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特集

令和時代の新・家族小説の誕生! 『家と庭』文庫化記念特別公開――森見登美彦×畑野智美対談「家族のはなし」

撮影:内藤 貞保  取材・文:大迫 力(140B) 

森見作品の大ファンだと語る畑野智美さん。
家と庭』連載が始まる際に森見登美彦さんと家族について語り合った対談をお蔵だし! お二人の家族のおはなし、家族小説への思いを語り合っていただきました。
(野性時代2014年11月号特集『わたしの「家族小説」』より)


――畑野さんは森見さんの大ファンとのことですが、森見さんの作品のどんなところがお好きなんですか?


畑野:好きなところ……。すべて好きです。私は森見さんに関してはちょっとダメなファンというか、森見さんが書くものなら何でも好きですという感じで。

 もう単語一つ、言葉の選び方からして好きです。


森見:僕の小説をすごく読んでくださっていると聞いていたので、今回すごく緊張しています(笑)。


畑野:一ヶ月半で全部読み返してきました。こういう考えはダメなのかもしれないですけど、森見さんの小説さえ読んでいれば満足だから、自分は書かなくてもいいなっていうぐらい(笑)。


森見:何がそう思わせるのか、ぜひ知りたいですね。僕は何なんだろう?


畑野:改めて考えてみると、やっぱり読んでいて圧倒的に楽しいってことですね。森見さんはインタビューで「書くときにはあまり映像は浮かんでこない」とおっしゃっていたことがありましたが、『きつねのはなし』だったらその暗さがすごくちゃんと伝わってくるし、『有頂天家族』だったら可愛さが伝わってくる。それに、読んでいて気持ちが暗くなる要素がないところも好きです。『きつねのはなし』みたいに暗い雰囲気の話でも、読むことがすごく楽しい。森見さんの作品は何を読んでも基本は楽しいんです。明るいことを書いていなくても楽しいというのは、他の作家さんの小説ではなかなか味わえない感覚だと思います。



森見:嬉しいです。こういう風にしたいとぼんやり思いながら小説を育てて行くという感覚なので、たぶん計算してやっていることではないんですよね。自分が小説を読む時のことを考えると、最後は明るい気持ちで終わりたいので、怪談を書くにしても、ただ単に後味のイヤ~なものを書こうとは思いません。

『有頂天家族』と「森見家」


――今回は家族小説がテーマですが、森見さんには『有頂天家族』という作品がありますね。


森見:『有頂天家族』の場合は家族というテーマよりも、まず狸と天狗が書きたくて。その設定の中で涙を流すシーンやドラマチックな場面を書こうとすると、家族ものが一番それに当てはまるかな、と。

 あとは狸鍋ですね。童話の「ピーターラビット」はお父さんが人間に食べられてしまうんです。それを狸に移してお父さんが鍋にして食べられたことにしようとか、そんなことを考えているうちに、「じゃあお父さんはどんな人だったんだろう?」と想像が膨らんで家族の物語になっていったんです。


畑野:主人公の下鴨家の四兄弟が、雷が鳴ったらすぐにお母さんのところに飛んでいくというのがいいですよね。あと、蛙になって井戸の中に引きこもっている次男の矢二郎を気にして、兄弟が一人ずつ会いに行くというあたりも。家族がちゃんとつながっていながらも、べったりし過ぎていない感じが素晴らしいなと思うんです。一番下の弟の矢四郎だって、すぐにしっぽがポンと出ちゃうくらい化けるのがヘタだけど、お母さんを守らなきゃいけないと頑張っている。みんなが家族の一員として強い気持ちを持っているのが素敵です。


――『有頂天家族』の下鴨家にはモデルがいるのですか?


森見:モデルというわけではないですが、うちの家族の雰囲気は下鴨家に近いかもしれません。別に雷が鳴ったら家に帰らないといけないわけではないですけど(笑)。三人兄弟で、僕が長男で、妹がいて、その下に弟。兄弟同士や親子の距離感とか、母親とのやり取りなんかは、そのままではないにしても自分の家族から類推して狸たちを作っているところがありますね。


畑野:『文藝』の森見さんの特集(二〇一一年夏季号)で、昔書かれた日記が載っていましたよね。お父さんとお母さんのベッドで兄弟みんなでお話しするみたいなことが書かれていて、すごく仲の良いご家族なんだな、と。こういう体験が作品にも影響するのかな。


森見:そうかもしれません。逆に僕はギスギスした家族を書けと言われても困るんですよ。自分では想像ができないから、たぶん取材したりしないとかけない。だから、自分が家族から受けた影響は作品に滲んでるんでしょうね。



