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レビュー

届かなかった紙飛行機も拾い上げて 『何度でも、紙飛行機がとどくまで』

 なぜか登場人物が同じ時間を何度も繰り返してしまう、いわゆる「タイムループ」を扱った小説には良作揃いの印象がある。ケン・グリムウッド『リプレイ』、西澤保彦『七回死んだ男』、北村薫『ターン』、乾くるみ『リピート』、桜坂洋『All You Need Is Kill』といったタイトルがつぎつぎと思い浮かぶが、大城密『何度でも、紙飛行機がとどくまで』もまた、この並びに加えられるべき要注目の長編だ。
 春雷が鳴る嵐の夜。陣痛が始まった飛島とびしま千花せんかは、夫である明良あきらが運転する車で病院へと急いでいた。するとビルに設置されていた巨大な看板が突風にあおられて落下。明良はハンドルを切って躱そうとするが、やはり看板を避けようとした対向車と激しく衝突してしまう。咄嗟にお腹をかばう千花だったが、それまで感じていた命の鼓動が消え、セーラー服姿の自分がいるそこは、十年前の五月十八日、陵南高校二年A組の教室だと気がつく。
 この日から十日後、五月二十八日の夕暮れに、足の怪我でサッカーの道を断念した明良が、千花の似顔絵を描いたプリント用紙を紙飛行機にして教室の窓から飛ばす。それを千花がキャッチしたことでふたりの恋が始まるのだが、まだその運命の日には至っていない。千花はすぐにD組にいる明良に会おうとするが、突然、目の前の風景に亀裂が走り、五月十八日の教室へと戻されてしまう。しかもこのループには厄介なことに、繰り返すたびに一番大切なひとの記憶が失われていく無情な法則があった。
 いっぽう時間差でこの十年前の世界にやってきた明良も千花を捜すが、こちらでは彼女から「私を捜さないで」と釘を刺されたうえ、やはり何度も五月十八日に戻されてしまう同様の事態に陥っていた。
 こうして明良は高校時代あまり親しい間柄ではなかったクラスメイトの宇崎と櫛名静子、千花は優等生の谷口有喜斗とともに、お互いを捜しながら、紙飛行機がふたりを結びつけた五月二十八日を目指すことになる。
 ループを繰り返して記憶をすべて失ってしまう前に、ふたりは再会を果たすことができるのか——という興味に加え、著者はさらに複数のミステリ的趣向を駆使して物語を巧みに盛り上げていく。運命の日の前日に起きたF組の女子生徒——小町美歩の暴行事件の阻止、学校中にたくさんの紙飛行機が落ちていた「紙飛行機大量散布事件」をめぐる推理、サッカー部で明良のよきライバルだった龍之介が乗る自転車を倒して足を負傷させた犯人捜し、そして物語の隠れた貌が顕わになる本作最大のサプライズにつながる終盤の謎解き。
 こうしたシークエンスを経て読者の胸に深く刻まれるのは、最愛のひとに向けて手を伸ばし続ける想い=「紙飛行機」を何度失敗してもあきらめずに投じ続ける不屈の精神ともうひとつ、届かなかったいくつもの紙飛行機も拾い上げてともに飛び立とうとするような、希望を信じられる者だけが抱くことのできる潔い決意だ。
 その澄んだ輝きを浴びながら迎える新たな始まりを示すラストは、優れたエンタテインメントでしか味わえない深く心地よい余韻を必ずやもたらしてくれることを約束する。
 著者はこれまで、浅草を舞台にした人情味あふれる怪異譚「下町アパートのふしぎ管理人」シリーズ(角川文庫)の上梓だけでなく、『私アプリ』でのスマホ小説大賞2014・角川ホラー文庫大賞受賞、小説をLINEやフェイスブックメッセンジャーのようなチャット形式で読み進める「チャット小説」のアプリ「peep」「TELLER」の公式作家を務めるなど、従来の型に囚われない活動を通じて実力を伸ばしてきた。その分、文芸ファンへのアピールが思いのほか行き届いていない観もあったが、これからは初の単行本となる本作が「小説家・大城密」の強力な名刺代わりとなることだろう。この才能から、くれぐれも目を離してはならない。


ご購入&試し読みはこちら>>大城密『何度でも、紙飛行機がとどくまで』


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