論もありそうです。もちろん、私はこれにも同意します。ですが、そうするためには外国旅行が絶対に必要だ、とは思いません。

 それは別問題です。ましてや、ボンやパリやボストンといった特定の都市を名指しして、そこに行くべきだというのはおかしな話です。もちろん、それぞれの場所に対して、それなりの理由と必要性があれば、というのならわかります。でも、これらの都市に行くべき理由と必然性を判断するのは、望月教授本人なのではないでしょうか。数学の新しい理論を作った人は、すべからくボンやパリやボストンでレクチャーしなければならないなんてことはないはずです。

「そうではなくて、ボンやパリやボストンを名指しした理由は、これらの都市にこそ、望月の理論を理解したいと思っている人たちが多いからだ」とか「ヨーロッパやアメリカに来て直接議論できなければ、我々は望月の論文をなかなか理解できない。その我々を理解させるために講演活動をする、というのは真っ当な理由ではないのか?」という反論もありそうです。これらの反論も「多くの理解者を得るために努力をするのは当たり前じゃないか?」というだけの意味に解釈するなら、それはもちろん当然のことで、私のみならず、望月教授本人を含む、ほとんどの数学者が同意することでしょう。しかし、そのために欧米各地の都市に行くというのは必要不可欠なことだとは思いませんし、それを実行しないのはおかしなことだ、とは思いません。

 実際、望月教授は自分の理論を理解しようとする(欧米人も含む)多くの人たちに対して、様々な形でコミュニケーションを図り、自分の理論をより多くの人たちに理解してもらうために、それこそ信じられないような膨大な時間とエネルギーを傾けてきました。こういうことを日々推進するためには、ヨーロッパやアメリカや、その他の世界中の都市に実際に行くことが絶対に必要不可欠なのでしょうか? もし仮にそうなのだとしたら、私は次のように答えるでしょう。「でも、ファルティングスもワイルズも日本には来ませんでしたよ」。彼らの理論が発表された直後、日本でもブームが巻き起こり、多くの日本人研究者がその理論の全容を早く知りたいと熱望しました。その状況と、今回のABC予想を巡る状況との間には、特になにも違いはないように思われます。

 もちろん、私はファルティングスやワイルズが日本に来なかったこと自体を問題視しているわけではまったくないのですが、そういうことは、もういちいち断らなくても、もはや読者にはよく伝わっていることでしょう。

◆ ◆ ◆ ◆ ◆

以上が、校了直前に削除した部分です。本書を読んでいない方はもちろん、読了した方も、改めてこちらを踏まえて読んでみていただけたらと思います。(編集部)



加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321802000140/


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