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特集

堂場瞬一&池上冬樹が海外ミステリを語る! ~日本と海外の警察小説の違いから、2020年のマイベスト作品まで~ 作家デビュー20周年記念対談〈前編〉

撮影:橋本 龍二  取材・文:タカザワ ケンジ 

今年、作家デビュー20周年を迎えた堂場瞬一さんが自ら「警察小説の集大成」と語る新刊『刑事の枷』の刊行を記念し、文芸評論家の池上冬樹さんとのリモート対談をお送りします。大いに盛り上がった対談の模様は、2部構成でお届けすることに。その〈前編〉では、大の海外小説好きという共通点を持つ御二方に、『刑事の枷』の創作秘話から海外の警察小説/ミステリの魅力まで、縦横無尽に語り合っていただきました。

『刑事の枷』は、これまで書いた警察小説の集大成


池上:2021年は堂場さんにとって作家生活20周年だそうですね。おめでとうございます。まず新刊の『刑事の枷』(2021年1月29日刊行予定)についてお聞きします。堂場さんが得意とする警察小説ですが、(神奈川県)川崎市が舞台というのは珍しいですね。


堂場:神奈川県警だと、だいたい横浜市が舞台になるんですよね。華やかだから。川崎は南北に長くて、南と北とではぜんぜん違う町のようです。今回書いたのは川崎駅の南のほうで、独特のごちゃごちゃした雰囲気があるんです。


池上:作品を書く場合、考えるのはまず舞台ですか。それともキャラクターですか。


堂場:今回は舞台ですね。いままで横浜で何作か書いてきたんですけど、横浜よりも東京に近い川崎を無視していたという罪の意識が若干ありまして、1回書いておかなきゃと。昔からよく知っている場所でもありますし。


池上:混沌とした町を舞台に新米刑事を活躍させようという発想ですか。


堂場:そうですね。新人刑事にはちょっと荷が重い町。そこで鍛えてやろうという気持ちがあったんですが、計画したときには、もうちょっと明るい雰囲気の話になるのかなと思っていたんです。ただ、書き始めたのが、ちょうど新型コロナウイルスが広がり始めて外に出られなくなった時期で、最初の緊急事態宣言中に書き上げることになりました。私の生活自体にコロナの影響はなかったんですが、社会全体に漂ういやな感じがこの小説に乗り移ってしまったのか、結果的に少し重たい感じになりましたね。


池上:重いとおっしゃいましたが、主人公の成長小説としてよくできているし、後味はいいですよね。新米刑事が現在と過去の事件捜査に携わり、先輩のはみ出し刑事に使われて翻弄されますが、同僚や上司、恋人など関わってくる一人ひとりの存在が主人公を導いていく。はみ出し刑事の影山が主人公の村上に「自分の意思で動ける人間は、貴重な存在なんだ」と言いますが、警察内の人間関係がよく描けているなあ、と思いました。


堂場:ある意味、これまで書いてきた警察小説の集大成的なところがあるんですね。若い刑事とクセのある中堅の刑事をからませる。いままで若い刑事だけを書いたり、中堅の刑事を主人公にしたりと、どちらか1人だけを書いてきたんですが、タイプの違う2人をからませたらどうだろう、と。影山はメンター(指導者)としてはよくない人間なので、新人刑事の村上にあまりいい影響を与えていないとは思いますが(笑)。


写真

堂場瞬一さん


これまで書いたバディものの中で最も仲が悪い 


池上:村上は若いくせに昭和の刑事ドラマが好きだという設定。刑事として初めて現実の捜査に取り組むのも面白いし、影山とのやりとりもいい。シリーズとして続いていくのかなと思ったんですが、シリーズではないんですか。


