コラム「告白します」
天才ピアニスト・竹内知咲(吉本興業所属)
この記事は「小説 野性時代 第223号 2022年6月号」より転載しました
潔癖性っぽいよね、と言われることがたまにある。人によって「潔癖性」に対するイメージは様々だと思うが、私はそれを言われた時あまり悪い気がしない。清潔感があり、自分なりの強いこだわりがあり、神経質で超繊細。自然界に解き放たれたらひとたまりもない、
しかし、実際の私は、潔癖性とは真逆の人間だ。ここに告白させてもらうと、私は目に見えない汚れは全く気にならない。全くだ。目に見えない汚れは存在しないものと考えている。目に見えない汚れとネッシーだったら、ネッシーが存在している確率の方が断然高いと思っている。だからと言って、お風呂に入る意味がないとか、服を洗濯しなくてもいいと思っているとかそういうことではない。ただ私は、臭くなくて、具体的に何か汚れがついていない限り、「綺麗」というジャッジができる人間だということだ。
具体的に言うと、食べ物を地面に落としてしまった時、理論的にどう考えても落ちた時点で食べない方がいいという場合でも、目視で綺麗であれば食べられる。たとえ
これは、食べ物に限った話ではない。いろんな靴が踏んだであろう地面であっても、目視でゴミが落ちておらず、無臭であれば、笑顔で寝転ぶことができる。理論的に考えると菌のお花畑がそこには広がっているに違いない。バラエティ豊かな色とりどりの菌が咲き乱れているはずだ。ただ私は汚れが目に見えない限り、「汚いなあ」という感情が芽生えないので、寝転ぶことができてしまう。スマホやパソコンのキーボードはトイレの便座と同じくらい細菌がいるとよく言われるが、どう見ても目視でスマホやパソコンの方が綺麗だから全くピンと来ないし、洗濯用洗剤のCMでミクロ単位の汚れを洗剤が吸着して剝がしとるみたいなCGもどうせ目視で見ないとピンと来ないからいらんのに、と思っている。洗濯なんかはミクロの汚れを除去することよりも最終的にふんわりしていい匂いであることの方が大切なのだ。
この考え方は基本的に共感を得られたことがない。上沼恵美子さんの物真似をしている相方ますみも、どこにでも寝転がる私を見ていつも眉間にシワを寄せている。しかし、私は言いたい。私のような汚さに鈍感な人間もいたからこそ人類は種として生き残ってこられたのだと。大昔、人類が食糧に困った時のこと。なんか汚い可能性がある木の実しか残っていない時多くの人は食べなかったに違いない。「お腹を壊すかもしれない」、「食べない方がマシだろう」そんな意見が飛び交う中、私と同じ感覚の先祖がその木の実を食べた。しかも笑顔で。そうして食糧難の危機を一部の個体がくぐり抜け、今の我々に命をつないでくれたに違いない。そう考えれば、私のような人間に出会った時、かける言葉が変わってくるはずだ。「何してんねん! 信じられへんわ!」ではなく、「人類を救ってくれてありがとう」だ。私は大きな声で「どういたしまして」と言いたい。
たけうち・ちさき/ 1992年生まれ。吉本興業所属のお笑い芸人。京都府立大学生命環境学部を卒業し、高校理科教員免許を取得。NSC大阪38期、芸歴7年目。2016年にますみと「天才ピアニスト」を結成。日本テレビ「女芸人No.1決定戦 THE W 2021」準優勝。NHK「第52回NHK上方漫才コンテスト」優勝。2022年4月より朝日放送「newsおかえり」(毎週月~金曜日15:45 ~ 19:00)に金曜日レギュラーとして出演中。
小説 野性時代 第223号 2022年6月号
「小説 野性時代」電子版
・「2022年6月号」配信開始日:2022年5月25日(水)
・配信日:毎月25日
・ダウンロード型の電子書籍に加えて「角川文庫・ラノベ読み放題」や、「カドブン」「カクヨム」「note」などのサイト内でも作品を展開予定。
・希望小売価格:350円
https://www.kadokawa.co.jp/product/322202000341/
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