 例えば、泣ける場面を書くときに、僕の場合、自分の家族とのやり取りの中で感情が動いた場面を思い出して、その感覚をスライドさせて書いたりしています。『有頂天家族』だったら、お父さんが鍋になってしまうきっかけをつくったのが自分の弟だったと知って悲しむ長男を、お母さんが慰める場面。あそこの台詞は、昔、母親が言った言葉を利用しているんです。こんなことを言うともったいないですけど、僕が作ったわけじゃないんです。


畑野:うちは森見さんほど家族仲が良くないので、そのまんま書くとギスギスした話になってしまいますね。父親との壮絶な確執みたいなものが私の中にはあって、あまり愉快な話がない(苦笑)。だから、森見さんの小説を読んで羨ましいなという気持ちも少しあるんです。


森見:小説を書いた後で、「そういえば現実の家族もこうだった」と気づくこともあります。『有頂天家族』の夷川早雲(*四兄弟の父親・下鴨総一郎の弟。兄弟たちの叔父)は下鴨家と仲違いしていますが、なぜそうなったかを考えると、知らないうちに自分が叔父さんと結びついてしまって。僕が小学生くらいの時まではやり取りがあったんですが、疎遠になったんです。小説を書き終えたあとで、叔父さんのことを思い出してびっくりしました。


畑野:家族のことって、自分とぜんぜんちがう環境で書くのはすごく難しいと思います。私は単純に家に父親がいるということがあまり想像できなくて、私が書く小説は、だいたい父親が家にいない。『海の見える街』の二話目の「ハナビ」(*主人公は実家で両親と弟と暮らしている)くらいじゃないかな。

 父親が家にいて思春期の娘と一緒に住んでいる状況がまったく想像できないから、逆に両親が揃った普通の家族を書くことが――普通というのはないと思うんですけど――一番難しいと思う。ものすごく仲がいいとか、ちょっと異常な感じにしてしまった方がまだ書きやすい。それくらい家族のことって気づかないうちに自分の身体に染みている。

畑野智美が「家族」を書く理由


――畑野さんも次回作で家族について書こうとしているとうかがいました。


畑野:四人兄弟の三番目の長男が主人公なんですが、話としては女性たちの話にしたいと思っています。お母さんの実家で、おばあちゃん、出戻りのお姉ちゃんとその娘、仕事をしている二番目のお姉ちゃん、そして妹という四世代の女性が住んでいる中に男の子がぽつんといる。家の中に他に男性がいない方が良いと思ったので、お父さんはジャカルタの方に転勤していることにしました。

 タイトルも決まってないし、原稿もまだ書いてない(*対談当日時点)。どんな話になるのか……書かなきゃわかりません(笑)。ただ、なんとなくデビュー作の『国道沿いのファミレス』を書いた時みたいに書けるといいな、と思っています。これは家族小説と謳ってはいませんが、登場人物たちの家族の話がたくさん出てきます。いつかもう一度、家族が出てくるものを書きたいなと思っていたんです。

 それと同時に、たくさん書いているうちに小説と自分がどんどん離れていく気がしているうんです。だから、また近寄りたいなという気持ちがあって。『国道沿いのファミレス』は私にとってすごく密接なんです。新人賞に応募するためにこの作品を書いている時、私はフリーターで、当時はバイトをするか小説を書くかしかなくて、小説の主人公だけが自分の友達っていう状態でした。まだ四年くらいしか経っていないんですけど、今だと並行して何本も書いていて、ある程度頭も切り替えていかなきゃいけないので、前みたいに一冊一冊と密接に過ごすことがなくなってきたんです。二十代半ばの男の子を主人公に書くのは久しぶりだし、もう一回作品と密接な関係を築きながら書ければと思っています。



――そのテーマに家族を選んだわけですね。


畑野:結局、父親と、確執とも言えないような疎遠な関係にあることが私の中ですごく引っかかっているということなんでしょうね。もしかしてあと何年かしたら、ある日突然父のことを何とも思わなくなる日が来てしまうかもしれないって思うこともあるんです。そういう危機感があるうちに、デビュー作と同じように作品に寄り添いながら、家族というものを書きたいんです。


森見:畑野さんの小説を読んでいると、家族を描く時にピリッしたものを感じます。おそらく家族に関してはちょっと複雑な心境があるんだろうと感じていました。

作品に滲み出る家族という存在


――森見さんは今後、家族というテーマをどう描いていきたいと考えていますか?


