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特集

とにかくこの伏線がすごい! 2021年最注目ミステリ作家によるネタバレありの禁断トーク!【浅倉秋成×相沢沙呼 緊急対談(後編)】

構成・文/千街晶之

2021年のミステリ、これを読まなきゃ終われない!

2021年のミステリ界を騒がせた、『六人の噓つきな大学生』(KADOKAWA)の浅倉秋成さんと『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社)の相沢沙呼さんに、「ミステリにおける伏線と反転」について語っていただいている特別対談。
後編では作品のネタバレありの禁断トークが展開! 未読の方は、是非それぞれの作品をお読みになってからご覧ください。

▼前編はこちら
https://kadobun.jp/feature/talks/bf0jwnim5e04.html

この先には『六人の噓つきな大学生』(KADOKAWA)と『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社)のネタバレが含まれています。

『六人の噓つきな大学生』浅倉秋成×『invert 城塚翡翠倒叙集』相沢沙呼 緊急対談(後編)


――城塚翡翠は最後まで読んでも正体不明なところがありますし、『六人の噓つきな大学生』は各登場人物のイメージが何度も反転します。素顔を伏せたまま登場人物を描く工夫と苦心した点についてお聞きしたいと思います。


相沢:『invert』は倒叙ものなので、あるパターンでの犯人と探偵の対決を描くわけですが、そのパターンだとコロンボも古畑任三郎も本性がよくわからない。犯人役の目を通してしか描かれないので、だからこそ犯人にとって怖いわけです。コロンボや古畑は映像だから、役者さんの魅力でイメージが伝わるんですけど、小説だとそうはいかないので、犯人目線だと探偵が敵キャラになってしまう。キャラクターとして翡翠が可愛いみたいなことを言ってくれた人たちには、犯人目線を通してではない翡翠を見たいという声もあるだろうと思って、千和崎真を通した、より素の状態に近い翡翠を描きました。そうやって好感度のバランスをコントロールしようとしたんですけど、そこはちょっと失敗したかな。読者には犯人に感情移入しちゃって、翡翠が嫌いという人もいるし。


浅倉:ご自身は失敗したとおっしゃいますけど、最後にアフターケアがあるから、しっかりみんな翡翠ちゃんが可愛かったで終わる、この絶妙な匙加減はプロフェッショナル以外の何物でもないなと感じました。


――あと『invert』のキャラクター描写で印象的だったのは、第三話「信用ならない目撃者」の犯人のイメージの反転です。


相沢:犯罪の裏で糸を引いているキャラというのがあまり好きではなくて、講談社の人たちと三本目の犯人はそういうキャラにしようという打ち合わせをした時に、僕は犯罪界のナポレオンみたいなのは嫌だなと思ってたんですけど、やってほしいと言うから、まず担当さんを騙そうと(笑)。強敵っぽく描いて、どうする翡翠?みたいにして、実は強敵でもなんでもなかったということにしてああいう感じにしました。担当さんは驚いてくれたんじゃないでしょうか(笑)。


浅倉:では、その提案がなければあの本の山場は生まれなかった可能性も。


相沢:そうですね。普通の無難な話になっていたかも(笑)。


――真と翡翠の入れ替わりのトリックは『medium』の時から考えていたんでしょうか。


相沢:そういう仕掛けは出来るなとは思っていたんですが、このタイミングでやったほうがいいなと思ったのは何故かというと、入れ替わっている状態を描くと、三人称で噓を書くな問題が出てくる。つまり、真のことを翡翠と書いちゃいけない。僕は一人称に近い三人称ならば、登場人物が偽名を名乗っていればその名前で書いてもいいと思っているんですけど、これをどう自然に、フェアなかたちに持っていくかを考えたんです。そこで登場人物の意識で、偽名である名前を三人称で描くことを前の段階でやっておこうと。それで、二話目の「泡沫の審判」で翡翠に白井奈々子と名乗らせて、それは視点人物の認識ではそう名乗られたから、翡翠のことをその名前でずっと三人称で呼んでいる。これを先にやっておけば、フェアじゃないといわれても「いや、前の話を読みなさい」と(笑)。中編集のかたちで、一話まるまる使って説明しておくことで、入れ替わりをフェアに成立させられるかなと思いました。


――浅倉さんは、キャラクターの印象の反転をどのように演出していますか。


浅倉:『六人の噓つきな大学生』を通して人間の本質を考えた時に、違う一面を見せるというよりは、全部が正面であるという感覚で書こうと思ったところはあるんですね。コロナ禍の飲食店の状況をニュースで見ると、「今日もお客さんが来ませんでした」みたいに報道されると「頑張れ」と応援したくなるんですが、すぐあとに「お酒を飲む場所で感染者が増大しました」みたいな報道が流れたりすると「お店、閉めろよ」みたいに思ったりする。結局、切り取り方次第なんですね。両面のどちらか一面だけを見せれば、物語の魔力でみんな飛びつくので、人間の本質ってどこにスポットライトを当てるかという問題ですね。その過程で結構大胆に、見えるところだけ書いてしまうやり方をしたところはあります。


相沢:登場人物のインタビューの最後で、こいつ悪いやつだみたいな台詞で終わらせるじゃないですか。でも、そこに情報がひとつ付け足されると意味が変わって、いい話で終わるというのは、ミステリ的だし、僕の好きなマジック的でもあって面白かったです。


――登場人物の素顔を伏せたまま、キャラクター描写の軸がブレないようにするにはどうすればいいと思いますか。


浅倉: 作品を書く時に、このキャラクターはこの俳優さんにやってもらおうみたいなことを考えるんですが、この顔だ、という時があって、その人の写真を貼っておいて作品を書くと、「この顔でこの台詞を言うかな、言わないな」と感じる時があるんですね。顔を軸にすると意外とブレないです。


