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特集

悲しみに生きる青年は「線」を描くことで恢復していく――第59回メフィスト賞受賞作『線は、僕を描く』著者・砥上裕將さんインタビュー

取材・文:小説 野性時代編集部 

この本に注目!

両親を交通事故で失い、深い悲しみの中に生きる青年が、ひょんなことから水墨画と出会い、
「線」を描くことで、次第にしていく――。
『線は、僕を描く』(講談社)で第59回メフィスト賞を受賞した、砥上とがみ裕將ひろまささんにお話をうかがいました。



――本作は水墨画をテーマにした小説ですが、砥上さんご自身も、水墨画家でいらっしゃいます。小説の執筆は、いつから始められたのでしょうか?

砥上:大学生のころに一度、挑戦したんですが、全然枚数が書けず、挫折しました。そのときは、ファンタジーらしきものを書こうとしていたと思います。それが三年くらい前かな、友人から、何か書いてみたら面白いんじゃない、と言われ、試しにまたちょっとファンタジーっぽい小説を書いたところ枚数が書けたので、メフィスト賞に応募したんです。その投稿作が初めて書いた長編で、本にはならなかったのですが、その後、編集者に勧められて、水墨画をテーマにした本作を書くことになりました。


――主人公の青山あおやま霜介そうすけは、水墨画界の巨匠・篠田しのだ湖山こざん先生と出会い、全く知らなかった水墨画の世界に足を踏み入れます。両親を亡くした霜介の喪失感が、水墨画を描くことで徐々に埋まっていく様子が、美しく印象的でした。

砥上:霜介は、全くの白、というのを想定したキャラクターです。白の中に瞬間的に何かが生まれるのが水墨画であり、その喜びを体現することが出来るキャラクター、水墨画をやるにふさわしいキャラクターが、霜介なんですね。そして、水墨画をやることは、広がりのある世界につながるということでもあります。自然もそうですし、普段目にするものにも、違う一面が見えてきたり。そうしたことを含めて、絵を描くということは楽しいことなので、その楽しさの中に、霜介をもう一度結びつけられたというのは、素敵なことじゃないかな、と思っています。


――水墨画を描くシーンでは、筆先を墨につけるときの緊張感や、線を引くときの躍動感が、まるで自分が描いているかのように伝わってきました。

砥上:例えば、喫茶店で珈琲コーヒーを飲んでいるという描写であれば、誰にでもある程度は想像がつきますが、水墨画のシーンのように、ほとんどの人が経験のない感覚を書くというのは、きっと大変だろうな、と思っていました。まあでも、やってみてから考えようかな、と。自分自身、あんまり悩んだりするタイプではないので。そういう意味では、主人公の霜介とは正反対ですね。


――「水墨画は自然に心を重ねていく絵画だ」といった、湖山先生の教えは、砥上さんが実際に学んできたことがベースになっているのでしょうか?

砥上:そうですね。ただ、水墨画の先生たちというのは、技術のことは何も喋ったりはせず、ただ描いてみせて、ほらやれ、という人たちがほとんどです。その中から、考えて、自分なりの答えを見つけるので、実体験ではありますが、これで本当に合っているのかなと思うときもありますね。個人の解釈次第なので、伝統的にこう言われているとか、そういうことではないと思います。本作も、あくまで自分個人がこう思った、こう感じた、というところを主体にして書いています。


――小説を書くことと、水墨画を描くことに、共通点はありますか?

砥上:共通点は、ほとんどないような気がしますね。むしろ、両極端に別のことなので、やってみようと思えたんじゃないかな、とさえ思います。例えば、同じ絵画でも、油絵などであれば、ひとつひとつ、描いて消して構築して、という風にやるので、近いところもあるかもしれませんが、水墨画の場合は、描く前に、その構成があらかじめ完全につくられている必要があるんですね。描き始めたら、一瞬でもう出来ていないとだめなんです。残念ながら自分は、小説の場合、書き始める前から一字一句全部頭にある、というわけではないので。


――本作は、小説発売前に、コミカライズの連載がスタートしたことでも話題になっています。これを機に、水墨画に興味を持つ読者もいるのでは?

砥上:冗談でもいいから、まずは筆をとり、手を動かしてみてほしいですね。初めはうまくいかないと思いますが、そのあとに自然を見ると、見え方がいつもとは違っているはずなんです。ここはこうなってるんだ、とか、今まで見えなかった、小さなことに気が付くんですよね。それがすごく大事なことなので、水墨画そのものがどうだという話ではなく、そういう風に受け入れられていったらいいなと思います。


――これから、書いてみたいテーマはありますか?

砥上:明るいものを書きたいと思っています。ばんばん人が死んだり、殺されたりというのは、あまり好きではないので。平和で明るい話。いまのところはそれくらいですね。

砥上裕將(とがみ・ひろまさ)
1984年福岡県生まれ。水墨画家。本作で第59回メフィスト賞を受賞しデビュー。


紹介した書籍

カドブンノベル

最新号 2020年1月号

12月10日 配信

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