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特集

「疑似家族は自分で自分を生んだ場所」〈後編〉『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』刊行記念対談 桜木紫乃×新井見枝香

撮影:原田 直樹 

>>【前編】リアル家族と疑似家族

師匠と見枝香どん


――お二人が知り合ったのは十年くらい前とのことですが、新井さんは桜木さんのことを師匠と呼んでいますよね。


桜木:そういえば、私、自分が何の師匠か聞いたことないんだよね(笑)。今日明らかにしてもらいたいなあ、と思って。


新井:それは、章介がマジシャンを師匠と呼んでいるのと同じような感じで。べつにマジックを習うわけじゃないけど師匠。それと同じで小説を習うわけでもないんだけど、師匠。


桜木:何を教えるわけでもないんだけど、師匠になってます(笑)。


リモート対談の様子(写真左から、桜木紫乃さん、新井見枝香さん)


新井:俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』の師匠はすごく良かったですね。言葉少なで「うふふ」って笑う。章介がいままで会ったことのないタイプの人で、いろんなことを考える、言葉にするってことを教えてくれたような気がして。偶然っていうか、そうならざるをえなかったけど、あの部屋割りはすごく良かったなって思ったんだ。


桜木:章介と師匠、ソコ・シャネルとフラワーひとみという部屋割りね。そうならざるをえなかったってその通りだけど、ノープランで書いたんですよ、ぜんぶ。


新井:おー。そうなのか!


桜木:完全ノープランで、明日何が見えてくるかわからない状態で寝て。起きてあの部屋に行くと、彼らも一晩眠って起きてるわけ。一緒に暮らしてる感がありましたよ。もしかしたら私は、部屋の隅にあった章介の父親、「サソリのテツ」の遺骨なんじゃないかって(笑)。骨箱に入っている骨から見てた。すごい楽しかったですよ。


新井:明日どうしようか何も決まってない。そのワクワク感。「お正月はお店も休みだし、何しようかな」。あのふわっとした感じがすごく楽しくて。べつにこのまま何も起こらなくてもいいなあって思っちゃった。楽しいから。そういう小説を、私はいままで新井賞に選んでこなかったな。

 いままで新井賞に選んできたのは、何か1つ大きなことが起こってその謎を解明していくとか、大きなことを1つめざしていくとか。いつも戦っている人が主人公で、その人の人生の戦いを見るみたいな感じの小説が好きだった。今回みたいに、4人がいつも一緒にいて、誰が主人公だかわかんない。でも楽しい。そういう小説をいちばんいいと思った自分の変化が、今回いちばんの驚きだったな。


桜木:そんな。掃いて捨てて完全に発酵するほど小説を読んできたでしょう?


新井:うん、いっぱい読んできて、師匠の書くものが変わっていくのと同時に私も変わっていって。そこにもやっぱり何かのつながりがあるんだと思う。書いたのは師匠だけど、読んだら私の小説になるので。

 でも、新井賞を選んだり、本をおすすめするとき、ほかの人がどう受け取るかすごく考えたことがあって。今回もストリッパーの話だから、私が踊り子をしているから面白かったんだろうな、と思われるのがいちばん嫌だった。


書影

桜木紫乃『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』
定価: 1,760円(本体1,600円+税)
※画像タップでAmazonページに移動します。


見た人を試す生き方


桜木:見枝香さんは、いま、3つ稼働してるんだよね。書いて、売って、踊って。


新井:難しいんだ。バランスをとるのが。本屋で売るのがいちばん難しい。大して売ってないのに、書店員でございみたいな顔をしてやってるのがすごい苦しいときがあって。

 でも、こうやって『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』みたいな売りたい本が出てきたときに、売るってことは書店員じゃないとできないからやってて良かったなって思う。難しいけどね。

 踊り子も難しくて。新型コロナウイルスでストリップ劇場の休館が増えれば踊る場所もなくなるかもしれないし。書くほうは書くほうで時間をどうやってとるかって問題があって。でも、ギリギリのバランスでぜんぶ必要だなと思って。


