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特集

ヨシタケさんのファン第1号は海堂尊です――海堂尊×ヨシタケシンスケ 『医学のひよこ』『医学のつばさ』刊行記念対談

取材・文:タカザワケンジ 

『医学のひよこ』『医学のつばさ』刊行記念対談

医学のひよこ』と『医学のつばさ』が5月・6月に連続刊行されることを記念して、著者の海堂尊さんと装画・挿絵を手掛けていただいたヨシタケシンスケさんのオンライン対談が行われました。お二人の出会いはなんと、作家の「海堂尊」が誕生する前とのこと。驚きのエピソードが飛び出しました。

ファン第1号は海堂尊!?


海堂:僕とヨシタケさんはお互い無名時代に出会っているんですよ。


ヨシタケ:そうなんですよね。まだ作家の「海堂尊」が誕生する前。僕もまだ絵本を描いていませんでした。


海堂:Ai(死亡時画像診断)を普及するために医学専門の出版社から本を出すことになり、ヨシタケさんの『しかもフタが無い』というイラスト集の絵を使おうと思ったんです。ヨシタケシンスケという人に絵の転載許可をもらってください、と編集者にお願いしました。そうしたらヨシタケさんが、転載はだめだけど新しく描き下ろします、と言ってくださって。


ヨシタケ:そのとき本はまだ1冊しか出していなくて、出版社と権利関係でややこしくなるくらいなら、新しく描かせてもらったほうがいいかな、と思ったんです。挿絵の仕事もしていたので。


海堂:描き下ろしてくださると聞いて、マジか、ありがたい、と。それで出版社で打ち合わせをしたんですよね。


ヨシタケ:打ち合わせで覚えているのは、Aiについて熱く語られていたことと、僕の絵をすごく気に入ってくださっていると感じたことです。『しかもフタが無い』のページを開いて、1枚1枚この絵はこういうところが面白い、とおっしゃっていただいて、すごく嬉しかったんです。それまでまったく知らない方に感想を言っていただけることなんてほとんどなかったので。


海堂:ヨシタケさんのファン第1号を名乗ってもいいくらいですね。「僕のファン第1号は海堂尊です」って言ってください(笑)。


ヨシタケ:ほんとそんな感じですよ。あのイラスト集、ぜんぜん売れなくて、誰が読んでいるんだろう、と思っていましたから。こんなにちゃんと見てくれている人がいるんだ、と勇気づけられました。


海堂:イラストもいいんですが添えられた言葉も秀逸で。仕事で疲れたときにぼーっと見ると癒やされるんです。ゴロッと横になって見ているといつのまにか寝ていたり。当時から一読者として、この人は将来、絶対にビッグになると思いましたね。絵本界のプリンスになるとは思いませんでしたけど。

五本の指に入る衝撃


ヨシタケ:無事にAiの本が出版されて、それから次にお会いするまでちょっと間が空きましたね。


海堂:衝撃の再会が待っていた(笑)。


ヨシタケ:あるとき、海堂尊という作家の小説に絵を描いて欲しいという依頼が来ました。僕の知らない間に「海堂尊」っていう作家が誕生していたんです。


海堂:それが『医学のたまご』だったんです。


ヨシタケ:編集の方は、僕と海堂さんが以前仕事をしたことがあると知らずに僕に依頼してくれたんです。編集者さんを介してのやりとりだったので、「海堂尊」さんとお会いする機会がないまま絵を描きました。本ができあがって打ち上げをすることになり、そのとき初めて「海堂尊」の詳しいプロフィールを聞いて、「Aiを推進しているお医者さん? あれ? そういえば、前に〝Ai、Ai〟って言ってた人と仕事をしたことがあったな。でも海堂って名前じゃなかったけど」。ネットで検索して「やっぱりあの人だ」と(笑)。


海堂:僕のほうが少し気づくのが早かったですね。『医学のたまご』の原稿を書き上げたときに、編集者から「海堂さんにぴったりのイラストレーターさんを見つけたから楽しみにしていてください」と言われたんです。どんな人だろう、と楽しみに待っていたら、送られてきたイラストを見て、あらびっくり。「この人、知ってる」(笑)。

 これは、作家になって相手をびっくりさせた出来事の中でも、五本の指に入ります。デビュー直後、Ai学会の同志に『チーム・バチスタの栄光』を店頭で購入してプレゼントして、「この小説、Aiが使われているんだぜ」と言って、驚く相手に向かって更に、「実はこれ、俺が書いたんだよね」と伝えたときの反応に匹敵するくらいの(笑)。


