デビュー作『ほねがらみ』以来、話題作を続々と発表。SNSでのランキング企画〈ベストホラー2022〉では国内部門の1位と2位を独占するなど、ホラー小説の旗手として大活躍の芦花公園さん。2月に発売された『聖者の落角』(角川ホラー文庫)は、油断のできないストーリーと迫真の怪異描写で読む者を翻弄する、「佐々木事務所」シリーズの最新作です。ホラーマニアを唸らせる作品は、どのように生み出されたのか。『ほねがらみ』の文庫解説を執筆するなど、一貫して芦花公園作品に注目してきた書評家・朝宮運河との対談を、〈前編〉〈後編〉にわけておとどけします!
取材・文=朝宮運河
芦花公園×朝宮運河対談〈後編〉
ベストホラー2022でトップを独占
朝宮:話は変わりますが、昨年末、わたしがツイッター上で開催した投票企画・ベストホラー2022で『漆黒の慕情』が国内部門の1位、『とらすの子』が2位と芦花さんがトップ2を独占するという結果になりました。おめでとうございます。
芦花:ありがとうございます。ツイッターはホームグラウンドなので、地の利があったのかなと思っています。わたしはツイッターのフォロワーさんに誘われて小説を書き始めたので、ツイッター出身作家なんですよ。
朝宮:出身がツイッター(笑)。『漆黒の慕情』と『とらすの子』がトップ2というのは集計の早い段階で分かったんですが、どちらが勝つかはぎりぎりまで分からなかった。僅差でした。
芦花:『漆黒の慕情』は文庫書き下ろしだったので、手に取りやすいという事情もあったのかもしれません。わたしの読者は若い方が多いので。これまでベストホラー2022のようなホラーのランキングってなかったですよね。
朝宮:ほぼありません。ミステリーやSFにはあるのに、なぜホラーにはないんだと10年言い続けてきたんですけど、誰も作ってくれる気配がないので、自分でやることにしました。今は芦花さんをはじめとして実力ある書き手がたくさんいらっしゃいますし、読者の層も厚くなっているという実感があったので。このランキングをやってよかったなと思うのは、「ランキングの結果を見て、『漆黒の慕情』を読みました」という方がたくさんいたことですね。
芦花:ありがたいですね。できればわたしの本をきっかけに、ホラーをたくさん読んで欲しいです。神である三津田信三先生や朱雀門出先生など、面白いホラーは世の中にたくさんありますから。わたしの作品が最初の一冊の役目を果たせたら嬉しいなと思っています。
芦花公園を創ったホラー作品
朝宮:芦花さんはどうしてそんなにホラーが好きになったんですか。
芦花:多分父親の遺伝ですね。うちの父は「ムーおじさん」でオカルト系の本がたくさんあったんです。ホラーの原体験はアニメの『ゲゲゲの鬼太郎』だと思います。「迷宮・妖怪だるま王国」っていう鬼太郎がだるまの国に紛れ込んでしまうエピソードがあって、めちゃくちゃ怖かった。怖くてドキドキすることは楽しいんだと、あの回で植え付けられましたね。その後、楳図かずお先生の『赤んぼ少女』を読んだんですが、あの話って切ないじゃないですか。醜いタマミがお化粧をするシーンで、胸がきゅんとなったのを覚えています。
朝宮:芦花さんらしいエピソード。『赤んぼ少女』はまさしく美醜をめぐるホラーですから。小説方面はいかがですか。
芦花:うちは両親とも仕事で忙しかったので、子どもの頃は図書館で本を読んでいなさいと言われることも多かったんです。そこで手当たり次第に本を読んでいたんですが、ある日たまたま手に取ったのが貴志祐介先生の『天使の囀り』。何これ、最高じゃんと思って。
朝宮:それは何年生の時?
