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特集

出版直前に削除した「幻の3ページ」を公開!! IUT理論唯一の解説書『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』 著者、加藤文元さんインタビュー

世紀の難問ともいわれる「ABC予想」の証明をも含む「宇宙際タイヒミュラー理論(IUT理論)」。その「世界唯一の解説書」として話題なのが『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』です。
今回、著者の加藤文元さんは、書籍であえて削除した内容を公開することに決めました。
なぜ削除し、なぜいま公開するに至ったのでしょうか。その思いを、加藤さんに直撃インタビューしました。
当該の箇所は、カドブンにて同時公開します。

国内と数学界、対照的な反応


――2020年4月3日、望月新一教授が在籍されている京都大学数理解析研究所で「IUT理論がアクセプトされた」との記者発表がありました。以前のインタビューで教えていただきましたが、「アクセプトされる」というのは理論が専門誌に掲載許可され、正しさのお墨付きを得た、ということでした(https://kadobun.jp/feature/interview/99h8kwdhgaw4.html)。そのころ、国内は新型コロナウイルスのニュース一色だったので、久しぶりにうれしいニュースを聞いた気がしました。報道後の反応はいかがでしたか。


加藤:国内の一般の受け止め方は好意的だったと思います。「世紀の難問、ABC予想がついに証明された!」と、特集を組んだ新聞やテレビもありました。

私は、望月さんがIUT理論を構築していたころ、ともにセミナーを行っていた立場で、また昨年4月に『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』を刊行したこともあり、NHKをはじめとするテレビや新聞各紙、「文藝春秋」といった雑誌など、多くのメディアから取材の依頼を受けました。


――世界の数学界の受け止め方はいかがでしたでしょうか。


加藤:さまざまだったと思います。歓迎する人たちも多かった一方で、大勢ではないにしろ、あまり学術的でない感情的な議論もあったようです。一部では炎上といっても過言ではない動きもありました。


――国内におけるお祝いムードの一般の報道とはちょっと違いますね、驚きました。


加藤:IUT理論に対する経過を見てきた私にとっては、むしろ予想通りでした。

学問の世界なので、議論が起こるのは当たり前です。むしろ非常に健全なことです。しかしそれは議論が数学的なものであればの話です。

数学者たちが集まるあるブログでは、非常に過熱したやり取りがありました。著名な数学者がアクセプトへの疑問を表明し、それに対してさまざまな議論がなされましたが、数学的にはあまり深まってはいなかったように思います。

アクセプトした雑誌「PRIMS」にも批判が多く届いたようです。PRIMSは、ヨーロッパ数学会が出版しているのですが、その会長は「PRIMSの編集者や望月氏にとっても悪影響があるのではないか」と懸念を表明しています。

学問的ではない議論


――どのような批判が多いのでしょうか。


加藤:議論の中で主に語られていることの一つが、望月さんがこの理論を広めるために講演をしていない、努力していない、というものです。私はその考えに対して、強い違和感を覚えます。

望月さんのホームページを見れば、2012年の論文公開以来、少なくとも5回はIUT理論に関する講演を行っています。2015年にはイギリスのオックスフォード大学で行われたIUT理論に関する研究会に、スカイプで参加したりもしています。

にもかかわらず、「努力していない」という論調が生まれ、それに賛同する人が多くいるのはなぜなのでしょうか。


――それは欧米の数学者たちの反応でしょうか。もう少し具体的にお願いします。


加藤:「欧米」という曖昧な言葉はあまり使いたくありませんが、思い切って単純化して話すとこうです。欧米の数学者たちにとって、望月さんが自分のところにやってきて理論を説明してくれないのは、それはもちろん残念なことでしょう。私もその立場だったら当然そう思うでしょう。でも、だからといって、それをしないのはおかしい、という一部の意見はちょっと一方的なのではないか、ということです。新しい理論を作ったら、必ず欧米で発表しなければならないというわけではないと思うからです。そして、これこそが、私が日頃から違和感を覚えるポイントであり、今回公開する部分に書いていたことなのです。


――「欧米偏重」ということでしょうか。数学という精緻な理論で組み立てられる世界に、それ以外のことが影響するものでしょうか。別の分野であれば、著名な学者の理論に新人研究者が意見を言いづらい、などというのは想像がつくのですが、数学の世界では正しさこそがすべてであり、年齢や肩書は関係ないのではないですか。


