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特集

「あごが痛い」「あごが鳴る」「口が開かない」のは顎関節症じゃない!? 『あごの痛みが消える! 筋膜スマートリリース』著者、原節宏さんインタビュー

「痛みがある」「音が鳴る」「開かない」など、あごに不調を感じている人は少なくありません。治療を受けようと歯科医院を訪れると、マウスピースや歯並びの矯正を薦められるケースがほとんどです。あるいはボトックス注射による治療を薦められるケースがあります。しかし、これらの治療は効果がないばかりか、症状を悪化させる可能性があるといいます。その理由を『あごの痛みが消える! 筋膜スマートリリース』著者、原節宏さんに聞いてみました。

そもそも約8割の人が顎関節症ではない!?


――原先生は日本歯科大学附属病院顎関節症診療センターでセンター長として年間1000症例の治療をされているそうですね。大学の附属病院ですから、すでに歯科医などの診察を受けて、それでも治らない人が来られると思うのですが、顎関節症と診断された人の約8割が顎関節症ではないそうですね。


原:そうなんです。あごが痛いとかあごが鳴る、口が開かないなどで歯科医院を受診すると、多くの場合、顎関節症と診断されますが、実はあごの関節の問題ではないことが多いのです。


――なぜ、そんなことが起きてしまうのでしょうか。


原:それは「顎関節症」という名称に原因があります。関節症という言葉を使っているので関節が悪いのだろうとの認識が医師の中にも残っているのです。そもそも顎関節というのは、つまりあごの関節のことですが、肘や膝のような関節とは構造的に違う形をしています。


――どんなふうに違うのですか?


原:肘や膝は単純関節と呼ばれ運動軸が一つです。一方向にしか動きません。しかし、あごの関節は、関節を軸にして口を開け閉めすると同時に、あごが前のほうにせり出すように動きます。これによって口を大きく開くことができますし、左右に動かすなど複雑な動きができるのです。


――あごは普通の関節とは違うことはわかりました。しかし、なぜ間違った診断をされてしまうのですか。


原:関節症はもともと整形外科で扱っています。肘や膝に痛みがあれば、整形外科を受診しますよね。腰痛も同じです。ただ、整形外科で扱っている関節は、すべて単純関節か動きのない不動関節です。ですから診断や治療法は単純関節に対するものが基本になります。


――なるほど。でも、あごが痛いときは歯科医院を受診するのが一般的ですよね。


原:そうですね。顎関節症が日本で最初に報告されたのは戦前でしたが、歯科医師が広く知るようになるのは1980年代になってからのことでした。そのとき歯科医師が整形外科の手法をマネしてしまったのです。診断にしても治療にしても、単純関節のものを基本に組み立ててしまったのです。当時、あごの関節の中の軟骨がずれているのがわかるようになり、それが顎関節症の主原因だろうと考えたのです。


――たしかにあごの不調で歯科医院を受診すると、「軟骨がすり減っているので治らない」と言われるケースも多いようです。


原:そうですね。そこで関節の負担を減らすためにマウスピースを入れる治療法が定着しました。しかし、マウスピースで効果が出る人は2人に1人程度であることが論文でも示されています。

マウスピースの効果がある人はわずか


――確率は50%ってギャンブルに近いですね……。


原:しかも、マウスピースで効果があった50%の人のうちの多くはプラセボ効果の可能性もあります。


――それは、効き目のある成分が入っていない薬でも、効き目があると信じて服用すると病気の症状が改善することがある、というものですね。


原:そうです。マウスピースそのものに効果があったのではなく、時間の経過で自然によくなった場合もあるでしょうし、あるいは、「専門的な治療を受けている」との安心感があごの周辺の血行不良を改善してよくなったこともあると思います。

 その後、マウスピースによる治療が健康保険の適用を受けたので、歯科医院ではマウスピースによる治療が第一選択になっていきました。これは日本だけでなく、欧米でも同じようなことが起こりました。


――いまも同じですか。


原:2000年を過ぎたくらいから、「やっぱり治ってない人たちが半分いる」ことが注目され、他の治療が模索されるようになりました。マウスピースで安静にしても治らないのであれば、嚙み合わせが問題ではないかと考えるようになりました。嚙み合わせが悪ければ、あごの筋肉が疲れますし、関節が炎症を起こすこともあるだろうと考える歯科医師が出てきたのです。

