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特集

新作が出るたびにツイッターが騒然!!ホラー界の新鋭・芦花公園の秘密に迫る。 芦花公園×朝宮運河対談〈前編〉

デビュー作『ほねがらみ』以来、話題作を続々と発表。SNSでのランキング企画〈ベストホラー2022〉では国内部門の1位と2位を独占するなど、ホラー小説の旗手として大活躍の芦花公園さん。2月に発売された『聖者の落角』(角川ホラー文庫)は、油断のできないストーリーと迫真の怪異描写で読む者を翻弄する、「佐々木事務所」シリーズの最新作です。ホラーマニアを唸らせる作品は、どのように生み出されたのか。『ほねがらみ』の文庫解説を執筆するなど、一貫して芦花公園作品に注目してきた書評家・朝宮運河との対談を、〈前編〉〈後編〉にわけておとどけします!

取材・文=朝宮運河



芦花公園×朝宮運河対談〈前編〉

怪異に挑むホームズとワトソン

朝宮運河(以下・朝宮):角川ホラー文庫の「佐々木事務所」シリーズ、絶好調ですね。

芦花公園(以下・芦花):皆さんのおかげです。本当は去年のうちに出るはずだったんですけど、仕事が遅くてこの時期になってしまいました。

朝宮:いやいや、十分にお仕事をされてますよ。『聖者の落角』はこれまで以上に佐々木るみと助手の青山君の関係に重点が置かれていて、それが物語の展開にもリンクしてくる。『異端の祝祭』『漆黒の慕情』とシリーズを追ってきた読者には、いっそう楽しめる内容でした。

芦花:当初はこの二人の関係にそこまでフォーカスするつもりはなかったんです。そもそも『異端の祝祭』を書いた段階では、シリーズ化できるかどうかも不明でしたし。2作、3作と書き継いでいるうちに、自然と関係が育ってきたという感じですね。

朝宮:佐々木るみは心霊案件を扱う事務所の所長ですが、かなり特異なキャラクターですよね。どういう経緯で生まれたんですか。

芦花:ベースにあるのはホームズとワトソンなんです。るみがホームズで青山君がワトソン。るみの性格がねじまがっていて、自己肯定感が極端に低いのは、成長する主人公にしたかったからです。意地悪そうに見えて、実はいい人だったというキャラ設定ではなく、るみの場合は、本当に最悪の性格なんですよ(笑)。

朝宮:そんなるみが善意のかたまりである青山君との交流を通して、少しずつ人間味を獲得していく。読者はその過程に惹きつけられるんです。ところでるみと青山君は微妙な距離感ですが、恋愛関係といってもいいんですか。

芦花:恋愛ではないでしょうね。青山君はるみに対して恋愛感情を抱いていますけど、るみにとっては保護者代わりの存在です。

挑戦的なテーマの原点

朝宮:今回相談者としてるみの前に現れたのは、幼い娘の様子が変わってしまったことに悩むシングルマザーの桃子。親に向かって「邪魔するな」と言ったり、人を宙に浮かせたりする幼い子の背後に、得体の知れない何かがいることが分かってくる……という話ですが、着想の出発点は?

芦花:どこから思いつくかは毎回違うんですが、今回は遠藤周作の『沈黙』へのオマージュをやりたい、というのがまずありました。

朝宮:なるほど、『沈黙』ですか。わたしは読んでいて挑戦的なテーマだなと思ったんです。カトリックである芦花さんが神はいるのか、救済とは何かという問題を扱っているわけですから。

芦花:遠藤周作の『沈黙』って、実はカトリック方面からは批判的に読まれているんです。キリスト教の神というのは父性的で厳しい存在ですから、苦しんでいる人にその人に都合の良い言葉をかけるということはまずありえない。遠藤周作はそこを自分流に解釈して、母性的な神を作り上げているんですね。とはいえ『沈黙』は面白い小説ですから、自分なりのオマージュを書いてみたいという気持ちがありました。

朝宮:『聖者の落角』はこれまでで一番宗教色が強いですね。芦花さんのホラーは宗教ホラーと呼ばれがちですが、これまでの作品は案外そうでもない。

芦花:そうですね。あくまでネタのひとつとして扱っていました。

朝宮:でも『聖者の落角』は信仰心の問題を正面から扱っている。芦花さんでなければ書けないホラーになっていると思います。それと興味深かったのは、目をつけられるのが小さい子どもであること。昨年出た澤村伊智さんの『ばくうどの悪夢』も子どもが狙われる話でしたし、何か時代的な空気があるのかなと。

芦花:わたしの作品に関しては、『沈黙』と同じように弱い立場の人の話を書こうというのがありました。現代だとたとえば、難病や障害を抱えた子どもたちです。

朝宮:怪異がそこにつけこんでくる。芦花さんの書かれるお化けは大抵、典拠となる伝承や文献があるのが特徴ですよね。今回もはっきりとは書かれていませんが、ヒントをもとに考察すれば正体が分かるような作りになっている。

