30歳を目前に、婚約した千鶴。自分への恋心をひた隠す男友達に告白させるため、ある作戦を立てるが……。そんな千鶴が愛してやまないバンド、それが著者・住野よるさん自身も大ファンだというa flood of circle。作中には、彼らが2017年に発表した「Honey Moon Song」も、物語の重要なカギを握る楽曲として登場している。
そこで『告白撃』の発売を記念して、住野さんとa flood of circleのボーカルであり作詞も手掛けられた佐々木亮介さんの対談が実現!「住野よる史上最も酒量の多い作品」とあって、お酒を飲みながらじっくり語り合っていただいた。
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取材・文:野本由起 写真:鈴木慶子
佐々木亮介(a flood of circle)×住野よる
『告白撃』刊行記念対談【後編】
「普段は9割9分悩んでる。社会と折り合いをつけるために飲んでいるのかもしれない」(佐々木)
住野:今回は主要登場人物がみんな酒飲みなんですけど、酒を飲むバンドマンの飲み方すごいですよね。
佐々木:全員がそうじゃないけど、飲む人は多いよね。でも、住野くんはTwitter(現・X)を禁じられるくらい飲むんでしょ? それは、酒の味が好きだから? それともハッピーになりたいから?
住野:SNSは禁じられてるの半分、自主規制半分(笑)。酒を好きな理由も半々ですね。酔ってることが楽しくない日もあるんですけど、楽しい日も多いので。より楽しくなればいいなぐらいの気持ちなのかもしれないです。佐々木さんは、どれくらい飲まれてるんですか?
佐々木:会場入りして本番が始まるまでは、2本にしておこうと思ってて。2本以上いくと、「まあいいか」って気持ちが大きくなってくる。「ちゃんとしよう」って気持ちをまだ保てるのが2本くらい。
住野:ステージ上でも飲んでますもんね。
佐々木:自分が悩んでいることを曲に書くので、シラフで歌うと悩んだままなんですよね。自分自身も楽しめないし、みんなもこれ観たいのかなって思ってしまって。だから、自分とみんなをちょっと騙すために飲んでるんだと思う。
自分の場合、9割9分悩んでいて、残りの1分の日にライブができたらラッキー。それが曲を作る日だったら、「Honey Moon Song」みたいに自分もいいと思えて、みんなからもいいと言ってもらえる曲ができるんです。他の9割9分の日は、ちょっと嘘ついてないとやってられなくて。リアルな自分は毎日困ってて、どうにか吐き出して歌ったもので金をもらって、また1曲書く。だから、折り合いをつけるために飲んでるところがあるのかもしれない。
住野:僕の場合、酒は数少ない趣味でもあります。あとは、こんなこと言うと読者さんに心配されそうですけど、シラフで見るには世の中つらすぎる。やっぱり僕も「今、世界のどこかで人が殺されてるんだな」とか思ってしまって。
佐々木:まだ思春期してるんですよね。狂気とか陶酔について、思春期的に考えすぎてる。色んなものをドライに捌いて気持ちよく生きていくことを否定はしないけど、それができない性格だから。ロック的なものが好きすぎるのかもしれないですね。だからこそ、「こうじゃなきゃ」と思っていたものを覆してくれるものに出会うと救いを感じるんです。酒もそうだし、音楽も本もそう。共通してるのは没入感が気持ちいいってことかもしれない。
住野:わかる気がします。
佐々木:酒を飲んだ時に失態を演じるじゃないですか。あれって、酔っているからだと思う? 酔った時に出てくる言葉って、自分でも本音なのかそうじゃないのかわからないけど、住野くんはどっちだと思います?
住野:僕は本音を誇張したものなのかなって思います。
佐々木:本音に勢いがついた、みたいな?
