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特集

最大の犯人は〈貧困〉だ。臓器売買の闇から命の価値を問う 『カインの傲慢』刊行記念 作家・中山七里インタビュー

取材・文:編集部 

「どんでん返しの帝王」中山七里さんの最新作『カインの傲慢』は、現代社会の「貧困」をテーマとした骨太なミステリです。刑事犬養隼人シリーズ第五作目にあたるこの物語は、日中で急増する臓器売買の闇に迫り、私たちに「命の価値」という重い問いを突き付けます。犬養もこれまで以上に「法と感情」の間で葛藤します。
これまでも、社会派の作品を多数発表してきた中山さんに、今作に込めた思いをうかがいました。



――『カインの傲慢』は、犬養の葛藤を通し、簡単には答えの出ない「命の選択」について暗に問いかけていますね。何度も立ち止まり、考えながら読み進めました。しかしそれでいて、エンタメとしては最上級に面白く仕上がっている。さすが「どんでん返しの帝王」だ、と唸らされました。まずは、この小説の特徴や、読みどころだと思われるところを教えてください。


中山:本作は『切り裂きジャックの告白』に始まる犬養シリーズの最新作ですが、実は第一作の「臓器移植」という関連から、2019年に中国が移植大国として世界で二番目になった時から注目していたんです。『切り裂きジャック』ではまだシリーズ化が決定していなかったので深追いできなかったのですが、移植に絡んで臓器売買が横行している実態はいずれテーマにする予定でした。前作『ドクター・デスの遺産』で一敗地に塗れた犬養が捜査を進めていく中で、臓器売買の是非を問うことができればいいと願っています。


――臓器売買の是非について、より踏み込んだ作品ということですね。確かに、ラストシーンで、父親という立場からもともと、臓器移植法に多少なり疑問を感じていた犬養に対して、命と法、どちらが重いのかともいえるような究極の選択がつきつけられるシーンは「医療」と「法」の矛盾を問うているシーンで、まさに今のコロナ禍にも通じるような話だと思います。この「命の選択」について、中山さんご自身はどのようにお考えでしょうか? 可能な範囲でお聞かせください。


中山:すみません。作者自身の考えは封印しておこうと考えています。


――作中の「犯人の一人は紛れもなく〈貧困〉だった」というフレーズがとても印象的でした。今、コロナ禍で貧困問題や格差社会がより浮き彫りになってきています。「貧困」をテーマにした裏にはどのような思いがおありだったのでしょうか? また、本作に込めた思いやメッセージがあれば教えてください。


中山:平時に何となく隠れていたものは非常時に表面化するものです。戦争・内乱・流行病がそうですが、犠牲になるのはいつも貧困層からです。言い換えれば平時の段階で貧困問題を取り上げておかなければ、非常時には既に手遅れになる。それを比較的広範に且つ分かり易く提示できるのがエンターテインメントの強みだと考えています。


――平時に隠れていたものがまさに顕在化しているのが現在の日本ですね。小説内の「経済格差が教育格差を生むようになったように、貧富の差は生命の価値すらもランクづけする」という陣野の言葉は非常に差別的ですが、この言葉を荒唐無稽と一蹴できない現実がいま起きつつあることをどう思っていらっしゃいますか?


中山:貧富の差が生命の価値すらもランクづけしている現状は、以前より他国で厳然と存在していました。昨今の新型コロナウイルス騒ぎでそうした現状が顕在化しただけのことではないでしょうか。


――「刑事犬養隼人」シリーズも第五作目に突入しました。中山さんは沢山の人気シリーズを書かれていますが、シリーズを長く続けていくコツや、苦労があれば教えてください。また、特に「犬養シリーズ」で注力していることがあれば教えてください。


中山:シリーズを長く続けていくコツですか。そんなものがあるなら逆に教えてほしいです。強いて犬養シリーズについて言えば、テーマを常に医療問題に限定して他シリーズとの差別化を図っていることくらいでしょうか。


――そして、今年は中山七里・作家生活10周年記念の年ですね! 前代未聞の12ヶ月連続刊行に挑戦していらっしゃいますが、ラインナップの中で、特にこの作品の位置付けや、他の作品と何が違うのか、作者として思うところをお聞かせください。


中山:犬養隼人という主人公はスーパーマンではなく、ごく普通のダメ男でやや優秀な刑事なんです。だから小説もキャラクターで引っ張るのではなく、テーマで引っ張るような書き方に徹しています。『岬洋介シリーズ』と『浦和医大法医学教室シリーズ』の間に挟んだのは、そういう事情もあります。一方、両シリーズのキャラクターはある分野において際立った存在、つまり神の視座から全体を俯瞰する位置にいる訳です。


――犬養シリーズの今後の展望を明かせる範囲で(笑)、教えてください。


中山:次回作は自由診療がテーマの『ラスプーチンの庭』、その次に映画化もされる『ドクター・デスの遺産』の続編にあたる『ドクター・デスの再臨』が控えています。


――犬養や高千穂の過去も謎に包まれていますし、まだまだ目が離せませんね。最後に、読者に一言メッセージをお願いします。


中山:皆さんに本を買っていただければ、作者の思惑を無視してシリーズは継続されるんです。ええ、恐ろしいことに。

お知らせ

『カインの傲慢』刊行を記念し、中山さんのオンライントークショー招待券付き書籍をカドカワストア限定で販売しています。あなたの質問に中山さんが答えてくれるかも!?
詳しくはこちらをご覧ください。
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シリーズ紹介


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『切り裂きジャックの告白 刑事犬養隼人』
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シリーズ唯一の短編集。犬養が色の謎に挑む!
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少女を誘拐する「笛吹き男」の正体は……!?
『ハーメルンの誘拐魔 刑事犬養隼人』
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2020年11月に綾野剛・北川景子共演で映画化!
『ドクター・デスの遺産 刑事犬養隼人』
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中山 七里

1961年岐阜県生まれ。2009年『さよならドビュッシー』で第8回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。「御子柴礼司」シリーズや「ヒポクラテス」シリーズなど著作多数。

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