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特集

小説界と演劇界のトップランナーがとことん語ります! 恩田陸『ドミノin上海』刊行記念スペシャル対談

撮影:中岡 隆造  構成:編集部  取材・文:タカザワ ケンジ 

恩田陸さんの最新刊『ドミノin上海』が刊行されたことを記念して、2018年に自身の代表作『サマータイムマシン・ブルース』の続編『サマータイムマシン・ワンスモア』を上演した上田誠さんとの初対談が実現しました。群像劇、続編、コメディ、パズル……共通のキーワードが浮かび上がると、初対面とは思えない熱のこもった創作論を交わすお二人。ここまで明かして良いのでしょうか! 恩田ワールドの真髄にも迫る、濃密な対談となりました。
※「小説 野性時代」に掲載された対談をもとに、『ドミノin上海』についての対話を盛り込んだアナザーバージョンです。

群像劇でコメディでかつパズル


――今回の対談は恩田さんから上田さんを、とご提案なさったそうですね。


恩田:上田さんの『サマータイムマシン・ブルース』(以下『ブルース』)と『サマータイムマシン・ワンスモア』(以下『ワンスモア』)を拝見して、よくこんなすごい作品をって本当に思ったので。ぜひ、そのへんのお話をうかがえれば、と。


――ドミノ』から『ドミノin上海』まで約十九年。上田さんの『ワンスモア』も『ブルース』から十七年ぶりの続編という共通点があります。どんなご苦労があったかもうかがいたいと思います。


上田:恩田さんの『ドミノ』と今回の続編、僕の『ブルース』と『ワンスモア』は、群像劇でコメディでかつパズル。共通点がいろいろあるんですよね。最初にお聞きしたいんですが、『ドミノ』の続編の『ドミノin上海』で上海を舞台にされたのはどうしてですか。


恩田:『ドミノ』の舞台が東京駅だったので、続編をやるならどこだ? 上海だ! という単純な理由ですね。大きな都市で、いまイケてる場所だから。それで十何年前に取材に行きました。七割くらいが取材に基づいていてあとは想像ですけど。なんちゃって上海ですね。なんちゃって中国語だし。


上田:本当の上海が書きたいわけではなく、上海的なムードをやりたいということですよね。


恩田:東京の次は上海しかない。あのハデハデ感、キッチュ感がいいな、と。ピッカピカでどんどん変わっていく街。取材のとき、通訳の人が、日本のいろんな地方都市の名前を挙げて「ここは都会ですか」って聞くんですよ。ピカピカで新しくてお金がありそうな街が好きなんだってわかって、なるほどと。その雰囲気を出したかったんです。  ところで、上田さんに聞きたかったのは、あの複雑な『ブルース』と『ワンスモア』をどうやって書いたのかってことなんです。


上田:僕の場合はもともとゲームプログラミングをやってたんです。だからなのか物語を考えるときにもプログラムを組むような感覚が強いんです。マグネットに登場人物の顔を描いて、表裏を使って過去と現在の人の顔にして、マグネット十三個を動かしながら、話をひたすらつくっていきました。プロットの組み方が命になっている感じです。



恩田:劇団員の方たちと稽古場でエチュードをしながら台本をつくると聞いたのですが、それはセリフをつくっていくということですか。


上田:そうですね。骨組みは僕が書かないと。その場ではストーリーはなかなかできないので。


恩田:私はね、本当に行き当たりばったりなんですよ。書きながら考えてるっていう感じなんです(笑)。登場人物をチームに分けて、チーム別には考えるんですけど、この先どこでどうなるみたいなのはまったく考えないで書いてるんですよねえ。


上田:箱書きみたいなものもつくらないんですか。


恩田:ないですね。編集者の人が時系列表をつくってくれたので、それを見ながら、そういえばこの人しばらく出てきてなかったな、そろそろ出そうか――みたいな。だいぶ長期連載になってしまったので……。


上田:連載は並行して?