対談はオンラインで行われました。写真左から海堂尊さん、ヨシタケシンスケさん


イメージは映画のポスター


ヨシタケ:そのあと、海堂さんと何度かお仕事をさせていただいています。


海堂:今回の『医学のひよこ』と『医学のつばさ』は、『医学のたまご』の続篇なので、絵はヨシタケさん1択でした。でも、『たまご』が出てからの13年でヨシタケさんが絵本作家としてすごく有名になったので「こんな仕事はできない」と断られるんじゃないかとドキドキしてました。お受けいただきありがとうございます(笑)。


ヨシタケ:いえいえ、そんなことはないですけど(笑)。ただ、その間にこちらも微妙に絵柄が変わっている部分があるので、注文に応えられるかな、という心配はあったんです。編集者の方から、『たまご』から時間も空いているし、『たまご』と絵のテイストを合わせる必要はないと言っていただけたので安心しました。表紙の絵は『たまご』と比べると密度が高くなり、印象が違うかもしれません。


海堂:カラフルで絵本みたいな雰囲気になりましたね。


ヨシタケ:『たまご』のときは、絵で説明しすぎないようにあえてシンプルにしたんです。薫とお父さんがメールをやりとりして、互いの顔が見えないまま物語が進むという世界を壊さないようにしたかったからです。


海堂:『医学のたまご』の表紙の絵は、たまごの中に主人公の薫が一人ポツンといるシンプルな絵でした。今回は絵をもらったとき「そうか、こう来るか」とシビれました。『ひよこ』と『つばさ』は、物語自体が、薫が仲間たちとわいわいやるという感じだったので、絵もにぎやかになり、『たまご』から『ひよこ』『つばさ』へうまくシフトしてもらえました。


ヨシタケ:『たまご』から、『ひよこ』と『つばさ』の間に、海堂さんの作品がどんどん増えて、世界観が分厚くなっていますよね。『ひよこ』と『つばさ』は登場人物も多いし、外連味もたっぷり。キャラクターのからみあいもドラマチックで映像的。映画みたいだなと思ったんです。だから、登場人物がずらりと並んでいるような、昔の映画のポスターみたいな感じにできたら、と考えました。

扉絵を描くうえで悩んだこと


海堂:『たまご』を書いたときに、いずれ続篇を書くつもりだったんです。その舞台は桜宮サーガのエンド・ポイントである2022年頃になるだろうと思っていました。ただ、構想が思い浮かばなくて放置していたんです。

 『たまご』を出した年は2008年ですから、2022年ってずいぶん先の未来に思えたんですよね。でも、気がついたらすぐそこまで来ていて、やばいやばいと(笑)。

 『ひよこ』と『つばさ』を書いて、僕の小説世界のいろいろなことに方を付けたなと思っています。まだ閉じていない部分もありますが、かなり閉じたんじゃないかな。閉じて丸くなって、一つの世界が終わるな、と。そこに登場したのが、絵本界のプリンスになったヨシタケさんですから、私の星は強いと言わざるをえない(笑)。


ヨシタケ:だといいんですが(笑)。表紙以外に各章の扉に絵を描いたんですが、大変だったのは、この二作にだけ出てくるわけではない登場人物がたくさんいて、その人たちをどう描くかということ。この人物の外見がほかの小説でどう描写されているかをぜんぶ調べるのはさすがにできなくて。『ひよこ』『つばさ』で描写されている外見の特徴はなるべく拾ったんですが、この人をこういうキャラとして描いてしまっていいんだろうか。読者のイメージとズレていたら困るなと悩みましたね。


海堂:その点はまったく問題なかったですね。むしろ、思っていた以上にストレートに描いてくださったことが意外でした。ヨシタケさんの得意技は、的をわざと外して人の気持ちを惹起させることだと思うんですが、今回、描いていただいた絵はかなり直球でしたね。お話しをうかがってその理由がわかりました。登場人物が多いと的も絞りにくいし、読者が混乱してしまいそうですね。


ヨシタケ:そうなんですよね。描く側としては、的を外すと絵と小説の距離が離れすぎちゃうし、中途半端に的に近づけるとわかりづらくなる。登場人物たち全員にピントを合わせることで、どこを見るかは読者に任せます、という結果になりました。


海堂:ヨシタケさんの創作手法だとめったにやらない方法だと思うんです。僕、ヨシタケさんにポリシーを曲げさせる仕事をお願いすることが多くて(笑)。


ヨシタケ:悶絶することが多いのは事実ですね(笑)。でも、海堂さんとのお仕事は大変なことも多いんですが、やるたびに成長できる。新しい引き出しができるので感謝しかないです。


