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特集

「テーマはストーカー、都市伝説、そして母親です」都市伝説カルトホラー『漆黒の慕情』の著者・芦花公園さんインタビュー

取材・文=朝宮運河

衝撃のカルトホラー『異端の祝祭』著者の最新作、戦慄のストーカー×都市伝説ホラー『漆黒の慕情』発売!

2021年5月に刊行されるや大反響を巻き起こした、衝撃のカルトホラー『異端の祝祭』から約9か月。芦花公園さんの新作漆黒の慕情が発売されました。今回芦花公園さんが描くのは不気味なストーカー事件×呪われた都市伝説。ふたつの事件がリンクする時、おぞましい真相が明らかに――。前作で活躍した佐々木るみ&青山幸喜も再登場する『漆黒の慕情』について、芦花公園さんに聞きました。

著者・芦花公園さんインタビュー


――デビュー作『ほねがらみ』から数えて3作目、角川ホラー文庫作品としては2作目にあたる『漆黒の慕情』が刊行されました。前作『異端の祝祭』に登場した霊能者・佐々木るみと助手の青山幸喜が、またしても心霊現象がらみの事件に立ち向かいます。

芦花公園:佐々木るみと青山君のコンビは使い勝手がいいので、今回再登場させることにしました。るみは心霊案件を扱う事務所の所長という設定なので、色々な事件に関わらせやすいんです。担当さんからシリーズ化してほしいというオーダーがあったわけではなく、わたしが勝手に「佐々木事務所」シリーズを始めてしまったので、「それはちょっと」と言われないか心配でしたね。大丈夫でしたけど(笑)。


――いえいえ、魅力的なコンビですから。ところで芦花公園さんの作品はシリーズものでなくても、作品間のリンクがありますよね。『ほねがらみ』に出てくる人物がるみと青山の恩師だったり、デビュー前「カクヨム」に書かれていた小説にるみが登場していたり。

芦花公園:これは完全に手塚治虫オマージュですね。手塚先生のマンガって、作品をまたいでおなじみのキャラクターが登場するじゃないですか。あれを自分もやってみたかったんですよ。シリーズものと謳っていなくても、すべての作品が同一の世界観の中にある、という感じです。


――前作『異端の祝祭』以上に、“逃れられない恐怖”を突き詰めた作品だなと感じました。芦花公園さんは前作との違いをどう考えておられますか?

芦花公園:『異端の祝祭』ってそれほど悪い人って出てこなくて、善意のすれ違いが生み出す悲劇、みたいな話になっているんです。今回ははっきりした悪意を持った人が出てくるので、そのあたりの違いはあると思います。それと、自分が得意にしてきたキリスト教要素を封印してみました。キリスト教は幼い頃から身近だったこともあり、『ほねがらみ』でも『異端の祝祭』でも取り上げたんですが、ちょっと離れてみようかなと。ホラー好きの中には「キリスト教が出てくると萎える」という人もいますが、そんなことはないはずなので、今後も折に触れて取り上げたいとは思います。


――『漆黒の慕情』は学習塾講師の青年・片山敏彦が、ストーカーに悩まされている場面から始まります。日常的に感じる視線、頻繁に届く手紙。ストーキングは日に日にエスカレートしていきます。

芦花公園:今回のテーマは3つあって、ストーカー、都市伝説、そして母親でした。それらを組み合わせてひとつの物語にしていった、という感じです。アイデアを考えていた時期にたまたまストーカーものの小説を読んだこともあって、ストーカーものを自分でもやりたくなったんです。


――片山は人の目を惹きつけずにおかない「絶世の美青年」です。彼もまたデビュー前の作品(カクヨム掲載の「海が滴る」)に登場していたキャラクターですね。

芦花公園:ストーカーに遭いそうなキャラクターということで、美形の敏彦はちょうどよかった。最近はルッキズムへの批判がありますけど、そうは言っても美しい外見は否応なく人を惹きつけるところがある。行きすぎたルッキズム批判もおかしいんじゃないの? という視点も込めています。もともと敏彦はストーカーキャラなので(笑)、ストーカーがストーカーに悩まされるというのも面白いなと思って。