恩田:並行してですね。いつも大体五、六本。ドミノの締切の度にテンションを上げて、行き当たりばったりの書き方です。


上田:最初から計算した通りにつくっても面白くならないってことはありますよね。『ブルース』も、計算通りにやってもあんまり面白くならなくて。


恩田:そうですよね。パズルにも遊びの部分がないとダメっていうのはすごくわかります。


上田:本当にそうです。不思議なもので。だから『ブルース』も『ワンスモア』も、エチュードというかたちで膨らませていったんです。膨らませておいて、どこで伏線を回収しようかな、みたいな。


恩田:書いていてときどき変な登場人物が出てくることありますよね。この人、どうして出てきたんだろうって思うんだけど、あとで「ここで繫がるじゃん」ってなる。


上田:ありますね。計算できるものじゃない。あるドラマーがドラムのプレイで「興が乗ってくると四本の手足が連動して、一体となって叩ける」と言っていたのを聞いたことがあって、その感覚に近いですね。ハイになってくると、前にちょっと書いておいたことをいつでもひっぱりだせるような脳の状態になるというか。



恩田:わかる気がします。


上田:たまにですけどね。


恩田:『ブルース』を書いたときは、続編の予定はなかったんですよね。その気はなくても、無意識のうちにその先に育っていくような種をどっかに蒔いておくみたいなことってありませんか? 『ブルース』で、引っ掛かるところがあったんですよ。『ワンスモア』でその伏線がちゃんと回収されてるから「ええ!」って思って。


上田:『ワンスモア』のために、もうひたすら『ブルース』を読み返して種を発見する。


恩田:そうそう。答えはいままで書いてきた文の中にしかないんですよね。なんとなくここで書いといたほうがいいなみたいな感じは私もときどきあります。無意識のうちに種を蒔いているのかなって思うときがある。


上田:群像劇を書いていると、途中で脳がオーバーフローするんですけど、どうですか。脳内のスペックって限られているので、動かせる人数というのは決まってるんじゃないかと。僕は十数人ぐらいが限界。『ワンスモア』は過去と未来の人物が同時に出たりするから、二十数人になる。お客さんも覚えられないので、ここはまとめて説明しようとか、色味で分けようとか考えるんですけど。


恩田:登場人物が何をやっていたかを忘れちゃうんですよね。「この人、前にどんなこと言ってたっけ?」みたいな。連載だと毎回読み返さないと。『ドミノin上海』は二十五人と三匹が出てくるので、完全に限界を超えてました。ちゃんと把握できるのは十二人ぐらいまでじゃないですかね。一ダースぐらいが精一杯。


上田:僕の場合は舞台なので一人ひとりはクローズアップして書かないんですけど、『ドミノin上海』の場合はそれぞれのキャラクターまできっちり描いていながらの群像だから、馬力がいりますよね、登場人物を動かすのに。


恩田:そうなんですよ。ちょっと行き詰まると動いてくれなくなっちゃうんです。何か投入しなきゃなとか、誰かぶつけなくちゃなってことがあります。そういう意味では厳厳が動いてくれるキャラクターだったので、頼ってましたね。厳厳は唯一書いていて楽しいキャラクターだったので(笑)。この人が引っ張ってくれるだろうっていう登場人物がいるといいですよね。


上田:他にもこれは出しておくといいだろうというようなものはあったのですか?


恩田:ダリオや燦燦とか、動物はすごく役に立ってたな。


上田:ダリオの設定は、もともと考えられてたんですか?


恩田:ダリオがいきなり食べられちゃうっていう登場の仕方は最初から考えていました。食べられてそのままも忍びないなと思うし、じゃあパンダも風水師も出てくるし、幽霊にしようかなと。最初はプロローグだけ書いて「野性時代」に掲載して。その後本編を書くまで3年くらい間があいています。


上田:パズルの骨組みがいかに美しいとて、やっぱり大事なのはそのものというか。


恩田:そう。パズルがきっちりあってもそんなに面白くなくて、そこにむりくり押し込むような、はみ出した部分が面白い。


上田:上海というホットな街を舞台に、面白そうな人たちが奇天烈な行動をしているっていう状態自体の楽しさですよね。


恩田:そうです。ある種の祝祭感を描けたらなと思っていました。


上田:演劇の場合はとくに人物がアクションを起こさないと話が動かない。心情をモノローグで語るって手はありますけど、具体的な行動に起こすほうが話が面白くなるので、アクション優先で話を考えるところがありますね。


恩田:小説の場合は内面を描いたり、描写だけで話を進めていけるけど、でも、『ドミノ』は人物を動かしていくっていうのが重要。『ドミノin上海』の場合、一回全員を青龍飯店に集めなきゃいけないという縛りもあるし。だからこの人もっと動いてくれないかなって思ったりしながら書いていたときもありました。


