〈第40回横溝正史ミステリ&ホラー大賞〉の大賞を受賞した、原浩による小説『火喰鳥を、喰う』(角川ホラー文庫)が映画になる。謎と怪異が交錯する物語で、初共演を果たしたのは水上恒司と宮舘涼太。今年3本もの主演映画が公開される水上と、Snow Manのメンバーでバラエティでも大活躍の宮舘。撮影を通して打ち解けた二人が、本作の魅力を語ってくれた。
文/河内文博(アンチェイン)
映画「火喰鳥を、喰う」水上恒司×宮舘涼太 対談
ある日、太平洋戦争で戦死した先祖・貞市の日記が見つかり、久喜雄司(水上恒司)と夕里子(山下美月)の夫婦の周辺に次々と異変が起きる。墓石の損壊や、同居していた祖父の失踪など……。不可解な事象を目の当たりにした二人は、超常現象専門家・北斗総一郎(宮舘涼太)の力を借りて、真相を究明しようとする。しかし雄司は、次第に夕里子に好意を抱く北斗のことを、疎ましく思うようになるのだった。やがて、異常な世界に自らの「現実」が蝕まれていることを知った雄司は、ある選択を迫られる――。
いま最注目の二人、水上恒司と宮舘涼太。彼らの化学反応が作品の核の一つになっている本作は、観る者を不気味な世界にトリップさせる先読み不可能のミステリー。
この映画がどのようにして生まれたのか、その魅力を明かす。
“目に見える世界がすべて”ではない (水上)
――まず、お互いに最初に会われた際の印象からお聞かせください。
水上:もうスーパースターがいるという感じでした!
宮舘:この人、いろんな取材でこればかり言うんです(笑)。
水上:ははは(笑)。つい最近会ったとある撮影監督の方が、役者ってどれだけ芝居をしても、その人の素の部分がカメラの前では出るものだとお話をされていたんです。その素の部分をどれだけ豊かなものにできるかが大事だと教えていただいたのですが、撮影でご一緒する前の本読みの段階からダテさんのその素の部分、いろんな活動の中で積み上げてこられたものを感じる瞬間がありました。その後の撮影でも、雄司と北斗として対峙していく中で、僕自身の素のようなものをぶつけ合える方だなと感じました。
宮舘:真面目に話してくれて、ありがとう(笑)。僕はお会いする前までは、演じることにストイックな方という印象がありました。でも実際はこんな感じで、かなりのふざけたがりなんです。
水上:いやいや、真面目です!
宮舘:真面目にふざける感じだね(笑)。たぶん、ストイックではあるんです。同時に何事でも周りの方を楽しませたくなってしまう性格なんですよね。
水上:そういうことにしてください(笑)。
宮舘:彼は撮影の現場でも、やはり主演としてスタッフの方とコミュニケーションをとり、自然に現場を回していて、すごいなという印象ですね。
――お二人の仲の良さが伝わってきますね。原作や脚本など、最初に物語に触れたときのお気持ちを教えてください。
水上:今回、原作の原浩先生の書かれた小説があるんですけれど、あえて読まずに臨みました。原作の魅力は、監督や脚本家、プロデューサーの方などが抽出してくれていると思っているので、基本的には脚本に書かれたことを全うしたいというのが僕の思いです。そのうえで、作品の題材は抽象性が高いのですが、エンタメ性もしっかりある作品で、“目に見える世界がすべてではない”ことを描いている点が面白かったです。
宮舘:僕は脚本を何回もページはめくっては戻ってという読み方をすることで、僕が演じた北斗を軸とした物語も浮かび上がってきました。気づいたら、北斗がこのシーンでどんなことを感じ、何を思っているのか、脚本にたくさん書き連ねたんです。撮影も順撮りではないので、メモを書いて状況を自分に落とし込んでいくことで北斗になることができましたし、なにより作品の力が強いのでそういうことが自然にできたのだと思います。
常に直球を投げ続けました(宮舘)
――お二人は、夕里子をめぐって恋敵のように対立を深めていく役どころです。お芝居ではどのように対峙されたのでしょうか。
水上:雄司が北斗に苛立ちを示すシーンもありましたが、僕自身は内心むしろ “なんなんだ、北斗の胡散臭さは⋯!”という感じで(笑)。なので、芝居としては脚本に忠実でありつつ、演じる僕自身が雄司そのままの感情になることはありませんでした。
宮舘:北斗は周囲を洗脳していく、いわば周りの人々を自分の世界に引き込んでいく役柄。実際、説明セリフも多いのですが自分の中でその言葉に説得力を持って発することができないと周りの心も取り込めないと思ったので、そのあたりは気をつけていました。あとは眉毛の動きですね。眉毛を吊り上げて話す人って弁舌に長けていたり、何かを企んでいる雰囲気がある気がしていて(笑)。それを役で表現しています。
水上:(学生時代にやっていた野球に例えると)今回は北斗に限らず、そうしたお芝居を受けるという部分で、雄司はどんなキャッチャーなのかをずっと考えてましたね。とはいえ、雄司は他者に対して、どんな球でも受け止めるようなキャッチャーではないんです。そこは、キャッチャーミットがボロボロだけど一生懸命捕球している……そんなイメージがありました。なおかつ、ボールを放る人間によって態度を変えていくようなところもあったり、割と複雑でした。
宮舘:そこで言うと僕はもうずっと、常に直球を投げ続けていた。
水上:そうなんですか、それは意外です! むしろ変化球なのかと。
宮舘:北斗の話って嘘っぽいようで本人にとっては本気なんだよね。ただ、真っ直ぐ投げてはいるけど、ボールが雄司のもとには届いていない。つまり、雄司の心に刺さらない。それでも投げ続ける感じだった。客観的に見ると、噛み合っているか、噛み合ってないか、よく分からない⋯みたいな空気感は出せたかなと思います。
――確かに二人のいびつな会話もスリリングです。撮影現場ではどんな会話を?
