スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫さんも「好きな本」として紹介されている、池澤夏樹さんの鉄道ファンタジー『キップをなくして』。子供から大人まで、多くの読者に愛されてきた作品です。
山手線でキップをなくした子が東京駅に集められ「駅の子」として電車通学の子供の安全を守る。いろんな子供が集まってきて、勉強できる子が下の子に教えたり、いじめで不登校になった中学生が居場所を見つけたり、みんなの成長の姿を描いていく。生と死の問題も、子供に本当にわかりやすく教えてくれる。名作です。(スタジオジブリプロデューサー・鈴木敏夫さん)
キップをなくすと駅から出られない! 山手線でキップをなくしてしまった少年・イタルは、キップのない子供たちと東京駅で暮らすことに。小学生のイタル視点で語られるこの物語は、ドキドキの冒険物語であると同時に、生と死について教えてくれる「命の教科書」でもあります。
舞台は1980年代の東京駅。大人にも懐かしく、鉄道ファンにはたまらないディテールもあれこれ。いろいろな楽しみ方ができる本作の魅力を「読書メーター」のユーザーによるレビューとともにご紹介します。
生と死について考える
「わたし、死んだ子なの」
共に暮らす「駅の子」のなかに、死んでしまった子がいると知って、イタルは戸惑い、考えます。
「死ぬってどういうこと?」
直球で問われると難しいこの問いかけ。この小説のなかに、子供たちに優しく寄り添う池澤流の答えがあります。
「人が死んだらどうなるかを説明する前に、人の心のことを話しましょうね」
人の心は小さな心の集まり「コロッコ」からできていて、人が亡くなると、コロッコたちは少しずつ離散していく。しばらくするとまた仲間を募って、まとまって、新しい命の中に入る。
死んだ人の心は少しずつ消えてゆくけれど、コロッコたちは永遠。こんな風に捉えると、死というものが、真っ暗なおそろしいものではなくなってくるような気がします。
身近な人の受け入れがたい死についても、優しいまなざしを向け、力を与えてくれる小説です。「死んだ子」であるミンちゃんのママが登場するシーンはとても切ないですが、このコロッコのお話は、ミンちゃんのママのような、残された人にとっても希望になるもの。読んでいて救われた気持ちになります。
死ぬとどうなるのか、一つの考え方が提示されている。決して甘くはないけれど、つらく苦しい心に寄り添い、見守ってくれる考え方。自分が主人公と同じ年頃に読んだら、どんな感想をもったのかも気になる。(kuchen)
自分が折り合いをつけていた「死」との向き合い方が変わりそうな、そんな読後感。(sakai)
やさしくて哀しくて、じんわりと、染み入る物語。 生と死、逝く人と残される人、現実の中にぽっかりと空いた少し違う世界が、やさしく現実を救っていきます。(ponkichitaro1)
親子で読みたい
子供向けに書かれた『キップをなくして』ですが、大人の心にも響く物語です。
死との向き合い方や、身近な人の死を見つめ直すきっかけになるということだけでなく、大人の読者も自然と「駅の子」たちに自分を重ね、生と死をめぐる冒険の世界に引き込まれてしまう、そんなパワーのある小説です。駅の子たちは「小さな大人」。自分の頭で考え、決断をしていく彼らの姿からは温かな勇気をもらえます。そして見守っていたはずの彼らが、いつのまにか一緒に冒険する仲間になっているはずです。
「読書メーター」では、子供の頃に読んで記憶に残っているという読者や、大人になってから読んで、子供に読ませたい、という読者も多数。
小学生の頃読んで大好きになった本。何度も読んでいるが、泣ける。(m)
優しくて心がすっきりする、素敵な作品。読むにつれてどんどんひきこんでいく展開と柔らかい文章は、大人にも子供にもきっと響きます。(shimokitakee)
「駅の子」としての奇妙で楽しい生活を通して、そして「死」というものに直面して、彼らは一歩成長する。ワクワクとシンミリが混ざりあったお話。大人にも子供にも読んでもらいたい。(えりか)
鉄道ファンにはたまらない
この小説には、「時刻表と首っ引きで書いた正統『鉄道小説』」(著者)という側面もあります。「駅の子」たちが暮らすのは、まだ自動改札機もない、昭和の東京駅です。職員食堂や理容室に行ったり、動輪の広場でSLの車輪に触ったりと、東京駅の探検が楽しい。そして後半はみんなで北海道へ。駅名を一つ一つ辿っていくのにもワクワクします。
「読書メーター」では、「駅の子」になってみたい、という声も。「駅の子」は電車に乗り放題、駅弁も食べ放題という素敵なルールがあるんです!
きっぷをなくす、というアクシデントからこんなにも心暖まるストーリー展開になるとは! ICカードや自動改札機もなくSLや寝台特急列車も登場する良き昭和の香りも感じられてノスタルジックな心地良いファンタジー。(sekkey)
「駅の子」ちょっとやりたいなあ。お昼ごはんの駅弁が美味しそうなのだ!キップをなくした大人は駅員さんになるのだといいな。(えりぃ)
昭和時代のリアルな鉄道旅のシーンも多く、郷愁を誘わずにはいられない。(鳩さぶれ)
交通に纏わる個々のガジェットが非常に魅力的。国境のようにも感じられる駅構内という閉じた空間から彼岸にまで繋がる鉄路の行く先。鉄の方には堪らない設定でしょう。(ピラックマ)
この夏、限定カバーで登場
なかなか遠出もしづらい今、親子で本の旅を楽しみながら、生と死のことを考えてみませんか? 夏休みの読書感想文にもおすすめです。
この夏はさわやかな限定カバーが登場します。キップのデザインが目印です! お近くの書店で探してみてください。