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レビュー

史上最凶のダークヒロイン、再び見参!JKビジネスや特権階級など日本の闇を力づくで暴き出す『高校事変Ⅱ』

文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

(解説者:タカザワケンジ / 書評家)

 まつおかけいすけ作品を手にしたらすぐに、ちゆうちよなく読み始めるべきである。なぜなら、それぞれがいま書かれるべくして書かれた作品だからだ。とくに現代を舞台にした作品については、細部にわたってこの時代を象徴する小道具や隠語、流行語がちりばめられ、いまを生きる私たちにとって実にリアルな、そして、想像の斜め上をゆくぶっ飛んだストーリーを展開している。『高校事変 Ⅱ』ももちろんその一つ。松岡圭祐ならではのエンターテインメント・シリーズの第二弾である。
 時代といえば、元号が平成から令和へと変わった。『高校事変』の一作目が刊行されたのは令和元年五月二五日。つまり、『高校事変』は令和に産声を上げた新しいシリーズだ。主人公のゆうはもっとも早く登場した令和のニュー・ヒロインの一人だろう。しかもそれからわずか二カ月後にこの第二弾が刊行された。驚異的なスピードである。
 優莉結衣は高校二年生。前作では武蔵むさしすぎ高校占拠事件に巻き込まれ武装した男たちと果敢に戦った。しかもほとんど単身で。こう書くと、正義感にあふれた英雄的なヒロイン像が思い浮かぶかもしれない。しかし彼女はそんな単純なキャラクターではない。父親は七つの半グレ集団を率い、「平成最悪のモンスター」と呼ばれた極悪人。半グレ集団は強盗や詐欺、麻薬売買、暴力団との抗争など次々に事件を起こし、サリンやVXガスまで開発した。ついにはぎんのデパートでサリンを散布し、犠牲者を多数出した。思想的背景はなく、ただ欲望のままに起こした犯罪とされ、平成最後の年に幹部たちとともに死刑が執行された。
 父が逮捕されたとき結衣は九歳。児童養護施設に引き取られ、警察の監視を受けながら育った。このプロフィールからは、世間から白い目で見られる不幸な生い立ちがイメージされる。しかし、その姿もまた彼女の実像とはほど遠い。父とその仲間たちは、幼い彼女に徹底した訓練を施し、犯罪のノウハウと生き抜く力を教え込んだ。美しい容姿とは裏腹の人間凶器。それが彼女である。しかし、周囲には、彼女を危険視する公安警察の関係者か、子供に罪はないと考える人権派の支援団体しかいなかった。誰も彼女の本当の姿を見ようとはしていない。
 今作で結衣が通っているのはかつしかひがし高校。前作の武蔵小杉高校とは対照的な場所にある。神奈川県かわさき市にある武蔵小杉は、近年、高層タワーマンションが人気を呼ぶ新興住宅地。一方、こちらは都心をはさんで反対側の東京東部、下町の風情を残す土地柄である。高校には売春をしている女子もいれば、折りたたみ式のナイフを突きつける悪ぶった男子もいる。だが、彼らが結衣に指一本たりとも触れることができるはずもなく、今回、彼女が戦う敵は校外にいる。
 戦うヒロイン、結衣に対して、この物語にはもう一人、事件に巻き込まれる人物がいる。結衣が住む施設に住み、同じ高校に通う、一学年上のしまである。奈々未には施設に一緒に住む中学一年の妹、がいる。二人は早くに母を亡くし、父はしつそう。奈々未は入所費用を支払うため、JK専門のデリヘルで売春をしていた。理恵はその事実を知らなかったが奈々未が行方不明になってしまう。それまで奈々未とも理恵とも関わりを持たなかった結衣は、奈々未の行方を捜す理恵に手を貸すことになる。しかし、単独行動を取った理恵は奈々未が所属していた売春組織に捕らえられ、暴力団員たちの〝生け〟パーティに、生けにえとして差し出されてしまうのだ。結衣は奈々未を捜しだすことと、理恵を救うという二つのミッションに挑むことになる。
 結衣は他人と距離を置き、何事に対しても超然とした態度を貫いている。降りかかる火の粉を払うだけなら小指一本動かすだけで足りる。彼女が本格的にその「才能」を発揮するのは事件に巻き込まれたときである。前作では首相が訪問するというタイミングで起きた高校占拠事件がそれにあたる。映画『ダイ・ハード』よろしく、校舎という限定された空間で武装集団と戦うという事態が、彼女の闘争本能に火をけ、その才能を開花させた。今回は奈々未と理恵の災難に巻き込まれていくかたちになるのだが、本来、結衣に彼女たちを助ける義理はない。では、なぜ関わることになったのか。一つは同じ女性としての同情と怒りがあったからだ。彼女たち姉妹を追い詰めるのは未成年の女性を食い物にしようとする男たちだからだ。しかし、結衣はそれだけの理由で事件に首を突っ込むほどお節介なわけではない。彼女にはもう一つの理由、暴力を振るいたいという隠された欲求があったのである。そのホンネを見抜いたのは、意外なことにJK専門デリヘルの元締めをやっているしろやまというチンピラだ。

やはりろくでなしほど、結衣の真意に気づきやすいようだ。皮肉とともにそう思った。
暴力の衝動に逆らえないという意味では、DVを働きたがるクズと変わらない。幼少期から刷りこまれた下地のせいか、人を殺すのにためらいがなかった。
(中略)むやみに暴力を振るわないのは、公安の監視対象だからだった。ときと場所を選ぶ考えが自然に備わっていった。社会に迷惑をかけてばかりいた極悪人の父とちがい、ぶざまに死刑に処せられるつもりもない。自分は自分として生きる。

