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特集

『medium』の次に読むべき作品はこちら! 二重の謎というこだわりを追求した学園本格ミステリーー 『マツリカ・マトリョシカ』文庫化記念、相沢沙呼インタビュー

撮影:小林 祐美  取材・文:高倉 優子 

昨年9月に発表された相沢沙呼さんの『medium霊媒探偵城塚翡翠』(講談社)が、「このミステリーがすごい!」2020年版国内篇第1位、「本格ミステリ・ベスト10」2020年版国内ランキング第1位、「2019年ベストブック」(Apple Books)2019ベストミステリーに選出。名だたる国内ミステリランキングの三冠に輝き、大きな話題となりました。その名作が誕生するきっかけとなったのは、大人気「マツリカ」シリーズの3作目『マツリカ・マトリョシカ』だった!? その真相を聞くべく、文庫化されるタイミングでインタビューを行いました。

デビュー10周年で快挙を達成


――まずは、『medium霊媒探偵城塚翡翠』(以下、『medium』)の国内ミステリランキング三冠達成おめでとうございます! 執筆中から、「これはいい作品になるぞ!」という手応えのようなものはあったのでしょうか?


相沢:ありがとうございます。執筆しているときは「ミステリファンの間で話題になるんじゃないか……」くらいの気持ちはありました。本格ミステリ好きのややマニアックな人なら喜んでくれるだろう、と。でもミステリを読まない、あるいはミステリはそんなに好きじゃないという人にも届けたかったので、そういう人たちが手に取ってくれるかは正直、心配でしたね。担当編集者は「傑作だ!」と言っていましたけど(笑)。


――実際、傑作との呼び声が高く、ベストセラーにもなりました。


相沢:ツイッターで「初めてミステリ作品を読みました。面白かったです」と学生さんらしき若い方からダイレクトメッセージをいただき、たくさんの方に読んでもらえていることを実感しました。マニアが読むことを前提に書いた作品だったので、ミステリを読んだことがない人にも響いたのがすごく嬉しかったですね。

 自分はこれまで、学校や社会にうまく適応できない人たちに寄り添った、ある種、狭い範囲の人に深く刺さるような小説を書いてきました。今後もそれは書き続けたいテーマではあるんですが、読者の裾野を広げるためにももっとエンターテインメントに振り切った作品が書いてみたかった。デビュー10周年を迎えたこともあり、新しいことに挑戦してみたいと思ったんです。



日常の謎を描く人気シリーズ


――噂によると、『medium』を書くきっかけになったことのひとつに、先日、文庫版が発売された『マツリカ・マトリョシカ』(以下、『マトリョシカ』)の存在があったとか。大人気の「マツリカ」シリーズ3作目ですが、その噂は本当ですか?


相沢:本当です(笑)。「マツリカ」シリーズは、日常の謎の範疇でどこまで書けるか挑戦し続けてきた作品ですが、『マトリョシカ』に関しては、その範囲を飛び越えてしまった感がありました。人が死んでいないだけで、日常の謎とは言えないな、と。デビューから日常の謎を描くことにこだわってきたけれど、今こそ殺人事件を扱ったミステリに取り組むときかもしれない、と思ったんです。第18回本格ミステリ大賞の候補に選んでいただいたことも大きかったですね。認めてもらえたことで自信がついて、方向性は間違っていない、新しいことをやってみようと思えたので。


「マツリカ」シリーズ3作目『マツリカ・マトリョシカ』(角川文庫)


――そもそもデビュー以来、日常の謎をテーマにして書いてこられた理由とは?


相沢:以前、北村薫先生がこんなことをおっしゃっていたんです。「日常の些細なことに深く注目できていれば、大切な人が悩んでいたり、苦しんでいるときにいち早く気づいて声をかけてあげられるはず」と。その通りだと思いました。人間はどうしても自分のことしか見えなくなりがちだけど、少し視線を外に向けて、「あの人はどうして怒っているのかな?」「なぜ笑っているのかな?」と観察しておく。それが日常の謎を描く上でも役立つし、小説を読んで日常の謎に触れた人が、自分の周りの大事なことに気付くきっかけになってくれたらいいなという思いもありました。

 ただね、日常の謎を書くのって本当に辛いんですよ(笑)。『medium』を書いてみてわかったんですが、殺人事件はプロットを0からじゃなく1から組み立てることができる。死体をどこに置くか、死体はどのような状態か、死因は何かといったディテールを考えていけば物語になっていく。スタートラインが明確で、アイデアを出しやすいんです。それに引き換え、日常の謎はそもそも何を置いたら不思議に見えるのか、面白いのかということから考えなければいけません。つまり0から1を生み出すわけですが、これが面倒くさくて辛いんです。日常の謎を書くのは好き。でも辛いからやりたくないという、相反する感情を抱えながら書いています(笑)。いざ書き出すと楽しいし、書き終わった後の達成感はかなりあるんですけどね。

『medium』の次に読んでほしい1冊


――『マトリョシカ』の執筆に関しては、いかがでしたか?