堂場:ないですね。単発です。読者から希望があれば考えますが。


池上:影山と村上がこれからどのようにつきあっていくのかが読みたいですね。シリーズ化してほしいな。


堂場:どうなるかわからないですよ。影山がなんかやらかしてですね、村上が逮捕せざるを得なくなるとかね(笑)。もちろんそこにウラがあるんだけど。


池上:それもアリなんじゃないですか(笑)。派手な展開、予想外の展開を読者は求めるし、こんなことをするのかっていう驚きを読者は求めていますから。


堂場:影山と村上は気が合っているわけではないので微妙な関係ですよね。これまでいろんなバディものを書いてますけど、いちばん仲が悪い。


池上:そこがいいんですよ。リアルだなと思いました。それに、ワンシーンしか出てこないですが、村上を誘って車に乗せる捜査一課長の梶原が印象に残りますね。ひょっとしたら、別の作品にも出てきていたのかなと思ったけど、出ていないんですね。


堂場:出てきてません。初出です。


池上:何かバックストーリーがあって出てきたんだなと思いました。それくらい魅力的ですよ。


堂場:ああいうおっさん、大好きなんですよ。最近、ワンシーンしか出てこない人物にいかに爪痕を残させるか、というところに全力を傾けているところがありますね。全体の流れからするとあまり関係なかったりするんですけど、読者からすると「あれ?」って引っかかるようなところを残したいんです。


池上:先ほど「これまで書いてきた警察小説の集大成」とおっしゃっていましたが、なぜそうしようと?


堂場:いままで書いてきて、書き残した、書き足りなかった、粗雑だった、とか不満足な部分は必ず残ったんです。ちょうど20周年という区切りのいいところで、いままで書いてきたものをブラッシュアップして、どこまでいいものを書けるかに挑戦したかった。そういう意味での集大成ですね。


池上:なるほど。だからこそ続篇も書いてほしいですね。集大成のその先が読みたいですよ、読者としては。


書影

堂場瞬一『刑事の枷』
定価: 1,980円(本体1,800円+税)
※画像タップでAmazonページに移動します。


北欧発の“最強の警察小説”


池上:堂場さんは海外ミステリの読み手としても知られていますけど、ご自身の警察小説と、海外の警察小説との違いをどう感じていますか。


堂場:警察小説は結局、組織に依存するんです。主人公がどういう組織のどのへんのポジションにいるかで作品のテイストが決まってくる。警察の組織って国によってぜんぜん違うじゃないですか。成り立ちも違う。たとえば、海外は一匹狼の刑事を主人公にしやすいですよね。


池上:多いですね。日本の場合はペアで動かなきゃいけない縛りがありますから。


堂場:日本の警察小説の場合は、この20年くらい、主人公が組織の中でどうがんばるかが主眼なんですよね。海外の場合は、そのへんを無視して暴走する刑事がいっぱいいる。


池上:いま、北欧、中国、イタリア、フランス、次々に新しい警察小説が出てきて面白くなっていますよね。


堂場:でも、長く続いているものは意外と少ないんじゃないですか。長さで言うとマイクル・コナリーの刑「刑事ハリー・ボッシュ」シリーズが長いですよね。最初が1992年ですからまもなく30年。ボッシュもだいぶお年を召して、最新刊では膝を悪くして鍼を打ってる。アメリカ人も鍼を打つんだ、と驚きました。


池上:マイクル・コナリーはハリー・ボッシュもいいですけど、僕は最近『レイトショー』の女性刑事レネイ・バラードが気に入ってますね。能力があるのに上司に嫌われていて警察内部に敵がいる。深夜勤務しかやらせてもらえない。そういう制約を設けているのもいいし、物語としてもどんでん返しがある。マイクル・コナリーは大した作家だなとあらためて思いました。


堂場:僕が『レイトショー』を読んで思い出したのは、マイクル・Z・リューインの『夜勤刑事』。深夜勤務専門の警察官という、日本にはない勤務形態ですよね。『レイトショー』も日本の警察小説とはずいぶん色合いが違う。続篇の『素晴らしき世界』ではレネイ・バラードがボッシュと共闘する。コナリーはシリーズを混ぜていくのが上手いなと思います。コナリーはリンカーン弁護士のシリーズも書いてるじゃないですか。ボッシュと血のつながった、ちょっとややこしい関係の。