 結衣は自身の暴力への欲望を自覚している。「自分は自分として生きる」という考え方は彼女がこれまでの人生で培ってきた哲学であろう。また彼女は暴力や犯罪について熱心に研究している。先ほど、前作は映画『ダイ・ハード』よろしく、と書いたが、結衣は前作で『ダイ・ハード』の「映画のウソ」を指摘していた。ほかにも『沈黙の艦隊』『ザ・ロック』『トイ・ソルジャー』などに言及しているなど映画をよく見ているようだ。むろん、この知識は作者の松岡圭祐のものでもあるから、松岡が幾多のアクション映画を踏まえた上でよりリアルなアクション小説を志向しているとも取れる。今作ではベン・アフレック監督・主演の映画『ザ・タウン』について触れ、やはり結衣が父から教えられたという「映画のウソ」を指摘している。
『ザ・タウン』はボストンの一角にある犯罪率の高い地域が舞台。親から子へと強盗のやり方が伝授されることすらあるという、この地域に育った男たちが銀行強盗を繰り返し、追い詰められていく物語である。作中で指摘されているのは冒頭の銀行強盗での犯人たちのふるまいについてである。だが、映画の内容も興味深い。ベン・アフレックが演じる主人公は銀行強盗はするが、暴力行為はなるべく避けたいと考えている。しかし、幼なじみで親友、強盗の相棒でもあるジェムはカッとなると暴力衝動を抑えられず、物語が暗転していくきっかけをつくる。
 結衣はこの映画をどのように見ただろうか。暴力への衝動を抑えられない人間は破滅する。いや、それ以前に「自分は自分として生きる」ことができなくなる。結衣が理恵とともに施設を抜け出そうとする場面で、結衣がカミュの言葉を引用する一節も印象的だ。結衣の指示通り脱出できるか不安に感じている理恵に結衣が言う。

「生(せい)への絶望なくして、生への愛などありえない」
「はい?」
「アルベール・カミュの著作にそう書いてあった。正直よくわかんない。絶望したことないし」

 その前に理恵は結衣の本棚にカミュの本を見つけている。結衣が引用した言葉はカミュの最初の著作『裏と表』の「生きることへの愛」という紀行エッセイからだ。旅をする人がしばしばそうであるように、カミュも思索にふける。そして、金色に輝く太陽が照らし出すスペインの僧院を見て、それが崩壊してしまうという幻想に囚われる。カミュの代表作『異邦人』もまた、やはり太陽の光に満ちた地中海を舞台にした小説だった。殺人を犯したムルソーは、その動機を「太陽のせい」だと答える。太陽は世界を輝かせるが、同時にそれがやがては失われることを暗示している。カミュは二十世紀最大の小説家、哲学者とも言われているが、その理由の一つは、私たち現代人が心に抱えた不条理な虚無感を表現したからである。暴力や死への衝動でさえ、その根っこには薄気味悪いほどの空洞があるのだと。だが、「生きることへの愛」でカミュは、生への絶望は生への愛の前提条件だと書いている。
「絶望したことないし」という結衣の言葉をそのまま信じることはできない。むしろ彼女は九歳で絶望から人生を再スタートしたのではないだろうか。だとすれば、この言葉をそらんじている結衣は、生への愛を渇望しているとも解釈できよう。
 結衣は自身の暴力衝動を抱え、それをコントロールしながら生きている。だが、ときには爆発させる。それは傷つけられてもしょうがない人間、殺されてもしょうがない人間たちに対してである。この世に傷つけられてもいい、殺されてもいい人間などいないというのは正論だ。だが、「死んじまえ!」と言いたくなるような鬼畜の所業が存在することもまた事実だ。善良な市民としては否定すべき極論も、フィクションのなかでなら許される。松岡圭祐はそのような私たちの無意識的な欲望を、エンターテインメントに昇華している。だが、大衆の欲望は時代とともに変化し、怒りの対象もうつろいやすい。結衣が戦う相手には、いまを生きる私たちが納得できるものでなければならない。松岡圭祐の作品を「いま」読むべき理由はここにもある。
『高校事変 Ⅱ』で結衣が戦うのは、子供をき殺しても逮捕されなかった「特権階級」、女性を性と暴力のはけ口としてしかあつかわない者たちだ。彼らには平成末期から令和にかけて盛り上がる#MeToo(ミートゥー)運動や、社会に広がる格差を象徴する存在だ。彼らと戦う結衣のアクションの切れ味は抜群でりゆういんが下がる。そのそうかいかんに、私はクエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』を連想した。この作品の魅力の一つは胸のすく結衣のアクション・シーンであり、『キル・ビル』のみならず映画をほう彿ふつさせる場面があるのもうれしい。包丁で手首をぶった切るシーンはとうしゆん監督の『女囚さそり けもの部屋』を、首がぶっ飛ぶシーンはすみけん監督の『子連れ狼 三途の川の乳母車』を思い出した。どちらも名高いカルト・ムービーで、タランティーノにも影響を与えている。松岡圭祐も彼らに連なるスケールの大きなクリエイターだと私は思っている。
 優莉結衣は暴力を自在に操るさつりくの天使だ。しかし、彼女はまだ十七歳の少女でしかない。その過去には謎も多く、まだまだ秘められた物語がありそうだ。熱い期待を込めて今後の展開を見守りたい。

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