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特集

堂場瞬一流「小説執筆作法」を大公開! ~キャラクター設定の立て方から、シリーズ小説を書く極意まで~作家デビュー20周年記念対談〈後編〉

撮影:橋本 龍二  取材・文:タカザワ ケンジ 

堂場瞬一さんが自ら「警察小説の集大成」と語る新刊『刑事の枷』の刊行を記念した、文芸評論家の池上冬樹さんとのリモート対談〈後編〉では、堂場さんの執筆作法を大公開します! 警察小説、スポーツ小説、社会派ミステリなど、多岐にわたるジャンルの作品を驚異的なペースで生み出してゆく――そこには一体どのような秘訣が隠されているのか? 堂場さんの執筆作法について、池上さんが鋭く切り込む!

>>【前編】『刑事の枷』の創作秘話&海外の警察小説/ミステリの魅力とは?

警察小説もスポーツ小説も根底は同じ


池上:堂場さんといえば、警察小説、スポーツ小説の二本柱がありますが、スポーツ小説もいろいろなスポーツを書いていますよね。


堂場:スポーツ業界の回し者ではないので、マイナースポーツをメジャーにするために手助けしたいとか、そういう気持ちは一切ないんです。


池上:書くのは興味のあるものですか。


堂場:小説に向いているか、向いていないかで判断しているところがありますね。サッカーとかバドミントンとかテニス、卓球のような、ものすごくスピーディなスポーツは、試合場面が小説に向かないんですよ。漫画とかアニメとかなら最高なんでしょうけど、小説の場合は、動きを書いているだけで試合のシーンが終わっちゃうんです。試合中に選手が何を考え、戦略的にどう動くのかっていう描写を入れていく間がない。隙間があるスポーツが小説になりやすいと思っています。


池上:スポーツ小説と警察小説の決定的な違いはやっぱり試合の場面ですか。精神と競技の葛藤を描く楽しさなのかな。


堂場:でもそれも実は警察小説と同じなんですよ。捜査の苦しさ、楽しさと葛藤を、スポーツの試合に置き換えたらそのままかな、と。根っこは同じじゃないかと思っているところがありますね。

 警察小説は犯罪を描くものですから人間のエゴがからんでくる。スポーツも結局、エゴ=勝利への執念が強い人が勝つんですよね。俺は誰よりも強いと思って、それを証明するための努力ができる人が勝つ。根源には人間のエゴがあって、それを描きたいということに変わりはないわけです。



ストーリー変更は執筆時の醍醐味


池上:なるほど。警察小説もスポーツ小説も根底は同じとのことですが、では1本の小説をどのようにつくりあげているのか。先ほど『刑事の枷』では舞台が最初とおっしゃっていましたが、書き始める前にプロットはどこまで考えるんですか。


堂場:書き出す前には完全にできています。実はプロットとキャラクターをつくる作業のほうが大変なんですよ。書き始めると、1日に原稿用紙55枚ペースですから2週間もすれば終わるんです。その2週間を遅滞なく進めていくための前準備のほうが大変です。


池上:海外作家の小説の書き方本を読むと、キャラクターの履歴書をつくりなさいって書いてありますね。どこで生まれて、どう成長したか。そこまで考えますか?


堂場:そこまで詳しくは考えないですね。頭の中にはあるにしてもメモまではしません。


池上:頭の中ですか。


堂場:メモはとらないタイプなんです。プロットは編集者に渡して見てもらうために書きますけど、実はネタのコアになる部分については、メモをとったことがないんですよ。「今度のシリーズの、事件はあれでいって、こういう人をからませてこう解決するか」って一瞬で浮かぶんですけどメモはとらない。使えるネタだったら絶対覚えてるから。


池上:書いている途中でストーリーの変更はしないんですか。


堂場:します。それは書いているときの醍醐味ですね。プロットに矛盾が出てきて、違う方向に行かざるをえなくなると「ああ、俺いますごく苦労してるな。苦労している俺ってカッコいいな」っていう充実感があるんですよ(笑)。


池上:(笑)。書き終えたけど、書き直そうってことはないんですか。


堂場:全面改稿は1回もないです。基本的には、事前に編集者にプロットを見せて揉むんですよ、内容を。


池上:プロットは何枚くらい?


