現在テレビ東京系で放送中のドラマ「リーガル・ハート~いのちの再建弁護士」(毎週月曜22時)。
その原作『いのちの再建弁護士 会社と家族を生き返らせる』(村松謙一・著)で構成協力をしていただいた、ノンフィクション作家・石村博子さんによる寄稿文を掲載します。
『いのちの再建弁護士』は、そもそも石村さんと村松謙一弁護士の長年にわたる信頼関係があったからこそ、できた作品でした。
ドラマで反町隆史さんが熱演する村越誠一のモデルとなった、村松弁護士は40年近い活動の中で、200社以上の企業を再建してきました。
20年近くに及ぶつきあいの石村さんから見た、企業再建弁護士さんの素顔とは、どのようなものでしょうか――。
企業再建専門弁護士・村松謙一先生は年NHK「プロフェッショナル仕事の流儀」(2007年)や「ラジオ深夜便」(2013年)などに出演され、名前を知られた弁護士のひとりといえるでしょう。
99.9%倒産しかないと、金融機関はもちろん周囲からも見放された会社を、法の力と不屈の闘志によって見事に復活させてきた実績は、私たちに励ましを送るものです。
やっとの思いで先生のもとにたどり着いた経営者の多くは、生きるか死ぬかの瀬戸際まで追いつめられた人たち。その人たちに先生は、「よくここまで頑張ったね。もう頑張らなくていいよ」と、ねぎらいの言葉を最初にかけます(ここで泣き崩れる相談者も少なくない)。そして「倒産という悪魔」と共に闘っていくことを誓い合い、いばらの道へと足を踏み入れていくのです。
先生はそうした再建の実例を自ら何冊もの本にまとめて、中小企業の経営者に経営ノウハウと理念を伝えてきました。
『いのちの再建弁護士』は、それまでの本とは趣を異にし、法的技術や経営ノウハウなどは必要最小限にとどめたうえで、法律や財務の専門知識をもたない一般の人に向けて「いのちの再生」を訴えた本です。それは企画・取材・構成に携わった私が、長い間実現を望んでいた本でもありました。
現在、この本を原作とした連続テレビドラマ『リーガル・ハート~いのちの再建弁護士~』(テレビ東京系・毎週月曜22時)が放映され、話題を呼んでいます。そこに至るまでは単なる幸運とか偶然ではとらえきれないものがあったのではと思わざるを得ません。
先生に初めてお会いしたのは、2002年1月10日。再建弁護士云々に関するお話ではなく、その4年前に15歳でこの世を去った長女の麻衣さん、その父親としての胸の内を聞かせてもらうためでした。本では亡くなるまでの経緯が詳しく書かれていますが、摂食障害という病を患いそれと闘った麻衣さんは、入院直後、病院側の体制の不備によって突然帰らぬ人となりました。
当時、親として絶望の淵に突き落とされた先生は、自身の救済の手立てのひとつとして「生と死を考える会」というサークルに入会し、「わかち合いの会」に時折参加していました。その会のスタッフとして遺族の方たちのお話を聞き書きしていた私が、詳しいお話を伺うため先生のところを訪ねることになったのです。
先生は2時間以上、ぽろぽろと涙をこぼし、率直に麻衣さんのことを語ってくれました。生真面目で家族思いの子だったこと、人を助ける仕事に憧れていたこと、テニス部に所属して練習に励んでいたこと……。
でも、ただ悲しんでいるばかりではない。摂食障害の患者に対するきちんとした医療の必要性を訴えるため、病院側を相手取った訴訟を起こしていることも教えてくれました。麻衣さんの死を無駄にしないとの決意をこめた、社会に向けての告発です。
麻衣さんの件を通して何かを伝えることはできないかと、私もその裁判を傍聴するために通いました。裁判は4年半ほど続きましたが、死の前後の証言は身内が聞くには辛い内容で、傍聴席にいたのはいつも私一人だけでした(訴訟結果は本書にあるように高裁まで進んだ後、病院側の謝罪の文言を入れた和解となりました)。
先生はこの裁判と並行して、自身の再起第一号になる老舗旅館の再建事業に携わります。元気な時でも臆するような難しい再建に取り組むことを決意したのは、「お父さんがこの旅館を助けてあげて」という麻衣さんからのメッセージを受け取ったからでした。それは、先生にだけ分かる伝え方でした。
奮闘の末に再建のめどが立ったとき、旅館近くの橋のたもとで、先生は蛍に姿を変えた麻衣さんを見つけます。蛍として舞う麻衣さんと懐かしい会話を交わす場面は感動的で、本のクライマックスのひとつといえます(テレビでは第二話に出てきました)。
裁判と再建事業の双方の闘いを、麻衣さんは遠くからじっと見守っていたのでしょう。天国に旅立った娘はこうして姿を変えて自分のもとに会いに来てくれる。その実感が、「いのちの再建弁護士」を誕生させることになりました。再建弁護士の最大の使命はいのちを救うことにあるという信念は、麻衣さんとの絆のなかで生まれ、深まっていったものです。
その再建事業を短編ルポとして雑誌に掲載したこともあります。数年前には「生と死を考える会」で、遺族としての講演を依頼しました。お話の最初に、タクシーで会場に向かう途中、信号で停まった前の車のナンバーが娘の誕生日と同じだった、今も(肩越しに手をやりながら)このへんで自分の話を聞いてくれているのだろうと言われました。終ったあと、幼い息子さんを亡くした男性が、涙を隠さず先生に語りかけていました。ちょうどこの本の単行本が出て間もない時で、こうした人にこそ届いてほしいと思ったことを覚えています。
企業再建は高度に専門的な知識が必要で、かつ先生が手掛けるのは一刻を争う“重症”案件ばかりなので、難解な用語や複雑な交渉で埋め尽くされている感があります。
ですが、法的技能という覆いを一枚めくれば、そこは生々しい人間模様や、かけひき、応酬、転落と気づき等々、まさに生存をかけた闘いがくり広げられる世界です。
溺れかけている人に、法律という命綱を投げ与え、それを握ることのできた人間を引っ張り上げる力業は、あたかも格闘家を思わせます。その通り、先生は生来のファイターで、敵が強ければ強いほど闘志の炎の勢いはいや増してくるのです。尊敬するのは同郷の大親分・清水次郎長で、その“弱きを助けて強気をくじく”“義を見てせざるは勇なきなり”の心意気は、私も何度も聞かされました。『リーガル・ハート』の村越弁護士も、まさに情と熱意の人物です(反町隆史が熱演!)
そして、ドラマで息抜きのように出てくるジオラマづくりは本当に先生の趣味で、事務所の応接室には精緻で映画のワンシーンのような作品がずらりと並んでいます。悲しみを少しでも和らげようと作り始めたフィギュアの物語性は、ひとりでにどんどん成長していったそうです。
悲しみは乗り越えなくてよい、共感の言葉が人を救う、どんな苦しみも時間と共に和らぐもの……、さりげなく語る先生の言葉には「悲しいのはあなただけではない」と伝える強さがあります。
20年近くに及ぶ、細く長いお付き合いのなか、こうして『いのちの再建弁護士』で、「生きぬけ」という叫びの真髄を描くことをサポートできたのは、貴重でうれしいことでした。
「麻衣はいつもそばにいて、私を守ってくれている。いつも私は麻衣に力をもらっている」と先生。
この本も麻衣さんの力なくしてはできませんでした。テレビドラマでも村越弁護士の娘さんの存在が、奥深いものをかもしだしてくれています。
ですから、ドラマの本当の主役は麻衣さんと思いながら見ています。
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