上田:たくさんの人たちが、あるひとところに集まる話が好き、というところはあるんですか。


恩田:好きですね。『ドミノ』は映画の『マグノリア』がきっかけだったんですよ。いろんな人のいろんな話があって面白かったんだけど、てっきり最後は全員どこかに集まって終わるんだと思って観ていたら、そうはならなくて。「私だったら最後に一か所に登場人物全員を集める」って思って書き始めたのが『ドミノ』なんです。書くほうでも、いろんな人を多視点で描くのが一番書きやすい。実は一人称の小説が苦手なんです。自分しか見えない世界というのがすごく窮屈で。


上田:多視点のほうが立体的に物事が描ける。


恩田:そうです。多面的に書ける。いろんな人が入れ替わり立ち替わりっていうのが書きやすいんですよね。昔から『藪の中』が大好き。視点を変えると、全然違う世界に見えるっていうのが。読むのも書くのもそういうのが好きなので、群像劇を書きたいのかも。


上田:『ドミノin上海』は後半とくに、ちょっと時間を戻したり、角度を変えたり、急に寄ったり、逆に引いたりとか、変幻自在になっていきますよね。終盤に行くほどテンションが上がり、おそらく恩田さんの脳のクロックが上がっていく。とても面白かったです。


恩田:ちゃんとできているかは自分ではよくわからないんだけど、書いているときにある種の全能感があるんじゃないですかね。登場人物を動かしているから。『ドミノin上海』は人数的にキャパを超えて大変でしたけど。



なぜオープンエンドとなるのか


上田:恩田さんは『ドミノ』や『Q&A』、『MAZE』のような、パズル的というかシステム的なタイプの話がお好きなのかな、と。


恩田:そうです、好きです。デビュー作の『六番目の小夜子』からそうですね。ルールがあったり、こういう仕組みになってます、みたいなのが好き。


上田:システムをつくって、そこからほころびていくのもまた一興というか。


恩田:ほつれが面白い。あとグレーゾーンが好き。つくられたルールから、少しずつ外れていってっていうのが好きなんですね。


上田:僕はわりとトーンとマナーをできるだけ守りたいタイプだったので、以前は一つのトーンの中に違うルールやマナーが入ってくる演劇は嫌だったんです。でも、最近はそんなことはなくなって、急に変なものを登場させる話も楽しめるようになったんですけど。『ドミノ』でも、大体こういうシステムで進んでいくんだなってわかった頃に、急に予想外のものが登場してきたりする。そういうところが面白いんですね。


恩田:私も一時は読むほうも書くほうもかっちりしたエンターテインメントが好きだったんです。でも、だんだん年を取ってくると、ひょっとして、面白くないのも面白いの一部なんじゃないかって思うようになってきました。かっちりとした終わり方よりも、もやっとした終わり方とか、オープンエンドのほうが気持ちがいい。そっちのほうが自然だって。物語がきれいにたためたときの快感もあるんですけど、たためきれないほうが、いまの心情には合ってるなって思います。最近の作品はどんどんオープンエンドになっている感じですね。


上田:その感覚はすごくわかりますね。僕も最初はパズルがピッタリとはまっていく精緻なコメディがかっこいいと思ってたんですけど、オウム事件や阪神・淡路大震災、ニューヨークのテロ事件があって、この世界は伏線がきっちり係り受けされている世界ではなく、急にドーンって何かが起こって、説明がつかない、みたいなことに突然なるんだ——ということが、演劇界でもリアリティーを得だしてきたような気がします。伏線回収みたいなことがダサくなったというか。いまはまたトレンドなんですけど。


恩田:変化していきますよね。とくにいまは売ろうと思ってマーケティングを意識してもまったく無駄なので、逆に自分の好きなものをやるしかないですよね。意識したそばから古くなるから。いま自分がこれいいなって思うのをやるしかないなって思います。


恩田:タイトルはいつつけてます?


上田:けっこう早い段階ですね。


恩田:私も。タイトルが決まらないと書けない。私はポスターみたいな感じ。タイトルがバンとあって、イメージがあって、「血湧き肉躍るスペクタクル」みたいな惹句があって。そこに至る前は、こういう雰囲気の話、大体子供の頃に読んでたこういう話を書きたいな、あれを読んだときの気持ちになるような話を書きたいとかですね。


上田:まず第一手としては何から?