海堂:もともと僕が一本釣りをした才能ですから。そこからヨシタケさんの苦難の道が始まった(笑)。


ちょうどこの日、『医学のひよこ』の見本が完成しました。


桜宮サーガのつくり方


ヨシタケ:読者としての純粋な疑問なんですが、海堂さんの小説にはあちこちに同じ登場人物が出てきますよね。ここにこの人物を出そう、というのはどうやって考えるんですか。


海堂:最近、参考文献として自分の本を読むようにしています(笑)。

 『ひよこ』『つばさ』だと、薫君とお友達、アツシあたりがコア。そうすると、彼らの周りに以前いた人が使えないかなと思って、自分が前に書いた本を読み直すと、なぜかちゃんとぴったりの人がいる。たとえば、今回は牧村瑞人とか浜田小夜がそうですね。

 簡単に言うといきあたりばったりです(笑)。


ヨシタケ:こんな緻密な世界をどうやって組み立ててるんだろう、と読むたびに驚かされます。相当にヘンな人だなあ、と。


海堂:自分でもそう思いますよ。シリーズもので登場人物がたくさん出てくる本はあるけど、一つの世界でいろんなチャレンジをするヘンな作家だな、と(笑)。そんな僕のヘンな本に、斜め上から絵筆で斬りかかってくるヨシタケさんは負けず劣らずヘンな人だなと思いますけど(笑)。


ヨシタケ:最高の褒め言葉です(笑)。これからもよろしくお願いします。

作品紹介



医学のひよこ
著者 海堂 尊
定価: 1,760円(本体1,600円+税)

おとなの世界は複雑すぎる。「中学生医学生」が仲間達と大人に立ち向かう!
ひょんなことから東城大医学部に通うことになった、生物オタクの中学3年生・曾根崎薫。仲間たちと洞穴を探検していると見たこともない巨大な「たまご」を発見する。大事に育てようとする薫たちの前に立ちはだかったのは、動物実験を目論む研究者と日本政府だった。薫たちは、おとなたちの謀略から大切なモノを守り切れるのか? <いのち>を巡る大冒険、開幕!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000476/
amazonページはこちら



医学のつばさ
著者 海堂 尊
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2021年06月24日

中学生医学生とおとなたちの戦いを描くシリーズ完結編!
東城大医学部に通う中学三年生の曾根崎薫は、クラス委員の進藤美智子、ガキ大将の平沼雄介、医学部を目指すガリ勉の三田村優一ら同級生たちと、洞穴の中でみたこともない巨大な「たまご」を発見。薫たちは孵化した謎の生物に〈いのち〉と名付け育てようとするが、動物実験の材料にしようとする文科省に囚われてしまう。〈いのち〉の奪還を試みる薫たちだったが、やがて「こころの移殖」という壮大な陰謀が明るみになり、米国政府をも巻き込む巨大な騒動に発展していく……。「中学生医学生」シリーズ完結編!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000477/
amazonページはこちら


海堂 尊(かいどう・たける)

1961年千葉県生まれ。医師・作家。2006年、『チーム・バチスタの栄光』で第4回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞しデビュー。作品全てが一つの世界に統一された「桜宮サーガ」シリーズは累計一千万部を超える。デビュー作を始め『ジェネラル・ルージュの凱旋』『ケルベロスの肖像』『螺鈿迷宮』『ジーン・ワルツ』『極北クレイマー2008』『ブラックペアン1988』等、映像化作品も多数。近年はキューバ革命の英雄、チェ・ゲバラとフィデル・カストロを描いた「ポーラースター」シリーズを執筆中。医師としてAi(オートプシー・イメージング=死亡時画像診断)の社会普及活動をし『死因不明社会2018』等の専門書も手がける。2020年の近刊は『フィデル出陣 ポーラースター』『コロナ黙示録』。

ヨシタケシンスケ

1973年神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど、多岐にわたり作品を発表。絵本デビュー作『りんごかもしれない』で、第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞、第8回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。『りゆうがあります』で第8回MOE絵本屋さん大賞第1位、『もうぬげない』で第9回MOE絵本屋さん大賞第1位、ボローニャ・ラガッツィ賞特別賞を受賞。『このあと どうしちゃおう』で第51回新風賞を受けるなど数々の賞を受賞し、注目を集める。近著に『あつかったら ぬげばいい』『にげて さがして』『あきらがあけてあげるから』『あんなに あんなに』等がある。2児の父。

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