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>>第2回『麒麟児』
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第3回のベストレビューは、吉田あや さんの『逆流』に決まりました。吉田あや さん、ありがとうございました。


「私…母を殺したんです。」不穏な過去を語った少女が誘拐された。欠け落ちていく記憶、明日へと導くメモ。逆流しながら進んでいく、スリルに満ちた追憶のサスペンス。

レビュアー:吉田あや さん
弓月苺を誘拐した。助けたければ、現金二億円を用意せよ。
芸能事務所「ドラゴンプロモーション」に所属する、女子高生にして売り出し中の女優・弓月苺の誘拐についての身代金要求が社長である勅使河原の元に届く。

誘拐と並行して、ライバルプロダクションの社長からの強請りに、所属タレントの薬物使用による逮捕、長年行方不明となっている、若き日の社長自らが所属していたバンドメンバーの行方の追跡、欠け落ちていく記憶…と、一見無関係である事柄が複雑に絡み合い、長い時を経て哀しい過去がひとつに繋がりゆき、真実を現す時を待っていた。

勅使河原は日々進行していく記憶障害を誰にも打ち明けず抱えながら、些細なことも詳細にメモとして残し、日記へと記すことで明日の自分に繋ごうと努力するものの、未来の自分に全てを届けることは難しく、記憶とともに零れ落ちる過去の忘れ物に苛立ち、焦り、事実は混沌としていく。

初めてあった夜「私…母を殺したんです」と告白した苺。苺を執拗に追いかけるストーカー「ストロベリーファーム」。次々に苺の周りで起きるアクシデント。それでも不思議とそのトラブルは次の瞬間、幸運へと転じていく。スターの証とも言えるが、「奇跡」は「疑惑」の裏返しでもあり、遡る日記から見えてくる不穏な符号にゆらゆらと翻弄される。

「頼りになるのは過去の事実だけ。」激しい逆流に身を投じ、真実の記憶を持たない恐怖を主人公と共に体感しながら、メモだけを頼りに欠けたパズルのピースを追い求める、スピードとスリルに満ちたサスペンス。辛い過ちを冷たい記憶の底に沈めてきた勅使河原に過去との邂逅が訪れる時、激しい逆流の源泉には思いもよらない真実が待っている。

若さゆえに暴走し、見失い、いつまでも胸を刺す過去の過ちや後悔は、誰しもの人生に横たわっている。時間をかけ、深く刺さった棘を取り去る時、パンドラの箱は思いもかけない境地へと導くこともあり、何かの引力に惹かれるように辿り着いた真実の先なら、それは永遠を意味する場所にもなり得るのかもしれない。遡ることで見えてくる様々な人物や事件、見え隠れする真実の欠片たちを繋ぎ合わせる時、見えた景色は澄み渡らずとも清々しく、解ける想いが柔らかに広がっていた。

書誌情報はこちら>>『逆流』

☆吉田あや さんレビューページはこちら→https://www.honzuki.jp/book/274566/review/222125/(本が好き!)

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勝海舟がすごすぎる。たぶん、作者の冲方丁さんは、勝の大ファンだと思う。

書籍

『逆流』

田中 経一

定価 1728円(本体1600円+税)

発売日:2019年01月31日

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