――ストーカーキャラ! 芦花公園さんの描くキャラクターは片山に限らず、ダークな一面を持っていることが多いですね。

芦花公園:それはわたしがあまり人間が好きじゃないというか……(笑)、歪んだ面があるということを痛感しているからだと思うんですよね。わたしはネットをよく見る人間なんですが、ネットには悪意や歪んだ欲望が溢れていますから。ただ敏彦のキャラクターについては意図があって。わたしの小説には家庭環境に問題のある人がよく出てきますが、敏彦はごく普通の家庭に育っているのにストーカーです。生育環境に関係なく人は歪むことはあるんだよ、ということを示したかったんです。


――片山へのストーキング行為はエスカレートしていき、ついに彼は怪我を負ってしまう。そうしたリアルな怖さに加えて、彼の周囲では怪談めいた話も浮上してきます。

芦花公園:やっぱりストーカー犯罪の怖さでは、現実には敵わないんじゃないかっていう気がして。書くにあたって資料をたくさん読んだんですが、読めば読むほど現実のストーカー犯罪って救いがないし、話の通じない怖さがあるんですよ。これをただフィクションでなぞっても仕方がないので、違う方向性の怖さを目指そうと思ったんです。


――その頃、青山幸喜は、実家のプロテスタント教会に通ってくる小学生・七菜香から、学校で流行っているという怪談について相談を受けます。夢の中に「ハルコさん」という女が現れて、男の子を探すように命じる。7日たっても男の子を見つけられなければ、地獄に連れていかれてしまう……。

芦花公園:この怪談には元ネタがあって、『地獄先生ぬ~べ~』(※真倉翔原作、岡野剛漫画。アニメ化もされた)ですね。あのマンガに「ブキミちゃん」という都市伝説の回があって、それがめちゃくちゃ怖かったんですよ。ブキミちゃんの指令に従わないと連れて行かれるという話で。あれをやりたいなと思ったんです。


――何々しないと呪われる、というパターンの怪談は怖いですよね。芦花公園さんの通っていた小学校にも七不思議はありましたか。

芦花公園:あったような気がするんですが、多分嘘だろうなと思っていましたね(笑)。『ぬ~べ~』が好きだったのも、あくまでフィクションとして面白かったからで、本当に呪いがあるとは思っていなかった。ホラーは好きでも、その手のものはあまり信じていないんです。


――片山を悩ませるストーカー行為と、七菜香が語った呪いの都市伝説。微妙にリンクするふたつの事件に対峙するのが、心霊現象の専門家である佐々木るみです。彼女はどんなキャラクターとして描いているのでしょうか。

芦花公園:主人公だけど、そこまでキラキラした人にしたくはないな、という思いがありました。頼れるヒーローが出てくると、安心感が生まれてしまって、ホラーとして怖くなくなるので。るみの能力のベースにあるのは、スティーヴン・キングの『シャイニング』なんです。頭の中に押し入れを作って、そこに怖いものを封じ込めるというのは、『シャイニング』でダニー少年が箱を使ってやっているのと同じなんですね。よく『呪術廻戦』みたいという感想をいただくんですが、影響されたのはキングです。


――るみと青山の行動により、姿なきストーカーの正体と、都市伝説の裏に隠された真相が明らかになります。『漆黒の慕情』はこれまで以上にミステリ要素も強いですね。

芦花公園:ホラーだけで長編を書ききるのは大変なんです。だからどうしてもミステリ要素を入れたくなりますね。この作品を書いていた頃はミステリを集中的に読んでいたので、余計にそういうカラーが強くなったのかもしれません。


――そして芦花公園さんの作品といえば、何といっても背筋がゾッとするような恐怖シーン。今回も女子中学生が片山に語った体験談や、異様な姿で近づいてくるハルコさんなど、怖ろしい展開がたくさんあります。

芦花公園:ありがとうございます。怖いシーンについては、怪談実話っぽい演出を意識しています。ホラーだと「怖さ」よりも「面白さ」に軸が置かれることが多いので、より怖く書くには怪談実話風のスタイルがいいんだろうなと。作中の怪談は人から聞いた話をアレンジすることが多くて、今回も女子中学生の体験談も「部屋にまったく知らない人がいた」という実話をアレンジしたものです。


