『メメンとモリ』に続く、ヨシタケシンスケさんの「生きる」をテーマにした最新作『そういうゲーム』。人生や生活のありとあらゆる場面を、ちょっとしたゲームで乗り切っていく、ヨシタケさんの描く『そういうゲーム』とは??
この作品に登場するさまざまな「ゲーム」をしている人に自分を重ねた、という尾崎世界観さん(クリープハイプVo/Gt/作家)を迎えて、待望の「ヨシタケシンスケ×尾崎世界観」の対談が実現。お二人とも来たのは初めて、という角川武蔵野ミュージアム内の本棚劇場でたっぷり語り合っていただきました。対談の様子を収録した動画は、2025年3月7日に「KADOKAWA児童図書チャンネル」で公開予定! 本記事では公開に先立って、その内容を一部ご紹介します。
文:田中真理 写真:岩本剛
ヨシタケシンスケ×尾崎世界観 対談動画の一部を先取り公開!
本作をめぐってお二人からこぼれ落ちる言葉の数々には、普段気づきにくい自分の心の弱い部分を見つめ直したくなるような力がある。
訥々とした静かな語り口のヨシタケさんと、バンドでの歌声からは想像できないほど控えめな音量で語られる尾崎さんの言葉が、本棚劇場の高い天井へ吸い込まれていく。会場が持つちょっと特別な空気の中、ヒソヒソと飾りのない言葉を交わし、考え込み、共感し、ときに苦笑する、和やかな語り合いの場となった。
本対談は、『そういうゲーム』に関連したテーマに沿って進められていった。ちょっとだけ先取りで内容の一部をお届けしよう。
『そういうゲーム』と自分
「すごい……ここ初めて来たけどほんとにびっくり」とお二人とも本に四方を囲まれた対談場所をぐるりと見回して楽しそうに笑っている。会うのは2度目、でもきちんと話すのは初めてという。撮影スタート前から、ヨシタケさんの老眼の話でやりとりが始まるなど、すでに波長が近いムードがあるお二人。
「物事を大げさにとらえがちで、失敗したらどうしようとか考えすぎちゃうタイプ」だというヨシタケさんが、日常のシーンをいろんなゲームに置き換えてみたらどうだろう、と考えたことがきっかけとなって生まれた『そういうゲーム』。
本作の感想を問われた尾崎さんは、よどみなく、しかし言葉を丁寧に選んでヨシタケさんに伝える。『そういうゲーム』を子どもの頃からやってきた気がすること、大人になった今では、どんなネガティブなことがあってもそれを含めて最後に『そういうゲーム』だとすることもできる、そんな包み込んでくれる力があるのではないかということ。ヨシタケさんは尾崎さんの感想にうなずきつつ、嬉しさを隠しきれない様子……。
テーマ1:何のために生きてるんだろう? 〜将来への不安〜
対談は、トークテーマを設けて進める形式だ。
ヨシタケさんから伝えられたトークテーマの一つ目が「何のために生きてるんだろう?」。
「なかなか大きなテーマですが、何のために生きてるんだろうと思う瞬間が尾崎さんはありますか?」そう聞かれると尾崎さんは「ありますね」と即答。さらにいえばこのようなことに悩むときは「実は良い状態といえる」という。何のために生きているかという深刻そうな問いが生まれていながら「良い状態」とは?? 意外にも思える答えだが、詳しく掘っていくほどヨシタケさんはなるほどと納得の表情。
実は自分が頑張りさえすればなんとかなる、というときが一番つらいという尾崎さんが、ヨシタケさんはどうですか? と逆質問すると……。
詳しい内容は本編の動画を観ていただくとして、軽妙かつ深いやり取りをしつつ、大きな方向からやってくる「不安」を擬人化して盛り上がるところ、すでに『そういうゲーム』が始まっているかのようだ。
「不安」と「不満」についても、ものづくりをするお二人の持論が展開される。
「不満は人のせいにできるし解決方法がはっきりしてる」「でも不安はなぜやってくるのかもわからないし、どうしたらなくせるかもわからない」とヨシタケさんが言えば、「自信があればあるほど不安になる」「だけど不安というものを消し去ってしまっては、表現に結びつくことがない」と、尾崎さんが応じる。不安とつきあっていくことを肯定する、己の弱いダメな部分もきっと役立つ、と信じることが表現者としての根底にあることを教えてくれる。
トーク後半、お二人の共通点である「猫背でうつむきがち」、でも「下を向いてばっかりだから見えるものもある」の流れでは互いに大きくうなずきあう。
テーマの最後には、ヨシタケさんと尾崎さんそれぞれオリジナルの「不安に対する自分の対処法」が披露される。誰にでもすぐマネできそうなのに効果の高そうなこの対処法とは……?? 必見!
