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特集

「『医学のたまご』を読んで 医学部に入りました」 という方が けっこう多いんですよ。海堂尊・新連載スタート記念インタビュー

撮影:福島 正大  構成:タカザワ ケンジ 

海堂尊さんが中高生に向けて書いた青春医療ミステリ『医学のたまご』。その刊行から12年の時を経てついに、〝孵化した〟カオルくんたちの新しい冒険を描く新連載「医学のひよこ」が本誌今月号でスタートします。
これを記念して海堂さんに、「ひよこ」の誕生秘話や桜宮サーガにおける位置づけ、「たまご」の裏話など、たっぷりとうかがいました。新連載とあわせてお楽しみください。

続編執筆は医療小説特集がきっかけ


――「医学のひよこ」の連載がスタートしました。『医学のたまご』から十二年ぶりの続編です。


海堂:僕がいちばんびっくりしてます。干支一回りですからね。十二年って早い(笑)。


――『医学のたまご』の舞台になっている二〇二二年もすぐそこです。


海堂:当時は超未来を書いたつもりだったんですけどね(笑)。実は『たまご』を書いたときから続編の構想はあって、いつか書こうと思っていたんです。


――ついに今回、書くことになったわけですが、それはなぜでしょう。


海堂:この号もそうですが、「小説野性時代」では毎年5月号に「医療小説特集」をやっていますよね。いつも前年の夏の宴会で要請されて、まだ先の話だからという気分で受けるんです。小説が書けなかったらエッセイで、とセーフティネットを用意して。その後、冬の宴会で原稿依頼のダメ押しをされて「こりゃ、やばい」となるんですが、一昨年は「氷獄」を思いつくことができました。


――「氷獄」は『チーム・バチスタの栄光』の犯人のその後を描いた衝撃的な短篇でした。『氷獄』という短篇集も刊行されましたね。


海堂:よく思いついたなと思ったけれど、こんな自転車操業じゃたいへんだ。来年も医療小説特集があるだろうから早めに備えよう。「そうだ、『医学のたまご』の続篇をやればいいんじゃないか」──ですから、「医療小説特集」のたびに「小説 野性時代」編集部からプレッシャーをかけられて……もとい、編集部が医療小説を振興してくださった産物だと思いますね。


『氷獄』


――『医学のたまご』は中学一年生の曾根崎薫くんが東城大学医学部で研究の世界に足を踏み入れるという物語でした。一般の人は医療の現場は見ていても、医学研究についてはなじみがありません。そういう意味でも新しい領域を開拓した作品でした。そして、『医学のたまご』の刊行後しばらくしてから「STAP細胞事件」が起きました。科学研究のスキャンダルが大きなニュースになり「コンタミ(試料汚染)」という専門用語が一般の人の口の端にものぼるようになりましたが、いま『医学のたまご』を読むと、予言的なんですよね。


海堂:ぶっちゃけて言うと、「STAP細胞事件」ほど壮大なものではないにせよ、研究の場でのトラブルは大なり小なり昔からあったんですよ。だから当時も、これは書かないと、と思ったわけです。


――『医学のたまご』は主人公が中学生ということもあり、子供から大人まで楽しめる小説です。この小説で海堂作品に初めて触れたという人も多いでしょうね。


海堂:講演会などで読者の方と直接話をすると、「『医学のたまご』を読んで医学部に入りました」という方がけっこう多いんですよ。それは本当に嬉しいですね。書いたときには想像もしなかったので。そんなに歳をとったのか、とも思いますけど(笑)。


――十二年の重みですね(笑)。「医学のひよこ」は『たまご』の騒動から半年後が舞台。薫くんは中学三年生になっています。連載の第一回では、薫くんと同級生の仲間たち「チーム曾根崎」が洞穴探検をするところから始まります。そこで彼らが正体不明のたまごを見つけるのですが、こう来るか! と驚きました。


海堂:SF医療ファンタジー(笑)。このお話は、未知の生物に対する医学的対応を書けたら面白いんじゃないかなというところから思いついたんです。それで社会のすったもんだが書けるんじゃないかと。



初めて描いた桜宮市の地図


――「医学のひよこ」は冒頭から未知の存在が示されますが、一方でリアリティは海堂作品の背骨ともいうべき重要な要素です。今回、桜宮市の地図が掲載されますが、初公開ですね。