芦花:小学3年生です。本のここ(背)が黒い本は面白いんだ、という個人的な大発見をして、それから角川ホラー文庫を読みあさるようになりました。
朝宮:そんな芦花さんが大人になり、角川ホラー文庫で執筆している。美しい話ですねえ。
芦花:そんなわけで日本のホラーは結構読んでいるんですけど、海外作品はそこまで読めていないんです。スティーヴン・キングは大好きですけど、それ以外の作品はあまり怖いと思わない。雰囲気や世界観は好きなんですけどね。海外ホラーの持っている世界観を、日本的な怖さに落とし込むのはひとつの目標です。
朝宮:『とらすの子』の中盤以降の展開には、海外ホラーの手触りを感じましたよ。
芦花:はい。あの手記を使った部分は、海外ホラーの感じを意識しました。あとは映画の『オーメン』の影響ですね。映画もすごく好きなので、作品のヒントを映画から得ることが多いです。ちなみに押し入れに怪異を封印するるみの能力は、『シャイニング』『ドクター・スリープ』に出てくる「箱」が元ネタですね。
朝宮:『聖者の落角』にも映画的な怪異描写がいくつかありますもんね。子どもを覆っているタオルをめくったら……、というシーンとか。
芦花:あそこはもろに『パラノーマル・アクティビティ』です(笑)。
BLホラーという野心作
朝宮:3月に発売された『パライソのどん底』は土俗ホラーにBL要素をミックスした野心作でした。今後ホラー以外に挑戦したいというお考えはありますか。
芦花:あります。というか自分ではジャンルを意識しているつもりはないんですよ。気持ち悪い話、嫌な話を書きたいという気持ちはあるんですけど。今年某誌で連載がスタートする長編は、完全にホラーじゃありません。ラブの話です。
朝宮:ラブ、とは?
芦花:普通に男女の恋愛の話。多少不思議な要素は入ってきますが、人も死なないし、怖い話にもならないはずです。何を書いてもホラーに分類されそうな気もしますが。
朝宮:「佐々木事務所」シリーズの続きも楽しみにしています。
芦花:このシリーズは続きを書くつもりですが、『聖者の落角』で一区切りになります。角川ホラー文庫ではまた新しいことができそうです。
朝宮:早いもので芦花さんが『ほねがらみ』でデビューされてから、この4月で2年が経ちます。これからの抱負や展望はあるでしょうか。
芦花:最近は忙しくなって映画館に行けないのが悩ましいですが、今年も本を出したいと思います。映画といえばわたしは韓国のホラー映画が大好きなので、自分の小説が韓国で映画化されるのが人生の目標、というか野望でしょうか。
朝宮:いいですねえ、韓国映画の「佐々木事務所」シリーズ。
芦花:韓国映画はキリスト教が背景にあるので、うまくはまると思うんですよね。そこに到達できるようにがんばります。
プロフィール
芦花公園(ろかこうえん)
東京都生まれ。2020年、カクヨムにて発表した中編「ほねがらみ─某所怪談レポート─」がTwitterで話題となり、書籍化決定。21年、同書を改題した「ほねがらみ」でデビュー。古今東西のホラー映画・ホラー小説を偏愛する。著書に『異端の祝祭』『漆黒の慕情』『聖者の落角』『とらすの子』『パライソのどん底』、共著に『超怖い物件』がある。
朝宮運河(あさみや うんが)
1977年、北海道生まれ。ホラーや怪談が専門のライター・書評家として『怪と幽』などさまざまな媒体で執筆。『家が呼ぶ 物件ホラー傑作選』『宿で死ぬ 旅泊ホラー傑作選』『再生 角川ホラー文庫ベストセレクション』『恐怖 角川ホラー文庫ベストセレクション』「てのひら怪談」シリーズなどホラーアンソロジーの編纂も手がけている。
書籍紹介
聖者の落角
著者 芦花公園
定価: 770円(本体700円+税)
発売日:2023年02月24日
その青年は、神か悪魔か? 無垢な祈りは世界を覆う呪いになる――。
病院に忽然と現われ、子どもたちの願いを叶える謎めいた黒服の青年。難病も嘘のように完治するが、子どもたちの態度が豹変し異様な言動をするという。心霊案件を扱う佐々木事務所に相次いで同様の相談が舞い込んだ。原因を探るるみは、土地にまつわる月と観音信仰が鍵だと掴むが、怪異は治まらない。孤独な闘いの中、彼女はある恐ろしい疑惑に捕らわれる――願いは代償を要求し、祈りは呪いに変貌する。底なしの悪夢に引きずりこむ民俗学カルトホラー!
https://www.kadokawa.co.jp/product/322204000276/
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