ブックコンシェルジュ
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【2021年ミステリ小説決定版】年末までに読んでおきたい、おすすめミステリ小説5選
ミステリシーズンに、敢えて空気を読まないスタイルのミステリ紹介を
みなさん、神無月だそうですよ。
日本全国の神様がお出かけになり、それぞれの持ち場をお留守にされる、それが10月。
かくして強制的にお留守番をさせられる我々はどうしたらいいのか。
涼しくなってなんだか心寂しい、寂しいとおなかが空く、と言って食べてばっかりもいられず、コロナもまだまだ予断を許さない……。
それならば。
面白い本を読むしかないじゃないですか。
折しも秋、いましもミステリが旬を迎えている!
ランキングも控えたそんな時期、しかし、カドブンは敢えて提言します。
「ミステリは謎だけじゃない!」
えっ何言ってるのかわからない、とお思いのあなた、とりあえず少しお時間くださいな。綺羅星のごときミステリ群の、小説としての面白さ、ちょっくら語ります。
神様たちも出先で読んでくださってよろしいんですよ。
(著者敬称略)
『仮面』
著者 伊岡 瞬
真の姿を隠しているのは誰か? 衝撃のノンストップ・クライムサスペンス!
顔が綺麗で知的で弁舌さわやかで感じよくて、でも謙虚で好感度も高くて。そういう人、お好きですか?
反射的に「うさんくさい」と思ってしまうのは私だけ?――いやいや、みんな思ってますって。
「絶対に裏がある」と信じたくならないでしょうか。
これは、そんなあなたにぴったりの物語です。
でも、それはこの恐ろしいミステリの、ほんの一部に過ぎない。
誰かの仮面を剥がしたいと願うその心を、伊岡瞬はがしっと掴み、縦横無尽に引きずり回す。願うものを見せ、期待を超えた真実を暴き、誰の予想も超えた場所に我々を連れてゆく。
その「小部屋」からは逃れられない。何故なら、あなた自身が望んだ場所だから。
人間が一番怖いなんてヌルい認識を、ありえないほどの面白さが踏みつけ塗り替える、フィクション最高の現場にぜひ立ち会ってください。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000996/
▼ヒット作連発で話題沸騰中! 伊岡瞬 おすすめ小説3選
https://kadobun.jp/feature/readings/7w9j466yv1wc.html
『六人の噓つきな大学生』
著者 浅倉 秋成
「犯人」が死んだ時、すべての動機が明かされる――新世代の青春ミステリ!
「ここにいる六人全員、とんでもないクズだった」――入りたい会社No.1企業のグループ面接、仲間モードでやってきたのに、最終でまさかの、他全員を蹴落とさないと入社できない展開に。そして送られた怪文書――。
人呼んで「伏線の狙撃手」浅倉秋成の技が炸裂しまくり、我々は撃たれまくりの最強パズラーですが、どっこいこの小説にはもうひとつの顔があると思うのです。
それは、選ばれてしまったことの罪と罰、なのではないか。
生まれて、生きている以上、すべての存在は尊い、そう片手で持ち上げながら、社会はもう片手で我々を選別する。就職はもちろん、学校でも部活でも、もっと言えば愛とか友情とか、ものすごく個人的な局面ですら、仕分けられ、ランク付けされ、規格外として追いやられ続ける。
選ばれなかった側は当然手ひどく傷つく。しかし実のところ、選ばれた側にも根深く痛みは残るのです。誰かを踏みつけた自覚と、そうまでして自分には残る価値があるのかという疑念。時として、人生を壊すほどの。
選ばれないこと、選ばれることに傷ついたすべての人のために『六人の嘘つきな大学生』が出した解答はなんなのか。ラストで提示されたそれは眩しいほどに鮮烈です。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000377/
▼発売直後に続々重版! 話題沸騰中の『六人の噓つきな大学生』浅倉秋成氏インタビュー(前編)
https://kadobun.jp/feature/interview/awncb5jbuw8o.html
▼『教室が、ひとりになるまで』で話題沸騰! 伏線の狙撃手・浅倉秋成の仕掛ける究極の心理戦『六人の噓つきな大学生』試し読み①
https://kadobun.jp/trial/6liarcollegestudents/c2ynkegribs4.html
『幻月と探偵』
著者 伊吹亜門
異邦の論理、異形の心理。
第2次世界大戦前夜の満州。泥沼の国際情勢、蔓延する疫病と社会格差、その闇に巣食い肥える者たち――あれ? これっていつの話だっけ???
