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特集

ヒット作連発で話題沸騰中! 伊岡瞬 おすすめ小説3選

ヒット作、話題作を連発する伊岡瞬。鮮烈なデビュー作から話題の最新作まで、必読の3冊(+α)を一挙紹介!

伊岡瞬 おすすめ小説3選

文:香山二三郎/コラムニスト

 新人賞出身作家には二つのタイプがある。荒っぽいが将来性が見込まれるタイプと完成度の高い即戦力タイプ。伊岡瞬の場合、もちろん後者である。
 ご承知のように、伊岡のデビューは横溝正史ミステリ大賞だった。長篇『いつか、虹の向こうへ』が第二五回の同大賞とテレビ東京賞をダブル受賞、鮮やかなスタートを切った。
 このとき伊岡はハードボイルド系の新鋭と目された。『いつか、虹の向こうへ』の主人公の尾木遼平は呑んだくれの中年男で、物語は呑み屋からの帰途、彼が道端にいた娘からホテルに誘われる場面から始まる。彼は泥酔したままその娘を家に泊めることになるが、家にはすでに三人の居候がいた。というわけで、いかにもありがちな出だしから、意表を突く疑似家族設定で、読者をあれよあれよという間に物語に引きずり込んでいく。
 実は尾木はある事件をきっかけに職も家族も失った元刑事。他の居候たちはもとより、尾木をホテルに誘った娘も家出人だったが、彼女はやばい事情を抱えており、やがてそれは殺人事件として露呈、それには暴力団も関係しており、尾木は否応なくその渦中に巻き込まれていく。こなれたストーリーテリング、キャラクター造形の妙、確かなミステリー技巧と三拍子そろった実力派ぶりに、テレビ屋さんたちがうなったのもむべなるかな。


いつか、虹の向こうへ
著者 伊岡 瞬
定価: 704円(本体640円+税)


 だがそれで一気にブレイクしたかというと、必ずしもそうではないところが小説世界の難しさ。その後、伊岡は元プロ野球選手の便利屋を主人公にした『145gの孤独』でハードボイルド路線を続ける一方、若い臨時教員を主人公に小学校の内外で起こる事件の数々をとらえた連作もの『教室に雨は降らない』等で作風を広げていくが、試行錯誤が五年以上続く。

 だがその甲斐あって、大ヒット作となったのが『代償』である。こちらはだが、弱者の再生譚を軸にしたヒューマンなタッチを売りにしたそれまでの伊岡作品と一変していたのだった。いや、ヒューマンなタッチはそのままに、それ以上に鮮明に打ち出されたのが悪の凄みである。主人公の奥山圭輔は仲良し夫婦の一人息子だったが、そこへ割り込んできたのが母のまたいとこの道子とその息子の達也。一見健全だが随所でサイコな一面を露わにする達也の挙動が何とも恐ろしいが、彼らの奥山家への浸食はついにある事件を引き起こす。
 そこから圭輔の奴隷のような生活が始まるのだが、読みどころはそこではない。実はこの作品は二部構成になっていて、圭輔は地獄のような生活から何とか抜け出し弁護士となるのだが、若手弁護士として活躍中の彼を指名してきたのが強盗致死事件の被疑者となった達也という次第で、後半は何と法廷ミステリーへと転じていくのである。
 悪の極みに迫るサスペンスと先の読めないリーガルミステリーの面白さを併せ持った本作からは、作家としての確かな進化の跡がうかがえよう。


代償
著者 伊岡 瞬
定価: 880円(本体800円+税)


 そして『代償』で磨かれた犯罪サスペンスの技巧は、その後警察捜査小説と結びついて、『痣』『悪寒』『本性』等の快作を生んだが、今また衝撃の一冊が発表された。
 最新作の『仮面』である。冒頭、東京・東村山でパン店を営む女の浮気の顛末が記されるが、これは序章。本篇の一方の主役は、読字障害ディスレクシアというハンディキャップを抱えながらもアメリカ留学ののち、苦労して著述家として売り出し、今日テレビのコメンテーターとして人気急上昇中の三条公彦で、その活躍ぶりを軸に、彼の“通訳”を務める菊井早紀や、冒頭のパン店の女経営者(その後死体となって見つかる)の友達で、我が子を事故で失って以来、子作りに取りつかれた主婦・新田文菜、そして前出の『痣』や『悪寒』『本性』をお読みの方ならすでにご存じの刑事・宮下真人といった面々の視点から、次第に恐るべき犯罪事件の実相が浮かび上がっていく。
 こちらの読みどころはまず、三条を中心にしたテレビの情報番組のバックステージ劇。そういえば、少し前経歴詐称でキャスターの椅子につけなかった人物がいたけれども、本書の設定はもちろんフィクションに違いない。には違いないのだけれども、中盤の山場の番組スポンサーの豪奢なパーティ場面など、いかにも芸能界あるある的なリアリティを感じさせる。著者の現場取材の賜物であろう。
 読みどころのもう一つは、宮下巡査長と新たな相棒・小野田静巡査部長のコンビネーション。小野田は刑事課長との因縁が原因で周囲から疎まれており、宮下はそれを痛ましく思っているが、彼女はそれをまったく外に出さない。そのハードボイルドぶりや、よし。
 いい換えれば、小野田は仮面をかぶっているわけだが、もちろん仮面をかぶっているのは彼女だけではない。それが容赦なく剥がされていく終盤の迫力。
 涙、涙のエピローグまで一気呵成に読み切ってしまうこと必至の傑作だ。


仮面
著者 伊岡 瞬
定価: 1,925円(本体1,750円+税)


伊岡瞬(いおか しゅん)プロフィール



1960年東京都生まれ。広告会社勤務を経て、2005年『いつか、虹の向こうへ』で第25回横溝正史ミステリ大賞とテレビ東京賞をW受賞しデビュー。16年『代償』で啓文堂書店文庫大賞を受賞し、同書は50万部を超えるベストセラーとなる。19年には『悪寒』で啓文堂書店文庫大賞を受賞し、同書も30万部を超えるベストセラーとなる。近著に『本性』『冷たい檻』『不審者』『祈り』『赤い砂』 など。

【受賞・候補歴】
2005年  『いつか、虹の向こうへ』 第25回横溝正史ミステリ大賞、テレビ東京賞 W受賞
2010年  『ミスファイア』 第63回日本推理作家協会賞(短編部門)候補
2011年  『明日の雨は。』 第64回日本推理作家協会賞(長編及び連作短編集部門) 候補
2014年  『代償』 第5回山田風太郎賞 候補
2016年 『代償』 啓文堂書店文庫大賞 受賞
2018年  『痣』 第20回大藪春彦賞 候補
2019年 『悪寒』 啓文堂書店文庫大賞 受賞
2020年  『不審者』 第41回吉川英治文学新人賞 候補

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