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特集

話題のミステリ作家二人が「ミステリにおける伏線と反転」をテーマに語り合う!【浅倉秋成×相沢沙呼 緊急対談(前編)】

構成・文/千街晶之

2021年のミステリ、これを読まなきゃ終われない!

 ミステリ大豊作の2021年――中でも“伏線回収”と“どんでん返し”という観点から、特に話題となった二作がありました。浅倉秋成さんの『六人の噓つきな大学生』(KADOKAWA)と相沢沙呼さんの『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社)です。今をときめくミステリ作家お二人の、「ミステリにおける伏線と反転」をテーマにした対談を二回に分けてお届けします。
前編ではそれぞれの作品への印象や、物語に伏線を入れ込む際に注意していることなどを伺いました。

『六人の噓つきな大学生』浅倉秋成×『invert 城塚翡翠倒叙集』相沢沙呼 緊急対談(前編)


――本日は、今年『invert 城塚翡翠倒叙集』を刊行した相沢沙呼さんと、『六人の噓つきな大学生』を刊行した浅倉秋成さんに、「ミステリにおける伏線と反転」というテーマについて語っていただきたいと考えております。まず、お互いの新刊への感想からお願いします。


相沢:『六人の噓つきな大学生』は、ミステリとしての面白さももちろんですけど、就職の怖さというか、僕は就職活動をしなかった人間なんだけど、それでも嫌だなと(笑)。前半の密室劇がクローズド・サークル的でありつつ、人狼ゲーム的な要素もありますね。あと、結構嫌な内容が、ラストでいい話で終わるじゃないですか。そこは上手いなあ、やられたと思って読みました。


浅倉:ありがとうございます。相沢さんの『invert』は、前作『medium 霊媒探偵城塚翡翠』が出た時点で、ネタは全部こっちにも明かされましたというタイプの作品だと思ったんです。そもそも『invert』が単体で滅茶苦茶面白かったですが、仮に全然面白くなかったとしても、あの前作の続編を出すこと自体が非常に挑戦的で、しかもちゃんと前作を上回ってくるところが、同業者としてはひたすら恐怖ですよね(笑)。あと、本格ミステリの推理パートって、結構さらっと読んじゃうタイプの作品と、これは立ち止まってきちんと読まなきゃというタイプの作品が失礼ながら存在しますけど、相沢さんはフェアに真剣に読者へ戦いを挑んでくれているので、読者も真剣に受けなくちゃという気になりまりますよね。


――お互いの作品で、最初に読んだのはどの作品ですか。


相沢:僕は『教室が、ひとりになるまで』ですね。僕も学校ものというか、「日常の謎」で青春小説を書いてた人間なので、すごく好みの作風で、しかも異能力バトル漫画的な面もあるじゃないですか。少年漫画とかライトノベルが好きな人間としては好みでした。


浅倉:僕は相沢さんの本は『小説の神様』が最初でした。今はミステリ作家という括りに入れてもらってますけど、当時の僕は謎のものを書いてる謎の人で、そういう状態で手に取ったらあまりにも生々しくて、僕も千谷君と同じ状態でお腹が痛くなりました(笑)。あとで相沢さんのミステリを読んで、ミステリで培われた繊細さが、『小説の神様』のような人間の内面の物語にも投影されてたんだなあと、事後検証的にですが納得しましたね。


――では、それぞれの新作はどのように生まれたのかをお聞きします。まず相沢さんの『invert』は城塚翡翠シリーズ二作目にして『刑事コロンボ』『古畑任三郎』風の倒叙ミステリであり、しかも読者への挑戦状を入れて「探偵の推理」を推理させるという作品になっています。


相沢:『medium』を書く以前に、城塚翡翠をクローズド・サークルなどの本格ミステリ的な舞台で活躍する探偵にするか、倒叙作品の探偵にするかを考えたんですね。その過程で『medium』のネタを思いついて、これを先に書いたほうが探偵のデビュー作としてはインパクトが大きいぞ、と。それで『medium』を書いて、本当はそのあとにクローズド・サークルものの長編を書こうと思っていたんですけど、いろんな人が城塚翡翠をいいと言ってくださったので、その熱が冷めないうちに応えたいと思って、じゃあ中編集をやろうという感じでした。