森見:僕も今まさに『有頂天家族』の第二部を書いている最中なんですが、天狗の赤玉先生とその息子の確執とか父親と息子の対立が非常に多くて、ちょっと気持ち悪い感じになってしまいました。ひょっとすると第二部を父親が読んだら辛いかもしれません。第一部の狸の子たちはみんな父親を尊敬していましたけど、天狗は父親に平気で「死ね」とか言いますから(笑)。

 小さい頃は和気藹々としていても、ある程度の年齢になってくると、息子にとって父親はどうしても気になってくる。特に僕の場合、小説家になることを父親にずっと反対されていましたから、仕事を辞めて専業になろうとした時も、どうしても父親が「うん」と言わないとできないという思いがあって。それも本当の父親というより、自分の頭の中で作った、「きっとこう思っているに違いない」という想像の父親に、自分の決断が束縛されているような感覚で。それがすごく気持ち悪いものだったので、第二部に出てきてしまったんでしょうね。

 だから、父親がたまたま出張で東京に来る日に約束して、一緒にイタリアンレストランで晩ご飯食べて、「そろそろ辞めたいんだ」と切り出したんです。それで父親が「まあ、もうそろそろ良いんじゃないか」みたいなことを言った時に、ようやくこれで辞められるとほっとしました。それぐらいの手続きを踏まないと、自信を持って辞められなかったんです。

 父親も今は小説を書いていることを応援してくれているけど、今も僕の心のどこかには「ああ、父親が望んだようにはなってないんだろうなあ」という思いがあります。表向きはそんなに揉めたりしていないし、あくまで自分の想像の中で起こっている葛藤ですが。モヤモヤしていたものを実際の物語の形にしてみたら何が起こるだろう思って書いているところです。


――家族の関係からは逃れられないということなのかもしれません。


森見:家族というものを小説に出してきた時に、無意識のうちに子供の頃から刷り込まれている距離感とかが出てしまうんでしょうね。計算して押さえつけることはできるかもしれないけど、自然にするする書くと、どういう環境で育ったかが出やすい。「よそ行き」にしにくいというか、「作る」ということが難しくなってくる。

 そのぶん自分の感覚で動かしやすいから、作りやすいとも言えるんですけどね。そうすると今度はやりやすい半面、自分が出てしまう。もともと僕は自分を小説に晒してる方ですけど。


畑野:無意識に書くと自分がすごく出てしまう。それをコントロールして書きつつ、ナチュラルにしなきゃいけないから、そこがすごく難しい。


森見:登場人物たちの感情が湧きだして、読んでいる人も感情移入するシーンって、書いている方も自分の感情のタンクみたいなところから一部分をヒュッと出さないといけない。でも、そこで読者にバレるんですよ。「あ、この人はこういう時に心が動くんだ」って。家族小説の場合は特にそれが出やすいのかもしれない。


畑野:出すつもりはなくても、「あれ? 出てた」っていう。次に連載で書くものは、意識して自分の家族とは違うものにしようと思っています。


書影

畑野智美『家と庭』(角川文庫)


あらすじ

四季折々の花が咲く庭のある家で、母と姉と妹と暮らす望。大学を卒業して2年以上、近所のマンガ喫茶で淡々とアルバイトする日々を送っていた。だが、ただでさえかしましい家に、上の姉が娘を連れて出戻ってきた。女5人と暮らす日常の中で、人生に何も望まなかった「望」が、少しずつ変わっていく。友達以上恋人未満の幼なじみや憧れの女性、神出鬼没の烏天狗。下北沢に住まう人々のカラフルで愛らしい日常をみずみずしく描く。
●試し読み→令和時代の新・家族小説の誕生! 東京・下北沢で実家暮らしのフリーター男子のゆくえは、どっちだ!?――畑野智美『家と庭』試し読み

▼詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000280/



森見 登美彦

1979年奈良県生まれ。京都大学農学部卒、同大学院農学研究科修士課程修了。2003年『太陽の塔』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞しデビュー。07年『夜は短し歩けよ乙女』で山本周五郎賞を受賞。他の著書に『四畳半神話大系』『きつねのはなし』『ペンギン・ハイウェイ』などがある。

畑野 智美

1979年東京都生まれ。東京女学館短期大学国際文化学科卒。2010年、地元の複雑な人間関係のなかで生きる若者たちの姿をいきいきと描いた『国道沿いのファミレス』で第23回小説すばる新人賞を受賞。『海の見える街』では、繊細な筆致でみずみずしい恋愛を描ききり、大きな話題を呼ぶ。新人お笑いコンビの奮闘を描いた「南部芸能事務所」シリーズはいままでにない新鮮な成長小説として人気を博している。他の著作に、連続ドラマ化された『感情8号線』や、17歳の女子高生を主人公に1年の揺れ動く気持ちをかろやかに活写した『水槽の中』、若年女性の貧困をテーマにして大きな共感を呼んだ『神さまを待っている』などがある。

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