そう思った瞬間から、我々は伊吹亜門の企みに絡めとられているのかもしれません。
今をときめく革新派の官僚・岸信介(この附合もなんというか、恐ろしいですね)の秘書が急死、どうやら毒殺の疑いがある。亡くなった秘書はいまだ権勢を誇る元陸軍中将・
探偵・
国って、社会って、そもそも「こういうもの」なんじゃないか? 人間はその巨大な虚無に捧げられる供物にすぎないのではないか???
昭和史を描き、本格の極みを尽くしながら、実のところ途方もなく「今」の「我々」の話でもある。若き名手の離れ業に痺れ震える一冊です。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322103000632/
『朝と夕の犯罪』
著者 降田 天
日本推理作家協会賞受賞シリーズ。慟哭必至のミステリ。
父とともに車上生活を続けていた兄弟。一見裕福で平和な家庭の中で、少女が上げ続ける声なき悲鳴と切なる願い、兄弟と少女が共謀した狂言誘拐とその思いもよらない結末。8年後、衰弱しマンションの1室で発見された男の子、傍らには妹の亡骸が――今まさにニュースの中で、ネットの海で、あるいは噂で、もしかしたら身近で起こっているかもしれない胸ちぎられるような事象の数々がフィクションとして編み上げられたとき、こんな威力を持つのか、とただ瞠目させられるしかありません。
ミステリという文学の根源にある人の世への絶望、それが翻ってほしいという祈り、でも、ハッピーエンドなんかどこにもないのだというリアルな洞察、それでも、ミステリだけが我々にもたらすことのできる救済が、ラストシーンの驚きとともに訪れます。
ミステリは謎だけじゃないと冒頭で宣言しておいて何ですが、こんなにも心をとらえられてしまっては致し方なし――人は何故謎を求めるのか、謎が解かれることに何故焦がれるのか。読み終えたときの歓喜とともに百万回考えてしまいました。
この小説に答えをもらったような気がして、でも、さらに答えを探したい気がもりもりしてきて、つまるところ、一生ミステリを読んでいくのだ、と誓いを新たにしたり。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322011000436/
▼「落とし」が導く「真実」を確かめてください。――最新作『朝と夕の犯罪』& 文庫『偽りの春』発売記念!著者 降田天インタビュー
https://kadobun.jp/feature/interview/5socrr2sd4ow.html
『黒牢城』
著者 米澤 穂信
信長を裏切った荒木村重と囚われの黒田官兵衛。二人の推理が歴史を動かす。
天正六年。かの、本能寺の変から遡ること4年。
織田信長に背き、今でいう兵庫県は伊丹に存在した堅城、有岡城に立てこもった武将がおりました。その名は荒木村重。そして城の地下にはひとりの虜囚、その名は黒田官兵衛。次々と起きる奇怪な事件は城内の士気を乱し、城主・村重は苦悩のはてに地下牢へと降りてゆくのでした。「官兵衛、知恵を出せ」――。
毎回の鮮やかな解決は、しかし滅亡の時計を決して止めはしません。やがて季節は巡り、落城のゼロアワーがやってくる。
古典部シリーズの著者が何故戦国を? とお思いかもしれないあなた、実はこの小説は、『折れた竜骨』の著者でもある米澤穂信が書いた、もうひとつの異世界ミステリなのです。
巨大なクローズドサークル(キャッスル)有岡城で、我々とは全く異なる生活、文化、そして死生観を持ち暮らす人々が「謎」に直面するとき、論理という共通言語で彼らと我々は結ばれる。殺さない男・村重の果てしない孤独、死ねない男・官兵衛の底冷えするほどの憎しみが胸を噛むような切実さで伝わってくる。
そう、これは途方もなく「人間」の話なのです。
戦国の世も現在も、ひとはこの不自由で残酷な「いま、ここ」を突破したいと激しく希求する、その望みが極まったとき、世界は変わる、あるいは終わる。
最終地点で彼らが、そして我々が掴むものはなんなのか。
思えば、米澤穂信という作家がミステリを通じて描いてきたのは常に、屈託し、苦悩し、あるいは追い詰められ、それでも不全な現状から全力で羽搏こうとするひとのこころでした。『黒牢城』は間違いなく、その極みといえる作品です。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322101000890/
▼「米澤穂信『黒牢城』読んでみた」ゆうきまさみのはてしない物語ー番外編ー 描きおろしコミックエッセイ
https://kadobun.jp/feature/readings/5n6ebius05c0.html
▼夢を持ってしまった以上は、 追いかけたい――恩田 陸×米澤穂信 新作刊行記念対談(前編)
https://kadobun.jp/feature/talks/bnapn4hw7e8s.html
▼戦国×本格×社会派が三位一体となった傑作ミステリ――『黒牢城』米澤穂信 著 書評
https://kadobun.jp/reviews/722213eam2kg.html
KADOKAWA刊・文芸単行本一覧はこちら
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(文・カドブン季節労働者K)