現在放送中のドラマ「恋愛禁止」の原作者であり監督も務める長江俊和さんと、大ヒット中の映画「近畿地方のある場所について」の原作者として一躍注目を集めた背筋さん。ドラマと映画、それぞれで話題を呼ぶ二人が顔を合わせました。きっかけはどこにあったのか、どんな思いで物語を形にしてきたのか。ホラーを軸にしながらも、それぞれの作品ならではの工夫や面白さを語っていただきました。
『恋愛禁止』長江俊和×『近畿地方のある場所について』背筋 映像化記念対談
誰もが持つ「怖いものへの惹かれ」
――まず、お互いの作品の印象について教えていただけますか?
長江:率直に怖いと思いました。近畿地方特有のありそうな歴史的な背景も、ジメジメした感じもすごく出ていて、書いていない行間から
背筋:私もずっとホラーが好きだったんですけど、日陰者というか……。しかもモキュメンタリーというジャンルがウケるなんて全く思っていなかったので、本当にびっくりしました。ホラーってそもそも好き嫌いがはっきり分かれるジャンルで、ブームが来たからといって、嫌いなものを好きになる人ってあまりいないと思うんですよね。だから、一体何が起こっているのかと思っていました。
長江:波はあるにせよ、怖いものは結局みんな好きだろうなと思います。重度のオカルトファンとかホラーファンじゃなくても、心の奥底には怖いものや恐ろしいものに惹かれる気持ちっていうのは、誰にもあるんじゃないかなと思います。
――背筋さんは『恋愛禁止』についてはどういった印象でしたか?
背筋:私は長江作品ファンなので『恋愛禁止』を拝読した時に、勝手に「長江さんらしさ」と「長江さんらしくなさ」という、二軸を感じました。私の中の長江さんの作品の印象って“ミステリー”で、驚きとか裏切りの連続みたいなことかなと思うんです。そこは何かご自身の中で意識されていたこととかありますか?
長江:恋愛の恐怖を描きたいっていうのは前から思っていました。そこに、遺体が消えた、事件が消えた、っていう不条理なことに右往左往する人を、恋愛をテーマに突き詰めて書いていきたいという考えでした。
自分が罪を犯している夢を見る
――『恋愛禁止』を書こうと思ったきっかけを教えてください。
長江:ある時「禁止」とつく何かを書いてほしいと編集者の方に言われて、ふわっと『恋愛禁止』というタイトルだけが出てきました。そこからおかしな恋愛や狂った恋愛をテーマにしました。別の短編のアイデアで、「自分の犯罪が消えた話っておもしろいな」と思って、確実にその人を殺して逃げたはずなのに、遺体も消えて事件もニュースにならない。一体どうなるんだ、というのを短編で書こうと思ったんですけど、どうしてもそれを書きたくなって「じゃあ、これを『恋愛禁止』にしよう」と言って、(短編と)統合して長編にしました。
――実際に見られた夢も元になっているそうですね。
長江:定期的に見る夢で、自分が罪を犯しているんですよね……。多分人を殺して逃げていて、何かに追われているっていう夢で「このままだと逮捕される」と罪に苛まれて、うわー! って起きることがあったので、「夢かと思ったら夢じゃなかった」というのは小説に入れさせてもらいました。ドラマの中でも自分の罪から逃れられない恐怖は、今回テーマとして描いています。
趣味から始まった執筆
――『近畿地方のある場所について』を書こうと思ったきっかけを教えてください。
背筋:元々長江さんの作品も含めてホラーが大好きだったので、最初は趣味のつもりで書いていました。『カクヨム』に投稿したら、ありがたいことにご好評いただいて、いつの間にかという感じです。
――モキュメンタリーという形式にした理由は?
背筋:そもそも小説を書いたことがなかったので、長編を書こうと思っていなかったです。元々掌編で書いていたので続きを書くとなった時に、長編にするというよりいっぱい掌編を書きたいという欲がありました。ただ、そこに何か1本軸を通さないと作品にできないと思ったので、大きな受け皿として「これは私が集めた」または「誰々さんが集めた記事です」という体裁をとる案にたどり着きました。
――実際に心霊スポットには行きましたか?
背筋:いや、ないですね……。(長江さんは)取材行かれますか?
長江:『恋愛禁止』ではなかったけど、『東京二十三区女』を書いた時は取材に行きました。東京の区ごとの都市伝説や伝承がある事件をテーマにフィクションの小説を書いた作品で、その場所に行って、実際見ました。
背筋:その場所に行く段階で「何を主題にしよう」と決めていくんですか?
長江:そうですね。例えば板橋区だったら“
単行本と文庫本で異なる物語
――『近畿地方のある場所について』は単行本と文庫本で内容が違うそうですね。
背筋:まず主人公が変わりました。単行本を買ってくださった読者の方は、早い段階で見つけていただいた、一番大切にしたいファンっていうのは常々思っていたので、そんな方に文庫本を別作品として楽しんでもらえたらいいな、というのが大きな意図としてありました。どう変えようかと思った時に、単行本はドキュメンタリーのリアルさや、そこから立ち上る恐怖を徹底して追求していたんです。だから文庫本では、フェイクドキュメンタリーの中で物語を語っていきたい、という別のテーマを立てて書きました。単行本の方では、ある種ストーリーテラー(物語を語る人)的な役回りだったキャラクターが、意思を持って、人間臭い動きで物語を運んでいってくれる、という風に書きたかった気持ちがありました。
――内容を変更する上で苦労した点は?