住野:そうですね、無駄な助走がついた本音(笑)。
佐々木:俺は、小難しかったり歌詞カードを読まなきゃわかんなかったりする歌詞ってロックじゃないと思ってて。どれだけ哲学的でも、聴いてガツンとこないもの、シンプルな言葉でグサッとこないものは意味ないって思ってるんですよ。住野くんは、酔ってる時の自分は作品に投影させる? 要は、「酔った状態で小説を書きますか?」って質問なんだけど。
住野:本音っぽい恥ずかしいシーンは、飲みながら書くことがあります。
佐々木:なるほどね。じゃあ、酒はある程度本音を引き出せるツールだと思ってるんだ。
住野:飲んでめちゃくちゃになってる人を見ると、ちょっと安心するんですよね。それは小説内の登場人物にも言えることなんですけど。
佐々木:それ、すげぇわかる……。
住野:いていいんだって思えるんです。僕は自分のことを超ダメ人間だと思ってるので、「ダメなヤツが他にもいっぱいいる」って(笑)。
佐々木:わかる。すげぇ共感してきた。俺、世間的にはまっとうにやってきたんだよね。「世の中ってこんなもんなのか」と思いつつ、そこからはみ出したものがあるかもって思ってて。そのはみ出たものをロックミュージックに教わったところがあるんですよね。
もちろん酒がなくても表現できる人はいっぱいいるけど、自分には、それは真似できない。さわおさん(the pillows 山中さわお)みたいに自分の哲学が完成していて、生き方がはっきり決まっている人は最強だけど、俺はそうじゃなくて。世の中に対しても、自分に対しても、「もっと何かあるんじゃないか」と思ってる。価値観が定まらないから永遠に迷ってるし、酔っぱらったときの感覚に期待しちゃうんですよ。住野くんの飲み方、登場人物の飲ませ方にもそれを感じるんだよね。
「『今までとは違うものを書こう、変えよう』という強い意志を持って書きました」(住野)
佐々木:今回は主要登場人物が、みんな30歳くらいだよね。今までの作品に比べると年齢層が上だけど、その点はどうでした?
住野:自分は10代の頃に小説に食らって作家になったので、10代の読者に食らわせたいって気持ちが強いんです。だから、今まではできるだけ伝わりやすいよう、高校くらいまでで知るボキャブラリの範囲でわかるように、言葉を“ひらく”努力をしてたんですね。でも、今回の登場人物は大人なので、説明を入れつつ難しい言葉も使いました。
佐々木:たまに出てきましたね、「秋波」とか「甘受」とか文学的な言葉が。
住野:あと、30歳前後の登場人物を書いて思ったのは、大人って揺らがないんですよね。子ども達に比べて考え方やスタイルが出来上がっているから、価値観が変わるほど揺らぐことってなかなかないんですよ。それが30代を描く難しさでした。
佐々木:俺自身、40代が少し先に見えてるからかもしれないけど、大人になればなるほど狂気への憧れが強くなるような気がしていて。老後に2000万円必要だとかいうけど、そうやって現実が厳しくなればなるほど、憧れが募っていくような気がする。ここから先の大人ってみんな苦しいよね。でも、現実逃避するだけじゃなくて、せめて納得して死にたい。これは希望的観測も含めているけど、そのヒントになる作品を住野くんが書いてくれる気がする。それはきっと、誰かにとって強烈な作品になると思うんですよね。
住野くんは最初の作品が売れすぎたけど、ニルヴァーナと違ってそこで死ななかったじゃないですか(笑)。ここからまたすごいものを書くんだろうなと思うし、今回の違う方向性の作品を書いたのも、すごく勇気が要ることだったんじゃないかと思いましたね。
住野:確かに『告白撃』は、「今までとは違うものを書こう、変えよう」という強い意志を持って書きました。大人の話を書いてその上で夢を見ようと。作中で、千鶴が夢について語るシーンがあるんですけど、僕も千鶴みたいに、みんなも夢を持ってるはずだと思ってきたんですね。で、去年の忘年会で担当編集さんたちに「ひとりずつ夢を発表していこう」ってパワハラをしたんですけど(笑)。
佐々木:夢ハラだ(笑)。
住野:その時に「自分は夢を持って生きてこなかった」って人がけっこういて、マジかよって思ったんですよね。
佐々木:住野くんの夢は小説家だった?
