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特集

「一人じゃない」と伝えたい。悩み、身動きが取れなくなっているすべての人へ贈る小説『彼女の背中を押したのは』 著者・宮西真冬インタビュー

たくさんの「働きづらい」に向き合うことで生まれた小説

普通に働く、ただそれだけのことが、なんでこんなに難しいんだろう――。メフィスト賞作家・宮西真冬さんの最新作『彼女の背中を押したのは』は、そんなモヤモヤした気持ちや生きづらさを抱えるすべての人に読んで欲しい小説です。主人公は書店員。一足先にゲラを読んだ書店員さんからも大きな反響が寄せられています。著者の宮西真冬さんに、担当編集者がお話を伺いました。



『彼女の背中を押したのは』宮西真冬インタビュー


――『彼女の背中を押したのは』は、妹がビルから転落するという事件の真相を追う物語であると同時に、働く女性たちの葛藤をリアルに描き出したお仕事小説という側面もありますね。このお話はどんなところから着想されたのでしょうか。

 考え始めたのは、「やりがい搾取」という言葉が流行り始めた頃でした。
 本来払われるはずのお金がきちんと払われるべきだと思う一方で、お金が貰えればなんでもいいわけではなく、「仕事に対してやりがいを感じて働きたい」という方も、バランスが重要だ、という方もいらっしゃると思います。
 結婚や出産、介護など、生活が変わったときに、価値観が変わることもあります。
 働き方に正解はなく、人それぞれのやり方があるはずだと思いながら、それでもやっぱり、働きづらいという声はたくさん聞こえてくる気がして。
 いろんな立場の人の声を、すべて聞いていった結果、なにが見えてくるだろうか、と考え始めました。


――書店のお仕事の様子、どうしてこんなにリアルなのでしょうか。

 数年、書店で働いた経験や、そのときに知り合った人との日常の会話、それを聞いていて、「こういう葛藤があるだろうな」と想像して書きました。
 また、書店を舞台にした話を書きたいと当時の担当編集者の方に話したときに、いろんな書店員さんとお話させていただく機会をいただきました。


――執筆されるうえで苦労されたことはありますか。

 仕事の葛藤を書くため、どうしてもネガティブな感情だったり、弱い部分や、人によっては嫌だと感じるような言葉も出てきてしまいました。
 だから、実際に書店で働いている方々に、「書店のことを悪く書かないで欲しい」と思われるのではないか、と、ストッパーがかかることが何度もありました。
 が、それでも、自分が書きたいところはここなんだ、ちゃんとラストに光は見えるはずだ、と振り切って書きました。
 書店が舞台になった小説はいろいろあるので、いいところは別の小説にたくさん書いてある、と自分に言い聞かせました。


――事前にゲラを読んでくださった書店員さんから、たくさんの共感の声をいただきました。寄せられた感想をお読みになっていかがでしょうか。

 まずは「受け入れて貰えてよかった」という気持ちが大きかったです。共感していただいた先に、光を感じたと言って貰えたことも、「書いてよかった!」と思いました。私の背中を支えていただいている思いです。
 同時に、共感したと言っていただけるということは、今の労働環境に葛藤を抱えているということで、書店員さんの仕事がきちんと評価されるようになって欲しい、と切実に願っています。


――主人公は書店員ですが、彼女がぶつかる葛藤や違和感は決して書店のお仕事だけに限られたことではなく、書店以外のところで働く女性や、専業主婦の方、さらには男性にも、それぞれに共感や気付きがある作品ではないかと思いました。こんな方に読んで欲しい、という思いはありますか。

 人生に悩んで、身動きが取れなくなっている方に。
 明確な答えは出ないかもしれないし、ラストに辿り着くまでしんどいかもしれないけれど、「一人じゃない」と思っていただけたら嬉しいです。


――美しい妹に対して嫉妬を抱きながらも大事に思う姉と、そんな姉を頼りにし、慕い続ける妹の関係性が魅力的です。この姉妹の造形はどのように作られていったのでしょうか。

 私には姉妹がいないので、友人達にいろんな質問をして、いろんな姉妹の距離感を感じながら、作っていきました。


――書店の同僚たちも、明るい人もいればや不器用な人もいて、個性は様々ですが、「こういう人、いるな」と思わされましたし、それぞれが葛藤を抱えながら日々格闘する様子に心揺さぶられました。特に思い入れのある登場人物はいますか。

 飯島瑞希です。
 優秀だったはずの彼女が、正当に評価されなかったり、「自己責任」と更に傷つけられる姿は、書いていて苦しかったです。
 ただ、彼女に前を向いて欲しいと思って書きました。


――今回執筆を進められたなかでの、発見や気付きがあれば教えてください。

 仕事について書き始めたけれど、それは私にとって「どう生きるのか」を考えるのと同じなのだと気づきました。


――今後はどんな作品を書いていきたいですか。

 これまで居場所を探したり、生きづらさの中もがく人達を書いてきました。
 これからも自分の人生を諦めず、足掻く人を書きたいと思います。

作品紹介・あらすじ



彼女の背中を押したのは
著者 宮西 真冬
定価: 1,815円(本体1,650円+税)
発売日:2022年02月18日

使えないやつは、生きてちゃダメですか?
書店に勤めていた妹が、ビルから飛び降りた。相談したいことがあるとメールをしてきたその日に。結婚と同時に上京し平穏に暮らしていた姉・梢子は、妹に何があったのかを探るため、地元に戻り同僚たちに会いに行く。妹を追い詰めたものは何なのか? 母の過剰な期待と父の無関心、同僚からぶつけられた心ない言葉、思うようにいかない恋愛……。妹の過去を辿ることは、梢子自身の傷に向き合うことでもあって――。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322101000886/
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宮西真冬(みやにし・まふゆ)

1984年山口県生まれ。2017年に第52回メフィスト賞受賞作『誰かが見ている』でデビュー。他の著書に『首の鎖』『友達未遂』『毎日世界が生きづらい』がある。

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