 読者への挑戦状を入れたのは、ミステリをあまり読まない人は倒叙の面白さがわからないと思ったんです。それで挑戦状を入れることで、いま探偵が悩んでいるのはどこで、問題点はなんなのか、どうすれば犯人を追及できるのか、手掛かりはこれです……みたいな感じで問題を細かく分割したんですね。犯人は誰だみたいな大きな問いかけだと難しく感じるし、どこから考えたらいいかわからないですけど、問題を分割することで、ミステリに慣れていない読者にもわかりやすく提示していく。最近、リアル脱出ゲームとか、マーダー・ミステリーとかが流行っていて、そういう問題を解きたい人たちの層がいるのに、それに本格ミステリが負けている気がしてちょっとくやしかったんですね。それで、謎解きを求めている人たちも手に取って挑戦したくなるような問題の出し方をしようと思って挑戦状をつけました。


浅倉:その謎を解きたい人たちと本格ミステリの距離の話は、確かに言われてみればそうだなあと。僕も恥ずかしい話、『名探偵コナン』の見方がわかったのってここ数年なんですよ。小さい頃に放送が始まって、第一話を見ると、黒ずくめの男たちが遊園地に来て、主人公が子供にされちゃったので、どうやって大人に戻るのかという話だと思って毎週楽しみにしてたんですね(笑)。で、「あれ、今回は水増し回だな」と思って見てて。


相沢:なるほど、ミステリの文脈がないとコナンってそうなるのか(笑)。


浅倉:で、妹がすごく真剣に見てたので、「こいつ、仕組みがわかってないな」と思って、「お兄ちゃんが教えてやるよ。今回は水増し回だから話は進まないぞ」と(笑)。そしたら「お前は馬鹿か。この謎を解いてるんだ」と妹に言われて、「ああ、そうだったんだ。だから毎週ネクスト・コナンズ・ヒントがあったんだ」と(笑)。謎を解こうと思って見ればこんなに面白いものはないのに、そういうものだという認識もなく漫然と見てたという。たぶんこれが本格ミステリに挑む人と、コナン君が工藤新一に戻る話だと思ってた人のスタンスの乖離というか。


相沢:その話、滅茶苦茶面白いなあ。


浅倉:相沢さんの小説のすごいところは、相沢さんの思惑とは違うんでしょうけど、謎解きに挑まない読者でも読み終わった時は面白かったと思うんですよね、翡翠ちゃん可愛いなあと思って読んでいても最後まで楽しいですし。取りこぼしたところで失われない面白さは間違いなくあると思うんです。


――浅倉さんの『六人の噓つきな大学生』の発想はどこから生まれたのでしょうか。


浅倉:打ち合わせで「就活ってどうですか」というアイディアを編集担当からいただきまして、そこを軸にミステリを成立させるにはどうすればいいかを考えました。その大前提に何を乗せていくかを考えて、ミステリだったり、密室の会話劇だったり、あとインタビュー形式というのも出てきたんですけど、その中からいろいろ材料をピックアップした結果、これなら出来るかなという割り算で考えたのが最初のスタートになります。


――相沢さんの前作『medium』では単行本の帯の惹句が「すべてが、伏線。」でしたし、浅倉さんは「伏線の狙撃手」と呼ばれていますが、執筆の際に伏線というものをどのように意識していますか。


浅倉:デビュー作を書いた時に「伏線の狙撃手、爆誕」という鳥肌の立つようなキャッチコピーをつけられたんですけど、個人的にはそんなに伏線を張ったっけ?と。でも言われてみればありますし、その後の作品も意識的ではないですが伏線は多くなっている。書き方として、最高のラストシーンを最初に考えて――たとえで言うと、最近あまり見かけないですけど、銃で撃たれたら胸にジッポーが入っていて弾が止まっていた、みたいなラストを考えたとすると、だったらジッポーをどこかで手に入れないといけないという逆算の方法で考えるんですね。なので、ラストシーンを凝りはじめるとどこかで言い訳をしておかなければならなくなるんです。で、どうせだったら華麗な言い訳を――ジッポーを手に入れた方法をいかにお洒落にするかを考えて、結果、物語が出来てて伏線もいっぱい出来てて、狙撃してるというよりは、『TENET テネット』じゃないですけど、壊れたものがあって、それをどう壊したかを説明していく感じですね。


相沢:本格ミステリとしてフェアであるということは意識するので、そのための伏線をどう入れるかは考えるのですが、じゃあどう入れるのか、いつ入れるのかは自分でもよくわからない。でも、書き終えてから入れている気がします。あの時はこうだったから真相はこうですという探偵の推理を書いても、あの時はこうだったという記述がない(笑)。それでページを遡って書き加えるという、そういう繰り返しですね。もちろんメインのロジックは先に考えているので、そこは書くけれども、それだけでは犯人特定が出来なかったりするので、探偵の台詞に合わせて戻って書き加えることが多いですね。