――「ごりごりごり」という擬音のリフレインも怖さを高めていますが。

芦花公園:あれも元ネタがあって、執筆中ちょうど家の前で水道管工事をやっていたんですよ。世の中でこれほどイヤな音はないな、と思いながら書いていたら、あの擬音になった(笑)。割と身近なものに影響されることが多いんです。


――るみと青山のバディを書くうえで、どんなことを意識していますか。

芦花公園:基本的な関係はホームズとワトソンですよね。能力的に優れているるみと、彼女を尊敬する助手の青山君という感じです。ただ二人はそれぞれ相手に求めているものが異なっていて、微妙にすれ違っているんですね。今回はそのあたりを、るみの過去のエピソードも含めてはっきり書くことができたのでよかったなと思っています。


――登場する複数のキャラクターが、母親との関係に問題を抱えています。母子関係の難しさというテーマはどのように浮かんできたのでしょうか。

芦花公園:またネットの話になりますが、SNSには歪んだ母子関係みたいな話がごろごろ転がっているんですよ。たとえばある人がネット上でひどい暴言を吐いて、「自分は毒親に育てられたからこういうことを言ってもいいんだ」と発言して問題になったり。そういう投稿を見ていて、母親との関係を大人になっても引きずっている人がたくさんいるんだな、と気づいたんです。うちの母親はごく普通の人なので、実体験がもとになっているということではありません。


――ネットといえば『ほねがらみ』も『異端の祝祭』もネット上で話題になりましたよね。そうした投稿もご覧になっていますか?

芦花公園:はい。デビュー前はあまり読者の目を意識していなかったんですが、今は考えるようになりました。エゴサをして、どういう風に読まれているのか把握するようにしています。発見だったのは、分かりやすく書いているつもりでも、読者に伝わらない場合もあるということ。『異端の祝祭』に出てくる「回向、永眠、保温」というフレーズの意味も、自分ではかなりはっきり書いたつもりだったんですが、分からないという声が多くて。誤解されない書き方をしようと思っています。キャラクターでは物部という霊能者が人気みたいですね。ファンアートを描いてくださる方もいて嬉しいです。


――『漆黒の慕情』も発売後の反響が楽しみです。個人的にはひねりのあるストーリーと、最後まで怖さに徹した作風に唸りました。

芦花公園:尊敬するホラー作家さんはたくさんいて、よくあるパターンのホラーを書いてもそういった先人たちにはとても敵いませんから、今回はこれまでのパターンをひねったり、新しい要素を付け加えたりして、一風変わった形のホラーにしようと挑戦しました。『異端の祝祭』とまた違ったタイプのストーリーで、もしかしたら登場人物の印象も大きく変わってしまうかもしれません。新しいキャラクターも気に入ってもらえると嬉しいです。

作品紹介・あらすじ



漆黒の慕情
著者 芦花公園
定価: 748円(本体680円+税)
発売日:2022年02月22日

この呪いは剥がせない――『異端の祝祭』の著者が放つおぞましい粘着ホラー
塾講師の片山敏彦は、絶世の美青年。注目されることには慣れていたが、一際ねっとりした視線と長い黒髪の女性がつきまとい始める。彼を慕う生徒や同僚にも危害が及び、異様な現象に襲われた敏彦は、ついに心霊案件を扱う佐々木事務所を訪れる。時同じくして、小学生の間で囁かれる奇妙な噂「ハルコさん」に関する相談も事務所に持ち込まれ……。振り払っても、この呪いは剥がれない――日常を歪め蝕む、都市伝説カルトホラー!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322107000429/
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芦花公園『漆黒の慕情』に発売前から書店員さんたちから興奮と悲鳴の感想続々!



面白すぎ、鳥肌、一気読み!! 芦花公園『漆黒の慕情』に発売前から書店員さんたちから興奮と悲鳴の感想続々!
https://kadobun.jp/feature/readings/45njoov6ewow.html


芦花公園(ろかこうえん)

東京都生まれ。2020年、カクヨムにて発表した中編「ほねがらみー某所怪談レポートー」がTwitterで話題となり、書籍化決定。21年、同作を改題した『ほねがらみ』でデビュー。著書に『異端の祝祭』がある。古今東西のホラー映画・ホラー小説を偏愛する。

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