堂場:原稿用紙で5、6枚。あくまであらすじです。そこで徹底して揉んで、矛盾点を解決して、これで行きますよ、と書き始める。原稿ができたら、「前に話した通りに書いたから文句ないよね」と。執筆にとりかかったら遅れは許されないわけです。僕だけの問題じゃなくて、出版社から印刷会社から取次から書店まで、ぜんぶ影響が出ちゃうわけだから。そうならないために前もって準備をしておくわけです。

自分ができないことを登場人物に託す


池上:『刑事の枷』の主人公・村上翼は昭和の刑事ドラマを見てきた若者という設定ですが、キャラクターの味つけはどう考えていますか。


堂場:1つだけ特徴を考えます。ものすごく奇矯な人って、世の中にそんなにいないじゃないですか。1つだけ趣味がヘンだとか、1つだけおかしな習慣があるとか。それでいいと思うんですね。村上翼は「昭和の刑事ドラマを見て刑事になった若手」。それだけなんです、彼がほかの人と変わっているのは。


池上:『刑事の枷』もそうですけど、最近、飲食の場面がよく出るようになりましたね。いつ頃からですか。僕は『夏の雷音』が印象的なんですが。


堂場:食事シーンだけなら前から書いていたんですが、『夏の雷音』は神保町が舞台だから多くなりましたね。神保町は美味しいお店がたくさんありますから、あの町の魅力を出すためには、食べ物は欠かせなかったということですね。


池上:あの小説の飲食の場面は楽しかった。


堂場:最近、揚げ物ばっかり食べていると医者に怒られるので、だんだん食べなくなったんですよ。それで、そういうものを登場人物に食べさせたくなった。「若い人がいっぱい食べるのを見るとおじさん嬉しいよ」みたいな感じで書いてますけどね(笑)。


池上:『刑事の枷』にはパンケーキも出てきましたね。びっくりしました(笑)。


堂場:出てきましたねえ。川崎にはああいうお店もあるんだよ、ということです。


池上:しかもロバート・B・パーカーの探偵スペンサーの話もからめて。


堂場:「スペンサー」シリーズでパンケーキを焼くシーンがあるんですよ。そこで「パンケーキを食べるスペンサーに憧れた暴力団幹部」という設定にしようと。そういうヘンな場面を書きたくなるっていう悪い癖がありまして。


池上:パンケーキは、堂場さんもお好きなんですか。


堂場:好きですけど、そんなに食べられないですよね。糖質の塊なので。


池上:自分ではそうそう食べられないから登場人物に食べさせてやろうと。


堂場:そもそも小説を書くってそういう行為じゃないですか。自分ができないことを登場人物に託してやらせる。僕が捜査して事件を解決できるわけじゃない。それを刑事にやってもらう。150キロの剛速球を投げられるわけではないので、登場人物に代わりに投げてもらう。自分の願望を写しとるのが小説なら、それが食べ物であってもいいんじゃないでしょうか。

シリーズのエンディングを見据える


池上:シリーズものもたくさんありますよね。シリーズもののコツはありますか。


堂場:終わらせる前提で書くことですね。登場人物が年をとらない、サザエさん形式のシリーズだと、極端にいえば、終わらせるには主人公が死ぬしかない。あるいは人気がなくなって尻すぼみになっていつの間にか消えちゃう。どっちも悲しいので、「最後は決めていますよ。みなさんには言えませんけど、僕の中ではこういうエンディングができてますよ」ということです。シリーズが終わったときに、シリーズ全体が一つの大きな物語のようになってくれれば最高なんですよね。


池上:その考え方は堂場さん的ですね。編集者に「このシリーズは〇冊くらいで終わります」と言ってしまうわけですか。


堂場:宣言してます。最近で典型的なのは警察小説の「ラストライン」シリーズ(文春文庫)。主人公が定年になったところで終わらせますから、と言って50歳の刑事を書き始めたんですよ。年1作で10年で終わりますよと言って、物語の中に大きな謎を埋め込んだり、私生活の問題を入れたりしているんです。ただ最大の問題は、公務員の65歳定年制が実現したらどうなるんだ、ということ。シリーズ終了を延ばすのか……。いまどうしようかなと思っています。



念願の私立探偵小説「XXX」を発表


池上:いままでものすごく難渋した、うまく書けなかった作品ってありますか?