海堂:そもそもこれまで地図をつくってなかったんです(笑)。山の上に東城大があって、坂道を下っていくと海がある。そこには岬があって、電車の駅があって──という漠然としたイメージはあったんですが、それ以外の位置関係はめちゃくちゃ(笑)。今回、地図を描くために、過去の作品を十冊くらいは部分部分読み返したんじゃないかな。「苦労してます」と編集者に言ったら「そういうのは最初にやるもんです、普通の作者さんは」と返されて「そうか(汗)」と。

 物語的には、どこかからどこかへ行くときに、右に行こうが左に行こうがかまわないんですが、地図で考えるとどちらか一方だけが正解。今回続篇を書くにあたって、そろそろ地図をつくらなきゃいけないのかなと重い腰をあげたわけです。


――絵地図の作者は深海魚(ふかみ・さかな)さんですね。


海堂:深海さんは『アクアマリンの神殿』を新聞連載したときに挿絵を担当してくれて、かなり読み込んでくださったんです。今回の地図も期待通りでしたね。


――地図ができたことで桜宮サーガの世界観もいよいよ強固なものになりました。


海堂:そうですね。「医学のひよこ」では、桜宮サーガの未来篇に決着をつけようと思っています。現代篇の決着は『スカラムーシュ・ムーン』でつけたので。

 昨年の五月に僕の小説・ノンフィクションを三十三冊、一斉に電子化したんですけど、電子の巻末にそれぞれエッセイをつけたのが、これまでを振り返るいい機会になりました。「医学のひよこ」を書こうと思ったのも、そろそろ決着をつけねば、とスイッチが入ったからなんです。


――『医学のたまご』は、電子化に続き文庫化ということですが、単行本に手は加えられたのでしょうか。


海堂:細かいところですけどね。『医学のたまご』を書いたのはデビューして二年目くらいで、勢いに任せて書いた雑なところがいささかありました。文章が、というより設定に細かい矛盾があったりしたんです。

 今回、『たまご』の直し作業でいちばん衝撃的だったミスは章タイトル。登場人物の言葉から引いていたんですが、校正さんから「この章タイトルのセリフはありません」と指摘されて。そんなばかな、と思ったんですが、めくってもめくっても該当するセリフがない。おそらく雑誌連載時にはあって、単行本化するときに削ってそのままになっていたんですね。それが十二年間(笑)。


角川文庫『医学のたまご』


――誰も気づかなかった(笑)。最近はチェ・ゲバラやフィデル・カストロを描く「ポーラースター」シリーズで南米を舞台にされていましたが、昨年は『氷獄』が刊行され、今年は「医学のひよこ」の連載が始まり、「桜宮市」に戻ってこられています。「ひよこ」の執筆はいかがですか。


海堂:南米を書くことに比べれば楽チンですね(笑)。というのは、ラテンアメリカは僕がつくったフィールドじゃないので、まず学ばなければいけない。桜宮は僕が好き勝手できるので、すごく楽です。ただ、ほかの作品との整合性をとらなければならないという枷があって、過去の自分に苦しめられている(笑)。製造者責任を果たすことに追われてます。


――連載二回目ではいよいよ東城大学に舞台が移り、佐々木アツシくんはもちろん、『医学のたまご』にも登場していた赤木講師も登場するそうですね。


海堂:『医学のたまご』を書いたときには先々のことは考えていなかったんですが、あのときに配置した人物がうまく動いてくれています。連載の第一回だけを読むと「こんなばかなことあるわけないじゃないか」と思われそうですけど、最後まで読んでそう思われたら負けなので、そうならないように書きたいと思ってます。ご期待ください。

「医学のひよこ」試し読みはこちら>>【新連載試し読み 海堂尊「医学のひよこ」】中学三年生のカオルと仲間たちは、洞穴の中で、見たこともない巨大な「たまご」を発見する――。

「小説  野性時代」2020年5月号では、「桜宮市MAP」ほか、新連載をより深く楽しむための4つのキーワードとその裏側をご紹介!
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000123/



海堂 尊

1961年千葉県生まれ。第4回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作『チーム・バチスタの栄光』で2006年デビュー。著書多数。近刊に『フィデル誕生 ポーラースター3』(文春文庫)、『氷獄』(KADOKAWA)など。

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