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特集

『いるいないみらい』刊行記念対談 渡辺ペコ(漫画家)×窪美澄(小説家)〈前編〉

撮影:小嶋 淑子 構成:高倉 優子

子どもがいるかいないかをテーマに、さまざま悩む人たちを描いた窪美澄さん『いるいないみらい』に関して、以前から窪さんの作品を愛読していたという漫画家・渡辺ペコさんとの対談が実現しました。公認不倫を描いた話題作『1122いいふうふ』と『いるいないみらい』の共通点をはじめ、家族とは、夫婦とは、子どもとは何か、おふたりが本音で語り合いました。

性と生の“その先”にある物語

――窪さんと渡辺さんは今回が初対面とのことですが、以前からお互いの作品を読んでいたそうですね。

窪: はい。これまで雑誌の企画などで編集者さんに幾度となく「渡辺さんと対談しませんか?」と声をかけていただいていたんですが、なかなかタイミングが合わなくて。今回やっと実現できて嬉しいです。渡辺さんの作品は最初に『1122』を読んで衝撃を受け、遡って『にこたま』を読ませていただきました。排卵や卵巣のう腫という病気など、女性の体のことを理解し、丁寧に描いていらっしゃるなと感心しました。また僭越ながら、セックスレスや多様な家族のあり方など、私の小説と書きたいテーマが似ているな、と思ったんです。

渡辺: ありがとうございます。私も窪さんのデビュー作『ふがいない僕は空を見た』以来、ほとんどの作品を読ませていただいています。窪さんがおっしゃるように、多様な家族のあり方、私は「コミュニティの拡張」と呼んでいるんですが、そういったテーマ選び、また肉体への関心の持ち方が重なるように感じていました。

窪: そういったテーマを選ぶようになったきっかけは何だったんですか?

渡辺: 漫画でも小説でも、恋愛はテーマになりやすいですよね。人と人との凝縮した関係性だから描きやすい。ただそれは他の作家さんもやってらっしゃることだし、私自身の本当の関心はそこではないようだと、デビューしたばかりの頃から思っていました。恋愛というものは、一種の興奮状態の中で起きることですが、そういうパッションやロマンティックなものではない部分を描いてみたいと。

窪: 恋愛後の人生のほうがずっと長いですもんね。

渡辺: 本当に長い(笑)。窪さんがインタビューで「デビューの遅かった私は、性のその先を書かないといけないと思った。生殖があって子どもができて、まだ先があるよという部分を」と語っていらっしゃるのを読ませていただきましたが、私も同じことを感じています。たとえば夫婦なら、恋愛という熱狂が終了してからの関係のほうが興味深い。窪さんの小説はいろんな形で私が知りたいことを提示してくれるんです。読むと慰められるというか、同じ視点からさらなる広がりを描かれているので、私も頑張ろうと励みになりますね。

窪: ありがとうございます。私は20代で結婚して子どもを産んだのですが、その頃、少し年上のご夫婦から「うちは家庭にセックスは持ち込まない主義なの」と言われてすごく驚いたのを覚えています。当時はまったく意味がわからなかったけれど、今ならわかる。夫婦という形を継続させていくためにはそういう形もあるよね、と。渡辺さんの作品を読んでも同じことを思います。

渡辺: 昔読んでいた漫画に夫婦を描いた作品はもちろんあったけれど、家族というコミュニティとしての描き方ではなかったので、そこに対する興味が深まっていきました。「恋愛」と「夫婦・家族」と「セックス」というパーツをどのように扱っていくかが大事ですよね。

窪: 昔の少女漫画って、セックスシーンで花びらが散るような描き方をしていることもありましたよね。小説でも男の人がいつも欲情していたり、避妊のことが描かれていなかったり、リアルな性描写が少なかった。私がデビューするきっかけになったのは「女による女のためのR-18文学賞」ですが、きっとステレオタイプな性の描き方に多少なりとも不満があって、そういう文学賞が生まれたと思うんです。