背筋:それこそ長江さんは原作をご自身でドラマ化されるっていう所で、同じ大変さや悩みがあるのではと勝手に推察しているんですが、自分で書いたものを再編集するのって、めちゃくちゃ難しいですよね。
長江:自己否定のような感覚ですよね……。
背筋:自分の中では育てあげた子どもなのに、もう1回幼児として戻ってきたみたいな感じなので、頭を抱えながら作りました。
――長江さんも原作とドラマのラストを変えていますが、意識されたことは?
長江:単行本と文庫本でもラストを変えました。同じように、ドラマ版もまた異なるラストにし、読んでもらった人を驚かせようと思ったんです。単行本・文庫本・ドラマと、それぞれ異なる3種類のラストを描きました。中でも特にドラマ版のラストが一番怖いんじゃないかなと思っています。今回のドラマでようやく自分の中で完結を迎えられたと感じていますので、ぜひ期待していただければと思います!
“怖さ”をフックにおもしろい物語を描く
――最後にホラーというジャンルを扱う上での醍醐味を教えてください。
長江:ホラーは大好きだけど、自分の作品はホラーと思って作っていないです。とりあえずおもしろいと思うものを作ったら、それが“ホラー”とか“ミステリー”と言われるという。僕自身は、幽霊とかUFOは信じていなくて、「幽霊がいるから怖い」みたいな恐怖は好みじゃないというか……。興味があるのは、「幽霊が怖いと思ってる人がいる」「UFOがいると思ってる人がいる」っていう、オカルトを信じている人の心理的な面なんです。それを作品に応用させてもらっていて、それが自分の作風だと思っています。
背筋:長江さんのお答えにかなり通ずる部分があるんですけど、恐怖とかホラーを語る上で、物語として語りたいと思っています。「怖い」と同時に、それ以上におもしろいもの、興味深いものを作りたいと思っているので、極論、おもしろければホラーでも、怖くなくていいと思っています。怖さこそがホラーにおけるおもしろさの本質って思われる方もいると思うのですが、私はどっちかっていうと“怖さ”っていうものをフックにしながら、“おもしろい物語”を書きたいので、そこの部分は忘れずに、これからも作っていきたいです。
著者プロフィール
長江俊和
1966年、大阪府生まれ。テレビディレクター、ドラマ演出家、脚本家、小説家、映画監督。モキュメンタリー『放送禁止』シリーズは、不定期な深夜放送ながら、放送開始から二十年以上を経ても依然カルトな人気を誇り、多くのモキュメンタリーファンを生み出した。小説『出版禁止』シリーズは累計で三十万部を突破している。現在放送中のドラマ「恋愛禁止」では監督を務めている。
背筋
2023年、小説投稿サイト・カクヨムに発表した『近畿地方のある場所について』がSNS上で話題を呼ぶ。同年8月に書籍化され、発行部数25万部というヒットを記録。24年、同作で『このホラーがすごい!2024年版』国内編1位を獲得。現在公開中の映画『近畿地方のある場所について』では脚本協力として参加した。
書籍情報
書 名:恋愛禁止
著 者:長江俊和
発売日:2023年01月24日
あなたには隠された秘密が分かるだろうか……禁止シリーズ新境地!
瑞帆の前に現れた3人の男――。1人は、ある時期、彼女の世界の中心だった。だが、いつしか愛情は憎しみに変わり、口論の末、彼を衝動的に殺してしまう。発覚を恐れた瑞帆だったが、一向に殺人は露呈しない。そのことに戸惑う中、知人の紹介で知り合った男と交際を重ね、やがて子供を授かる。そしてもう1人は、純粋さの果てに歪な愛を向けてきた……。彼らは瑞帆に何をもたらしたのか。恋愛の“業を描き出す戦慄の長編!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322208000337/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら
書 名:文庫版 近畿地方のある場所について
著 者:背筋
発売日:2025年07月25日
"新しい"情報をお持ちの方はご連絡ください。
私、小澤雄也は本書の編集を手掛けた人間だ。
収録されているテキストは、様々な媒体から抜粋したものであり、
その全てが「近畿地方のある場所」に関連している。
なぜこのようなものを発表するに至ったのか。
その背景には、私の極私的な事情が絡んでいる。
それをどうかあなたに語らせてほしい。
私はある人物を探している。
その人物についての情報をお持ちの方はご連絡をいただけないだろうか。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322502000209/
amazonページはこちら
電子書籍ストアBOOK☆WALKERページはこちら
映像情報
ドラマ:「恋愛禁止」(角川ホラー文庫/KADOKAWA刊)
主演:伊原六花×佐藤大樹×渡邊圭祐
原作・演出:長江俊和
毎週木曜日よる11:59~0:54 放送中
読売テレビ・日本テレビ系全国ネット(30局)
©YTV
▪公式サイト
〈公式HP〉https://www.ytv.co.jp/renaikinshi/
映画:「近畿地方のある場所について」大ヒット上映中
原作:背筋『近畿地方のある場所について』(角川文庫/KADOKAWA刊)
監督:白石晃士
脚本:大石哲也 白石晃士
脚本協力:背筋
出演:菅野美穂 赤楚衛二
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2025「近畿地方のある場所について」製作委員会
Story
「行方不明の友人を探しています。」という文章から始まる衝撃展開の連続! これは、あなたを“ある場所”へと誘う、近畿の禁忌の物語――。
行方不明になったオカルト雑誌の編集者。彼が消息を絶つ直前まで調べていたのは、幼女失踪、中学生の集団ヒステリー事件、都市伝説、心霊スポットでの動画配信騒動など、過去の未解決事件や怪現象の数々。彼はなぜ消息を絶ったのか? そしていまどこにいるのか? 同僚の編集部員は、女性記者とともに行方を捜すうちに、恐るべき事実に気づく。それらの謎は“近畿地方のある場所”へとつながっていたのだった…。
▪公式サイト
〈公式HP〉https://wwws.warnerbros.co.jp/kinkimovie/