恩田:まず名前ですね。しっくりくる名前を書きたいので名前は一生懸命考えます。最初に一人考える。一人いれば、この人と付き合う人とか、この人に相反する人はどういう人だろうかって考えていきます。あとはやっぱり会話。最初はなんとなく書き始めてしゃべらせてみる。ぐだぐだしゃべるなとか、変な豆知識を言いたがるやつね、とか。話し方やセリフの内容でだんだん性格がわかってくる。最初からこういう人って設定してるわけじゃなくて、とにかくしゃべらせてみます。


上田:『ドミノin上海』のハードボイルド的な口調のパンダもしゃべらせてみて、だったのですか?


恩田:厳厳の場合はまず名前から。ガンガンって響きがいいなと、音から引っ張られて。取材で見た、上海動物園のパンダ舎のイメージも大きいです。パンダがマンモスから逃げている絵が飾ってあって。本当にそんな時代からパンダがいたのかと疑問に思ってるんですけど、振り返って逃げるパンダがものすごく性格が悪そうで、面白いなと。そういうきっかけもあります。



縛りがあるほうが書きやすい


上田:恩田さんと僕の共通項にシステムをつくるのが好きということがあると思うんですけど、システムにはシチュエーションという意味もありますが、書く方法もシステムに準じられていますよね。『Q&A』だったらQとAで全部書くというルール。そういう書き方もやっぱり好きなんですか。


恩田:縛りがあるほうが書きやすいっていうのはありますね。お題があったほうが書きやすい。なんでもいいよって言われるほうが困る。タイトルもそうですけど、まず自分にお題を、という感じですね。


上田:今回のハードルはこれです、みたいな。『ドミノin上海』でいうと、『ドミノ』よりもたくさんの人を動かすとか。


恩田:よりたくさんの人で、より派手に(笑)。


上田:僕もわりとそうです。コンセプトを立てるのが好きなので、今回はこういうコンセプトでやります、と。作家の内的なテーマとはちょっとずれますけど。

テーマは僕が勝手に考えてるだけってことが多くて。恩田さんはテーマはどうやって?


恩田:『Q&A』なら問いと答えだけでやるとか、単純なことしか考えないですね。テーマはあとから付いてくるもんだと思っているので。まず方法を考えて、書いてるうちに、もしかしたらテーマがあるかもしれない、と思えてくる。物理的に書かなきゃいけないので、書くことを牽引するものが必要。そのためにお題があったほうがいい。タスクを設定すると引っ張る力になりますよね。


上田:それってもともと気づかれてました? 僕はテーマは何か? を考えあぐねて苦しんだ時期があるんです。最近、経験的にお題とかコンセプトがあればいいんだってやっとわかってきたんですけど。


恩田:私はテーマを考えたことってないなあ。全然ないですよ。スティーブン・キングの言葉ですごく好きな言葉があって「テーマなんてスイカみたいなもんだ」。僕はクルマが好きでドライブ自体も好きだから、こうやって運転してるけど、トランクがあるからスイカも積めるねって。テーマはそのスイカみたいなもんなんだって。


上田:なるほど。大事にすべき順番がその順番ってことですよね。


恩田:すごくいいたとえだな、と。よく引用させてもらってるんですけど、そういうことなんじゃないかなと思います。


書影

恩田陸『ドミノin上海』


恩田陸ドミノin上海』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321908000115/



上田 誠(うえだ・まこと)

1979年生まれ、京都府出身。劇作家、演出家、構成作家。 創作のベースを京都に置きながら、作品を全国に発信している劇団ヨーロッパ企画の代表であり、全公演の脚本・演出を担当している。主な作品として映画「サマータイムマシン・ブルース」、映画「曲がれ!スプーン」、テレビ「ヨーロッパ企画の26世紀フォックス」(フジテレビ)。2010年、テレビアニメ「四畳半神話大系」のシリーズ構成・脚本を担当。14年第32回京都府文化賞奨励賞受賞。17年、「来てけつかるべき新世界」で第61回岸田國士戯曲賞受賞。17年、アニメ映画「夜は短し歩けよ乙女」、18年、アニメ映画「ペンギン・ハイウェイ」の脚本を担当。

恩田 陸(おんだ・りく)

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』でデビュー。2005年『夜のピクニック』で吉川英治文学新人賞と本屋大賞、06年『ユージニア』で日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門賞、07年『中庭の出来事』で山本周五郎賞、17年『蜜蜂と遠雷』で直木三十五賞と本屋大賞を受賞。近著に『祝祭と予感』『歩道橋シネマ』など。

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