芦花:そこは自己満足で書いている部分なので、分からなくても全然問題ありません。ツイッターには毎回、ぴたりと正体を当ててくる方がいて、びっくりしますけど(笑)。

朝宮:しかも元ネタが海外由来であることが多いですよね。日本の土俗的なホラーと思わせて実は、というのが芦花さんの得意技。

芦花:日本の民俗学にあまり詳しくないのと、古文が苦手なんですよ。『聖者の落角』ではそれらしい文献を創作したんですが、校正さんの指摘がいっぱい入って、点数の悪いテスト用紙みたいだった(笑)。自分の持っている知識を利用すると、どうしても西洋由来になっちゃいますね。

キャラクターの過剰さが生み出す独特のうねり

朝宮:『漆黒の慕情』に出てきた絶世の美青年、片山敏彦が再登場してくれたのも嬉しかったです。ネットの反応を見ても、敏彦は拝み屋の物部斉清と並んで抜群に人気がありますね。

芦花:今回るみはある事情から青山君と別行動を取るので、サポートメンバーが必要という事情もありました。るみ一人だといろんな人に無礼を働いて、聞き込みがうまくできないので、ストーリーを進めるのが厄介なんですよ。

朝宮:敏彦の笑顔のパワーで、聞き込みが進む進む(笑)。女性も男性もメロメロにしていますからね。

芦花:聞き上手なキャバ嬢みたいだなと思いながら書いていました。まあ本人も楽しそうだからいいのかな。敏彦は登場すると雰囲気が明るくなるので、ムードメーカーとしても重宝しています。

朝宮:芦花作品には美形キャラがよく出てきますね。しかも単にルックスがいいというレベルに留まらず、どこか人知を超越したような過剰さがある。美のもっている抗えない力、魔力のようなものを感じます。

芦花:わたしが男女問わず美形好きであることは間違いないんですが、どうしてなのかはよく分からないですね。特定のアイドルや俳優を推しているわけでもありませんし。

朝宮:そこはやっぱり信仰心というか、神々しいものに触れる感覚に似ているのかなと思います。

芦花:そうかもしれない。最近は美形を出しまくったので語彙が尽きてきました。王に仕える吟遊詩人のような気持ちで、キャラクターの外見を褒め称え続けてきたんですが、そろそろ詩のレパートリーがなくなってきた(笑)。しばらく美形を出すのはお休みしようと思います。

朝宮:敏彦だけでなく芦花さんの描くキャラクターは、皆どこかが過剰ですよね。青山君だって善意の人ですが、読んでいて不安になる危うさがある。それがぶつかり合って、独特の力強いうねりを生み出しているような気がします。

芦花:今回、共感できるキャラクターが一人もいないんじゃないかと心配になって、泉という不動産屋さんを出しました。彼は分かりやすくいい人なので、基準値のようなポジションです。

朝宮:確かにそうですね。レギュラー陣はみんな、上か下に振り切れている人ばかりなので。

芦花:プラス5000でなければマイナス5000みたいな(笑)。主人公がマイナス5000にいる小説っていうのも珍しいですけどね。ただるみの抱えているトラウマはいつか、ちゃんと解決してあげたいと思っています。

〈後編〉に続く

プロフィール

芦花公園(ろかこうえん)

東京都生まれ。2020年、カクヨムにて発表した中編「ほねがらみ─某所怪談レポート─」がTwitterで話題となり、書籍化決定。21年、同書を改題した「ほねがらみ」でデビュー。古今東西のホラー映画・ホラー小説を偏愛する。著書に『異端の祝祭』『漆黒の慕情』『聖者の落角』『とらすの子』『パライソのどん底』、共著に『超怖い物件』がある。

朝宮運河(あさみや うんが)

1977年、北海道生まれ。ホラーや怪談が専門のライター・書評家として『怪と幽』などさまざまな媒体で執筆。『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』『宿で死ぬ 旅泊ホラー傑作選』『再生 角川ホラー文庫ベストセレクション』『恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション』「てのひら怪談」シリーズなどホラーアンソロジーの編纂も手がけている。

書籍紹介



聖者の落角
著者 芦花公園
定価: 770円(本体700円+税)
発売日:2023年02月24日

その青年は、神か悪魔か? 無垢な祈りは世界を覆う呪いになる――。
病院に忽然と現われ、子どもたちの願いを叶える謎めいた黒服の青年。難病も嘘のように完治するが、子どもたちの態度が豹変し異様な言動をするという。心霊案件を扱う佐々木事務所に相次いで同様の相談が舞い込んだ。原因を探るるみは、土地にまつわる月と観音信仰が鍵だと掴むが、怪異は治まらない。孤独な闘いの中、彼女はある恐ろしい疑惑に捕らわれる――願いは代償を要求し、祈りは呪いに変貌する。底なしの悪夢に引きずりこむ民俗学カルトホラー!

https://www.kadokawa.co.jp/product/322204000276/
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