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特集

SF界のみならず、文学界全体でも話題騒然のSF短編集『なめらかな世界と、その敵』著者・伴名練さんインタビュー

取材・文:小説 野性時代編集部 

この本に注目!

異例の発売前重版で話題となったSF短編集『なめらかな世界と、その敵』は、発売後も版を重ね、現在七刷。
文壇注目の覆面作家にお話をうかがいました。


伴名 練『なめらかな世界と、その敵』(早川書房)


――変わったペンネームですね。

伴名:よくハンナ・アーレントからですかと訊かれますが、違います。元ネタはあるのですが、秘密にしています。学生の頃からあたためていた名前です。


――その学生時代に小説を書きはじめたきっかけは?

伴名:京都大学のSF研究会に所属していたときに、会員がSFマガジンで賞を取り、雑誌に掲載されました。綾辻あやつじ行人ゆきと先生時代の京大ミス研ほどではないのですが、身近な人の受賞に刺激を受けてSF研でも創作が盛んになり、その機運に乗って自分も書き始めました。


――ただ、デビューはSFの賞ではなく角川書店の日本ホラー小説大賞です。

伴名:当時はSFの新人賞が存在せず、小林こばやし泰三やすみ先生や瀬名せな秀明ひであき先生のデビューした賞だったので、この賞を選びました。SF研でやっていた新人賞受賞作の全レビュー企画で取り上げた経験があり、賞の懐の深さを知っていたことも応募の理由になりました。


――そして応募してみたら見事に受賞されたと。受賞作を含む短編集『少女禁区』を角川ホラー文庫で出された後、二作目の『なめらかな世界と、その敵』が出るまで約九年経っています。

伴名:実は『少女禁区』が刊行された年に就職しまして、そこから数年は仕事が忙しく、ほとんど執筆できませんでした。ただ、小説を書きたい気持ちはずっと持っていて、休日を使って何とか年に一作ほど短編を書いて、SF研の機関誌などで発表していました。今回の単行本はそれらの短編を改稿しつつまとめて、そこに書き下ろしを加えたものです。


――単行本化にあたっての改稿の際、意識された点は?

伴名:全体的な部分では、各短編でキャラクターの一人称と性格が重複しないようにという点です。それとSFは近未来を描くと、どうしても後に古びてしまうので、そこを意識して改稿しました。収録作の中ですと「ひかりより速く、ゆるやかに」は書き下ろしですが現代から近未来を描いたので、一番早く古びます。それを承知で、現時点での瞬間最大風速を目指して執筆した作品です。


――「ひかりより速く、ゆるやかに」では、主人公の性別を男女どちらとも解釈できるような人称にしたと、他の取材で話されていましたが、他の短編にも隠された狙いがあるように感じます。

伴名:例えば「ホーリーアイアンメイデン」は、紛争をなくすために世界中を飛び回る姉に宛てた、妹からの手紙という形式で書いていて、姉の思考は初読ではわからないと思うのですが、実は姉の動機は本文中に全て書いてあります。そういう狙いが各編に一つはあります。


――キャラクターの会話や心情描写にはライトノベルの影響も感じます。

伴名:平行世界を自在に行き来できる世界をテーマにした表題作「なめらかな世界と、その敵」は、作中世界を読者に理解してもらいやすいように、キャラクターを記号化して役割語で話をさせるというライトノベルの技法を用いています。「美亜羽へ贈る拳銃」は人格ネタを扱っていますが、アイデアを思いついたのはSF研の会員に紹介してもらった角川スニーカー文庫の作品を読んだ時でした。


――そういった創作手法の源流はどこにあるでしょうか? 好きな作家や作品を教えてください。

伴名:一番好きな作家は石黒いしぐろ達昌たつあきさんです。書庫から発見された報告書という形式で書かれた「雪女」という短編の衝撃が〝語り〟へのこだわりの原点かもしれません。その他、グレッグ・イーガンなど、SFでは絞りきれないです。


――ライトノベルでは?

伴名:「涼宮ハルヒ」シリーズをはじめたくさんありますが、一冊選ぶとすると古橋ふるはし秀之ひでゆきさんの『ある日、爆弾がおちてきて』です。「ひかりより速く、ゆるやかに」は、収録作の「むかし、爆弾がおちてきて」から影響を受けています。


――SF界では、今は〈伊藤いとう計劃けいかく以後〉の時代であるとも言われています。

伴名:伊藤計劃さんと円城えんじょうとうさんが日本のSF状況を変えたのは間違いなくて、そこに連なるものを書こうとした時期もありました。ただ、そういう人が何人も出てきたので、逆に自分はゼロ年代以前の日本SFにも光を当てたいという気持ちで書くようになりました。


――今後の執筆予定は?

伴名:来年の上半期中に、小説誌で短編を二編発表予定です。その後も色々と構想がありますのでご期待ください。

伴名 練(はんな・れん)
1988年高知県生まれ。京都大学文学部卒。在学中は京都大学SF研究会に所属。2010年「遠呪」で第17回日本ホラー小説大賞短編賞を受賞し、受賞作を改稿改題した「少女禁区」を表題作とする短編集でデビュー。2019年、2作目となるSF短編集『なめらかな世界と、その敵』を刊行。


紹介した書籍

カドブンノベル

最新号 2020年1月号

12月10日 配信

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