堂場:こういうときって苦労話をしたほうがいいんですよね。特にこれから小説を書こうという人のためには……でもないんです。ごめんなさい(笑)。


池上:そうは言っても初期は苦労したんじゃないですか? デビューしたての頃は編集者の権限が強いですし、いくら堂場さんがこれを書きたいと言っても「こっちを書いてくださいよ」と言われることが多かったでしょう。


堂場:ありましたね。ありましたけど、最初の頃って、自分がどんな路線に進んでいくのかわからないじゃないですか。本当はハードボイルドな私立探偵の話を書きたかったんですが、どこの出版社も買ってくれません。それで結局、警察小説のほうに行くわけですけど、そういう事情は最初の頃はわからなかった。編集者と、ああじゃないこうじゃないと話しながらやっていたことは、僕にとっては基礎固めの勉強でした。


池上:私立探偵小説といえば、ニューヨークを舞台にした私立探偵ものをついにお書きになりましたね。


堂場:楽しくて楽しくて。人生であんなに楽しかったことはないですね。どういう企画かというと、「小説現代」2020年12月号(講談社)に、私の名前を出さないで、著者名もタイトルも「XXX」として一挙掲載しました。次の新年号で作者が僕だということは明かしたんですが、タイトルを読者のみなさんから募集した。20周年の企画の一つとしてやらせていただきました。


堂場:堂場さんがここまで私立探偵小説を書けるとは驚きました。本当に好きなんですね。舞台はニューヨーク。しかも1959年です。


堂場:大事な年なんです。「ロックンロールが死んだ年」と言われているから。アメリカにビートルズが入ってくる前で、ベトナム戦争もまだ泥沼化していなかった。戦争が終わって、50年代のアメリカはものすごく豊かな時代でした。憧れの時代を書けてとりあえず満足です。


池上:アメリカ人の私立探偵が連続殺人の解決に挑む物語で、出てくる登場人物もアメリカ人ばかり。アメリカ人が書いたんじゃないかっていうくらい翻訳小説風なんですよね。


堂場:英訳してアメリカで発売してくれないかなと思います。本当は日本を舞台に私立探偵ものをやりたかったんですが、移植するのは難しい。日本で私立探偵を主人公にする場合、どうやってリアリティを出すかという問題が出てくるんです。アメリカみたいに正式な免許があるわけではないので、私立探偵が犯罪捜査に関わることにリアリティが感じられない。どうしてもその一線を越えられず、リアルに事件を捜査するなら警察官だよな、と。


2021年も堂場瞬一は止まらない!


池上:その判断も堂場さんらしいですね。2021年は作家生活20周年という記念すべき年ですが、『刑事の枷』が第1弾ですか。


堂場:出版日でいうと、文庫書き下ろしの『時効の果て 警視庁追跡捜査係』(ハルキ文庫)が早いですね。単行本としては『刑事の枷』が最初です。


池上:2020年も著書が10冊くらい出たそうですが、2021年も同じくらい出るんですか。


堂場:その予定です。


池上:スポーツものは?


堂場:出ます。続篇ではないんですが、これまで出したものとちょっと関連がある、タイトルを見たらニヤッとするようなものになると思います。架空の話として書いていたんですが、リアルになってしまいそうなのでビビってます。ネタバレになるのでそれ以上言えません(笑)。


池上:『刑事の枷』は本当に面白かったし、主人公の村上翼とそのメンターである影山康平のその後を読みたい。是非シリーズ化をお願いします。2021年もたくさん作品を書いてください。


堂場:ありがとうございます。

〈後編〉おわり

堂場瞬一『刑事の枷』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322007000496/



「堂場瞬一作家デビュー20周年」公式サイトはこちら
http://doba.jp/index.html


堂場 瞬一

1963年、茨城県生まれ。青山学院大学国際政治経済学部卒業後、新聞社に入社。記者や編集者として勤務するかたわら小説を執筆し、2000年『8年』で第13回小説すばる新人賞を受賞。01年に同作でデビュー。主な著書に「警視庁犯罪被害者支援課」「警視庁追跡捜査係」「ラストライン」「捜査一課・澤村慶司」の各シリーズほか、『天国の罠』『十字の記憶』『黒い紙』『約束の河』『砂の家』など多数。

池上 冬樹(いけがみ・ふゆき)

1955年、山形県生まれ。立教大学文学部卒。文芸評論家。週刊文春、共同通信、産経新聞などで活躍中。著書に『ヒーローたちの荒野』『週刊文春ミステリーレビュー2011-2016 [海外編]名作を探せ!』、編著に『ミステリ・ベスト201 日本篇』など。長年、「山形小説家・ライター講座」と「せんだい文学塾」の世話役を務めている。2014年より宮城学院女子大学非常勤講師、19年より東北芸術工科大学文芸学科教授。

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