池上:母親が違う。異母兄弟ですよね。


堂場:その関係からすると険悪な関係になりそうなんですけど、実は意外と上手くお互いを利用したりして、あまり深刻にならずに物語を面白くしている。コナリーは初期のシリアスな作風が、あのあたりから少し変化してきたような気がしますね。


池上:変わってきましたね。コナリーに限らず、アメリカでは、近年シリアスなテーマがミステリになりにくい。暴力、麻薬、アルコール中毒、家庭内暴力……そういうテーマを扱っているのはむしろ北欧ミステリなんですよね。


堂場:そこでジョー・ネスボですか。


池上:「刑事ハリー・ホーレ」シリーズね。主人公をとことん追い詰めますよね、ネスボは。『スノーマン』でハリー・ホーレが指を1本失うんですよね。僕はこれまでたくさん小説を読んできましたけど、ハードボイルドのヒーローが指を失うなんて話は読んだことがない。肉体を欠損するなんてね。


堂場:顔も怪我でだいぶボロボロ。主人公をなんであそこまで追い込むかな、と。僕はネスボご本人が来日したときに対談でお会いしたことがあるんですけど、聞いておけば良かった。「作者としてつらくないですか?」と。


池上:情念を描きたいのかなと思いますけどね。妄執とか絶望にとらわれて刑事をはみ出していく。警察小説というよりも、情念にとりつかれてしまった男の孤独な単独行を描いた物語なのかなと。

 シリアスなテーマを書いている北欧ミステリの作家では、アイスランドのアーナルデュル・インドリダソンがいますね。「エーレンデュル捜査官」シリーズ。早くに離婚して、成長した娘が薬物中毒、息子がアルコール中毒になって関わってくる。そのうえ事件捜査というメインの話があって、こんな悲惨でやりきれない話と思うけど、これが読ませる。


堂場:ここ10年で新しく出てきた警察小説のシリーズの中でもいちばんの衝撃でしたね。島国だから家族の血筋が何百年もさかのぼれるとか、アイスランド独特の事情を上手く組み入れている。移民問題なんかも入れて、事件捜査の面白さもあるし、最強の警察小説じゃないかと思いますね。


池上:移民の問題と言えば、僕と堂場さんが共通しておすすめしているユッシ・エーズラ・オールスン。「特捜部Q」シリーズでしょう。移民の問題をあんなふうに物語にからめてくるのは、北欧の社会が大きな問題を抱えているからというのがわかってきますね。



2020年の海外ミステリ「マイベスト」とは?


池上:堂場さんはミステリ評論家よりもたくさん読んでるんじゃないかと思うくらい海外ミステリを読んでいますよね。書評を本にまとめてもらうと、これから海外ミステリを読みたい人の指針になるんじゃないですかね。


堂場:まあ、本気で書評を書くのは、自分にもう少し余裕ができてからでしょうね。書評を書くときって、あまり本音を書いてないんですよ。作家として読んでるところがあるから、俺だったらこうしないと思うところが絶対に出てくるわけです。この章はまるまるいらないとか。そういうことばっかり考えているから楽しみのためには読んでいない。勉強ですよね。


池上:そうなの!? 最近、いちばん勉強になった海外ミステリは何ですか。面白かったものでもいいけど。


堂場:池上さんは2020年は何をベスト1にしました?