水上:今回ダテさんと役や作品について何かを深く話すことはなかったですが、本番前までしりとりをしたり、ほのぼのしていました(笑)。
宮舘:僕はむしろ、無言の時間が心地良かったです。多分、お互いわざわざ言葉にしなくても、根幹の部分で分かりあえている感じがしたんでしょうね。あとは撮影が夏だったので、とにかく現場が暑かったです⋯。
水上:そうでしたね(笑)。
「恐怖」と「面白さ」は紙一重(水上)
――ところで本作は、ミステリーであり、ホラー的要素もある映画ですが、お二人がこれまでの人生で、忘れられない「恐怖」を感じた作品はありますか。
水上:「ひきこさん」という都市伝説ですね。小学生のときに携帯を持っている同級生がいて、その友達の家で部屋を真っ暗にして「ひきこさん」の話を読んだんです。わざわざ放課後に集まって、小さい画面を食い入るようにして見たことを未だに覚えています。「怖いもの見たさ」って言葉がありますが、まさしくそんな感じですね。いま思うと、「恐怖」と「面白さ」は紙一重だなと感じた最初の出来事でした。
宮舘:幼少期で言えば、映画「着信アリ」は怖すぎました。映画を観た当時、僕は子どもだったので自分の携帯電話を持っていなかったのですが、もう着信音が怖くて、親の携帯を触るのも嫌でした。勝手に携帯が鳴って、それに出たら自分の死が予告されて本当に死んでしまうわけですから最悪ですよ(笑)。大人になり自分の携帯を持ってからは、「着信アリ」の不条理な感じをよりリアルに感じてしまいますよね。
――年齢によって、恐怖を感じるポイントが違うのもミステリやホラーの面白さですよね。この映画も観る方にとって、そういう作品になりそうです。
水上:そうだと嬉しいですね。僕は完成した映画を最初に観た時、すごく面白かったんです。実は自分の出演作って芝居の反省が先立ってしまうことが多いんです。けれど、今回は僕なんかの反省を超えてしまうほど、本木克英監督の演出や、撮影や編集などの力が素晴らしくて。鑑賞後のお話も相まって、幸せな気持ちになりました。
宮舘:僕もそうですね。この映画のスタッフの方たちと試写を観たのですが、映画が終わったあと、みんな笑顔で、“あれ、こんなハートフルな映画だったっけ?”と思ったくらいでした(笑)。
水上:映画が終わって試写室のドアを開けたら、それまでダテさんがいた世界とは別の世界だったのかも……ですね(笑)。
宮舘:それは怖い(笑)。ともかく、達成感がありましたね。現場で一緒に頑張ったスタッフ、キャストなど、チームの皆さんと試写を観たことで、映画作りの喜びを再認識できたのが大きかったです。
水上:僕もこの作品に出会えて本当に良かったという気持ちです。ぜひ多くの方に観てもらいたいですね!
プロフィール
水上恒司(みずかみ・こうし)
1999年生まれ、福岡県出身。18年に俳優デビュー。23年公開の映画「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」では第47回日本アカデミー賞 優秀主演男優賞を受賞。主演映画「WIND BREAKER / ウィンドブレイカー」が12月5日に公開予定。
宮舘涼太(みやだて・りょうた)
1993年生まれ、東京都出身。2020年にSnow Manのメンバーとしてデビュー。24年のドラマ「大奥」ほか、舞台、映画、バラエティなどで幅広く活躍。今年はアイスショー「ディズニー・オン・アイス」のスペシャルサポーターを務めている。
作品紹介
映画「火喰鳥を、喰う」
監督:本木克英
脚本:林 民夫
原作:原 浩『火喰鳥を、喰う』(角川ホラー文庫/KADOKAWA刊)
出演:水上恒司 山下美月 森田望智 吉澤 健 豊田裕大 麻生祐未/宮舘涼太(Snow Man)
配給:KADOKAWA、ギャガ
2025年10月3日(金)より全国公開
gaga.ne.jp/hikuidori
©︎ 2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
原作小説『火喰鳥を、喰う』
書名:『火喰鳥を、喰う』
著者:原浩
発売日:2022年11月22日刊
全ては「死者の日記」から始まった。これは“怪異”か、或いは“事件”か。
選考委員、激賞!令和初の大賞受賞作!
「恐怖と謎がしっかりと絡んでいる。ミステリ&ホラー大賞にふさわしい」
――有栖川有栖氏
「謎への引きこみ方が見事。読了後は心地よい酩酊感に襲われました」
――辻村深月氏
信州で暮らす久喜雄司に起きた二つの出来事。ひとつは久喜家代々の墓石が、何者かによって破壊されたこと。もうひとつは、死者の日記が届いたことだった。久喜家に届けられた日記は、太平洋戦争末期に戦死した雄司の大伯父・久喜貞市の遺品で、そこには異様なほどの生への執着が記されていた。そして日記が届いた日を境に、久喜家の周辺では不可解な出来事が起こり始める。貞市と共に従軍し戦後復員した藤村の家の消失、日記を発見した新聞記者の狂乱、雄司の祖父・保の失踪。さらに日記には、誰も書いた覚えのない文章が出現していた。「ヒクイドリヲクウ ビミナリ」雄司は妻の夕里子とともに超常現象に造詣のある北斗総一郎に頼ることにするが……。 ミステリ&ホラーが見事に融合した新鋭、衝撃のデビュー作。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322203001804/