加藤:「欧米偏重か?」とはっきり言われると、もちろんちょっと抵抗感はあります。数学の世界では、そういったことはほかの分野に比べればずいぶん少ないと思うからです。ですが、ゼロではないかもしれません。なかなか難しい問題です。

ただ、繰り返しになりますが、これはあくまでも学術上の論争であり、本来あってしかるべきものです。また、パリやボンやボストンに出かけて行かないというだけで、それらの場所を拠点としている専門家たちが望月さんを非難することは、確かに一方的ではありますが、これをして「欧米偏重」と言ってしまうのは、ちょっと言い過ぎです。今回公開する箇所でも、私は自分が彼らに対して率直に感じた違和感をストレートに書いていますが、欧米偏重だとまでは書きませんでした。  

むしろ、これらの論争や欧米の反応を受けた日本人の反応の方が、かえって「欧米偏重」的なのかもしれません。もちろんほんの一部ですが、欧米の数学者が批判しているということだけを見て「日本の数学界はガラパゴスだ」と主張するような意見も散見されるからです。こういう諸々のことから垣間見える日本の内部に潜む《隠れた欧米偏重》主義は、実はけっこう根強くあるのかもしれませんね。


――日本の数学界にも批判的な人は多いのでしょうか。


加藤:いや、むしろ日本の数学界は、わりと静かだったと思います。でも一部の下馬評はよくなかったですね。「あのヨーロッパの著名な数学者がこういうんだから」という理由だけで、アクセプトに異議を唱える一般の方の書き込みも見受けられました。こういうのは権威主義といっても差し支えないと思いますね。匿名のSNSなどでも欧米の権威を笠にマウントを取ってきたりする人もいました。

そうこうしているうちに、マスコミもそういう部分ばかりストーリーに仕立てようとして、取材依頼してきたりします。そういった日本人側の姿にも、ときおり首を傾げたくなることがあります。

公開への思い


――ところで、書籍刊行のときに、今回公開するこちらの部分をなぜ外そうと思ったのですか。


加藤:私は望月さんの友人ですが、この本はあくまでも客観的な書き手の立場にいたかったということがあります。そのため、一通り原稿を書いてからも、何度も原稿に手を入れました。できるだけ客観的に、事実を淡々と述べるということに終始したい、というのがそのときの考えでした。

今回公開する部分は、望月さんについての一部の意見に対する私の「個人的な感想・違和感」です。ですから、いろいろ考えて掲載を遠慮したのでした。

なぜ遠慮したのかと思う方もいるかもしれません。本書の中で望月さんが2012年に論文を発表されてからこれまでのいきさつを記していますので、ぜひお読みください。望月さん自身も本書の冒頭の「刊行によせて」のなかでふれています。これらを読めば、私がその判断をした理由を、少し感じていただけるのではないかと思います。


――削除部分を公開いうのは大きな決断だと思います。


加藤:もちろん、論文のアクセプトが決断を後押ししたことは否めません。ですが、突然思い立ったわけではなく、出版前から「お蔵入りにしないでいずれは出したい」と思っていました。

アクセプトされてもなお、望月さんや日本の数学界に対する一部の誤解や感情的な議論に、私は心を痛めてきました。「欧米偏重」という短絡的な言葉でまとめられるような問題でないのはもちろんですが、いろいろ複雑な意味で、我々も解放されていかなければならないのでは、とつくづく感じました。だから、あえてこの「個人的な感想・違和感」の部分を、包み隠さず述べてしまおう、そうして、議論に一石を投じようと思ったのです。皆さんにも読んでもらって、考えていただけたらと思います。

>>独占! 初公開! 『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』の幻の3ページとは?



加藤文元『宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321802000140/


加藤 文元

1968年、宮城県生まれ。東京工業大学理学院数学系教授。97年、京都大学大学院理学研究科数学数理解析専攻博士後期課程修了。九州大学大学院助手、京都大学大学院准教授などを経て、2016年より現職。著書『ガロア 天才数学者の生涯』『物語 数学の歴史 正しさへの挑戦』『数学する精神 正しさの創造、美しさの発見』(以上、中公新書)『数学の想像力 正しさの深層に何があるのか』(筑摩選書)、『天に向かって続く数』(共著日本評論社)など。

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