渡辺: 高く評価されているベテランの作家さんでも女性の描き方がファンタジーだったり、バリエーションがなかったりしますもんね(笑)。

血縁だけじゃない家族の話を描きたい

――窪さんは『いるいないみらい』で、渡辺さんのおっしゃった「コミュニティの拡張」=いろんな家族の形をテーマに5編の作品を紡がれました。

窪: 「家族って血縁だけじゃないですよ」と提示したかったんです。同棲カップルも、血縁のない親子も家族なんだよ、と。多様性を認めようとすると衝突や痛みが生まれるから、なかなか公には認められないけれど、男女の夫婦で子どもが2人いるのが「普通の」家族像です、ということには異議を唱えていきたいです。  私自身も離婚家庭の子どもでした。私が12歳のとき、母が3人の子どもを残して家を出て行ってしまったんです。しばらくたってから、ある人に子どもの頃の話をしていたら「ネグレクトされていたんだね」と言われてハッとした。そうだったのか、と。自分が置かれていた立場に名前がついた瞬間でした。私の心の中にはずっと12歳の少女がいて、いまでも、小説を書くときに現れます。  渡辺さんの作品にもお母さんとの関係がよくない主人公が出てきますよね?

渡辺: 私も同じで、母といい関係とは言えませんでした。いわゆる「機能不全家族」というやつで、安心・安定した子ども時代を与えられなかったんです。ずっと生きづらさを感じていましたが、後になって「機能不全家族だった」とわかったとき、妙に安心したんです。収納庫をもらったような。  窪さんは「ネグレクト」と名前がついたとき、どう感じましたか?

窪: 私は嫌だったかもしれません。雑誌のインタビューで「ネグレクトされた経験を持つ作家」と書かれたり、別れた夫に「君は捨てられた子供なんだよ」と言われたり。短い言葉にギュッと短縮されることで、出て行った母のことをかわいそうだと思っていた少女時代の自分の気持ちとか、こぼれ落ちてしまうものが多いな、と。  渡辺さんはご自身の過去が作品を作る上で原動力にはなっていると思いますか?

渡辺: 確実にありますね。自分が感じた理不尽や無力感を忘れないようにという気持ちもあるんだけど、それよりも「自分にとっての家族とは何なのだろう?」「なぜ大人なのにうまくいかない家族関係を説明できないのか」という思いが強いかもしれません。世の中では、「家族」っていいものとされているじゃないですか? お母さんとお父さんが愛し合って子どもが産まれて幸せ……みたいな。でも自分の親はお互いに憎み合っていたのに、セックスをして私が生まれたので。その理不尽て、自分の存在に直結しているので。親に問いたくても母はもう死んでしまったし、父ははっきり答えられないだろうし。親がその答えを持っていないことは昔からわかっていたので、自分で考え続けているようなところはあります。

窪: うちもそうですよ。母が子ども3人を置いて家を出たとき、末の弟は4歳でしたから。私にも息子がいますが、彼が4歳になったとき、「この子を置いて出ていけるか?」と想像したら絶対にできないと思ったんです。母には母なりの理由があったのだろうけれど、私の中では決定的に理解できない人ですね。すでに80歳を超えているから問い詰めたり罵倒したりはできないけれど、たぶん、話し合ってもわかり合えない気がします。  息子のことだってわからないことが多いです。いきなり「俺、年下と付き合うのは初めてなんだよね」と言われて、「え? そうなの!?。しかも年上ばかり?」と(笑)。

渡辺: 家族同士なのにわかり合えないとか、違うとか、そういうことを感じないまま過ごす人のほうが多いのかな? 私は血縁があっても家族が遠い存在だと思うことがよくありました。でも「家族っていいもの」という社会の圧があったから若い頃は口には出しませんでしたけど。今は当たり前のこととして話しますが。 >>後半へつづく

渡辺 ペコ(わたなべ・ぺこ)
北海道生まれ。2004年、「YOUNG YOU COLOURS」にて『透明少女』でデビュー。『にこたま』(講談社)は、三十路手前の同棲カップルの現実を描き、大きな反響を呼んだ。夫婦のセックスレスと公認不倫を描いた『1122』はシリーズ累計50万部を超えるヒット。その他の著書に『ペコセトラプラス』『おふろどうぞ』など。

窪 美澄(くぼ・みすみ)
東京都生まれ。2009年「ミクマリ」で第8回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞しデビュー。11年、受賞作を収録した『ふがいない僕は空を見た』で第24回山本周五郎賞を受賞、本屋大賞第2位。12年『晴天の迷いクジラ』で第3回山田風太郎賞を受賞。その他の著書に『水やりはいつも深夜だけど』『やめるときも、すこやかなるときも』『じっと手を見る』『トリニティ』などがある。



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【『いるいないみらい』刊行記念特集】
インタビュー▶子どもがいる人もいない人も肯定したかった
試し読み▶第1話「1DKとメロンパン」
レビュー▶子どもを持たない人生を選ぶとき(レビュアー:瀧井 朝世)


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