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レビュー

刑事犬養隼人シリーズ最新作! どんでん返しの帝王が描く、この国に蔓延る理不尽な「怪物」とは? 『ラスプーチンの庭』

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(評者:内田 剛 / フリーランス書店員)

 この物語には三人の恐るべき「怪物」が棲んでいる。

 まず著者の中山七里は紛れもない「怪物」だ。2020年にデビュー10周年記念として毎月単行本を発売するという驚異的な一大イベントを終えたかと思えば、年を跨いで切れ目なく新作を世に届けるとは。その旺盛な創作力は常人のなせる業とは到底思えない。数だけではない。出すたびに最高傑作を更新し続けるという内容の漲りも圧巻。冒頭から張り巡らされた伏線も絶妙だが、「どんでん返しの帝王」の称号通りに終盤からラストの切れ味がとりわけ鋭く、しかも人間的な情感もたっぷり込められていて、これは本当にさすがとしか言いようがない。

 『ラスプーチンの庭』は映像でも人気の高い「刑事犬養隼人」シリーズの最新作だ。『切り裂きジャックの告白』、『七色の毒』(短編集)、『ハーメルンの誘拐魔』、『ドクター・デスの遺産』の四作がすでに文庫化されており、昨年単行本で『カインの傲慢』が加わった。毎回強烈かつ残忍な悪役が登場し読者を恐怖の底に連れ去っていく。映画「ドクター・デスの遺産-BLACK FILE-」でもお馴染みとなった犬養隼人と高千穂明日香コンビの躍動も読みどころのひとつで、シリーズ作ではあるがもちろん単体でも存分に楽しめる。


書影

中山七里『ラスプーチンの庭』
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
※画像タップでAmazonページに移動します。


 二人目の「怪物」はタイトルにも現れている「ラスプーチン」だ。「黙示」「聖痕」「怪僧」「教義」「殉教」の五章の見出しからも実在のあの人物が頭をよぎる。ラスプーチンといえば帝政ロシアの祈祷僧で奇怪な逸話も多くまた怪異な容貌から「怪僧」「怪物」と呼ばれた悪名高き人物。今回のテーマは先進医療と民間療法の対立が主軸となるが、まさに本作にもラスプーチンを思わせる怪しげな人物が登場する。言葉巧みに難病患者に近寄り、秘術のような独自のやり方で施術を繰り返し財産を奪い取る悪魔。人の命を救えない標準医療への真っ向からの挑戦状ともいえるが、万病治癒の名の下にたったひとつの尊い命を玩具にするような行為がやるせない怒りを募らせる。彼の犯した本当の罪とはいったい何だったのか。愛する家族が死に直面したとき、何ができるのか。藁にもすがる想いは時には理性を欠いてしまうこともある。これは決して他人事ではない問題だ。

 そして三番目の最も悪質な「怪物」は、社会を不穏や不安な空気に貶めた「怪物」を生み出した人間たちである。暗闇で蠢く悪魔の実体は、目先のカネと欲望に目が眩み弱者からすべてのものを奪い取る。その素顔は表に出ないからこそ極めて厄介な存在だ。しかし罪を犯すのも犠牲になるのも同じ人間。善人も悪人も分け隔てなく「ラスプーチンの庭」に住んでいるのだ。

 社会問題をテーマに掲げて光と影を描き上げる作家は数あれど、これほどまでに鮮やかにグレーゾーンを照らす書き手は稀有だろう。この世の声なき叫びを掬い上げるその視線が心にグサリと突き刺さる。魂をかきむしる、まったく読み飛ばせないエンタメ作品でありこの世に必要な文学。どんな悲惨な境遇にあっても人間には本来生きる力があって、信じてもいいのだという強くて確かなメッセージが伝わってきた。感動と衝撃のその先の景色を見せてくれる素晴らしい物語。「怪物」中山七里の鋭く確かな筆はますます研ぎ澄まされて、この国に蔓延る理不尽で邪な「怪物」たちに一切容赦はしない。未来にどんな困難な現実が待ち受けていようが、この作家が書き続けている限り希望の光は消えることはないだろう。

中山七里『ラスプーチンの庭』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322008000194/


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