 しかも、嚙み合わせを治すには、虫歯ではない歯を削ったり、矯正して歯並びの位置を変えたりしますので、歯科医院は儲かります。そんなこともあって、嚙み合わせを調整することも多くなりました。


――でも嚙み合わせの問題ではなかったのですね。


原:そうなんです。あごの痛みは関節の問題ではないケースが多いので、そういったケースに、嚙み合わせを調整しても治りません。あごが痛い、あごが鳴る、急に口が開かなくなったなどの症状は、あごを使っていないことからくる運動不足が原因になっていることが多いのです。食事や会話であごを使ってはいますが、普段の生活では手や足腰に比べても大した運動をしていないので、運動不足になっているのです。


――その場合、何をすればいいのですか。


原:運動不足を解消すればいいわけです。ストレッチやマッサージが効果的です。世界的な傾向ではストレッチ体操やマッサージなどによるいわゆる理学療法が主流になっています。


――日本ではいまだにマウスピースや嚙み合わせの調整が主流だと思いますが、それが間違っているのではないかと気づいたのはなぜですか。


原:私は2002年からデンマークに留学しました。デンマークは筋肉や靭帯などの運動器の研究が盛んです。私は嚙み合わせを研究していましたので、大学院の時代からマウスピース治療や嚙み合わせの調整を15年ほどしていました。しかし、治療をした患者さんがその後どうなったか、追跡調査をしてみるといい成績とはいえなかったのです。50%どころではなく、30%程度の人にしか効果が出ていませんでした。そこで、治療効果が出ていない患者さんのお話を丁寧に聞いてみると、「最近、歯の治療をしなくなったら、安定して具合がよくなってきた」とか「完全に治ったわけではないけれど痛みのレベルがすごく下がった」という人がいたのです。さらには「内勤だった仕事が外勤になってよく歩くようになったらよくなった」という人もいました。生活に何らかの変化があり、アクティブになった人は放っておいてもよくなることがわかったのです。

顎関節症の8割は運動不足が原因


――「何もしないほうが治る」とは衝撃的ですね。


原:2000年ごろに数千人から1万人程度のアンケート調査をした論文が4本程度発表されました。それによると、何もしないで2年半おいておくと、9割がよくなっていました。


――その後、原先生は顎関節症と診断された人の多くは、あごの運動不足が原因であると考えて、ストレッチやセルフマッサージの方法を考案したそうですが、実際にどの程度の効果が期待できるのですか。


原:この考え方に賛同してくださった歯科医院では、待合室のモニターにストレッチの動画を流してくださっているケースがあります。あごの痛みで来院された患者さんが診察を待っている間に、モニターを見ながらストレッチを実践しただけで痛みがほとんど消えてしまうケースも少なくありません。


――診察を受ける前に?


原:もちろん個人差がありますから、ケースバイケースですが、大学病院を訪れた患者さんで考えると、顎関節症と診断された人の8割程度は、ストレッチやマッサージであごの痛みが治っています。


――その人たちは顎関節症ではなかったということですか。


原:厳密に言うと、顎関節に原因がある顎関節症ではなかったという意味になりますね。あごの痛みの8割は筋膜性口腔顔面痛なのです。筋膜は皮膚の下や筋肉の周囲などを覆っている膜ですが、運動不足になると筋膜が厚くなって痛みが生じることがわかっています。


――最近、筋膜リリースでカラダのさまざまな部分の痛みやこり、むくみを解消できることが話題になっていますね。


原:そうですね。同じようにあごの痛みも筋膜が原因であることが多いのです。1回=10分ほどで実践できるモノばかりですから、ぜひ試してほしいですね。



原節宏あごの痛みが消える! 筋膜スマートリリース』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321906000894/


原 節宏

日本歯科大学附属病院顎関節症診療センター センター長。歯科医師・歯学博士(甲種)・日本補綴歯科学会指導医・日本口腔顔面痛学会指導医・日本口腔リハビリテーション学会指導医ほか。

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