池上:私のイチ押しは、2019年の12月に翻訳されたウォルター・モズリイの『流れは、いつか海へと』ですね。


堂場:いい本でしたね。6位くらいに入れました。私のベスト1はディーリア・オーエンズの『ザリガニの鳴くところ』。驚きがあったんですよ。現代のアメリカで、社会と隔絶された自然の中で少女が1人で生きていけるのかと。一応、ミステリ的などんでん返しもありますし。海外のミステリで読みたい「異世界感」があったので1位に推しました。


池上:僕もベスト10に入れました。読ませますよね。冒頭から前半にかけての少女が暮らす湿地の風景描写が上手くてねえ。そうか。堂場さんは『ザリガニの鳴くところ』が1位だったのか。ほかには?


堂場:ドン・ウィンズロウの『壊れた世界の者たちよ』。あの懐かしの人が、という感じで。それと、ジャニーン・カミンズの『夕陽の道を北へゆけ』が良かった。


池上:重厚でミステリの枠にとどまらない作品が好きなんですね。『夕陽の道を北へゆけ』はすごく良かったですね。


堂場:『夕陽の道を北へゆけ』はウィンズロウの逆サイドから描くメキシコって感じじゃないですか。ウィンズロウには捜査当局と麻薬組織の「戦争」っていう軸があるわけですけど、『夕陽の道を北へゆけ』は麻薬の犠牲になっている一般の人を通して描いたメキシコ。『壊れた世界の者たちよ』と『夕陽の道を北へゆけ』を両方読むと、いまのメキシコがわかる。ああいう重厚な話、大好きなんです。なかなか書くチャンスがないですが。



女性主人公の作品に挑戦


池上:『ザリガニの鳴くところ』と『夕陽の道を北へゆけ』はどちらも女性の苦難の物語ですね。カリン・スローターもそうなんですけど、最近、女性主人公の秀作が多い。堂場さんは女性の苦難の物語って書いてますか?


堂場:実は……2021年に書きます。


池上:そうか、そこにいくのか。堂場さんが『ザリガニ』と『夕陽』を選んだのが意外だったんです。もちろんどちらも傑作だからおかしくはないんだけど、何かあるのかなと思ったら、そうだったんですね。


堂場:実は、いままで女性主人公で1冊書いたことがないんですよ。いろいろ考えるところがあって、辛い目にあっている女性を主人公にして、彼女の再生物語を書きたいな、と。


池上:ほかに参考になりそうな女性主人公の作品はありますか。


堂場:北欧の警察小説は女性刑事がすごく多いですよね。北欧って言うと女性の社会進出が進んでいるっていう印象があるんですけど、やっぱりガラスの天井にぶち当たる。池上さんが大プッシュしていた『闇という名の娘』という作品がそうですよね。


池上:ラグナル・ヨナソンの「フルダ」シリーズですね。フルダは初登場の『闇という名の娘』では年齢が高めですけど、その後の作品で時代をさかのぼっていく。


堂場:私のほうは29歳の女性刑事が主人公です。ちょっと変則的な作品になると思うので、出たときには池上さんの感想を聞きたいですね。

〈前編〉おわり

※対談〈後編〉では、多岐にわたるジャンルの作品を驚異的なペースで生み出してゆく堂場瞬一さんの執筆テクニックに迫ります!

堂場瞬一『刑事の枷』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322007000496/

「堂場瞬一作家デビュー20周年」公式サイトはこちら
http://doba.jp/index.html


堂場 瞬一

1963年茨城県生まれ。新聞社勤務の傍ら小説の執筆を始め、2000年に『8年』で第13回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。警察小説やスポーツ小説など、幅広いジャンルの作品を執筆。

池上 冬樹(いけがみ・ふゆき)

1955年、山形県生まれ。立教大学文学部卒。文芸評論家。週刊文春、共同通信、産経新聞などで活躍中。著書に『ヒーローたちの荒野』『週刊文春ミステリーレビュー2011-2016 [海外編]名作を探せ!』、編著に『ミステリ・ベスト201 日本篇』など。長年、「山形小説家・ライター講座」と「せんだい文学塾」の世話役を務めている。2014年より宮城学院女子大学非常勤講師、19年より東北芸術工科大学文芸学科教授。

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