相沢:確かに、イメージしている顔ってあるなあと。具体的に誰々というのはないんですが、この顔だとそんなことは言わないだろうというのはありますね。


浅倉:相沢さんの中にある顔は三次元ですか、二次元ですか。


相沢:僕は基本的にアニメーションなんですよ、浮かんでくるのが。あんまり実写では浮かばない。アニメとか漫画を見て育った人間なので、ここでアップになってハイライトが当たって……というふうに映像が浮かんで、それに従って書いている感じです。


浅倉:僕も物語に触れるきっかけは漫画とアニメなんですね。恥ずかしい話をするならば、最初は深夜帯の地上波だったらちょっとエッチなアニメがあるんじゃないかという下心で(笑)。もちろん硬派なアニメも面白くて、アニメだったら全部見ちゃおうという時期があって。そこから物語が好きになって、自分でも書こうと。最初は講談社BOXというレーベルからデビューしたんですけど、自分では勝手に相沢さんとマインド的には近いものがあったんじゃないかと……キラキラしたアニメの世界に対する自分の小ささの埋め合わせというか、日常とフィクションとの断絶に対しての寂しさがあって、それが埋まらないかなと思って筆を走らせているから、究極的には「もっといいことないかな」みたいな、そういう自分慰め文学ではあったんですね、初期は。それは恥ずかしいことではありつつも、偽れないなあという思いも。


相沢:中二病的な妄想というか、非日常への憧れというのはすごくあって、それがだんだんなくなって、現実というものを知っていくと、自分を慰める方向として、フィクションを書いて妄想をかたちにしていくというのは全く同じですね。


浅倉:最初はそれですよね、自分のままならなさと向き合うという。ただ、作品にある中二病的なものへの読者の批判も拾って、それにアンサーを返そうとするのが相沢さんの小説だと思うんです。


相沢:めちゃめちゃ見透かされてるなあ(笑)。負けず嫌いなところと自己批判的なところがあって、作品への批判もわかっちゃうところもあるんだけど、そこも読者には満足してもらいたいから、次はこうしようかと。ポジティブに考えるとネタをもらってるというか、この批判は次は使えないようにするという意味で、毎回ネタをもらってる気はしますね。


浅倉:作品を通して読者と対話する方だなあというか、『invert』という小説を書いたことも含めて、本当に逃げない方だなあと。作家の姿勢としてかっこいいなあと思っています。


――最後に、今後の予定についてお願いします。


相沢:はっきりした刊行予定は今のところないのですが、城塚翡翠シリーズは何かしらのかたちで出すと思います。時間はかかるかもしれないですが、短編集は出るはずです。


浅倉:僕も次に何をというのは決まっていませんが、双葉社さんの長編がそろそろゲラになるんじゃないかと。あと、何故かお笑いの漫画の原作を「ジャンプSQ.」(集英社)で始めました(『ショーハショーテン!』)。打ち切りにならなければしばらく続くと思います。

作品紹介



invert 城塚翡翠倒叙集
著者:相沢 沙呼
定価:1,925円(本体1,750円+税)
発売日:2021年07月07日

ミステリランキング五冠! 『medium 霊媒探偵城塚翡翠』待望の続編!
IT企業の社長を殺害したエンジニア。校務員を転落死に偽装して殺した小学校教諭。人を殺すことを厭わない犯罪界のナポレオン。彼らは皆、綿密な犯罪計画を練り、殺人を実行した。アリバイは鉄壁で、物証はなし。事件は事故として処理される――はずだった。彼女が現れるまでは。「死者の声を聴く」という美女、城塚翡翠によって、彼らの計画はすこしずつ崩壊していく。はたして、霊媒探偵の翡翠から、犯人たちは逃れることができるのか?
著者が問いかける「謎」をあなたは解くことができるか? 傑作倒叙ミステリ中編集!
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六人の嘘つきな大学生
著者 浅倉 秋成
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
発売日:2021年03月02日

「犯人」が死んだ時、すべての動機が明かされる――新世代の青春ミステリ!
IT企業「スピラリンクス」の最終選考に残った六人の就活生。彼らに与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。
教室が、ひとりになるまで』でミステリ界の話題をさらった浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000377/
amazonページはこちら

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『medium』の次に読むべき作品はこちら! 二重の謎というこだわりを追求した学園本格ミステリーー 『マツリカ・マトリョシカ』文庫化記念、相沢沙呼インタビュー
https://kadobun.jp/feature/interview/23sr15un3ybo.html


浅倉秋成

1989年生まれ、小説家。関東在住。第13回講談社BOX新人賞Powersを『ノワール・レヴナント』で受賞しデビュー。2019年に刊行した『教室が、ひとりになるまで』で第20回本格ミステリ大賞と、第73回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門にWノミネート、『六人の嘘つきな大学生』で第12かい山田風太郎賞候補。その他の著書に『フラッガーの方程式』『失恋の準備をお願いします』『九度目の十八歳を迎えた君と』など。

相沢沙呼

1983年生まれ、小説家。2009年『午前零時のサンドリヨン』で第19回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。2019年『medium 霊媒探偵城塚翡翠』が、「このミステリーがすごい!」、「本格ミステリ・ベスト10」、「2019年ベストブック」で3冠を獲得。2016年に発表された『小説の神様』は、実写映画化された。その他の著書に「マツリカ」シリーズ、『雨の降る日は学校に行かない』など。

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