主人公の女の子・テルコの片想いと人間模様を描く恋愛映画『愛がなんだ』は、今年4月に公開され、いまもなお上映され続けているヒット作。本作の上映会が東大駒場キャンパスで開催され、その後、監督の今泉力哉さん、原作者の角田光代さん、そして東京大学先端科学技術研究センター・准教授の熊谷晋一郎さんが登壇。トークセッション後半では観客からの恋愛相談に、その場でパネリストのお三方が即答する流れに。その模様を2回に分けてお伝えします!
構成/アンチェイン
>>第1回~小説、映画それぞれのテルコ/テルコのキャラクターと自身の恋愛観/熊谷晋一郎さんによる映画のオススメポイント
>>第2回~参加者からの質問「セフレという言葉で片付けてほしくない/ずっと続く幸せとは/相手のために自分を殺すこと」
原作
角田光代『愛がなんだ』(角川文庫刊)
https://www.kadokawa.co.jp/product/200501000062/
映画
『愛がなんだ』
監督/今泉力哉
原作/角田光代
出演/岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、江口のりこ
aigananda.com
©2019映画「愛がなんだ」製作委員会
参加者からの質問その4
映画を観ていて、テルコの「他者になりたい」って気持ちがどういうことなのか、私にはわからなくて。だから自分は恋愛がうまくいかないのかなとちょっとヘコんでます。
今泉:テルコが執着し、行き着いた先としてこういうこともあるのかなと思って脚本を書きましたけど、実はそこまで自分を消して誰かになりたいって気持ちは、僕もわからない(笑)。特に女性のほうが理解できる感情だとは思うのですが、あれってどういう感覚なんですか?
角田:私があの人だったらこんなに好きって言ってもらえるんだとか、すごいスポーツ選手を見て、あんなに動けたらすごく気持ちがいいだろうなあと思う感じに近いです。私は「好き」にもいろんな種類があると思っていて、全く違う人だから惹かれるとか、似てるから惹かれるとか、いろいろある中のジャンルとして、その人自身になりたいっていうのがあると思ってたんです。でも以前、今泉監督と対談したときに、その気持ちが全然わからないと言われてびっくりしました。小説の中のテルコは、書いてないですが、こんなに自分に好かれているマモちゃん、つまりだれかに強烈に求められている人間になりたいんですよ、たぶん。
参加者からの質問その5
この映画を観たとき、テルコになりたいと思いました。そこまで好きになれる人がいること自体が羨ましいです。もともとは好きな人がコンスタントにいたのですが、高校で入った部活が恋愛禁止で、大学生になって解放されても、全く恋愛ができなくなりました。どうしたら好きになれる人を見つけられますか。
角田:それはただ、いま生きてる世界にいないっていうことだから、別の場所に行けばいいと思いますよ。だから、たくさん動いて。どこかにはきっといると私は思います。
今泉:僕はすぐ好きになっちゃうんでね。好きな人って、たとえ無理に見つけても、いまの感じだと絶対すぐ飽きてしまうと思うので、別に時間かかってもいいからゆっくり探せばいいと思います。
参加者からの質問その6
テルちゃんは強い人でした。人の強さとか弱さが恋愛に関係するという体験があれば、みなさんにお聞きしたいです。
今泉:強い弱いって本当に表裏一体ですが、自分は映画を描くときに、弱い人を描きたいという願望があって、この映画も登場人物全員、弱い人だと思って撮っていました。『愛がなんだ』を公開して、いろんな感想を聞いていると、登場人物のダメさ加減に、「自分もこれでいいんだ」みたいに肯定されたり救われたと言ってくれる声が予想外にたくさんあったんです。もしかしたら、そういう物語を欲していたのは自分そのものだったのかもしれないな、と。
不確実な恋をどうしても続けてしまう人へ
角田:情報誌や女性誌のほとんどすべてが、いくつになっても恋愛すべきと謳うような世間の風潮がかつてあって、20代ならとくに恋愛していないとおかしいと言われていた時代に私は生きていたので、逆にそこに興味がない人は非常に生きづらかっただろうなと思うんですよね。いまは「恋愛なんて興味がない」って普通に言えるようになったから、当時よりある意味楽な部分もあると思います。ただ、テルコみたいな恋愛体質の人は逆に居心地が悪いかもしれない。でもそれは時代の話であって、要は自分がその中でどうしたいか。恋愛しても、しなくても全然いいし、名づけようのない関係ができてしまったら、それは自分の個性なんだと思えばいい。他者と比較しない自分というものを見つけたほうが楽だろうなと思います。
今泉:人を好きになってしまったり、人と付き合ったりすることをどう捉えるかですよね。それが楽しければすればいいし、苦手だったら離れていっていいと思う。僕自身は片想いって、辛いけどすごくいい時間だと思っていて。好きな人ができると感情が豊かになるので好きな人はいたほうがいいかなと思うんです。
熊谷:『愛がなんだ』というタイトルの重さが響きますね。今回、こういう形で原作の角田さんと監督の貴重なお話を伺うことができて、しっくり腑に落ちるもの多くありました。実りある時間をありがとうございました。
映画『愛がなんだ』
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発売・販売元:バンダイナムコアーツ