 既存の本格ミステリでも、いきなりこの話を始めると、これは伏線に違いない――みたいなものってあるじゃないですか。あれをいかに自然に溶け込ませるかというのが、一通り書き終えたあとの作業の醍醐味というか。伏線ってやっぱり読者に覚えていてもらわないといけなくて、「そんなこと書いてあった?」と思われると駄目で、かといってあからさまにこの話をするのは伏線に違いないと思われても駄目で、バランスが難しいですね。特にロジックを解くための伏線は、そのへんが目立ちがちというか。

 伏線って二種類あって、ひとつは、探偵みたいなキャラクターが犯人を特定するためのロジックに貢献する伏線と、そうでもない伏線。浅倉さんは、この二つを満遍なく使われている。僕はどちらかというとロジックに貢献する伏線ばかり使いがちなので。でもキャラクターの意外な面が見えたり、真相が判明する事実が見えてきたりする伏線を張るのも浅倉さんは得意で、だからこそ伏線の狙撃手と言われるのだろうと。


浅倉:そう言っていただいて嬉しいですね。ただ僕はもっとテクニカルに、少しわざとらしいくらいでも、ネクスト・コナンズ・ヒントくらいに堂々と出すというパズルとしての喜びを蔑ろにしがちなんじゃないかという内省はちょっとありますね。二種類ある伏線の中で、完全に分離してるわけじゃないところもあるじゃないですか。僕は、解釈が変わってミステリ的に紐解かれた瞬間に、前段の人たちのちょっとした言動に色がつくというのは、相沢さんの作品にこそ感じたことではあったんですけど。

 僕は戻って書けないほうで、最初から最後まで書いて、あとはゲラで誤字脱字を直すという……。戻って直すと作品が歪になるんじゃないかと思って。


相沢:伏線もプロットの段階で考えるんですか。


浅倉:僕は心配性で、これは作品にならないんじゃないかとずっと悩んじゃうんですよ。だから文章表現は整っていないけどほぼ完成している原稿を送って、それにGOサインが出たら三倍くらいにして書くんですね。お湯に入れたら膨らむタオルみたいに(笑)。


相沢:お湯に入れる前に伏線は入っているんですか。


浅倉:ギッチギチですけど。最初の時点で、後の自分が困らないように書いています。


相沢:僕みたいに直す癖がつくといつ完成なのかわからないし、そこはあんまり良くないところではありますね。いつまでも直しに凝っちゃうし、伏線を追加したくなるし。

(後編につづく)

作品紹介



invert 城塚翡翠倒叙集
著者:相沢 沙呼
定価:1,925円(本体1,750円+税)
発売日:2021年07月07日

ミステリランキング五冠! 『medium 霊媒探偵城塚翡翠』待望の続編!
IT企業の社長を殺害したエンジニア。校務員を転落死に偽装して殺した小学校教諭。人を殺すことを厭わない犯罪界のナポレオン。彼らは皆、綿密な犯罪計画を練り、殺人を実行した。アリバイは鉄壁で、物証はなし。事件は事故として処理される――はずだった。彼女が現れるまでは。「死者の声を聴く」という美女、城塚翡翠によって、彼らの計画はすこしずつ崩壊していく。はたして、霊媒探偵の翡翠から、犯人たちは逃れることができるのか?
著者が問いかける「謎」をあなたは解くことができるか? 傑作倒叙ミステリ中編集!
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六人の嘘つきな大学生
著者 浅倉 秋成
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2021年03月02日

「犯人」が死んだ時、すべての動機が明かされる――新世代の青春ミステリ!
IT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った六人の就活生。彼らに与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。
教室が、ひとりになるまで』でミステリ界の話題をさらった浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000377/
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浅倉秋成

1989年生まれ、小説家。関東在住。第13回講談社BOX新人賞Powersを『ノワール・レヴナント』で受賞しデビュー。2019年に刊行した『教室が、ひとりになるまで』で第20回本格ミステリ大賞と、第73回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門にWノミネート、『六人の嘘つきな大学生』で第12かい山田風太郎賞候補。その他の著書に『フラッガーの方程式』『失恋の準備をお願いします』『九度目の十八歳を迎えた君と』など。

相沢沙呼

1983年生まれ、小説家。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。2019年『medium 霊媒探偵城塚翡翠』が、「このミステリーがすごい!」、「本格ミステリ・ベスト10」、「2019年ベストブック」で3冠を獲得。2016年に発表された『小説の神様』は、実写映画化された。その他の著書に「マツリカ」シリーズ、『雨の降る日は学校に行かない』など。

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