そんなふうに、
テーマ2:どうして自分だけこんなに苦しいの?〜孤独や焦りとの向き合い方〜
テーマ3:逃げたいけど逃げられない〜自分の人生、これでいいの?〜
と、興味深いテーマが続いていく。
あるときはヨシタケさんからの「こんなときどうしたら……」という問いかけへの尾崎さんの意外過ぎるアンサーが飛び出し、またあるときは思考の海にずぶずぶ沈んでいくようなヨシタケさんに、尾崎さんから「幸せ」と「不幸せ」の興味深い考え方が提示される。
ヨシタケさんからは会社員時代の「逃げられない」エピソードも語られた。苦しさの渦中にあったヨシタケさんの心が、なんとか編み出したというその逃避方法とは?? びっくり仰天の、でもあまりにヨシタケさんらしいエピソードに尾崎さんからも思わず笑みがこぼれる。
尾崎さん式エゴサの取説
テーマ4:尾崎世界観さんの悩みとは
ラストトークは尾崎さんのお悩みをヨシタケさんが聞くことからスタート。
「作りたい作品が作れていればそれでいいはずなのに、つい周りの人の結果や数字を気にしてしまう」。
「エゴサーチが趣味なんです」と告白する尾崎さん。うんうんとうなずきながらも、やや畏れ多いものを見るような表情のヨシタケさんはここでキッパリ、「僕はエゴサしない派ではなく、できない派です」宣言。たとえ100人に褒められても1人からの心ない(というかあながち外れてなかったりする)言葉を受け止める勇気はない、とのこと。
尾崎さん「そういう意見を目にしたことはあるんですか?」、ヨシタケさん「いや、読者カードも編集者さんが選んでくれた好意的なものだけを……」という流れになり、なぜかあっという間に逆お悩み相談に……??
尾崎さん流世間との付き合い方に感心しきりのヨシタケさん。エゴサの取り扱い方は真逆のお二人だが、どちらのやり方も自分の創作を大切に思うがゆえと見えた。
対談の最後、尾崎さんのお悩みをヨシタケさんが『そういうゲーム』の絵にする、という命題があり、ヨシタケさんが絵を描くため一旦会場外に。ものの数分で戻ってきたヨシタケさん、さてどんな絵を描いてきたか、はお楽しみ。絵が描かれた色紙をプレゼントされた尾崎さんはにんまり、「うん、なすりつけよう!」。
その場で描かれた尾崎世界観仕様の『そういうゲーム』、結果は動画で!
▼ KADOKAWA児童図書チャンネル
https://www.youtube.com/@KadokawaJidosho
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発売記念インタビュー「松葉杖のような本になれたら」。ヨシタケシンスケ最新刊『そういうゲーム』に込めた想いとは。
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プロフィール
左:ヨシタケシンスケ
1973年 神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。
日常の一コマを切り取ったスケッチ集や、装画、挿絵など、幅広く活動している。
MOE絵本屋さん大賞、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞、ニューヨーク・タイムズ最優秀絵本賞など、受賞多数。
右:尾崎世界観
1984年東京都生まれ。2001年結成のロックバンド「クリープハイプ」のヴォーカル・ギター。12年、アルバム『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』でメジャーデビュー。16年、初の小説『祐介』を書き下ろしで刊行。その他の著書に『苦汁100%』『苦汁200%』『泣きたくなるほど嬉しい日々に』『私語と』など。2020年『母影』に続き、2024年『転の声』でも芥川賞候補に選出された。
<衣装>
・Tシャツ 参考商品(MIMICSHIMOKITAZAWA/Instagram @mimic_shimokitazawa)
・スラックス ¥14,300(放課後の思い出/090-8592-7117)
作品紹介
書 名:そういうゲーム
著 者:ヨシタケシンスケ
発売日:2024年11月20日
あなたのゲームは、どういうゲーム?
『メメンとモリ』に続く、「生きる」を考える絵本第2弾は、著者初の全編モノクロ作品。
「閉塞感」「やりきれなさ」と向き合ってつらくなってしまう人へ贈る、
ヨシタケ流「生きるためのベンリな考え方」ヒント集です。