桜木:ぜんぶ必要だよね。ぜんぶつながってるから。


新井:新井賞に関しても、舞台で裸になるような人が面白いと思う本を選んでいるわけだから。ぜんぶ一緒なんだよ、って思うんだよね。


桜木:世の中にはね、こうやって常に市井の人たちを試し続ける人間がいるんだよ。意識しているのかしてないのかはわからないけど、新井見枝香の生き方は、それを見た人を試してる気がする。私が最後まで私の小説を読んでくれた人の感想を訊ねることなく試してるように。

 あなたは踊り子で書店員でエッセイストで、そのうちきっとフィクションも書くだろうけど、そういう自分を見ている人を試してる。それは決して悪い意味じゃなくて、自分のかたちを確かめる作業で、生き方なんだと思います。



新井:そうかな。


桜木:いつも小説が何のためにあるかなんて考えながら書いているわけじゃないけど、好きな小説をばーっと並べてみると、なぜか私を許してくれる小説ばかりなんだよね。

 私はそれをストリップ劇場に行っても感じるわけさ。踊り子さんは、毎日毎日傷つきながら人を許してる。そういう仕事だと思っていてね。人前で脱ぐなんてできそうでできないことだから、それができるっていうのは、それこそ人として傷つき一皮むけた人だと思ってる。

 そういう世界に飛び込んだ人が、この1年で変わった自分を手に入れて、私の小説も変わったねと言ってくれた。なんというか、書き手冥利に尽きる一言をもらった。書き手冥利っていうのは、変わっていく私を時間をかけて見ていてくれているということだから。

 どんどん腕が上がっていってるかは私にはわからないけれど、ちょっとはうまくなってると思うんだ。見枝香さんも、1年間、小屋で踊ってるから踊り子として絶対にうまくなってると思うんだよね。


新井:『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』で、章介のお母さんが、旦那が死んで新しく1歩踏み出していったりとか、キャバレー「パラダイス」をやめたホステスがお店を出すとか、みんな少しずつ変化して違う場所へ行く。「パラダイス」のマネージャーの木崎は、そうやって去っていく人を見送って、自分はずっと動かないんだけど、章介には、ここを出て外の世界を見たほうがいいって言う。人が先に進んでいくことを、いいこととして見られる人でいられるって、すごくいいことだなと思った。

書いてみろ、脱いでみろ


桜木:小説を1冊書くごとに、自分でつくった登場人物に教えてもらうことがあるんだ。今回学んだのは、どんなときも笑っていかないとなってこと。そうじゃないと、笑いたい人が集まってこない。裸のあるところには裸を見たい人が集まってくるんだ! 小説を読みたい人は本屋に集まってくるんだ!


新井:うんうん。


桜木:気がつくと、編集者に書き手として生んでもらってそろそろ20年になるんですよ。20年といえば成人でござるよ。自分で行きたいところに行って、笑えることは自分で探していかなきゃいけないなと思ってるんだ。


新井:そうか、そうだな。


桜木:見枝香さんも、きっと楽に呼吸できるところに向かって進んでいると思うんだよ。踊り子さんになるってときだって「これからなります」じゃなくて、「もうなりました」だったからね。あちこちで、桜木にストリップ劇場につれてってもらって、ハマったから自分も踊っていますって書いてくれたけど、ある場所からは、私は恨まれてると思う。新井見枝香をストリップの世界につれていったことについて。

 でも、大人が40になって選択したことを、周りがあーだこーだ言うのはおかしい。行きたいところに行けて笑ってるこの子、いいじゃないか、と思った。どんなに踊り子にあこがれても、実際に自分で脱げる子なんてわずか。小説も同じ。まずは動きだせ。書いてみろ、脱いでみろだよね。



桜木紫乃『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322010000875/


桜木 紫乃(さくらぎ しの)

1965年北海道生まれ。2002年「雪虫」で第82回オール讀物新人賞を受賞。07年に同作を収録した『氷平線』を刊行。13年『ホテルローヤル』で直木賞を受賞。20年『家族じまい』で中央公論文芸賞を受賞。著書に『ワン・モア』『砂上』『無垢の領域』『蛇行する月』『緋の河』など多数。

新井 見枝香(あらい みえか)

1980年東京生まれ。アルバイト時代を経て書店員となり、現在は東京・日比谷の「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」で働く。また、エッセイスト、踊り子としても活躍。独自に設立した文学賞「新井賞」は13回を数え、21年『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』が発売前に受賞した。

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