相沢:『medium』の10倍くらい大変でした。学校に「開かずの扉」があって……という密室トリックは割とすぐに思いついたけれど、どんな風に描いていけば面白くなるのかが、さっぱりわからなくて。開かずの扉の中で誰かが死んでいたら、その人の背後にあるドラマなどで引っ張ることも可能ですが、そうではない場合、長編として描くのがなかなかしんどい。そこで密室をふたつ作って多重解決ミステリにしようと思いつきました。それぞれの密室について推理する人が複数いるという構成にしたんです。

 あと頭を悩ませたのは、タイムスケジュール問題ですね。学校だから土日は休みじゃないですか。みんなで推理しているのに休みがあると緊迫感がそがれて、描写しづらいんです。試験期間中の出来事というのも肝ですが、試験期間はどれくらい? 事件は何月の何曜日に起こる? といったことを最初にきっちり決めてから書き始めました。器用な人なら考えないんでしょうけど、僕の場合、決めておかないと行き詰まることは目に見えていたので。



――すごく緻密に書かれた作品なのですね。


相沢:二重の謎という自分なりのこだわりを追求した本格度の高い作品になりました。『medium』の次に読む作品を探している方には、『マトリョシカ』をおすすめしたいですね。シリーズ3作目ではありますが、きっと楽しんでいただけると思います。もちろん、1作目『マツリカ・マジョルカ』(以下、『マジョルカ』)から順に読んでもらえれば、いっそう世界観に入り込めると思いますが。


シリーズ1作目『マツリカ・マジョルカ』(角川文庫)


マツリカの描写はご褒美のようなもの


――このシリーズの魅力は、なんといっても個性的なキャラクターたちですね。まずは、マツリカさんについて聞かせてください。


相沢:マツリカさんを書くのはご褒美のようなもの(笑)。さっき言ったように日常の謎を書くのは大変なので、楽しい描写というご褒美がないと目的地に向かって走れないんです(笑)。それに、マツリカさんの描写はこのシリーズの見どころだと思うので、官能的かつ魅力的に描くことを心がけています。ただし、2作目の『マツリカ・マハリタ』(以下、『マハリタ』)と比べると、発想力というか妄想力が衰えているかもしれないと感じました。「あれ、マツリカさん、普通だぞ……」と。でも『マトリョシカ』はやや普通だったかもしれないと反省しています。今後続編を書くのならば、そこらへんに磨きをかけなきゃいけないな。いや待てよ、そんな工夫は必要なのだろうか? などと考えているところです(笑)。


――それでは、そんなマツリカさんに翻弄される主人公の柴犬くんについてはいかがですか?


相沢:過去のトラウマもあり、彼はネガティブな陰キャラという設定でしたが、回を重ねるごとに成長し、『マトリョシカ』では友だちも増えてマツリカとの関係にも変化が出てきました。そろそろネガティブな言動にも無理があるかも……というのが悩みどころです。立派になったものですよ。

「柴犬がモテている!」と言われることもありますが、今のところ、彼のことを好きな子はいませんからね。あれくらいでモテていると言っちゃダメ。勘違いしちゃダメですよ。女の子は思わせぶりな生き物ですからね。期待するだけ無駄なんです(笑)。次回以降、彼が勘違いしてしまって、何かやらかす……みたいな話は書けるかもしれませんね。



リアリティのある少年少女が描きたい


――ズバリ、柴犬のキャラには相沢さんご自身が投影されていますか?


相沢:『マジョルカ』は20代の頃に書いたので、柴犬との年齢差もあまりなく、自分を重ねて書きやすかったですね。ほぼ自分の分身みたいな感覚でした。ただし、2作目、3作目になると年齢差も開いてきたので、兄みたいな気分で少し離れたところから見ている感じでしたね。この作品に限ったことではないんですが、学園もの・青春ものを書いている身としては「今の子たちはどんなことで悩んでいるんだろう?」「どうやったら距離をつめられるかな」ということは常に考えています。

 僕が学生時代に読んでいた小説は、一般文芸では特に、リアルな少年少女が描かれている作品は少なく、「自分たちの物語だ」と共感することはできませんでした。だからこそ僕は、リアリティのある少年少女が描きたい。若い読者に手にしてもらい、喜んでもらえることが僕の執筆の原動力なんです。



相沢沙呼マツリカ・マトリョシカ』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000262/


相沢 沙呼

1983年埼玉県生まれ。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。『medium 霊媒探偵城塚翡翠』が「このミステリーがすごい!」など名だたる国内ミステリランキングの三冠に輝き、大きな話題に。

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