住野:時期によって違いました。でもずっと何かしらは持って生きてきてたのに、2、3年前にふと「今、夢ねぇな」って思ったんです。
佐々木:傍から見れば「『君の膵臓をたべたい』で夢を叶えてるじゃん」って思われそう。
住野:自分の中で、売り上げはともかく、自作が二つも映画化されたり、THE BACK HORNと一緒に小説を作らせてもらったりと夢が叶ったので、「今の夢って何だろう」ってずっと考えてたんです。そんな時、ちょうどラジオで初公開されたフラッドの「月夜の道を俺が行く」の歌詞にやられまくって。
僕は運命とか全然信じてないんですけど、そういうタイミングの重なりもあったので、フラッドや佐々木さんに何か通じるものを感じるんですよね。フラッドが15周年を迎える年に『告白撃』が発売されるのも、不思議な縁を感じます。
佐々木:それはうれしい。住野くんは、すごいパワーを持ってる人ですよね。小説家になって夢を叶えてもまだ続けてるわけだから。ヒットを出すっていう資本主義的な意味での夢とは、また違った原動力がある。
住野:「まだここじゃねぇだろ」って気持ちがあるんですよね。
佐々木:数字的なヒットだったらもう十分だし、作家性も出せてる。でも、それとは違うロック的な何かが動力になってるんだろうね。今言ってくれたように、俺らも今年15周年を迎えるけど、体が元気な限り、昨日よりいい曲を書いて昨日よりいいライブをしたい。そうやって、行けるところまで行きたいんです。自分はTHE BEATLESに感動した人間だから、そうやって積み重ねていけば、対等の勝負とはいかないまでも何かできるはず。「Imagine」みたいにグッとくる言葉とメロディの組み合わせが、まだこの世に残ってるって思いたいし、そうじゃなきゃ寂しいと思うんですよね。
住野:僕もすごい小説やすごい自分を探し続けてる感覚です。あらためて自分の夢を考えた時、「僕が大好きな人たちに顔向けできる人間でありたい」って思ったんです。あと可能かどうかやどんだけ売れてる先輩達がいるかは関係なく、日本一売れたいって思ってます。
佐々木:かっこいいね。
住野:佐々木さんを含め、どこかで似た志を持つ方たちが「なんかすげぇ」と思ってくれる自分でいたいって思います。
佐々木:その流れの中に、今回の『告白撃』があるんだね。
住野:そういえば今回、フラッドを登場させるうえで影響を受けた小説があるんです。越谷オサムさんの『いとみち』って作品なんですけど、ヴァン・ヘイレンが普通に本人として出てくるんですよね。
佐々木:へぇ、面白い。
住野:それを読んで、「小説って何してもいいんだ」ってデビュー前に思ったんです。
佐々木:それはありますよね、何してもいい。尊敬する仲野茂さん(アナーキー)から、「『I'M FREE』って曲を聴いて、亮介は『何を言ってもいい』ってことがわかってるヤツだと思った」って言われたんです。その後、少し経ってから「『何を言ってもいい』ってことは、何言ってもいいんだよ」ってあらためて言われて、俺はそれを「『何を言ってもいい』ってこと、忘れんなよ」って受け止めた。今の話を聞いて、それを思い出しましたね。とにかく嘘をつかないってことが大事。それってすごく難しいことだけどね。
住野:そうなんですよね。
佐々木:だからこそ『告白撃』ってタイトルにドキッとしましたね。「お前は嘘のない言葉を言ってるのか?」「本当に告白してるのか?」って問いを突き付けられたような気がして。「本当の自分でいるってどういうことなのか」とも、すごく考えました。あの6人の中で、千鶴はずっと本当の自分でいると思ったし、ずっと告白してる感じがしたから。
よく中年のおっさんには、伝えることがないなんて言うけど嘘ですよね。時代に合った表現とかコンプラとかあるけど、そこを突き抜ける言葉やキャラクター、メロディこそが人の心にグッと刺さるものだと思う。自分はまだそれを持ってないけど、嘘のない言葉を伝えたい。この本を読んであらためて頑張ろうって思いました。
住野:そんなふうに言っていただけて光栄です。今日はありがとうございました!
書誌情報
最新小説『告白撃』について
告白撃
著者:住野よる
発売日:2024年05月22日
◆あらすじ
親友に告白されたい。そして失恋させたい。
かけがえのない友情のため、罪深い大作戦が幕を開ける!
三十歳を目前に婚約した千鶴は、自分への恋心を隠し続ける親友の響貴に告白させるため、秘密の計画を立てていた。願いはひとつ。彼が想いを引きずらず、前に進めるようになること。
大人のやることとは到底思えないアイデアに呆れつつも、学生時代からの共通の友人・果凛が協力してくれることになったが、〈告白大作戦〉は予想外の展開を見せ――。
ものわかりのいい私たちを揺さぶる、こじれまくった恋と友情!!
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プロフィール
住野よる(すみの・よる)
高校時代より執筆活動を開始。2015年、デビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、累計部数は300万部を突破。23年『恋とそれとあと全部』で第72回小学館児童出版文化賞を受賞。他の著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』『青くて痛くて脆い』、「麦本三歩の好きなもの」シリーズ、『この気持ちもいつか忘れる』『腹を割ったら血が出るだけさ』がある。乾杯するのが好き。
佐々木亮介(ささき・りょうすけ)
1986年、東京都生まれ。2006年にa flood of circleを結成、ボーカルとギターを担当。メジャーデビュー15周年となる今年3月に後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION) プロデュース曲「キャンドルソング」が収録されたE.P.『CANDLE SONGS』をリリース。全国ツアー「CANDLE SONGS -日比谷野外大音楽堂への道-」を4月よりスタートさせ、8月12日に10年ぶりとなる東京・日比谷野外大音楽堂にてワンマンが決定。
http://www.afloodofcircle.com/